どうせ俺はNPCだから 2nd BURNING!

枕崎 純之助

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第四章 『魔神領域』

第9話 雷魔神のシャンゴ

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 俺と赤肌男レッド・スキンどもがやり合っている最中にいきなり現れたのは奇妙な男だった。
 そいつ赤肌男レッド・スキンと同じように頭の上に六茫星ろくぼうせいのNPCマークを浮かべている。
 赤肌男レッド・スキンどもは雷の技を使うこの男の攻撃を受けて数体が死に、残った奴らは一目散にこの場から逃げ出して行った。

「やっぱマンガラがいねくなっど連中も統率取れねえだな」

 シャンゴと名乗るその男は陽気な調子でそう言うと両刃おのを腰の固定具にしまい込み、無遠慮な足取りでズンズン俺に近付いてきた。
 そして警戒する俺にスッと手の平を向ける。

「ズタボロでねえの。おとなしくするだよ」

 なまりの強い言葉でそう言ったシャンゴの手からまばゆい光が発せられ、俺は避ける間もなくそれを浴びちまった。
 し、しまった……。

天恵雷シャイン・ライト

 だが、そこでこの身に起きた現象は、俺がまったく予想していなかったことだった。
 瀕死ひんしの状態だった俺のライフが一気にMAXまで全快し、さらに敵にやられて動作に支障をきたしていた左足が元通りに回復して問題なく動かせるようになった。
 体中の痛みや傷が消え去っていた。
 文字通り全回復だ。
 こいつ……俺を危機から救ったのみならず、治癒ちゆ魔法までかけやがった。

「てめえ……どういうつもりだ?」

 そうにらみつける俺にシャンゴは気楽な調子で笑みを浮かべる。

「オラ、キミに興味があるだよ。元気になったべ? なら話をしようじゃねえがい」

 シャンゴはまったく用心のかけらもない身のこなしで俺のすぐ目の前にドカッと座り込んだ。 
 そして俺にも座れと言って地面をポンポンと手で叩く。
 こいつからしたら俺なんか用心するまでもないってことか?
 その様子があまりにも無警戒で、俺は何だか自分だけが警戒するのがしゃくさわり、奴と同様にドカッとその場に腰を落とした。
 シャンゴはそんな俺を見て満足げにうなづく。 

「さっきのケンカは見事だったべ。マンガラは雷には弱いけんど、それ以外は結構強い魔神なんだ。能力的にはキミよりずっと上だべ。でも、キミは勝った。やっぱり勝負はいつも強い奴が勝つとは限らねえもんだな。面白いもん見れたべ」
「フンッ。俺はちっとも面白くなかったがな」
「何でだべか?」
「あの野郎は片手を失っていやがった。両手が万全なら俺はもっと序盤で負けていたはずだ」

 俺がそう言うとシャンゴはカラカラと笑った。

「そりゃ仕方あんめえよ。勝負は時の運。逆にキミが片手を失った状態で負けたとして、うらみ事を言うんかい? 言わねえべよ」

 フンッ。
 シャンゴの言うことはもっともで、反論するのもアホらしい。
 
「それにしても、ここにヨソモノが来ること自体がめずらしいことなんだけんども、今日は何とキミで3人目なんだべ」

 ……なに?

「ここ数年間、外部から客が入って来ることなんて一度もながったのによう……」
「残り2人の姿を見たのか?」

 俺はシャンゴの言葉をさえぎってそうたずねた。
 シャンゴはあっさりと首を縦に振る。

「もちろん。人間の娘っ子2人だっただよ。キミの探し人だか?」

 チッ……パメラとクラリッサだ。
 あいつらはティナやロドリックとは別々になったようだな。 

「天使の小娘と俺と同じ悪魔は見なかったか?」
「天使と悪魔? いんやぁ、そういうのは見なかっただな」

 シャンゴの奴は目を丸くして首を横に振る。
 チッ。
 トボけてやがるのか本当に知らねえのか判別つかねえな。
 フザけた野郎だ。
 とにかくパメラたちがいるなら、ティナの後を追っているかもしれねえ。
 まずはそっちからつかむか。

