34 / 136
Scene4 勤勉なる悪党見習い
scene4-1 底無しの欲求 前編
しおりを挟む都内某所のビジネスホテル。
大学進学後の降って湧いたセレブ生活ですっかり価値基準が肥えてしまった和成は、一泊一万そこそこの安宿の窮屈な室内と味気ないコンビニ弁当に辟易としていた。
「なんで僕がこんなコソコソと逃げ回らないといけないのさ?」
先日、自分のハーレムに突如土足で踏み込んで来たアンサーなんとかという悪の組織からの宣戦布告から二日が経った。
待ち望んでいた御縁司の処刑日は過ぎてしまい、本当なら今頃祝杯を挙げて未来へ行く準備を進めていたはずなのに、明け方近くに帰って来た四人はどうも御縁司を取り逃したらしい。
格好良く出て行った割にはそんな結果かと内心ガッカリした和成だったが、さらにそこから〝自宅を把握されている〟という理由からこうして外泊避難をさせられている訳だが、せっかくならもっとグレードの高いホテルを用意して欲しかったのに、四人は妙に慎重を期して目立たない小さなホテルばかり選ぶせいで、まるで自分が逃亡者の様に思えてしまう。
「なんだよ、くそ! ……でも、真弥がなんか真っ青でフラフラしてたし、本当に戦闘があったんだろうな」
満身創痍な真弥、手首を気にしている様子だった七緒、肩や腕など両腕に違和感がありげだった奏、唯一千紗だけはさほど不調はなさそうだったが、こちらを心配させまいとする笑みがぎこちなく、流石に和成も察するモノがあった。
今更になって実感する非日常。これまでは安全圏からの観戦感覚でいたが、いよいよ自分も事態の内側へ踏み入ってしまっているという自覚が芽生えて悪寒がし始める。
「だ、大丈夫だよね? そもそも僕は無関係なんだし……敵がわざわざ僕を襲う理由は無いよね?」
弁当ガラをゴミ箱に投げ捨て、無音でいるのが耐えられずテレビを付けてベッドに寝転ぶ和成。
四人は帰って来て和成の外泊を手配した後、どこかへ行ってしまった。
護衛の二小隊は引き続き周辺を警備してくれている様だが、やはりどうにも不安で仕方ない。
何せ自分は特殊な能力を持っている訳でも無いただ一般人だ。
世界を支配していたという恐ろしい犯罪者達に襲われてはひとたまりもない。
(こっそり逃げれないかな? ……でもなぁ)
別に悪くは無いはずだ。
自分が負うべき責任は何一つない。
だが、あの自分に言われたら何でも言う事を聞く四人の美少女達を手放すのはどうしても惜しく決心が付かない。
あと少し、あとほんの数時間後にまで近付いていた本当のハーレム生活。
こんなチャンス、間違いなく二度とない。
ここで逃げてしまったら、自分は残りの人生をずっと後悔するだろう。
「あぁくそッ! ゴミカスの癖に何でさっさと死なないんだよッ!? ふざけんなよッ!!」
掴んだ枕を壁に投げ付け癇癪を起す和成。
脳裏に浮かぶ見ているだけでカビ臭さを感じる根暗男の顔が浮かび苛立たしくて仕方ない。
「お前なんかが生きてたってどうせ何の意味も無いっての! ゴミはゴミらしくさっさと処理されとけよ!」
自分の幸せを邪魔する障害。
鬱陶しく邪魔で仕方ないという思いが募り、どんどんと感情に容赦が無くなっていく。
だが、和成はそれを悪いとは思わない。
自分はあの四人の心の傷を癒してやり、彼女達が幸せに生きて行くために必要な存在へとなる努力をした。
自分はあの四人から愛され幸せに暮らす権利のある善良な市民。
対して司は人類規模で不要かつ有害な粗大ゴミ。
どちらが思い通りになるべきかは言うまでもない。
だからこそ今の状況はあまりにも理不尽であり、和成は髪を掻きむしり不満を露わにしていた。
――コン、コンッ! ドン! コンッ!
