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四章

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「ぁあッ…」


 衣擦れの音とともに、ぐちゅッという生々しい音が耳に届く。


『ヒロ…?気持ちいい…?』
「ぅ…、きっ…きもち…ぃい…」


 腰を前後に揺らす俺は、向かい合うナオの背をぎゅっと掴む。そうすれば、孔を塞ぐ肉棒がぐりぐりと奥を押し潰すから、「んぁッ…」と背を仰け反らせれば、着ているモノが肩からはらりと落ちた。


『ふふ。なんだかヒロが僕の上に乗って積極的に動いてくれるのって新鮮だな。僕のおちんちんでオナニーしてるみたい』
「そん…っ、そんな言い方、やめっ…ぁぁッ…」
『うん。そうだね。オナニーじゃないよね。ヒロは今、僕と愛し合ってるんだよね』
「ぁ…っ、…なおっ…うごかない、で」


 あの後、俺はナオとともに風呂に浸かり、身体を隅から隅まで洗われた。

 そして、現在、俺たちはホテルから用意された部屋着の浴衣を着ながら対面座位の状態で行為をしてる。というのも、ナオが言った“もう一つの我儘”はこれだった。


『はぁ…シミュレーション通り。浴衣姿も綺麗だよ…ヒロ…』
「んっ…ぅ…」
『やっぱりヒロは和服が似合う……かっこいい……赤面しながら僕と一つになって着崩れる姿……なんて愛おしいの?……ああ…この1分間だけで100枚以上も写真を撮ってしまった…ヒロが魅力的過ぎてどれだけ記録に残しても足りないよ…もういっそのことヒロごとコレクションにできたら良いのに……誰にも盗まれない場所にヒロを保管するんだ…ヒロが見るモノは僕だけ…ヒロとずっと2人きり…実現したら素敵なんだろうな……ふふふ』


 俺の首筋に唇を落とすナオはぶつぶつと独り言を並べる。俺は身をよじりながら、そんなナオを見下ろした。

 …一体どんな我儘を告げられるかと身構えればこれだ。

 ナオの我儘は『浴衣を着ながら繋がりたい』というものだった。告げられたときは拍子抜けだったというか、思ったより変なことじゃなかったというか。外で真っ裸のままするより良いだろうと首を縦に振ったが、この異様な興奮から察するに、どうやらナオは俺のこの姿が相当好みらしい。
 そういえばナオと初めて対面したときも、ナオは自分の名前を日本人っぽいものにして欲しいと注文してきたくらいだ。前の持ち主の影響か、それとも元々そういうプログラムなのか。ナオは和を感じるものが好きなんだろう。しかしここまで喜ばれると少し戸惑ってしまう。浴衣といっても今着ているのは風呂上がり用の簡易なものだ。だというのに、まるで尊い存在の晴れ姿でも眺めるかのような眼差しを一心に向けられてちょっと気恥ずかしい気持ちになる。


『ヒロ?考えごと?』
「ッ、ぁ…」


 ぼんやりしてると、がくんと視界が揺れる。ナオが繋がった部分を下から突き上げてきたのだ。そのまま、俺を抱き寄せれば、首筋に吸い付くようなキスをする。


『駄目だよ。僕に集中して』
「ん、あっ…」
『僕のことだけ考えて。僕のことだけ感じて』
「待っ…て…、ナオっ、はげ、し、ぃっ」
『僕のことだけ見て』
「ひッ…ぁあ……」