「人間の小娘どもはどこで見た?」
「教えてやってもいいけんど、こっちの質問にも答えてもらえんならね」

 そう言うとシャンゴは得意げに口角を上げて笑顔を見せる。
 そう来たか。
 ま、ペラペラと自分だけが情報をしゃべるわけはねえな。
 とにかくこいつから情報を聞き出さねえとな。
 おどして吐かせられるような相手じゃねえ。

「何が知りたい」
「キミ、炎の属性だべ? この森をこんなに焼いちまったんだもんな。でも雷の技も使ってただなぁ。その左足に巻かれたアイテム、どこで手に入れただか?」

 そう言うシャンゴが指で示しているのは、俺の左足に巻かれた雷足環カネヘキリだ。
 これを装備するようになってから、俺は電撃間欠泉スタンガン・ガイザーを使えるようになった。
 シャンゴもそれをすぐに見抜いたようだ。

「地上で電撃鰻スタンガン・イールを倒した際に褒賞ほうしょうアイテムとして手に入れたんだよ。それがどうかしたか?」

 俺の言葉にシャンゴは興味深そうに両目を見開いた。
 
電撃鰻スタンガン・イール……そんな奴がいるだか。とっ捕まえてオラの眷属けんぞくにしたいべ。それとそのひざ当て、足を振り上げるあの技はカッコイイけんど、オラだったらもっと別の使い方をするだよ。たとえばこんな感じに……」

 そう言うとシャンゴは立ち上がり、前方に向かってサッと身構えた。
 腰を落とした姿勢からわずかに右足を上げた瞬間、その右ひざからパチッと光が瞬いて宙に散る。
 次の瞬間、空中に光が一閃し、シャンゴは一瞬で十数メートル先にある黒げになった木にひざ蹴りを食らわせていた。
 太い木の幹が一撃でへし折れる。

「うおっ!」

 その技の凄まじさに俺は思わず感嘆の声をらした。
 まさしく落雷の威力だ。
 シャンゴは笑顔でこちらを振り返る。

「雷の技は速度が重要なんだべ。それも加速度的な速さでなく、一瞬で初速からトップ・スピードに乗ることが。それを実現するためには身体能力に頼るんでなくて、雷の速さに自分の体を乗っける必要があるんだぁよ」

 雷の速さに自分の体を乗せる。
 確かに今の奴の動きを見る限り、シャンゴ自身が一瞬、雷そのものになったかのように見えた。
 口で簡単に言うほど生易しい技術じゃねえ。
 だが、そんなことより、俺はこいつが俺にそんなものを見せる意味が分からずにまゆを潜めた。

「大したもんだが、俺にそれを見せつけてどうする? 拍手でもしてほしいのか?」

 そういぶかしむ俺にシャンゴは嬉々とした表情を見せた。

「すごい奴を見るとその技術を自分も習得したくなるべさ。オラはキミにも今の技が使えるようになると思うだよ。今すぐには無理でも悪魔くんにはセンスがある。そういうのは訓練じゃつちかえねえべ」
「フンッ。そりゃありがたいおめの言葉だな。で、さっきの俺の質問にはそろそろ答えてもらえるんだろうな」

 シャンゴはすっとぼけた顔でまるで思い出したかのようにポンッと柏手かしわでを打った。

「ああ。娘っ子らのことだか。そういえば剣を持った人間の女がマンガラの子分どもとめてただなぁ。娘っ子は腕前のほうはなかなかのもんで、子分どもの腕を剣でスパッと斬り落としてただよ。んだけんど多勢に無勢で、すぐに捕まえられてぶん投げられちまって川に落っこちちまっただよ」

