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回想③〜白草四葉の場合その2〜肆
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伯父夫婦の家に帰宅し、入浴と夕食を済ませたわたしは、この日も自室として使わせてもらっている部屋の電気を消して、布団にくるまり、スマホを触りながら、午後の出来事を思い返していた。
この日は、クロと初めて出会った金曜日以上に、色々なことが起こったような気がする。
・クロと登山道のような坂道を登って、ハルヒたちの母校に巡礼したこと
・聖地巡礼のあと、祝川沿いのベンチで、二人でジェラートを食べたこと
・クロに誘われて、彼の自宅にお邪魔し、一緒にカラオケを楽しんだこと
・クロの家で、お母さんと出会い、お菓子と紅茶をごちそうになったこと
そのどれもが、自分にとって重要な出来事で、とても、この日が、濃密な一日だったことが実感できる。
なかでも、次の三つのことが、頭の中をグルグルと駆け巡る。
・クロの家でのカラオケの最中に、彼から熱い視線を向けられたこと
・司サンに、「期間限定でお付き合いしてみない?」と言われたこと
・帰り道、彼から「シロと二人で話しがしたかった」と言われたこと
特に、自分の歌を披露し、クロから視線を向けられた時に感じた高揚感と言っても良い不思議な感覚は、頭の中から離れることがなかった。
それは、女優の仕事をする母、舞台演出の仕事をする父と違い、人前に出ること、注目を浴びることが苦手だったわたしが、他人から視線を浴びることに心地よさを感じた、はじめての瞬間でもあった。
女優・小原真紅の一人娘であるということで、小さな頃から、そのことを知る周囲のヒトたちには、
「かわいらしいね」
「お母さんにソックリ」
という言葉をかけられることが、とても多かった。
けれど、それは、母の美貌を賞賛しているのであって、どうしても自分自身に向けられたモノとして、感じることはできなかった。
母のことは尊敬しているし、わたしにとって、幼い頃から大切な存在であることは間違いないが――――――。
自分自身の性格や容姿に対して、自信を持つことができなかったこの頃のわたしにとって、自分の容姿を母と比べられることは、苦痛でしかなかった。
豊かで長い黒髪が印象的な母と違い、小学校低学年の頃から、男の子のように髪を短くカットしてもらっていたのには、そんな理由もあった。
こうしたことから、ボーカル教室の練習に進んで通うくらい、歌を歌うこと自体は好きであっても、それを人前で披露するようなことは、できるだけ避けていたのだけど――――――。
クロは、そんなわたしの歌う姿を食い入るように見つめ、賞賛してくれた。
それは、小原真紅の娘としてではなく、わたし自身が努力し、練習を重ねて得た、歌声と白草四葉の姿そのものに、魅力を感じてくれた、ということではないか――――――。
そして、防音設備が施されたクロの家のカラオケ専用ルームで感じたことを、もう一度思い出す。
母親が『ローマの休日』のヘプバーンを見て女優の仕事を目指そうとした理由、さらに、わたし自身がシェリル・ノームに憧れる気持ちを持った理由が、心の底から理解できたこと。
さらに、それは、人前に出ることが苦手だったわたしが、他人から注目を浴びること、その視線を釘付けにすることに対して『悦び』を感じることができた、はじめての瞬間だった、ということを――――――。
そのことを考えると、身体の芯が暖かくなり、中から不思議なチカラが湧き上がって来る気がした。
また、クロのお母さんである司サンが、知り合ったばかりであるにも関わらず、勝手にお宅にお邪魔していた自分を歓待してくれたことも、わたしの心を暖かくしてくれた。
そうして、そのあと、黒田家のリビングで、(冗談めかした口調だったけど)司サンから、
「良ければ期間限定でお付き合いしてみない?」
と提案されたこと、帰り道に、クロから
「シロと二人で話しがしたかった」
と言われたことを思い出すと、さらに体温は上昇し、顔にも火照りを感じて、わたしは、
「ヒャ~~~~~~」
と、声にならない声をあげて、ベッドにうつ伏せになり、布団を頭から被った。
さほど大きな声は出していないハズだから、他の部屋に居る伯父夫婦の迷惑にはならなかったとは思うが、思わず発してしまった嬌声を反省し、わたしは、掛け布団に埋まりながら、息を整える。
出会ってから、まだ四日目、実際に会ったのは、たった二日でしかないにも関わらず、黒田竜司という少年は、わたしのなかで、確実に大きな存在となっていた。
そして、冷静になるよう、被っていた布団を払い除けて深呼吸をすると、ようやく、思考が落ち着きを取り戻す。
(そう言えば、ジェラートを食べてる時、クロにSNSの使い分けについて、アドバイスをもらったんだっけ?)
彼は、聖地巡礼的な内容と、食べ物やファッションに関する内容は、使い分けて別々のサービスに投稿する方が良い、と言っていた。
そこで、一日前の《トゥイッター》に続き、《ミンスタグラム》のアカウントを開設しようと考えたわたしは、またも、アカウントの登録名について、頭をひねる。
(《トゥイッター》と同じアカウント名でも良いけど……他にナニか、良いアカウント名はないかなぁ……)
そう考えた時、夕方、わたしを伯父夫婦宅まで送ってくれた時に、クロが話してくれた映画のタイトルを思い出した。
(たしか、『クローバー・フィールド』って言ってたっけ?)
クローバーと言えば、幸運を示す四葉の植物。
すぐに、スマホで、クローバー=シロツメクサの花言葉を調べると、「私を思って」「約束」などの単語が見つかった。
それは、その時の自分の気持ちにピッタリのモノのように感じられた。
「クローバーフィールド……」
もう一度、その単語を口に出し、語感の良さも気に入ったわたしは、英単語のスペルを調べて、コピーする。
そして、《ミンスタグラム》の初期登録画面を表示させ、
clover_field
のアカウント名で新しいSNSの登録を行った。
この日は、クロと初めて出会った金曜日以上に、色々なことが起こったような気がする。
・クロと登山道のような坂道を登って、ハルヒたちの母校に巡礼したこと
・聖地巡礼のあと、祝川沿いのベンチで、二人でジェラートを食べたこと
・クロに誘われて、彼の自宅にお邪魔し、一緒にカラオケを楽しんだこと
・クロの家で、お母さんと出会い、お菓子と紅茶をごちそうになったこと
そのどれもが、自分にとって重要な出来事で、とても、この日が、濃密な一日だったことが実感できる。
なかでも、次の三つのことが、頭の中をグルグルと駆け巡る。
・クロの家でのカラオケの最中に、彼から熱い視線を向けられたこと
・司サンに、「期間限定でお付き合いしてみない?」と言われたこと
・帰り道、彼から「シロと二人で話しがしたかった」と言われたこと
特に、自分の歌を披露し、クロから視線を向けられた時に感じた高揚感と言っても良い不思議な感覚は、頭の中から離れることがなかった。
それは、女優の仕事をする母、舞台演出の仕事をする父と違い、人前に出ること、注目を浴びることが苦手だったわたしが、他人から視線を浴びることに心地よさを感じた、はじめての瞬間でもあった。
女優・小原真紅の一人娘であるということで、小さな頃から、そのことを知る周囲のヒトたちには、
「かわいらしいね」
「お母さんにソックリ」
という言葉をかけられることが、とても多かった。
けれど、それは、母の美貌を賞賛しているのであって、どうしても自分自身に向けられたモノとして、感じることはできなかった。
母のことは尊敬しているし、わたしにとって、幼い頃から大切な存在であることは間違いないが――――――。
自分自身の性格や容姿に対して、自信を持つことができなかったこの頃のわたしにとって、自分の容姿を母と比べられることは、苦痛でしかなかった。
豊かで長い黒髪が印象的な母と違い、小学校低学年の頃から、男の子のように髪を短くカットしてもらっていたのには、そんな理由もあった。
こうしたことから、ボーカル教室の練習に進んで通うくらい、歌を歌うこと自体は好きであっても、それを人前で披露するようなことは、できるだけ避けていたのだけど――――――。
クロは、そんなわたしの歌う姿を食い入るように見つめ、賞賛してくれた。
それは、小原真紅の娘としてではなく、わたし自身が努力し、練習を重ねて得た、歌声と白草四葉の姿そのものに、魅力を感じてくれた、ということではないか――――――。
そして、防音設備が施されたクロの家のカラオケ専用ルームで感じたことを、もう一度思い出す。
母親が『ローマの休日』のヘプバーンを見て女優の仕事を目指そうとした理由、さらに、わたし自身がシェリル・ノームに憧れる気持ちを持った理由が、心の底から理解できたこと。
さらに、それは、人前に出ることが苦手だったわたしが、他人から注目を浴びること、その視線を釘付けにすることに対して『悦び』を感じることができた、はじめての瞬間だった、ということを――――――。
そのことを考えると、身体の芯が暖かくなり、中から不思議なチカラが湧き上がって来る気がした。
また、クロのお母さんである司サンが、知り合ったばかりであるにも関わらず、勝手にお宅にお邪魔していた自分を歓待してくれたことも、わたしの心を暖かくしてくれた。
そうして、そのあと、黒田家のリビングで、(冗談めかした口調だったけど)司サンから、
「良ければ期間限定でお付き合いしてみない?」
と提案されたこと、帰り道に、クロから
「シロと二人で話しがしたかった」
と言われたことを思い出すと、さらに体温は上昇し、顔にも火照りを感じて、わたしは、
「ヒャ~~~~~~」
と、声にならない声をあげて、ベッドにうつ伏せになり、布団を頭から被った。
さほど大きな声は出していないハズだから、他の部屋に居る伯父夫婦の迷惑にはならなかったとは思うが、思わず発してしまった嬌声を反省し、わたしは、掛け布団に埋まりながら、息を整える。
出会ってから、まだ四日目、実際に会ったのは、たった二日でしかないにも関わらず、黒田竜司という少年は、わたしのなかで、確実に大きな存在となっていた。
そして、冷静になるよう、被っていた布団を払い除けて深呼吸をすると、ようやく、思考が落ち着きを取り戻す。
(そう言えば、ジェラートを食べてる時、クロにSNSの使い分けについて、アドバイスをもらったんだっけ?)
彼は、聖地巡礼的な内容と、食べ物やファッションに関する内容は、使い分けて別々のサービスに投稿する方が良い、と言っていた。
そこで、一日前の《トゥイッター》に続き、《ミンスタグラム》のアカウントを開設しようと考えたわたしは、またも、アカウントの登録名について、頭をひねる。
(《トゥイッター》と同じアカウント名でも良いけど……他にナニか、良いアカウント名はないかなぁ……)
そう考えた時、夕方、わたしを伯父夫婦宅まで送ってくれた時に、クロが話してくれた映画のタイトルを思い出した。
(たしか、『クローバー・フィールド』って言ってたっけ?)
クローバーと言えば、幸運を示す四葉の植物。
すぐに、スマホで、クローバー=シロツメクサの花言葉を調べると、「私を思って」「約束」などの単語が見つかった。
それは、その時の自分の気持ちにピッタリのモノのように感じられた。
「クローバーフィールド……」
もう一度、その単語を口に出し、語感の良さも気に入ったわたしは、英単語のスペルを調べて、コピーする。
そして、《ミンスタグラム》の初期登録画面を表示させ、
clover_field
のアカウント名で新しいSNSの登録を行った。
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