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第一章 手に入れた能力

訓練場

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 オレたちは馬車に揺られながらお城へと戻った。馬車を降りると目の前にオークスが立っていた。

「トルデン様、どうもルウファには行かれなかったようで」

「…………」

 トルデンは目の前にいるオークスに眉間のしわを寄せた。

「しかも、神殿に行かれたと言うではありませんか。この時間に帰ってこれたということは2つ以上食べさせたということですね。それがあまり良くないこともトルデン様ならお分かりだと思っていたのですが……」

「それは……」

「まぁ、いいです。それで神殿で何か有益な情報は聞くことができましたか?」

 そのオークスの何かを含んだような言い方はまるでオレを召喚したムヒアス神官がいないことを知っているかのような言い方だった。トルデンは何も答えず無言のままだ。

「本日ルウファに行かれず作業されなかった分、城での訓練はきっちりとしてもらいます」

 オークスはトルデンがあまり訓練をしたくないのを分かっているようで、嫌な笑みを浮かべてそう言うと去って行った。
 西の塔をトボトボと2人で歩く。チラッと見るとトルデンの表情は曇ったままだ。

「……悪かったな」

 オレのためにトルデンは神殿へと連れて行ってくれたのだ。嘘をつかせてまで連れて行かせたことに少し申し訳なく思った。

「いえ、私が勝手にしたので……」

 西の塔へと着いた頃にはもう日は暮れていて辺りは真っ暗だった。部屋へと戻るとすぐにトルデンが食事を持ってきた。馬車の中ではジムンのサンドイッチを食べただけなのでお腹が減っていたのだ。

 今日はカリーヌというお肉を蒸したものを出してくれた。それをパンに挟んで食べるとあっさりしていて美味しい。
 トルデンは何か気がかりなことがあるようで、考えた表情をしている。
 でも、オレが何か物足りなさそうな顔をすると、トルデンはすぐに気づいて自分の肉をオレの皿にのせた。
 食事を終え、この部屋のお風呂に入り、寝る支度をしていつものようにベッドへと入った。
 
 翌日、誰かが扉をノックする音で目が覚めた。隣にトルデンはいないので、もう起きているらしい。
 寝ぼけた目を擦りながら扉の方を見ると、トルデンとその奥にはルニスと呼ばれていた宰相が立っていた。

「トルデン様、昨日神殿へと行かれたとお伺いしました。勝手なことをされては困ります。私はお2人のことを国王陛下より頼まれていますので、もしお2人に何かあれば私が怒られてしまいます。魔術の訓練も本格的に再開してください」

 トルデンが小さい声で「すみません」と謝るとルニスは去って行った。

「トモヤ、これから数日間、私は日中はいなくなりますが、誰もいれないように言ってあるので、ここで過ごしてもらってもいいですか?」

 オレが頷くとこの前のように食事を用意してトルデンは部屋を出て行った。
 この前は昼過ぎだったもののこの日帰って来たのは夕方頃で以前と同じくぐったりと疲れて帰ってきた。
 オレがトルデンを見ると微笑むもののその表情には陰りが見える。
 
 トルデンが日中出て行くようになって数日が経ったある日。誰かが扉をノックする音が聞こえた。

「召喚者様、トルデン様のことで少しお話が……」

 扉の向こうで話す声は騎士団長のオークスのものだった。あまりこいつのことは好きではないが、トルデンのことでと言われて少し気になった。

「なんのよう?」

 扉を少し開けると「トルデン様が何をされているか気になっているんじゃないかと思いまして……」含みのある笑みを持たしてオークスはオレにそう言った。

「私についてきて頂ければ何をしているか見ることができますよ?」

 オレはオークスについて行った。西の塔を降りて、城の裏へと続く道を歩く。庭園がある方だ。
 でも、オークスは庭園には行かず、向かった先は騎士たちがいる練習場のようなところだった。

 遠くの方に丸い円がありその中で2人の人間が何かしている。どちらも金色の髪を揺らしながらせわしなく動いている。まるで何かを避けるように。
 近づくに連れてその2人が誰か分かった。トルデンとラウリアだ。
 ラウリアが赤い何かをトルデンに向かって放っていて、トルデンはそれを避けてばかりだ。

「トルデン様は魔術を使いこなせず、あぁやって避けてばかりで困っているんですよ」

「そんな無理に使わせなくても……」

 オークスが言うようにトルデンはずっと逃げ回っている。時折何かを使おうと手を掲げるが、何も出せずに困った顔をしている。

「もう少しで時間を迎えますが恐らく今回も怪我1つなく終わるでしょう。あの素早さだけは早くて見習うところがありますが……」

「あぁ、そうだ召喚者様。トルデン様の件でもう1つ相談がありましてちょっとこちらへ来てくれませんか?」

 トルデンが必死に攻撃を避けているのを見て、オレは何となくトルデンのために力になれるのなら……とそんな簡単な気持ちでオークスについて行った。

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