「ん?」
何度も何度も壁に枕を投げ付け苛立ちを誤魔化していた和成の耳に届く妙なノックの音。
拳で二回、掌で一回、最後にまた拳で一回。
それは護衛の小隊隊員達と決めていたノックの仕方。
ようやくこの息が詰まりそうな狭い部屋から出れるのかと、和成は足取り軽く扉へ向かいロックを外して……。
「チッ、危機感のねぇ奴だな……ドアスコープでちゃんと確認してから開けろよ」
「え?」
そこに立っていたのは、全く見覚えの無い女性だった。
身長は一般男性の平均より少しは高い和成よりさらに数cm高く、ワッフルプルオーバーとスキニーを合わせたカジュアルコーデが手足の長いモデル体型によく似合っている。
ただ、黒く艶やかなショートボブの髪を掻くその顔は見るからに不機嫌なオーラが滲み出ている。
「え? あ、だ……誰? ――ごッ!?」
現れた謎の女性は、扉を開けたまま硬直する和成を雑な前蹴りで室内へ戻してズカズカと入室し、すぐに後ろ手で扉をロックする。
ひょっとして自分はやってしまったのか?
この女は敵のメンバーで自分を人質にでもしようとさらいに来たのか?
「あッ! あ、ぁ……ち、違ッ! ぼ、僕は……か、関係……な……」
尻餅を付いて必死に意図を伝えようとする和成だったが、恐怖で上手く声が出ない。
そんな口を開けて震え怯える和成を前に、謎の女性は呆れたため息を漏らしてベッド横のテーブルに飛び座り足先でクイッと和成の顎を上げさせる。
「情けない男ね……全く。敵じゃないわよ! 私は戸鐫絵里。〝ロータス〟実働部隊【修正者】の第一大隊隊長で、あんたのハニー達の直属の上官よ」
足首を振り、和成の顔をカクカクと上下させて雑に自己紹介する絵里。
だが、その自己紹介でようやくホッと胸を撫で下ろして和成は落ち着きを取り戻した。
「ふ~~ん、あんたが菖蒲義姉さんの息子ね……なんだかあんまり似てないわ。ナヨナヨして頼りない感じ」
「え? 姉さん? か、母さんが?」
立ち上がる和成を上から下まで流し見ながらジトッとした目で辛辣な言葉を浴びせて来る絵里。
いきなり入り込んで来てなんなんだと不満はあるが、吊り気味の目がキツい印象を受けさせるものの、俗に言う〝顔がいい〟といった感じの女性でありながら女性からモテるタイプの美貌に、思わず和成はたじろいでしまう。
あと、多分本人はあまり気にしていないのか、折角ゆったりとしたプルオーバーなのに腕組みをすることで露骨に浮き出て来る豊かな胸元の輪郭が和成をさらに委縮させていた。
「血縁がある訳じゃない……あ、いや? あると言えばあるのか? まぁ、それを言い出したらデーヴァ全員が姉妹みたいなもんよね。だぁ~~もう! そんなことはどうでもいいのよ! この非常時に二小隊も護衛に回すVIP接待している余裕は無いの。あんたはしばらく私と一緒に動きなさい」
有無を言わせない絵里の睨みに、蛇に睨まれた蛙の様に動けなくなる和成。
ただ、先ほどの自己紹介からするにこのイケメン美女は部隊の総責任者。
当然それに見合う実力を持っているのだろうと考えれば寧ろ和成としては有難い話ではあった。
ただ、どうにも威圧的で怖い。
やはり出来れば早く愛しの四人に帰って来て欲しくて、和成は思わず尋ねてしまう。
「あ、あの……ちなみに七緒達はいつ戻ってくるんですか?」
「あ? 私に不満でも?」
「い、いや! そういう訳ではないんですが……え、えっと……その……」
下手なヤンキーより遥かに恐ろしい眼光。
レディースの暴走族で総長を張っていると言われても納得出来てしまいそうだ。
「ふぅ……残念ながら、あんたのハニー達が戻るのはもう少し掛かるわ。今は〝ロータス〟の諮問会に掛けられてる。敵陣に攻め入り討伐対象を目の前にして逃げ帰ったことに関してネチネチお説教中なのよ。自分達は敵のハッキングで何も出来ず時元間通信を落として足を引っ張ってたくせに……――チッ! だぁぁくそッ!!」
――ガシャンッッ!!