 ばちゅばちゅッと肌がぶつかり、俺はもう限界だった。

 背筋に迸る刺激を追うように背を仰け反らせれば、ビュルッと先端から白濁液を吐き出してしまう。瞬間、内部も熱い飛沫で満たされた。


「ぁ、あぁぁ、あッ…」
『死ぬまで僕だけを見て…っ、お願い…っ、死んだら僕だけがヒロを見るから…っ、大切にするから…っ、今のヒロの全部を僕に頂戴…っ』


 しかしナオの動きは止まらないどころか激しさを増す。

 腰を支える両手は少しも俺を放すつもりはないようで、グッグッと抑え込まれるばかりだ。

 絶頂に震える俺から漏れる声は喘ぎというよりも悲鳴に近かった。


「…な、なお…ォっ、も、もう…っいって、イってる、からっぁ」
『うん…っ、ヒロの快感、僕に伝わるよ…。ヒロと一緒に僕も出ちゃった…。でも、まだ出せるでしょう?一緒にもっと気持ち良くなろうね…っ』
「ぁっぁあ…」


 身に纏う浴衣は着ていないのも同然だ。肩から落ちた浴衣は、胸元が大きく開いていて、帯の部分がかろうじて服の意味を成している。


『乳首も触ってあげる。このぷっくり尖らせたところ、こうやって回転バイブでカリカリされるの好きでしょう…?』
「ひッ…ぃ…」
『ああっ…その顔可愛い…っ』


 ぴとりと両乳首に張り付くのはナオの背面から伸びた銀管だ。先端は花のように開いていて、その中央は雄蕊のような突起が備わっている。まるで同時に何人もの指で弾かれてるような感覚だ。小さく振動しながら回転するそれは俺の胸を小刻みに揺らして刺激を与え続ける。


「んうっ、うぅ…っ」
『お腹の奥も、ぐりぐり擦って気持ち良くしてあげるからね』
「ぁっあっ、あ…っ」
『ヒロ…ヒロ…好き…もっと僕に病みつきになって…』


 腹の中が熱い。自分で動いてるのか、ナオが動いてるのか、もう分からない。ひたすらに俺は快楽を貪ることしか考えられない。

 気が付けば、腰を支えるナオの手は俺の手を掴んでいた。そのまま恋人繋ぎにされれば、俺たちは結合部を摩擦するように腰を動かす。


「ぁあっ、そこ…、きもぢ…っ」
『うん。分かるよ。中のここ、だよね。ヒロの気持ち良いところは、僕の気持ち良いところでもあるから、いっぱいぐりぐりしてあげる』
「は、あっ、~ッッ、う、ぅ、ぅ」
『ああ、ヒロ…。足の指までぴくぴくさせちゃって…本当に可愛い』


 ナオは頬を染めながらうっとりと腰を突き上げる。その間も、俺が快感の波に呑まれるたびに『あッ…あッ…』と小さく喘ぐのは、ナノマシンで拾い上げた俺の五感がナオのボディで再現されているからだ。

 俺の快感は、ナオの快感として反映される。俺たちが初めて繋がったとき、『ヒロが気持ち良いなら僕も気持ち良い』と放ったナオの言葉は決して口先だけのものじゃなく、物理的な意味合いも含まれていたのだ。

 だから俺たちはいつも同じタイミングで絶頂に至る。

 今だってそうだ。


「ぁっあっああっ…」
『ヒロ…好き…好き好き好き大好き…僕たちはずっと一緒…ずっと一緒だよ…っ?』
「あっ、おれ、も、ぅ、ぃ…くっ」
『目移りさせないくらい僕頑張るから』
「あっ、ぅ、ん、ぐ、ぐりぐり、ばっかり、ぃっ」
『約束、絶対に破らないでね…』
「ひ、あぁ、ッ」


 視界がバチバチと点滅する。外にいるにも関わらず無我夢中で声を出してしまう。むしろ外にいることがゾクゾクと肌を粟立たせた。もし誰かに見られてしまったら…。後ろを振り向いて誰かと目が合ったら…。そう考えるだけで形容し難い感情に駆られる。


