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第2章:オトメゴコロとオトコゴコロ

14・灯里の友達

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「俺と卓也、昔から灯里の事、好きだけど? それがどうかしたか?」

 素直に好きと認めただけでなく、それがどうかしたかと言われ、尊はまた驚いた。
 だが、好きだと言うなら告白をしたのだろうかという事が今度は気になってくる。
 これを聞いていいものかと少し考えたが、尊は開き直ってそれを口にした。

「あいつに告白? しねぇよ、そんなもん」

 尊の言葉に、正志は呆れたように言った。
 隣で卓也が、深く頷いている。
 まるで、何故そんな当たり前の事を聞いてくるのだと言わんばかりだ。
 自分の疑問はそんなにもおかしなものなのだろうか。
 首を傾げた尊に、また呆れたように正志が続けた。

「あいつ……灯里さ……」

「オウ」

「ガキの頃からずっと好きなやつが居るからよ」

「え?」

「それに、あいつの性格からすると、告ったりとかしたら気まずくなるだろ? それなら、ダチで居たほうが楽しいじゃねぇか。だから、俺と卓也は、あいつの想いが叶うように見守ってやろうって思ってるんだ」

「そうか」

 尊は驚いたが、自分たちの想いよりも灯里の想いを優先させてくれた正志と卓也に感心した。
 灯里は本当にいい友達を作ったと……心からそう思うし、教師としてだけでなく、新堂尊という一人の人間としてもこの二人は人間として信用出来ると思った。

「王子様みたいなやつらしいぜ?」

「え?」

 何の事だろう?
 首を傾げた尊に、正志も卓也も苦笑した。

「あいつの好きなやつが、だよ」

「え?」

「俺ら、そんなやつこの世に居るかって思ってたし、実際見てみるとどこが王子なんだって思うけど、どうやらあいつにはそういうふうに見えているらしいな。高校三年になって、毎日浮かれたり沈んだり、最近の灯里は情緒不安定だ」

 正志の言葉に、無言で卓也が頷いた。
 正志はさらに続ける。

「一体どこがいいんだって思うけどよ、まぁあいつにとっては素敵な王子様ってんだから、そうなんだろうよ。俺らは灯里を応援しつつ、そいつの事を見極めるつもりだ。なんつったって、うちのお姫様は世間知らずだし、騙されてる可能性だってあるからよ」

 どうやら尊が正志と卓也から灯里の事や彼ら二人の事を聞き出そうとしていたのと同じように、彼ら二人も尊に探りを入れていたらしい。
 そしてそれは、二人が灯里の好きな相手が尊だと確信してのもののようだ。
 今の会話から、二人は自分をどう評価したのだろう――そんなふうに思い、尊は苦笑した。

「正志、そろそろ時間だ」

 今までずっと黙って正志と尊の会話を聞いていた卓也が、腕時計を見て正志に声をかける。
 正志も腕時計を見ると、そうだな、と頷いた。

「じゃあな、尊。俺ら、行くわ。またな」

 軽く手を振り立ち去ろうとする二人に同じように手を振り、

「これから二人で買い物か?」

 と尊は声をかける。

「あぁ。ただし、二人で、じゃねぇけどな」

「え?」

「今日さ、四時から駅前のスーパ―でタイムセールなんだとよ。一人じゃ欲しいものがゲットできないから付き合ってって頼まれててよ」

「それってもしかして……」

「あぁ、灯里だ」

 ニヤリと笑いながら、正志が頷く。
 その隣で卓也も頷いた。

「あいつ、本当に大会社のお嬢様かよってくらい、性格は地味で超庶民だからな。お一人様限定二パックの卵と……あとは忘れたけどよ、とにかく絶対にゲットしたいものがあるんだとよ」

「灯里は料理も出来るし、金銭感覚もしっかりしている」

「俺ら、いつも灯里から差し入れも貰ってるしよ、しっかりと役に立ってやんねぇとな! じゃあ、尊! またな!」

 正志と卓也は尊に背を向けると体育教官室を出ていった。
 尊は自分の知らない灯里の一面を知っている二人を、羨ましいと思った。
 自分が彼女と同じ年で、正志や卓也のように同じ時間を過ごしているのなら、すぐに彼女の想いに応えてやる事が出来るのに。
 それにしても。

「一体、何に悩んでるんだよ~」

 いくら担任とはいえ、夏休みに突入した今は、今までのように彼女に頻繁に会う事はなかった。
 夏休みが終わったら元気になっていてほしい。
 尊はそう願いながら、顧問をしているバスケットボール部の練習を見るために、体育教官室を出て体育館へと向った。

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