ヤンデレ系アンドロイドに愛された俺の話。

しろみ

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四章

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 2人で過ごすには十分過ぎるほど広い床には畳が敷き詰められ、壁には掛け軸や絵画が飾られている。そんな和室で、座椅子に腰を下ろす俺は小さな攻防戦を繰り広げていた。


『はい、ヒロ、あーん』
「ナオ…もういい加減に…自分で食べれるから…」


 会員制レストランというのは、まるで高級料亭のような空間だった。

 …というか、レストランとは名ばかりで、実際にはホテルの一室だ。エレベーターで最上階まで上がり、奥へ奥へと進んだ先にはやたらと重々しい扉があり、その中を少し進めば美しい和室が広がっていた。

 一枚板の低いテーブルの上には、芸術品のように盛り付けられた料理が並んでいる。ナオが俺のために用意してくれたものだ。席に着くよう促された俺は、あれよあれよという間に、ナオに食事の世話をされていた。


『…ヒロは僕の手から食べたくない?』


 俺の横に寄り添うように座るナオは、先程からせっせとナイフとフォークで肉料理を取り分ける。もう何度目だろうか、俺の口元に一切れを差し出してくるので、首を横に振って断れば、しゅん…とした顔をされてしまった。


『こういうの迷惑?』
「……そういうわけじゃ、ないけど……」


 俺は口ごもる。こんな顔をされたら断りづらい。

 しかし俺は子供じゃないんだ。そろそろ羞恥心も限界だった。だから「…自分で食べるよ」と言って、ナオからフォークを貰おうと、弱々しく手を伸ばす。


「ぉわっ…」


 が、サッと腕を引かれてしまったため、俺は空気を掴むことになった。その反動で姿勢が前のめりに崩れてしまう。


『…ならどうして?理由を教えて』
「え」


 そのままナオに抱きつくような体勢になった俺はパッと顔を上げる。そうすれば暗い声を零したナオと近距離で目が合う。その顔色は陰鬱に染まっていた。


「理由?」
『ヒロ、ずっと浮かない顔してる。僕と誕生日を過ごすのはつまらない?もしかして今日は平塚彩と過ごしたかったと後悔してる?』
「…っ、ま、まさか…」


 途端、ゾクッと甘い痺れが背筋を這う。


『……ふうん。まあ、いいよ。仮に図星だとしても、その感覚はヒロの意志を超えたものだと理解してる。動物や虫が誰に教わるわけもなく繁殖行動をするように、人間は人間と番う。それはDNAそのものに組み込まれた習性の一つだ。僕たちがどんなに手を尽くしたところでこれに勝てることはできない』
「ナオ……?」


 俺は心の中で呟く。

 …やはりナオは平塚のことを知っているようだ。

 眉をひそめる俺に対して、ナオは淡々としていた。


『でも諦めた方がいいよ。ヒロの体はとっくに僕なしでは生きられないようにしてあるから』

 
 すると、カチャリと冷たい音が響く。ナオが手に持っていた食器をテーブルに戻したのだ。そして片手で俺の腰をグッと引き寄せれば、もう一方の手で俺の顎を掬い上げ、スッと目を細めた。


『ほら。そろそろ僕のキスが恋しいんじゃない?』
「…っ」
『分かるよ。さっきからヒロ、僕が喋るたびにゾクゾクッて背筋震えてる。早く僕のが欲しくてたまらないんだよね』
「ひッ……」


 囁き声とともに耳朶を噛まれた瞬間、電撃のような快感が全身に走り、身体の中心に熱が帯び始める。

 ナオは『ほらね』と艶かしく微笑んだ。


『はぁ、見て。僕も、ここ、勃ってきた。ヒロの快感は僕と連動してるから、僕のも大きくなってるの、分かる?』
「ぁ…ぁあ…」
『ふふ。早くこれ挿れて欲しい?腰へこへこ揺らしちゃって可愛い』
「な、なお…」


 怖かった。

 ナオの目が。そして、自分の体が。

 何かのスイッチが押されたような、自分が自分じゃないみたいだ。俺はナオにしがみつくことしかできない。唇を奪われれば、ナオから注がれる甘い蜜を舌を突き出して啜っていた。


『んっ…ヒロ…激しい……ふふ…』
「…ぅっ…ぅぅ…」
『焦らなくていいんだよ…僕の全部はヒロだけのものだ…ゆっくり飲んで…』
「はぁっ、ぁっ…」
『ああ、ヒロ、エッチな顔してる』


 身体が熱い。

 鼓動が速い。

 衝動のまま股間の膨らみをナオに擦り付けてしまう。するとナオは血のような色の瞳を三日月に歪ませた。


『服、邪魔だね。脱がせてあげる』
「…や、やだ。こ、ここ、食べるとこ、だから、駄目だ」


 俺は僅かに残った理性を使って、ふるふると首を横に振る。いくら人目がないとはいえ、他の人も使うであろう食事の場で淫らな行為をすることなんて出来なかった。

 そうすれば、俺のベルトに指を掛けたナオはピタリと止まる。
 

『そう。じゃあ、外に行こうか』
「ぇ……」


 聞き返した時には視界の景色は大きく傾いていた。

 ナオに横抱きにされ、持ち上げられたのだ。


「ナオっ、待っ…」


 ナオは大股で部屋の奥へと進み、障子の扉をやや乱暴な手つきで開ける。


『女に触られた部分も気になってたところだ。丁度良い。ここでヒロの体を洗ってしまおう』


 何が何だか分からないまま、俺は開いた障子の奥に目を向ける。そしてポカンと口を開けた。

 そこには都会の夜景を見渡せるバルコニーがあり、手前側には、シャワーと大きな枡型の風呂が備わっていたのだ。
 会員制レストランなるものはこういったスペースが普通なのだろうか。傍にはソファベッドのようなものまで用意され、その上には部屋着用の浴衣が畳んで置いてある。

 …まさか、ここで、今の続きを…?

