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回想③〜白草四葉の場合その2〜壱
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クロとの雑談中、カラオケ用の機材と防音設備が整っている洋室のドアが開かれて、
「誰か、お友だちが来てるの~?」
という声に、わたしが振り向くと、すぐ隣では、
「げっ!? 母ちゃん! なんで…………? 帰りは、まだ先だったんじゃ……」
と、驚いたクロが、すぐに声を上げて反応した。
「ちょっと、竜司! 『げっ!?』とは、ナニ? せっかく、予定を二日も早く切り上げて帰って来たのに!」
クロが、「母ちゃん!」と呼んだ女性は、室内に入ってきて息子の言葉を注意したあと、コチラに目を向け、軽い笑みを浮かべながら口にする。
「あら、新しいお友だち? いらっしゃい」
そして、少しだけ間をおいて、
「こんなこと聞いてゴメンね。あなた、女の子なの?」
と、わたしにたずねてきた。
突然の質問に、緊張していたわたしは、首を二回タテに振りつつ、立ち上がって、頭を下げる。
「は、はい! あの……勝手にお邪魔して、すみません」
焦りながら答えるわたしのようすが可笑しかったのか、お母さんは、再び笑顔を見せて、あごの辺りに手をあてながら、一人で納得したようにうなずき、目を細める。
「あぁ、そんなに、かしこまらなくてイイから! このコが、女の子をウチに連れて来るなんて、初めてだからね! いや――――――でも、そっか……竜司も四月から、五年生だもんね……もう、そういう年齢か~」
「な、なんだよ……」
母親の視線に、何か意図を感じたのか、クロが口を尖らせて応じると、
「いやいや、これは母親としても、ちゃんとお出迎えしないといけない! と思ってね。ゴメンね……えーっと、お名前はなんだっけ?」
「し、……」
白草四葉です! と、わたしが答えようとすると、隣から大きな声で、
「シロだよ……!」
クロの方が先に答えてしまった。
「そっか、シロちゃん、って言うの!」
クロのお母さんは、わたしの名前を確認したあと、
「じゃあ、出張中に買いこんだお菓子と帰りに買って来たパンをリビングに置いてあるから、一緒に食べましょ! 竜司、カラオケを片付けたら、シロちゃんと降りておいで!」
と、息子に言い残して、洋室を出て行った。
彼女が去ったあと、クロは、ポツリとつぶやいた。
「あ~、ビックリした! 今日、帰って来るなんて思わなかったからさ……」
「ゴメンナサイ……お母さんが帰って来る日にお邪魔しちゃって……」
謝るわたしに、
「いや、オレがシロを誘ったんだしな……気にすんな!」
と、フォローを入れてくれる。
プレイステーションの電源を落として、大型テレビの電源もオフにしたクロとわたしは、部屋を出て、洗面所で手を洗い、お母さんの待っているリビングに向かった。
ダイニングキッチンと一体になっている広いリビングには、明るい照明と日本ではあまりみられないようなオシャレな家具が揃っている。
部屋の内装やテーブルに見入っているわたしに、クロのお母さんは、
「この部屋の家具やカーテンは、ウチの仕事で扱っている商品ばかりなの! 良かったら、シロちゃんのお母さんやお父さんにも教えてあげて」
と、快活に笑いながら話しかけてきた。
その言葉に、家庭の事情で、伯父夫婦の家に居候状態であるわたしは、
「は、はい……」
と、曖昧な笑みで応じるしかない。
さらに、彼女からの矢継ぎ早の質問が続く。
「竜司とは、同じクラスだったの? このコ、学校では、どんなようす?」
「あ、あの……」
自分の置かれた立場や、クロとは同じ小学校に通っていないことなどを説明しようとするも、上手く言葉が出てこない。
すると、リビングの隣にあるダイニングテーブルのチェアを引いて、わたしに座ることをうながしてくれたクロが、
「シロは、別の学校に通ってるんだよ」
と、代わりに答えてくれた。
「あら、そうなんだ? じゃあ、二人は、どこで知り合ったの?」
テーブルに着いたわたしたち二人を眺めながら、紅茶を注ぎつつ、お母さんは、質問を重ねる。
他人からすると当然のこの疑問には、わたし自身が、答えることができた。
「先週の金曜日に、わたしが、池のところでスマホを落としちゃって……その時、竜司クンが、柵を乗り越えて、わたしのスマホを拾いに行ってくれたんです」
「へぇ~。このコが……竜司、アンタもなかなかヤルじゃない? ナンパとしては、ちょっと古典的な方法だけど」