「うぅッ!?」
スタンドライトを殴り壊し癇癪を起す絵里。
そのこめかみには今にもはち切れそうな青筋が浮かんでいて、出会ったばかりの和成でもこの女性が自分達の上位陣に対して相当な不満を持っていることが伺い知れた。
「あ、あの……ちなみにそれって七緒達が何か悪い扱いを受ける可能性が?」
「はぁ? そんなことさせる訳ないでしょ。私の部下としてあの四人はよくやった、ケツは私が持つ。それよりも、護衛とは別に実はあんたに頼みがあんのよ。大事なハニー達のために少し協力して貰えないかしら?」
かなり苛烈で怖い隊長さんの様だが、なんとなく義理人情の人なのかという印象も感じさせる絵里。
本当は下手に関わりを深めたくはないのだが、この人に気に入られておけば後々メリットが多いと判断した和成はまだ少し緊張しながらも頷き返した。
「ありがとう……別に難しいことでは無いわ。あんたには一人の女を誘き寄せて欲しいのよ」
絵里は一枚の写真を差し出し、それを受け取った和成は思わず目を剥く。
その写真には、彼にとって見覚えがある程度では済まない一人の女の子が写っていた…………。
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
旧校舎の地下室
守 秀斗
恋愛
高校のクラスでハブられている俺。この高校に友人はいない。そして、俺はクラスの美人女子高生の京野弘美に興味を持っていた。と言うか好きなんだけどな。でも、京野は美人なのに人気が無く、俺と同様ハブられていた。そして、ある日の放課後、京野に俺の恥ずかしい行為を見られてしまった。すると、京野はその事をバラさないかわりに、俺を旧校舎の地下室へ連れて行く。そこで、おかしなことを始めるのだったのだが……。
サイレント・サブマリン ―虚構の海―
来栖とむ
SF
彼女が追った真実は、国家が仕組んだ最大の嘘だった。
科学技術雑誌の記者・前田香里奈は、謎の科学者失踪事件を追っていた。
電磁推進システムの研究者・水嶋総。彼の技術は、完全無音で航行できる革命的な潜水艦を可能にする。
小与島の秘密施設、広島の地下工事、呉の巨大な格納庫—— 断片的な情報を繋ぎ合わせ、前田は確信する。
「日本政府は、秘密裏に新型潜水艦を開発している」
しかし、その真実を暴こうとする前田に、次々と圧力がかかる。
謎の男・安藤。突然現れた協力者・森川。 彼らは敵か、味方か——
そして8月の夜、前田は目撃する。 海に下ろされる巨大な「何か」を。
記者が追った真実は、国家が仕組んだ壮大な虚構だった。 疑念こそが武器となり、嘘が現実を変える——
これは、情報戦の時代に問う、現代SF政治サスペンス。
【全17話完結】
日本国 召喚獣管理省 関東庁 召喚獣総合事案即応科。
wakaba1890
ファンタジー
召喚獣。
それは向こう側とされる所から、10歳を迎えた日本人の子供の下に召喚されるモンスターのことである。
初代天皇・神武天皇が日本を建国した際に書かれた絵画には彼は金鵄と呼ばれる金色に輝く鵄(とび)と契約したのが原初となっている。
そして、縄文、弥生、古墳、飛鳥、平安、戦国時代から近代から今に至るまで、時代を動かしてきた人物の側には確かに召喚獣は介在していた。
また、奇妙な事に、日本国に限り、齢10歳を迎えた日本在住の日本人にのみ体のどこかから多種多様な紋章が発現し、当人が念じると任意の場所から召喚陣が現れ、人ならざるモンスターを召喚される。
そして、彼らモンスターは主人である当人や心を許した者に対して忠実であった。
そのため、古来の日本から、彼ら召喚獣は農耕、治水、土木、科学技術、エネルギー、政治、経済、金融、戦争など国家の基盤となる柱から、ありとあらゆる分野において、今日に至るまで日本国とアジアの繁栄に寄与してきた。
