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第2章:オトメゴコロとオトコゴコロ
13・古城家の事情
しおりを挟む「あのよ、尊は俺らの担任だから、灯里んちの事情は知ってるんだよな?」
正志の問いに尊は頷いた。
こんな話題を生徒としてもいいものだろうかと少し頭をよぎったが、正志と卓也は灯里にとって良い友人だ。
彼女をいつも心から気遣ってくれている。
「ああ、聞いてる。あと、さっきも言ったけど、聡は俺の高校時代の先輩なんだ。だから、古城の事は、聡から直接教えてもらってる」
尊の言葉を聞くと、正志と卓也は安心したように息をついた。
聡から直接聞いたと言った事で、二人は尊を信用してくれたようだ。
「そうか。まあ、灯里んちはいろいろ複雑なんだ。跡取りの妹は灯里を慕ってるけど、親父さんとはまだ微妙な関係だし、今でも周りの目は冷たいらしいしな」
尊は聡から聞いた、彼女の父親の事を思い出した。
灯里の父親である古城昭利は厳格な男で、幼い頃の灯里を出来損ないと罵り、家から追い出してしまったのだという。
「あ……古城は、親父さんと上手くいってないのか?」
うっかり灯里と名前を呼びそうになったが、尊はなんとか堪え、正志と卓也に探りを入れる。
聡からは大丈夫だと聞いていたが、聡の知らない情報を二人が持っているかもしれないからだ。
「そうだな……聡兄ちゃんはもうそんな事ないって言うんだけどよ、灯里は今でも自分の事を出来損ないだって思ってるからな。まだ親父さんに嫌われてるって思ってる。それに、昔追い出されたって事実があるからさ、聡兄ちゃんやオッチャン以外の親戚からは冷たくされてるっぽいな……親戚の集まりとかの後ってさ、灯里、すっげぇ疲れた顔してるし、かなりのトラウマになってるみてぇだな」
「そうか……」
これは初耳だった。
やはり正志と卓也は灯里の友人という立場から、聡の知らない情報を持っていたらしい。
「聡兄ちゃんはさ、灯里の親父さんは昔灯里に冷たくしちまったから、今はどうやって灯里に優しく接したらいいかわからないだけだって言うんだけどよ……」
「そうだな」
それは、尊も聡から聞いていた。
古城昭利は、灯里にどう接していいかわからないだけで、今は灯里を大切に想ってくれているらしい。
「でもよ、それが本当だとしても、灯里の心の傷は深いし、あいつは昔から思い込みが強いからな……。昔の事があるから、あいつは今でもずっと自分の事を駄目な奴だって思ってるし、自己評価が低過ぎるんだ。まぁ、だからこそ向上心が強いってのもあるけどよ、あいつ、自分がすげーモテてるって全く気づかねぇんだ。危なっかしくて、俺と卓也はあいつから目が離せなくて大変だっての」
「え?」
尊の目には、正志と卓也は灯里の友人――親友というか同じ年の保護者というように映っていたのだが、今の一言で、もしかして、と思ってしまった。
もしかして二人は、灯里の事を……。
考えてみれば、それはとても自然な事だった。
二人は灯里を認めていて、灯里はあんなに魅力的な少女なのだ。
「もしかして、だけど……」
「ん?」
「お前ら二人……古城の事、好き、とか?」
それを口に出してしまってから、尊は後悔した。
教師である自分が生徒に何を聞いているのだと思う。
この学園では別に男女交際を禁止しているわけではない。
かなり自由な校風だから恋愛は自由だし、だから正志と卓也の答えがどうであれ尊には何も言う資格はなく、むしろ教師が生徒の恋愛事情に口を出すなと言われるのがオチだ。
だが、正志と卓也からはそんな言葉は返ってこなかった。
二人は顔を見合わせると、尊へと視線を向け、ほぼ二人同時にこくりと頷いた。
「そうだけど?」
「へ?」
意外な返事に、尊は驚いて間抜けな表情で彼らを見つめた。
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