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第三部
エピローグ〜大決戦の後始末〜後編
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罰ゲーム……もとい、鼻うがいの実演の収録が終わったあと、監督役やギャラリーのみんな、そして、部長をはじめとする広報部の女子部員にも帰宅してもらい、ボクは竜司とふたりで撮影の後片付けをする。
「ちょっと、ふたりで話したいことがあるので、あとの片付けは、ボクらでやっておきます」
鳳花部長にそう告げると、
「あら、悪いわね。それじゃ、あとは、あなたたちに任せるわ」
と、我が部の代表者には、特に気にされるふうでもなく了承をしてもらえたんだけど、佐倉さんが、ニヤニヤした顔つきで、
「男同士、密室、あと片付け。何も起きないはずがなく……」
なんてボソリとつぶやくと、天竹さんをはじめとする文芸部のみんなが、一斉にプッと吹き出すのがわかった。
「ちょっと、ナニを想像してるんだよ、そこの女子!」
ボクが、ツッコミを入れると、文芸部だけでなく、室内に居たメンバー全員が笑い声をあげた。
「きぃセンパイと、くろセンパイの仲の良さに、みんな嫉妬してるんですよ」
そう言って笑いながら、佐倉さんたち女子メンバーは化学室をあとにする。
下級生の一言に、複雑な表情を見せていた白草さんのことは少しだけ気になったけど、ともあれ、ようやく、ふたりで話す時間ができたことに安堵しながら、ボクは竜司に声をかける。
「おつかれ、竜司。今回も、色々と大変だったね」
「まあ、今回、壮馬たちに勝てなかったのは、バドミントン部をケアできなかったオレの作戦ミスもあるし、モモカにも苦労をさせてしまったからな……」
「それに、あの状況で、白草さんたちに罰ゲームを背負わせるわけにもいかない、と……?」
「だな……今回の企画は広報部の立案だし、部外者に罰ゲームを負わせるってのは、ちょっとな……」
こちらの問いかけに、親友は苦笑しながら応えた。
たしかに、竜司の言うことはもっともだ。
今回の企画について、ボクのモチベーションになったのは、天竹さんや紅野さんに罰ゲームをさせるわけにはいかない、ということだったし、傲岸不遜な発言の多い白草さんと言えども、広報部の部外者であり、しかも女子である彼女に、鼻うがいの実演という屈辱的行為を強いるのは、やっぱり、気の毒ではある。
そこで、もしも、ボクが竜司と同じグループで罰ゲームをすることになっていたら……と考える。
仮に、そういう状況になっていたら、男同士ふたりで鼻うがいを披露していたかも知れない。
それはそれで、竜司とふたりで動画サイトの《竜馬ちゃんねる》を立ち上げたときのような雰囲気で、案外、楽しかったかも――――――。
そんな風に感じさせる人間性というか、人望みたいなものが、竜司にはあった。
と、どうでも良いことを考えていると、今度は相手の方から問いかけてきた。
「で、わざわざ、オレを後片付けに残した理由はなんなんだ? 女子には聞かせられない話か? もし、ウマ娘のカレンチャンの新衣装に関する考察とか性癖に刺さる話題なら、夜になってからLANEで……」
「そんな訳ないだろ!? ちょっと、今回のイベントについて振り返ってみたいと思っただけだよ」
広報部としての振り返りは、前日、(竜司のおごりで)佐倉さんと宮野さんを誘って、ファミレスで行った懇親会で語ったばかりだけど、下級生の女子ふたりが居る場では話せなかったことについて、友人に話しておこうとボクは考えていた。
「ん、そうか? そう言えば……壮馬とふたりで話すのは、久々な気がするな」
「だろう? 鳳花部長の講評は聞くことができたけど、お互いの作品の感想を話せていないと思ってさ……」
確認するようにつぶやく親友の言葉に、ボクはうなずきながら、返答する。
中学生の頃から、部活動の活動の区切りごとに、竜司とふたりで感想戦を行うことが、ボクたちの習慣になっていたのだ。
「オレから言えるのは……そうだな~。やっぱり、映像の編集技術は、壮馬には勝てないってことだな……ただ、それより今回は、取材したクラブの熱量を動画で表現されたことが敗因だった気がする。『さぁ、青春を取りもどそう!』だっけ? いつもの壮馬らしくないと言うか……あんなメッセージ、良く思いついたな」
「あのフレーズは、文芸部の石沢さんのアイデアなんだよ。映像のキャッチコピーを作るための手法を鳳花部長に教えてもらって実践した成果だよ」
「ほ~ん、そうだったのか……あんなに熱いメッセージを考えるとか、壮馬が熱血キャラにキャラ変したのか、と思ったんだけどな」
