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第四部
プロローグ〜人は尊敬なしに誰かを愛することはできない〜
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5月もなかばを過ぎたころ――――――。
ボクは、いまだに、ゴールデンウィーク明けに開催されたオープン・スクールの一件を引きずっているように見える親友に対して、いい加減、ウンザリしはじめていた。
(ひと月半で、二回も女子にフラレたからって、いつまで、ウジウジしてるんだよ……)
そう感じつつも、竜司の一度目の失恋のトラウマを、SNSのストーリー機能で拡散してしまったことについては、ボクも(口には出さないけど)それなりに罪悪感を覚えていたので、なんとか、その心の痛手から、早く立ち直ってほしかった。
こういうときに、ボクが頼ろうと考えるヒトは、一人しか居ない(おそらく、竜司だってそうだろうけど……)。
放課後、他の部員が来ない時間帯に広報部の部室を訪ねたボクは、花金鳳花部長が、いつものように、ノートPCに向き合っている姿に安心し、注意深く声をかける。
「鳳花部長……ちょっと、相談したいことがあるんですけど、少しお時間をいただけませんか?」
彼女と話すとき(特に二人きりのとき)は、ついつい、いつもよりも丁寧な口調になってしまう。
恐る恐る……というほどではないにしても、慎重に切り出したボクのようすを見つつ、部長は口元をゆるめ、苦笑しながらたずね返してきた。
「どうしたの、黄瀬くん? そんなにあらたまって……」
「はい……実は、竜司のことで……」
そこまでを口にすると、ボクがすべてを語る前に、少しだけ眉を動かした鳳花部長は、作業を行っていたノートPCをパタリと閉じて、やや真剣な面持ちで語りかけてきた。
「そう……貴方もやっぱり、黒田くんのことが気になっていたのね」
「はい……あのオープン・スクールでの独断専行からの告白失敗は、竜司の自業自得だと思いますけど……その前の春休みに、動画を撮影して拡散してしまったことは、ボクに責任の一端があると思うので……」
友人に対して口に出さなかったことを伝えると、部長は、小刻みに首をタテに振って、ボクの言葉を受け止めた、という合図を示すと、こんな言葉を返してきた。
「たしかに、デジタル・タトゥーとして残ってしまいかねない友人の動画をネット上に拡散してしまったことは、誉められたことではないわね……ただ、その動画は自動的に消えてしまうコンテンツだし、貴方の行為をあらためることが出来るとすれば、これから、どう行動するかに掛かっているんじゃないかしら?」
自分自身でも同じことを考えていたのだけど、ぐうの音も出ない正論に、ただうなずくしかない。
すると、ボクの反応に感じるところがあったのか、鳳花部長は、穏やかな笑みを浮かべて、優しく語る。
「まあ、そうして反省する気持ちがあるなら良いと思うわ。それに、いまの状況が好転するかどうかは、黒田くん自身の気持ちが大きく関わっているし……私たちに出来ることがあるのかわからないけれど、少し考えてみましょう」
「あ、ありがとうございます!」
最敬礼の体勢でボクが、お礼の言葉を述べると、部長は、
「あらあら……黄瀬くん。貴方にしては、大げさね……」
と言って、クスクスと笑う。そして、ふたたびノートPCを開き、
「黒田くんは、他人の役に立つことで、自己肯定感を得るタイプだからね……自分の行動のせいで、紅野さんをはじめ、周りの人たちに迷惑を掛けてしまったことについて、自分を責めているんだと思うわ。――――――それなら、今度は、彼自身に誰からの役に立っていると実感してもらうことで、自分自身で立ち直ってもらうしかない」
そんなことを独り言のようにつぶやきながら、端末の操作を始めた。
鳳花部長が、具体的にナニをしているのか、詳しく追及することはやめておこう……と考えつつ、彼女の言葉に賛同するように、ボクはふたたび、首を縦に振る。
「黄瀬くん、貴方と黒田くんは、谷崎先生のクラスだったわね?」
キーボードのタイピング操作を終えると、部長は、唐突にそんなことを聞いてきた。
「はい、一年の時と同じく、ボクらのクラスの担任は谷崎先生です」
「あと、黒田くんは、今年もクラス委員を務めているのよね?」
「そうですね。吹奏楽部の紅野さんと一緒にクラス委員をしてます。もっとも、竜司本人は、やる気じゃなくて、半分くらい白草さんにハメられたようなモノなんですけど……」
そう、思い返せば、竜司が今年もクラス委員の仕事をすることになったのは、転入生の白草さんが、
「わたしは転入して来たばかりで、学校やクラスのことでわからないことが多いので、出来れば、新学期のクラス委員は、去年からの仕事に慣れているヒトになってもらって、その上で、わからないことを色々と教えてもらえたら嬉しいな、って考えています」
と、担任のユリちゃん先生に提案したことが原因だった。
「そう……それなら、黒田くんに相応しい仕事があるわ。ここは、彼に一肌脱いでもらいましょう」
ボクの回想をよそに、鳳花部長は、一人で納得するようにつぶやいている。
部長が、ナニを考えているかはわからないけど、ここは、彼女のアイデアに期待することにしよう。