 そう言うとシャンゴは頭上を指差した。
 そこには天地反転した大地に大河が流れている。
 さっきまで俺がいた場所だ。
 パメラはおそらくあの大河に飲み込まれて下流へ流されたんだろう。
 あいつのことだから死ぬことはないだろうが、どこかに流されたまま戻ってこない可能性が高いな。

「もう1人のチビッ子は戦いの中で姿が見えなくなっちまった」
「おそらく奴らに食われちまったんだろうよ。それにしても、そいつらは見捨てたくせに俺のことは助けたのか? とんだ気まぐれだな」
「オラ、娘っ子は苦手なんだぁよ。それにキミは雷の技を使ってただし……」

 そこで俺はサッと立ち上がるとシャンゴに背を向けた。

「フンッ。そうか。俺は用事があるんでな。もう行くぜ。あばよ」

 そう言って俺が立ち去ろうとすると、シャンゴがあわてて引き留めてきた。

「ええっ? もう行っちまうのかい? もう少し話をして欲しいだよ」
「うるせえな。俺はヒマじゃねえんだ。敵対するつもりがねえならせな」
「敵対なんてとんでもねえ。オラ、キミと友達になりたいと思ってるだよ」
「ならなおさらオサラバだ。友達? そんなもん俺が欲しがってると思うか? ねえよ。ただの1人もな」

 そう言ってズカズカと足早に立ち去ろうとするが、シャンゴは悪びれた様子もなくそんな俺の後を付いてくる。
 
「オラ、悪魔に会うのはキミで2人目なんだべ。前に会った奴は当時のオラなんかよりもずっと強い男で、オラそいつと友達になっただよ」

 悪魔?
 悪魔は友達なんて作らねえよ。
 そう言おうと思った俺だが、シャンゴの話の続きにふと出た有る人物の名前に思わず足を止めた。 

「そいつはドレイクって奴で、頭の角が赤い奴だった。背が低かったんだけど、メチャクチャ強かったんだべ。キミ、知らないべか? って言っても知らないかぁ。キミの国には悪魔なんて星の数ほどいるんだろうしなぁ」
「……ドレイク?」

 その名を知らない悪魔はいない。
 かつて魔王として地獄の谷ヘル・バレーの頂点に君臨し、そして地獄の谷ヘル・バレーを守るために死んでいった1人の悪魔だ。
 さらには敵方である天国の丘ヘヴンズ・ヒルの総大将である天使長イザベラと恋仲になり、子供までもうけた型破りな男だった。
 俺は死後のドレイクと奇妙な形で出会ったことがある。
 その時のことはよく覚えている。

「ドレイクならもうこの世にいない。奴は悪魔の中で誰よりも強い魔王だったし、今後も奴を超える男は出ないだろうと言われている」

 俺の言葉にシャンゴは一瞬、ほうけたように立ち尽くして声を失った。
 やがて奴は残念そうに顔をゆがめて口を開く。

「そうだったかぁ……あんな強い男でも死んじまうんだなぁ。オラのたった1人の友達が……うぅぅ」

 悄然とそうつぶやくシャンゴの目からポロポロと涙があふれ出る。
 な、何なんだコイツはメソメソと。
 これ以上、付き合っていられるか。
 そう思ってさっさと立ち去ろうとした俺だが、そこで鳴り響くあまりに大きな轟音ごうおんに思わず身をかがめた。

「うおおおおおん!」

 見るとシャンゴが鼓膜こまくを突き破らんほどの大音響で泣き叫び始め、同時に奴の体から強烈な雷が発生した。
 それは太い光の柱となって天を貫く。
 周囲の土を巻き上げ、先ほどの火災で燃えて黒コゲになっている木々を吹き飛ばし、さらには頭上に流れる反対側の地面の大河を盛大に波立たせた。

 まるで天変地異のような現象に俺は目を見張る。
 これが奴の力か。
 シャンゴの体からあふれ出る巨大な力の奔流ほんりゅうを前にして、俺は立ち尽くした。
 こういう力を手に入れたいと願い続けてきた俺だが、そこに到達するには果てしない時間と労力がかかりそうだ。