苦笑いをこらえるように語る竜司に、少しムッとしながら、「なんだよ……」と返答すると、友人は、続けて語る。
「まぁ、それは置いておいても、壮馬は、今回の動画コンテストで、かなりイメージが変わったと思うんだけどな。この間も言ったけど、クラブ訪問では、交渉役もこなしていただろう? オレからすれば、とてつもない成長を遂げた気がするぞ」
「それは……必要にかられて、ってヤツだよ……竜司も部長もいなけりゃ、ボクが、相手と対話をするしかないだろう?」
「そっか、なるほどな……もしかして、それが、部長の狙いだったんじゃね~か?」
「えっ!? 鳳花部長の狙いって、どういうこと?」
「いや、オレだけじゃなく、部長も、壮馬に対外交渉ができるスキルを身に着けて欲しいと思ってたハズだ。確信はないが、部長は、今回の動画コンテストを通じて、壮馬だけじゃなく、オレたちの成長をうながそうとしてたんじゃないか、と思ってな……」
竜司にそう言われると、ボク自身も思い当たる節がないわけでななかった。
鳳花部長の講評を聞いていると、それぞれのグループが持っている良さと課題が、あらためて、認識できた気がしたからだ。
ボクが、考え込んでいると、親友は続けて問いかけてきた。
「壮馬は、オレたちの作品をどう思った? 自分の中では、かなり良いアイデアだと思ってたんだけどな……」
「そうだね……正直、最初に連絡会で、竜司たちのアイデアを聞いたときは、勝てる気がしなかったよ。佐倉さんのスキルにピッタリの内容だったし、竜司たちは、取材しているクラブの数も多かったからね。美術部とコンピュータークラブの件では、コミュニケーション能力の違いを見せつけれたと思ってたよ」
自虐的な笑みを浮かべながら、ボクがそう言うと、竜司も苦笑しつつ感想を述べた。
「企画段階とそこまでは良かったんだけどな~。人数不足を言い訳にするのは厳禁だろうが、もっと、各クラブのケアをしなくちゃいけなかったな、とあらためて感じてるところだ」
親友の言葉にうなずきながら、それも、鳳花部長が、竜司だけでなく、ボクらに気づかせようとしたことなのかも知れない、と考える。
「そういうことも含めて、佐倉さんと宮野さんと一緒に、広報部の活動を盛り上げて行かないとね! ところで、部長から話しがあった次の企画をボクなりに考えているんだけど……実は、白草さんにも協力してもらいたくてさ……」
三週間後に始まる夏休みに向けて、ボクは、これまで温めていた企画を実行するべく、親友に相談を持ちかけることにした。
「ちょっと、ふたりで話したいことがあるので、あとの片付けは、ボクらでやっておきます」
鳳花部長にそう告げると、
「あら、悪いわね。それじゃ、あとは、あなたたちに任せるわ」
と、我が部の代表者には、特に気にされるふうでもなく了承をしてもらえたんだけど、佐倉さんが、ニヤニヤした顔つきで、
「男同士、密室、あと片付け。何も起きないはずがなく……」
なんてボソリとつぶやくと、天竹さんをはじめとする文芸部のみんなが、一斉にプッと吹き出すのがわかった。
「ちょっと、ナニを想像してるんだよ、そこの女子!」
ボクが、ツッコミを入れると、文芸部だけでなく、室内に居たメンバー全員が笑い声をあげた。
「きぃセンパイと、くろセンパイの仲の良さに、みんな嫉妬してるんですよ」
そう言って笑いながら、佐倉さんたち女子メンバーは化学室をあとにする。
下級生の一言に、複雑な表情を見せていた白草さんのことは少しだけ気になったけど、ともあれ、ようやく、ふたりで話す時間ができたことに安堵しながら、ボクは竜司に声をかける。
「おつかれ、竜司。今回も、色々と大変だったね」
「まあ、今回、壮馬たちに勝てなかったのは、バドミントン部をケアできなかったオレの作戦ミスもあるし、モモカにも苦労をさせてしまったからな……」
「それに、あの状況で、白草さんたちに罰ゲームを背負わせるわけにもいかない、と……?」
「だな……今回の企画は広報部の立案だし、部外者に罰ゲームを負わせるってのは、ちょっとな……」
こちらの問いかけに、親友は苦笑しながら応えた。
たしかに、竜司の言うことはもっともだ。
今回の企画について、ボクのモチベーションになったのは、天竹さんや紅野さんに罰ゲームをさせるわけにはいかない、ということだったし、傲岸不遜な発言の多い白草さんと言えども、広報部の部外者であり、しかも女子である彼女に、鼻うがいの実演という屈辱的行為を強いるのは、やっぱり、気の毒ではある。
そこで、もしも、ボクが竜司と同じグループで罰ゲームをすることになっていたら……と考える。