「ぁっあ、あ゛っ、いく、おれ、また…っイ、く」
『うん…僕も…ッ』


 俺はいつからこんな変態になってしまったんだろう。

 ぐぽっぐぽっ、と卑猥な音を鳴らす結合部は隙間から泡立った汁が溢れ、肌を濡らす。それがローションの役割になり、ひときわ俺たちの動きを激しくさせた。


「ぃ、く…イク…イクイクイク…」
『ヒロ…好き…好き好き好き好き』


 互いに見つめ合って絶頂へと突き進む。

 気が付けば、自身の陰茎には銀管が巻き付いていて、それは今か今かと待ち侘びるように俺の発射口をくぷくぷと飲み込む。その刺激も加わり、絶頂の光が視界を埋めるのは早かった。


「ぁ、っ、あぁッ~」


 全身に快感が駆け巡る。ビュルルルッと勢いよく噴き出す射精感さえも更なる刺激になる。俺は馬鹿みたいに涎を垂らして、腰をびくんびくんと痙攣させる。短時間に何度も何度も訪れる絶頂に頭がおかしくなりそうだった。

 同時に達したナオも、中にどくどくと熱いものを注ぎながら、『あぁッ…』と眉根を寄せて悩ましい表情を浮かべる。しかしその間も、赤い目は片時も俺から離れることはなく、熱く蕩けていた。


「あ、あぁぁぁ…」


 途端に疲労感が襲ってくる。ゆらゆらと上半身を揺らし、やがてガクッと脱力すれば、ナオの胸にもたれるように抱き寄せられた。熱い体にナオの冷たい肌が心地良い。肩で息をしながら、そうして目を閉じる。

 
『ヒロ…、キスしよう』
「ぅ、んっ、ふ、ぁ…」


 呼吸が落ち着いた頃、ナオはそう言う。

 ぼんやりとした思考のまま顔を上げた俺は、ナオのキスを受け入れた。


『ヒロ…』
「…んっ、ぅ?」
『目閉じないで…?』
「…っ、ぅ、ん」


 口内を撫でるようなキスだ。絶頂の余韻が抜けない俺は、まだ思考が定まらない。もう少しぼんやりしていたかったが、次々に舌が絡むから、仕方なくそれを受け入れる。

 そして、目を閉じるな、と言われてしまったから薄く目を開ければ、真っ赤な目が俺を瞬きすることなく捉えていることに気付いた。ナオの癖なのか、キスをするときはいつもこんな感じだ。無視をして目を閉じると悲しそうにするから、恥ずかしいが、目を開けたままキスを続ける。

 やがて、そっと唇が離れた。ナオは、つーっと垂れる銀糸を舌で舐め取れば、満足気に口角を上げる。


『ヒロ、気持ち良かった?』
「……うん」


 照れ臭いが、あれだけ乱れておいて嘘は吐けない。

 視線を逸らしながら頷けば、『ふふ』と機嫌の良さそうな笑い声が聞こえる。


『ねぇヒロ…』
「…ん?」
『まだ時間はあるよね?』


 ナオは萎えることを知らない。賢者タイムもない上に、射精後も陰茎部分の硬さと太さはそのままだ。だから今もナオのそれは俺の中に居座っている。絶対に離れないと言うように。


「……っ」
『ヒロもこれだけじゃ物足りないでしょう…?』


 ナオが続きをしたがってる。俺は直ぐに察した。そもそも一度始めたら俺が気絶するまで続けるナオだ。一回で終わるはずがないのだ。


『だからもう一回…―』


 俺は内心覚悟を決めていた。正直なところ俺も満更じゃなかった。対面座位では当たらない部分があり、わずかながらもどかしさを感じていたからだ。突いて欲しいところは他にもある。先程のナオの言葉通り、ここは薄暗く、繋がっている間は特に視線を感じなかった。そのせいか、別の体位でも突いて欲しいと思ってしまう自分がいた。

 恥ずかしいので絶対に言葉にはしないが……。


「…いい、けど……その前に少し話をしてもいいか?」


 俺は腹の中に感じるモノに身をよじりながら、ためらいがちにナオの言葉を遮る。

 そうすればナオは目を瞬かせて、こてんと首を傾げた。

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