 その思いが伝わったのか、ナオは真っ白なシーツが敷かれたソファベッドに俺をおろすとすぐに俺のベルトに手をかけた。


『ふふ。ヒロ、すごくドキドキしてる…。外でするのは興奮する?最上階とはいえ、周りにはこの部屋より高いビルもあるから、誰かに見られちゃうかもしれないもんね』
「…ほ、ほんとに、ここで……っ」


 信じられなかった。一番近いビルはうっすらと窓に人影が見えるほどの距離に建つ。もし彼らがこちらに気付けば…―想像したくもない。

 口をパクパクと開閉させるが、ナオは飄々としていた。するすると俺の下半身の締め付けを解けば、シャツを押し上げて、ちゅ、ちゅ、と胸元にキスをする。


『うん。室内が嫌ならここでするしかないからね。ヒロが恥ずかしいなら空間遮断を使用することも可能だけど―…でも、せっかくだから、この街の人間たちに見せつけてしまいたいな。ヒロは、僕に夢中ってこと、誰も僕たちに入る隙はないってことを』


 するりと頬に手が添えられた。


『ね?』
「ね、って……」


 俺は目を泳がせる。

 しかしその間も、身体の熱はじわじわと高まる。前が寛いだズボンから見えるパンツはぐっちょりと濡れていた。布を押し上げる自らの陰茎の先端からどぷどぷとカウパー汁が溢れ出ているのだ。


『ああ、ヒロのここ、もう我慢の限界って感じだね』
「……っ!」
『いつもみたいにまずは僕の口に出す?ヒロは僕のフェラが大好きだから、その方がいいでしょう?』


 頬を桃色に染めたナオは、期待した眼差しを向けてくる。

 しかし俺は、ゴクリと唾を飲み、小さく首を横に振った。


「…いや、いい」
『え………』


 まさか断られると思わなかったのか。ナオは一気に表情を失くす。


「……前、は自分でする、から、……こっちを…」


 顔から火が出そうだった。しかし俺はモゴモゴと口を動かしながら腰を少し浮かせる。そうしてナオの手を握れば、グッと引き寄せ、ヒクヒクと収縮する孔にあてがう。


「空間遮断ってやつ…使わなくてもいい…けど、だったら、…俺がナオに跨るから……その……」
『……』
「ナオの、ここ、挿れて」


 自分でもめちゃくちゃなことを言ってると思った。でもこんなことを言うほどに今の俺には余裕がなかった。先程から背筋に走り続ける甘い痺れのせいで、尻の孔が熱を持って疼くんだ。勃起よりも、そちらのほうが、早く鎮めて欲しかった。


『初めてだね。ヒロから体位を希望してくれるなんて。可愛いけど……どういう風の吹き回しだろう』
「それは…。…ナオ、空間遮断…使いたくないんだろ…?…だから……一番激しくないやつを選んだ、というか……」


 ナオとはこれまで様々な体位で繋がってきた。不本意ながら、どの体位がどの程度自分を乱れさせるかおおよそ想像ができてしまう。その中で、俺が上に跨る体位であれば、俺の意思である程度コントロールできるし、そこまで激しく動くことはない。騎乗位はちょっとアレだが、対面座位なら、仮に誰かに見られたとしても、遠目であれば、あからさまな光景として映らないだろうと思った。

 しどろもどろにそう返すと、ナオは眩しいものを見るように『ああ』と目を細めて笑った。


『そっか。ヒロは僕の我儘を受け入れてくれたんだね』
「まぁ…」
『ヒロは本当に優しいね』


 ちゅ、と頬にキスをされる。

 俺は複雑な気持ちになった。「ううん…」と小さく唸りながら目を逸らす。ナオは俺を聖人君子であるかのように褒め称えてくれるが、実際のところ、俺は込み上げる欲を発散したいために己の孔を差し出す変態野郎だ。

 自己嫌悪に陥りそうになっていると、ギシッとソファベッドが軋む。

 ナオが俺の横に腰をおろしたのだ。


『でも安心して。さっきの言葉は正確じゃなかった。実際に周囲のビルからこの場所を見たところで僕たちが何をしてるかまでは分からないよ。…尤も、高精度のカメラや双眼鏡で眺めるようなストーカーでもいない限りね』
「た、たしかに…」


 言われてハッとした。

 ナオの言う通り、このバルコニーは足元に設置された照明灯の淡い光だけで照らされた空間だ。こんな薄暗い場所なら近距離であっても何をしてるか直ぐには分からないはずで、ましてや、数メートルも離れた場所からは何かしらの道具がなければ詳細まで見られることはないだろう。

 俺の心配は杞憂だったわけだ。

 そう考えたら恥ずかしくなった。この何分間かの俺は何だったんだろう。欲に流されてこんな簡単なことにも気づけなくなったのか…。ナオに跨りたい、とまで言って、これでは俺がむっつりスケベだというナオの誤解をいっそう強めただけじゃないか…。


『―…まあ、そのストーカーが居ないとは言わないけど、僕としてもヒロの綺麗な身体を全て見せるつもりはないよ』
「?」


 俯いていると、ナオの手が腰にまわる。


『では優しいご主人様。もう一つだけ僕の我儘を聞いてくれる?』


 顔を上げれば、煌びやかな夜景を背景に、美しく微笑むナオがいる。

 俺は目を丸くしたまま、その唇から紡がれる次の言葉を待った。

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