 そんなことを考えていたら俺はいてもたってもいられない気持ちになり、自然と握り拳に力がこもっていた。
 そうして自分でも無意識のうちに体中に魔力が満ちあふれ、全身から炎が噴き上がる。
 あれだけの力を持つ相手に一発食らわしてやりたい。
 それも俺の全力を込めた渾身こんしんの一撃を。

 俺は燃え盛る拳にこれ以上ないくらいの魔力を集約させていく。
 体中の神経を研ぎ澄ませ、相手を打ち倒すイメージを明確に脳に刻み付ける。
 今この行動は俺の……本能だった。

噴殺炎獄拳ヴォルカニック・ブラスト!」

 俺は一気にシャンゴの足元まで加速して踏み込むと、燃える拳を思い切り下から突き上げた。
 それはシャンゴのあごにガッチリとヒットし、シャンゴの体を跳ね上げる。
 空中に舞うシャンゴはすぐに地面に落下した。
 見るとそのライフはわずかに総量の10%ほどが減少したのみだった。

 これが今の俺のいつわらざる実力だ。
 俺になぐり飛ばされて地面に大の字に転がるシャンゴは、ようやく落ち着きを取り戻したのか、奴の体から放出されていた雷もスッと収まった。
 辺りはあらしの後どころか、爆撃でもされたかのように木々が吹き飛び、何もない焦土しょうどと化していた。
 俺はあきれと苛立いらだちの混じった眼差まなざしでシャンゴを見下ろした。

「盛大にメソメソしやがって。どうなってんだ。その力は」
「いやぁ悪い悪い。あんまり悲しくってオラ取り乱しちまっただよ。いいパンチもらって目が覚めたべ」

 ……チッ。
 俺の全身全霊の一撃はこいつにとっちゃ目覚まし程度のもんかよ。
 シャンゴは涙にれた目をゴシゴシと手でこすりながら起き上がった。

「悪魔くん。キミはドレイクと会ったことはあるだか?」
「……ある。人を喰ったようなフザけた野郎だった。だが、その腕前は確かに認めざるを得ないほど強かった」

 詳細をこいつに話す必要はねえが、実際に俺がドレイクに会ったのは奴の死後だ。
 プログラムの牢獄ろうごくという、あの世のような場所でな。
 そこで俺が実際に見たのはドレイクの実力の片鱗へんりんでしかなかったが、それでも奴がとてつもない実力者であることを感じ取るには十分だった。


「そっか。それにしてもキミ、度胸あるだなぁ。あの状態のオラによくパンチを浴びせたべ。ちょっと間違えて雷に触れたら即死するところだっただよ?」
「フンッ。メソメソしてる奴を見ると虫酸むしずが走るんだよ」

 すっかり機嫌を直したシャンゴは嬉々ききとして俺に歩み寄ってくる。

「天使と悪魔を探しているって言ってただな?」
「ああ。天使の小娘はあのマンガラとかいう奴に捕まってここに来た。そしてあいつの腕を切り落としたのは、悪魔の男だ。そこまでは分かっている」
「なるほど。このエリアにはマンガラ一族以外の魔神は住んでねえ。奴らは縄張なわばり意識が強いから、他種族の侵入は許さねえ上にしつこいだよ。その悪魔たちを殺すか縄張なわばりの外まで追い出すまで追い続けるはずだべ。なら奴らが追跡した足跡を追うことはオラなら出来るだよ。悪魔くんとこうして知り合ったのも何かの縁だべ。手伝わせてもらうだよ」

 そうまくしたてるとシャンゴは意気揚々と足を踏み出しかけて、そこで振り返った。

「ところでキミ、名前は何だべか?」
「……バレットだ」

 奇妙な道案内役と行動を共にすることになったが、ティナを見つける手掛かりがあるならそれを利用するしかねえな。
 俺はシャンゴの後を追って進み始めた。
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