ヤンデレ系アンドロイドに愛された俺の話。

しろみ

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四章

35b

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 そして仕事を爆速で終わらせた俺は恐る恐る所長のデスクに向かった。


「所長……」
「…あ?」


 片足の側面を大腿部分に乗せるような形で座る結城所長は気怠そうにキーボードを叩いている。俺の声に顔を上げれば、グッと眉間にシワを寄せて「んだよ」と吐き捨てた。

 俺はピシャリと姿勢を正す。


「お忙しいところ…すみません…。…あの、本日の業務を完遂しました。…少し早いですが、退勤させていただてもよろしいでしょうか……」


 時計はまだ夕方過ぎだ。こんなにも早く退勤を申し出たのはたぶん初めてだ。世間的に言えば平均的な定時ではあるものの、夜の9-10時ぐらいまで残って働くことが日常である我が職場にとって、今の俺はかなり異質な存在だった。

 俺は縮こまる。心なしか、オフィス内に響き渡るキーボード音がピタリと止んだ気がした。そして周りから一気に冷めた視線が集まったような気がして居心地が悪くなる。

 とは言え、本日やるべき仕事は全て終わらせたし、訪問ノルマも達成したので、不安になる必要はないのだが……

 すると結城所長は面倒臭そうに耳穴を指でガリガリと掻く。その表情はゴミを見るようなもので、「は?何言ってんだ?ダメに決まってんだろ」とでも言いたげなものだった。普段の俺だったら即座に謝って仕事に戻っていたが、今日はそういうわけにはいかなかった。

 今日はナオとの約束がある。今朝からナオはやけにキラキラした笑顔で、『今日はヒロの誕生日』『特別な日にしようね』と、甘えてきた。あんなに“楽しみ楽しみ”と念を入れられたら、その思いにどうにかして応えてあげないと悪いことをしたような気持ちになってしまう。

 だから残業はなるべく回避したかった。俺はいかにして所長を説得すべきか、次の言葉を考える。

 が、その必要はなくなった。

 所長が何か言葉にしようとしたときだ。所長のデスクに設置されたディスプレイからバチバチッと奇妙な光が放たれたのだ。俺が立つ位置からは、そこに何が映されているのか分からないが、その瞬間、所長の瞳孔がキュッと収縮したように見えた。

 俺は怪訝に見つめる。

 すると所長は突然、苦虫を噛み潰したような表情を浮かべ、絞り出すような声で言った。


「…了解」
「え?」
「チッ……何回も言わせんな。退勤許可するって言ってんだよ」


 思わず目をぱちぱちと瞬かせた。所長の性格なら多少なりとも嫌味を付け加えるか、仕事を上乗せしてきてもおかしくない。なのにどうしたことか。所長は虫を払うようにシッシッと手を雑に振って「帰れ」と言う。

 あまりにも呆気なく、聞き間違いかと心配になるが、ふと思い出した。最近の所長は俺に対して妙によそよそしいことを。

 ぼんやりと「俺いびりに飽きただけだろう」と考えていたが、この変貌ぶりは何だろう。どこか引っかかる。今の一連の流れは、よそよそしい、というよりも、怯えてる、と言ったほうが正しいような感じがしたからだ。

 …なんて。所長が俺に怯える要素がどこにある。

 そう思った俺は、「ありがとうございます」と頭を下げて、そそくさとデスク上を片付ける。俺は少し浮かれた気持ちになった。こんなにも憂いなく退勤できるのはいつぶりだろう。今日はナオが酒の美味いレストランを予約してくれたらしい。そういうこともあってか、やけに気分が高揚して、柄にもなく口元が綻んでしまった。

 そうして「お先に失礼します」と挨拶をしてからオフィスを出れば、廊下を進んで、エレベーターの呼び出しスイッチを押す。待ってる間に《仕事終わった。今からそっち向かうな》とナオにメッセージを送信すれば、直後、こんな返信が来た。



《オフィスに戻って》


「うん…?」


 俺は目を丸くした。
 
 てっきり喜んでくれるものかと思ったが、表示されたのは予想と真逆の反応だった。


《早く戻って》
《エレベーターに乗らないで》


 まるで『こっちに来るな』と言わんばかりの勢いだ。つい先程まであんなに会いたがっていたのに、この一瞬で何があったのか。困惑して立ち尽くしている間も、次々にそんなメッセージが通知される。

 その瞬間、エレベーターの到着音がポンと響き、自然と顔を上げた。ドアがゆっくりと開き始め、エレベーター内の橙色の照明が冷たい廊下に漏れ出す。俺は無意識にそんな光のほうへ視線を向けた。


「え……」


 そして思わず声を零す。エレベーター内にいる人物。その顔に既視感があったからだ。

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