仮に、そういう状況になっていたら、男同士ふたりで鼻うがいを披露していたかも知れない。
それはそれで、竜司とふたりで動画サイトの《竜馬ちゃんねる》を立ち上げたときのような雰囲気で、案外、楽しかったかも――――――。
そんな風に感じさせる人間性というか、人望みたいなものが、竜司にはあった。
と、どうでも良いことを考えていると、今度は相手の方から問いかけてきた。
「で、わざわざ、オレを後片付けに残した理由はなんなんだ? 女子には聞かせられない話か? もし、ウマ娘のカレンチャンの新衣装に関する考察とか性癖に刺さる話題なら、夜になってからLANEで……」
「そんな訳ないだろ!? ちょっと、今回のイベントについて振り返ってみたいと思っただけだよ」
広報部としての振り返りは、前日、(竜司のおごりで)佐倉さんと宮野さんを誘って、ファミレスで行った懇親会で語ったばかりだけど、下級生の女子ふたりが居る場では話せなかったことについて、友人に話しておこうとボクは考えていた。
「ん、そうか? そう言えば……壮馬とふたりで話すのは、久々な気がするな」
「だろう? 鳳花部長の講評は聞くことができたけど、お互いの作品の感想を話せていないと思ってさ……」
確認するようにつぶやく親友の言葉に、ボクはうなずきながら、返答する。
中学生の頃から、部活動の活動の区切りごとに、竜司とふたりで感想戦を行うことが、ボクたちの習慣になっていたのだ。
「オレから言えるのは……そうだな~。やっぱり、映像の編集技術は、壮馬には勝てないってことだな……ただ、それより今回は、取材したクラブの熱量を動画で表現されたことが敗因だった気がする。『さぁ、青春を取りもどそう!』だっけ? いつもの壮馬らしくないと言うか……あんなメッセージ、良く思いついたな」
「あのフレーズは、文芸部の石沢さんのアイデアなんだよ。映像のキャッチコピーを作るための手法を鳳花部長に教えてもらって実践した成果だよ」
「ほ~ん、そうだったのか……あんなに熱いメッセージを考えるとか、壮馬が熱血キャラにキャラ変したのか、と思ったんだけどな」
苦笑いをこらえるように語る竜司に、少しムッとしながら、「なんだよ……」と返答すると、友人は、続けて語る。
「まぁ、それは置いておいても、壮馬は、今回の動画コンテストで、かなりイメージが変わったと思うんだけどな。この間も言ったけど、クラブ訪問では、交渉役もこなしていただろう? オレからすれば、とてつもない成長を遂げた気がするぞ」
「それは……必要にかられて、ってヤツだよ……竜司も部長もいなけりゃ、ボクが、相手と対話をするしかないだろう?」
「そっか、なるほどな……もしかして、それが、部長の狙いだったんじゃね~か?」
「えっ!? 鳳花部長の狙いって、どういうこと?」
「いや、オレだけじゃなく、部長も、壮馬に対外交渉ができるスキルを身に着けて欲しいと思ってたハズだ。確信はないが、部長は、今回の動画コンテストを通じて、壮馬だけじゃなく、オレたちの成長をうながそうとしてたんじゃないか、と思ってな……」
竜司にそう言われると、ボク自身も思い当たる節がないわけでななかった。
鳳花部長の講評を聞いていると、それぞれのグループが持っている良さと課題が、あらためて、認識できた気がしたからだ。
ボクが、考え込んでいると、親友は続けて問いかけてきた。
「壮馬は、オレたちの作品をどう思った? 自分の中では、かなり良いアイデアだと思ってたんだけどな……」
「そうだね……正直、最初に連絡会で、竜司たちのアイデアを聞いたときは、勝てる気がしなかったよ。佐倉さんのスキルにピッタリの内容だったし、竜司たちは、取材しているクラブの数も多かったからね。美術部とコンピュータークラブの件では、コミュニケーション能力の違いを見せつけれたと思ってたよ」
自虐的な笑みを浮かべながら、ボクがそう言うと、竜司も苦笑しつつ感想を述べた。
「企画段階とそこまでは良かったんだけどな~。人数不足を言い訳にするのは厳禁だろうが、もっと、各クラブのケアをしなくちゃいけなかったな、とあらためて感じてるところだ」
親友の言葉にうなずきながら、それも、鳳花部長が、竜司だけでなく、ボクらに気づかせようとしたことなのかも知れない、と考える。
「そういうことも含めて、佐倉さんと宮野さんと一緒に、広報部の活動を盛り上げて行かないとね! ところで、部長から話しがあった次の企画をボクなりに考えているんだけど……実は、白草さんにも協力してもらいたくてさ……」
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