いつまでも、ウジウジと悩んでいる竜司を見ていたくない、というボクの想いは、きっと、部長も周りのみんなも同じハズだから。
ボクは、いまだに、ゴールデンウィーク明けに開催されたオープン・スクールの一件を引きずっているように見える親友に対して、いい加減、ウンザリしはじめていた。
(ひと月半で、二回も女子にフラレたからって、いつまで、ウジウジしてるんだよ……)
そう感じつつも、竜司の一度目の失恋のトラウマを、SNSのストーリー機能で拡散してしまったことについては、ボクも(口には出さないけど)それなりに罪悪感を覚えていたので、なんとか、その心の痛手から、早く立ち直ってほしかった。
こういうときに、ボクが頼ろうと考えるヒトは、一人しか居ない(おそらく、竜司だってそうだろうけど……)。
放課後、他の部員が来ない時間帯に広報部の部室を訪ねたボクは、花金鳳花部長が、いつものように、ノートPCに向き合っている姿に安心し、注意深く声をかける。
「鳳花部長……ちょっと、相談したいことがあるんですけど、少しお時間をいただけませんか?」
彼女と話すとき(特に二人きりのとき)は、ついつい、いつもよりも丁寧な口調になってしまう。
恐る恐る……というほどではないにしても、慎重に切り出したボクのようすを見つつ、部長は口元をゆるめ、苦笑しながらたずね返してきた。
「どうしたの、黄瀬くん? そんなにあらたまって……」
「はい……実は、竜司のことで……」
そこまでを口にすると、ボクがすべてを語る前に、少しだけ眉を動かした鳳花部長は、作業を行っていたノートPCをパタリと閉じて、やや真剣な面持ちで語りかけてきた。
「そう……貴方もやっぱり、黒田くんのことが気になっていたのね」
「はい……あのオープン・スクールでの独断専行からの告白失敗は、竜司の自業自得だと思いますけど……その前の春休みに、動画を撮影して拡散してしまったことは、ボクに責任の一端があると思うので……」
友人に対して口に出さなかったことを伝えると、部長は、小刻みに首をタテに振って、ボクの言葉を受け止めた、という合図を示すと、こんな言葉を返してきた。
「たしかに、デジタル・タトゥーとして残ってしまいかねない友人の動画をネット上に拡散してしまったことは、誉められたことではないわね……ただ、その動画は自動的に消えてしまうコンテンツだし、貴方の行為をあらためることが出来るとすれば、これから、どう行動するかに掛かっているんじゃないかしら?」
自分自身でも同じことを考えていたのだけど、ぐうの音も出ない正論に、ただうなずくしかない。
すると、ボクの反応に感じるところがあったのか、鳳花部長は、穏やかな笑みを浮かべて、優しく語る。
「まあ、そうして反省する気持ちがあるなら良いと思うわ。それに、いまの状況が好転するかどうかは、黒田くん自身の気持ちが大きく関わっているし……私たちに出来ることがあるのかわからないけれど、少し考えてみましょう」
「あ、ありがとうございます!」
最敬礼の体勢でボクが、お礼の言葉を述べると、部長は、
「あらあら……黄瀬くん。貴方にしては、大げさね……」
と言って、クスクスと笑う。そして、ふたたびノートPCを開き、
「黒田くんは、他人の役に立つことで、自己肯定感を得るタイプだからね……自分の行動のせいで、紅野さんをはじめ、周りの人たちに迷惑を掛けてしまったことについて、自分を責めているんだと思うわ。――――――それなら、今度は、彼自身に誰からの役に立っていると実感してもらうことで、自分自身で立ち直ってもらうしかない」
そんなことを独り言のようにつぶやきながら、端末の操作を始めた。
鳳花部長が、具体的にナニをしているのか、詳しく追及することはやめておこう……と考えつつ、彼女の言葉に賛同するように、ボクはふたたび、首を縦に振る。
「黄瀬くん、貴方と黒田くんは、谷崎先生のクラスだったわね?」
キーボードのタイピング操作を終えると、部長は、唐突にそんなことを聞いてきた。
「はい、一年の時と同じく、ボクらのクラスの担任は谷崎先生です」
「あと、黒田くんは、今年もクラス委員を務めているのよね?」
「そうですね。吹奏楽部の紅野さんと一緒にクラス委員をしてます。もっとも、竜司本人は、やる気じゃなくて、半分くらい白草さんにハメられたようなモノなんですけど……」
そう、思い返せば、竜司が今年もクラス委員の仕事をすることになったのは、転入生の白草さんが、
「わたしは転入して来たばかりで、学校やクラスのことでわからないことが多いので、出来れば、新学期のクラス委員は、去年からの仕事に慣れているヒトになってもらって、その上で、わからないことを色々と教えてもらえたら嬉しいな、って考えています」
と、担任のユリちゃん先生に提案したことが原因だった。
「そう……それなら、黒田くんに相応しい仕事があるわ。ここは、彼に一肌脱いでもらいましょう」
ボクの回想をよそに、鳳花部長は、一人で納得するようにつぶやいている。
部長が、ナニを考えているかはわからないけど、ここは、彼女のアイデアに期待することにしよう。
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