そして、建国から今まで、国益の基盤たる彼ら数万種類以上をも及ぶ召喚獣を取り締まり管理し、2600年以上と脈々と受け継がれてきた名誉ある国家職がーーーーー国家召喚獣管理官である。
アガルタ・クライシス ―接点―
来栖とむ
SF
神話や物語で語られる異世界は、空想上の世界ではなかった。
九州で発見され盗難された古代の石板には、異世界につながる何かが記されていた。
同時に発見された古い指輪に偶然触れた瞬間、平凡な高校生・結衣は不思議な力に目覚める。
不審な動きをする他国の艦船と怪しい組織。そんな中、異世界からの来訪者が現れる。政府の秘密組織も行動を開始する。
古代から権力者たちによって秘密にされてきた異世界との関係。地球とアガルタ、二つの世界を巻き込む陰謀の渦中で、古代の謎が解き明かされていく。
ギャルい女神と超絶チート同盟〜女神に贔屓されまくった結果、主人公クラスなチート持ち達の同盟リーダーとなってしまったんだが〜
平明神
ファンタジー
ユーゴ・タカトー。
それは、女神の「推し」になった男。
見た目ギャルな女神ユーラウリアの色仕掛けに負け、何度も異世界を救ってきた彼に新たに下った女神のお願いは、転生や転移した者達を探すこと。
彼が出会っていく者たちは、アニメやラノベの主人公を張れるほど強くて魅力的。だけど、みんなチート的な能力や武器を持つ濃いキャラで、なかなか一筋縄ではいかない者ばかり。
彼らと仲間になって同盟を組んだユーゴは、やがて彼らと共に様々な異世界を巻き込む大きな事件に関わっていく。
その過程で、彼はリーダーシップを発揮し、新たな力を開花させていくのだった!
女神から貰ったバラエティー豊かなチート能力とチートアイテムを駆使するユーゴは、どこへ行ってもみんなの度肝を抜きまくる!
さらに、彼にはもともと特殊な能力があるようで……?
英雄、聖女、魔王、人魚、侍、巫女、お嬢様、変身ヒーロー、巨大ロボット、歌姫、メイド、追放、ざまあ───
なんでもありの異世界アベンジャーズ!
女神の使徒と異世界チートな英雄たちとの絆が紡ぐ、運命の物語、ここに開幕!
※不定期更新。最低週1回は投稿出来るように頑張ります。
※感想やお気に入り登録をして頂けますと、作者のモチベーションがあがり、エタることなくもっと面白い話が作れます。
スーパーの店長・結城偉介 〜異世界でスーパーの売れ残りを在庫処分〜
かの
ファンタジー
世界一周旅行を夢見てコツコツ貯金してきたスーパーの店長、結城偉介32歳。
スーパーのバックヤードで、うたた寝をしていた偉介は、何故か異世界に転移してしまう。
偉介が転移したのは、スーパーでバイトするハル君こと、青柳ハル26歳が書いたファンタジー小説の世界の中。
スーパーの過剰商品(売れ残り)を捌きながら、微妙にズレた世界線で、偉介の異世界一周旅行が始まる!
冒険者じゃない! 勇者じゃない! 俺は商人だーーー! だからハル君、お願い! 俺を戦わせないでください!
異世界でぺったんこさん!〜無限収納5段階活用で無双する〜
KeyBow
ファンタジー
間もなく50歳になる銀行マンのおっさんは、高校生達の異世界召喚に巻き込まれた。
何故か若返り、他の召喚者と同じ高校生位の年齢になっていた。
召喚したのは、魔王を討ち滅ぼす為だと伝えられる。自分で2つのスキルを選ぶ事が出来ると言われ、おっさんが選んだのは無限収納と飛翔!
しかし召喚した者達はスキルを制御する為の装飾品と偽り、隷属の首輪を装着しようとしていた・・・
いち早くその嘘に気が付いたおっさんが1人の少女を連れて逃亡を図る。
その後おっさんは無限収納の5段階活用で無双する!・・・はずだ。
上空に飛び、そこから大きな岩を落として押しつぶす。やがて救った少女は口癖のように言う。
またぺったんこですか?・・・
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる