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第二部
第3章〜カワイくてゴメン〜⑧
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週末までには、どうしても、体育のときに絡んできた三人と話しをつけておきたい、と考えたワタシは、昼休みに隣の四組を訪れ、放課後に話しがしたいということを伝えて、約束を取り付けておいた。
この日、自分に身に降りかかったことは、放送部のセンパイたちに知られるわけにはいかなかった。
こんなことで、放送番組の出演が取りやめになるのはゴメンだったし、同情を買いたくなかった。
そして、なにより、放送部に迷惑がかかるようなことだけは、絶対に避けたい――――――。
頭のなかでは、その想いだけが、グルグルと回ったまま、ワタシは放課後を迎えていた。
放課後になって、四組の三人と合流すると、ワタシは、話し合いの場所として人目につかない駐車場を選び、彼女たちをその場所に誘った。
「私たちに、何の用なの?」
「これから、部活に行かないとなんだけど?」
「話しがあるなら、早くしてくれない?」
駐車場に着くなり、口々に不満を表す言葉を吐く三人に対して、ワタシは、感情を押し殺しながら、
「ワタシに悪いところがあったら謝るし、なんでもするから、どうか放送部には、このことを言わないでほしい……」
と、口にする。
しかし、こちらの要望を述べた言葉は、逆に彼女たちの感情を刺激してしまったのか、
「はぁ? ナニ言ってんの?」
「あんた、自分がナニしたかわかってる?」
と、さらに、非難の言葉が浴びせられた。
そして、二人が言い終わったあと、最後の一人はニヤニヤしながら、自分にとって、絶望的なセリフを口にした。
「ずいぶん、放送部のこと気にしてるみたいだけどさ~。あんたのこと、放送部のボックスに意見して入れといたから」
「!」
彼女の言葉を耳にした瞬間、思わず身体がこわばるのを感じた。
「なに? このコ、マジでビビってない? ウケるんだけど」
「謝るって言うけど、何について謝るの? 自分が谷口くんにしたこと、わかってんの?」
「そうそう! 謝るなら、ここで、土下座してみろよ!」
自分が彼女たちにそうした行為を行う必要などないことは、少し考えればわかるはずなのだが、『放送部』のことを口にされたとたん、冷静でいることはできず、ワタシは、駐車場となっている砂地の地面に膝をつき、頭を下げる。
さらに、額を地面に近づけると、
「ちょっと可愛いからって、調子にのってんじゃねぇよ!」
と、一人が声をあげて、足を前に蹴り出すと、
ザッ――――――
という音とともに、砂が頭に掛かってくるのが感じられた。
そのとき、
「おいおい、なにがあったんだ? こんな場所で、おだやかじゃね~な」
という声がした。
※
一人の女生徒が、地面にひざまずくような姿勢を取ったことを確認すると同時に、オレはそれまでの疲れも忘れて、再び駆け出していた。
予想どおり、膝をついた姿勢の女子が、佐倉であることを認識するのに、さほど時間は掛からなかった。
その彼女の頭部に砂が掛かるのを目にして、
クソッ――――――
と、内心で悪態をつきながらも、努めて冷静に四人の女子たちに声をかける。
「おいおい、なにがあったんだ? こんな場所で、おだやかじゃね~な。ウチの一年の部員が、なにかしちゃったか?」
こちらの声に気づいた三人の女子は、一斉にオレの方に視線を向けて、
「ハァ……!? 誰ですか、あなた?」
と、口にする。
その苛立ったような言葉づかいの影響で逆に平静さを取り戻すことができたので、頼りになる我が部長のアドバイスのとおりに語らせてもらう。
「オレは、放送部二年の黒田だ。今朝、放送部のリクエストボックスに校内からの貴重なご意見が届いていてな……自分たちの放送をより良くするため、投書してくれた生徒に詳しい話しを聞かせてもらおうと、こうして放課後の校内を回ってたんだ」
そう口にして、ボックスに投函されていた紙切れを取り出した途端、彼女たちの顔色が、サッと変わったのがわかった。
手応えを感じたオレは、さらに言葉を続ける。
「あと、ウチら放送部の部長は、生徒会長も兼ねてるんだけど……山中の生徒会は、生徒指導の先生と一緒に『いじめ防止』にチカラを入れててな……たとえば、道徳の教科書に落書きなんかされてたら、すぐに先生を通じて、書いた人間に弁償してもらうことになってんだ。あっ、ゴメンな! 関係ない一年にこんな話ししてしまって」
オレが言い終わると、三人の顔は、いよいよ青ざめていった。
そして、言葉を発することができない彼女たちに向けて、
「引き止めてしまって、スマンな……ウチの後輩が迷惑をかけて申し訳なかった。部活の始まる時間だし、用が済んだなら、佐倉を連れて行っても良いか?」
そう言い放つと、三人は、こちらが、この場を離れようとする前に、
「私たちも、クラブに行かなくちゃなんで……」
「これで、失礼します」
「佐倉さんも、それじゃね……」
と言って、足早に駐車場から去っていった。
この日、自分に身に降りかかったことは、放送部のセンパイたちに知られるわけにはいかなかった。
こんなことで、放送番組の出演が取りやめになるのはゴメンだったし、同情を買いたくなかった。
そして、なにより、放送部に迷惑がかかるようなことだけは、絶対に避けたい――――――。
頭のなかでは、その想いだけが、グルグルと回ったまま、ワタシは放課後を迎えていた。
放課後になって、四組の三人と合流すると、ワタシは、話し合いの場所として人目につかない駐車場を選び、彼女たちをその場所に誘った。
「私たちに、何の用なの?」
「これから、部活に行かないとなんだけど?」
「話しがあるなら、早くしてくれない?」
駐車場に着くなり、口々に不満を表す言葉を吐く三人に対して、ワタシは、感情を押し殺しながら、
「ワタシに悪いところがあったら謝るし、なんでもするから、どうか放送部には、このことを言わないでほしい……」
と、口にする。
しかし、こちらの要望を述べた言葉は、逆に彼女たちの感情を刺激してしまったのか、
「はぁ? ナニ言ってんの?」
「あんた、自分がナニしたかわかってる?」
と、さらに、非難の言葉が浴びせられた。
そして、二人が言い終わったあと、最後の一人はニヤニヤしながら、自分にとって、絶望的なセリフを口にした。
「ずいぶん、放送部のこと気にしてるみたいだけどさ~。あんたのこと、放送部のボックスに意見して入れといたから」
「!」
彼女の言葉を耳にした瞬間、思わず身体がこわばるのを感じた。
「なに? このコ、マジでビビってない? ウケるんだけど」
「謝るって言うけど、何について謝るの? 自分が谷口くんにしたこと、わかってんの?」
「そうそう! 謝るなら、ここで、土下座してみろよ!」
自分が彼女たちにそうした行為を行う必要などないことは、少し考えればわかるはずなのだが、『放送部』のことを口にされたとたん、冷静でいることはできず、ワタシは、駐車場となっている砂地の地面に膝をつき、頭を下げる。
さらに、額を地面に近づけると、
「ちょっと可愛いからって、調子にのってんじゃねぇよ!」
と、一人が声をあげて、足を前に蹴り出すと、
ザッ――――――
という音とともに、砂が頭に掛かってくるのが感じられた。
そのとき、
「おいおい、なにがあったんだ? こんな場所で、おだやかじゃね~な」
という声がした。
※
一人の女生徒が、地面にひざまずくような姿勢を取ったことを確認すると同時に、オレはそれまでの疲れも忘れて、再び駆け出していた。
予想どおり、膝をついた姿勢の女子が、佐倉であることを認識するのに、さほど時間は掛からなかった。
その彼女の頭部に砂が掛かるのを目にして、
クソッ――――――
と、内心で悪態をつきながらも、努めて冷静に四人の女子たちに声をかける。
「おいおい、なにがあったんだ? こんな場所で、おだやかじゃね~な。ウチの一年の部員が、なにかしちゃったか?」
こちらの声に気づいた三人の女子は、一斉にオレの方に視線を向けて、
「ハァ……!? 誰ですか、あなた?」
と、口にする。
その苛立ったような言葉づかいの影響で逆に平静さを取り戻すことができたので、頼りになる我が部長のアドバイスのとおりに語らせてもらう。
「オレは、放送部二年の黒田だ。今朝、放送部のリクエストボックスに校内からの貴重なご意見が届いていてな……自分たちの放送をより良くするため、投書してくれた生徒に詳しい話しを聞かせてもらおうと、こうして放課後の校内を回ってたんだ」
そう口にして、ボックスに投函されていた紙切れを取り出した途端、彼女たちの顔色が、サッと変わったのがわかった。
手応えを感じたオレは、さらに言葉を続ける。
「あと、ウチら放送部の部長は、生徒会長も兼ねてるんだけど……山中の生徒会は、生徒指導の先生と一緒に『いじめ防止』にチカラを入れててな……たとえば、道徳の教科書に落書きなんかされてたら、すぐに先生を通じて、書いた人間に弁償してもらうことになってんだ。あっ、ゴメンな! 関係ない一年にこんな話ししてしまって」
オレが言い終わると、三人の顔は、いよいよ青ざめていった。
そして、言葉を発することができない彼女たちに向けて、
「引き止めてしまって、スマンな……ウチの後輩が迷惑をかけて申し訳なかった。部活の始まる時間だし、用が済んだなら、佐倉を連れて行っても良いか?」
そう言い放つと、三人は、こちらが、この場を離れようとする前に、
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