わたしの答えに、黒田家の母が、ニコニコと笑いながら応じると、クロが、大声を張り上げて反論する。
「ナ……!? バカ!? そんなんじゃね~よ!」
「アハハ……冗談だって! ――――――で、シロちゃんは、竜司のどんなトコロを気に入ってくれているの? 母親としては、ちゃんと把握しておきたいんだけど……」
今度は、興味津々といった感じで、微笑みながら、わたしにむかってたずねてくる。
すると、クロは、ついに付き合いきれない、と思ったのか、
「トイレに行って来る!」
と言って、せっかく座ったばかりの席を立ち、リビングを出て行ってしまった。
「あ~、ちょっと調子に乗り過ぎたか……せっかく遊びに来てくれたのに、ゴメンね」
苦笑いをしながら言うクロのお母さんに、わたしが「アハハ……」と、愛想笑いを返すと、
「ところで、シロちゃん。あなたのお名前は、なんて言うの?」
と、問い掛けてきた。
「あっ、ハイ! 白草四葉って言います」
返事をしたあと、少し小声になって、自分の名前を答えると、「ハッ」とした表情になった彼女は、声のトーンを落として、テーブル越しに顔を寄せ、内緒の話しをするように、たずねてくる。
「突然こんなこと聞いてゴメンね。もしかして、シロちゃんのお母さんって、女優の小原真紅だったりする?」
その問いに、「はい……」と、小さく首をタテに振って応じると、彼女は、
「やっぱり……!」
と、目を丸く見開き、
「私、あなたのお母さんのファンなの! たしかに、目元が、お母さんソックリね。四葉ちゃん……」
と語った。
これまでも、母のファンと称するヒトにはたくさん会ってきたし、わたし自身の容姿についても、母の面影を感じる、という主旨の発言をするヒトが多かったことから、ニコリと笑顔を添えて、一言お礼を述べておく。
「ありがとうございます」
すると、目の前の彼女は、顔をほころばせてうなずいた後、何かを思い出したかのように、
「あっ、でも、シロちゃん……それで――――――」
と、つぶやき、表情を曇らせた。
「誰か、お友だちが来てるの~?」
という声に、わたしが振り向くと、すぐ隣では、
「げっ!? 母ちゃん! なんで…………? 帰りは、まだ先だったんじゃ……」
と、驚いたクロが、すぐに声を上げて反応した。
「ちょっと、竜司! 『げっ!?』とは、ナニ? せっかく、予定を二日も早く切り上げて帰って来たのに!」
クロが、「母ちゃん!」と呼んだ女性は、室内に入ってきて息子の言葉を注意したあと、コチラに目を向け、軽い笑みを浮かべながら口にする。
「あら、新しいお友だち? いらっしゃい」
そして、少しだけ間をおいて、
「こんなこと聞いてゴメンね。あなた、女の子なの?」
と、わたしにたずねてきた。
突然の質問に、緊張していたわたしは、首を二回タテに振りつつ、立ち上がって、頭を下げる。
「は、はい! あの……勝手にお邪魔して、すみません」
焦りながら答えるわたしのようすが可笑しかったのか、お母さんは、再び笑顔を見せて、あごの辺りに手をあてながら、一人で納得したようにうなずき、目を細める。
「あぁ、そんなに、かしこまらなくてイイから! このコが、女の子をウチに連れて来るなんて、初めてだからね! いや――――――でも、そっか……竜司も四月から、五年生だもんね……もう、そういう年齢か~」
「な、なんだよ……」
母親の視線に、何か意図を感じたのか、クロが口を尖らせて応じると、
「いやいや、これは母親としても、ちゃんとお出迎えしないといけない! と思ってね。ゴメンね……えーっと、お名前はなんだっけ?」
「し、……」
白草四葉です! と、わたしが答えようとすると、隣から大きな声で、
「シロだよ……!」
クロの方が先に答えてしまった。
「そっか、シロちゃん、って言うの!」
クロのお母さんは、わたしの名前を確認したあと、
「じゃあ、出張中に買いこんだお菓子と帰りに買って来たパンをリビングに置いてあるから、一緒に食べましょ! 竜司、カラオケを片付けたら、シロちゃんと降りておいで!」
と、息子に言い残して、洋室を出て行った。
彼女が去ったあと、クロは、ポツリとつぶやいた。
「あ~、ビックリした! 今日、帰って来るなんて思わなかったからさ……」
「ゴメンナサイ……お母さんが帰って来る日にお邪魔しちゃって……」
謝るわたしに、
「いや、オレがシロを誘ったんだしな……気にすんな!」
と、フォローを入れてくれる。
プレイステーションの電源を落として、大型テレビの電源もオフにしたクロとわたしは、部屋を出て、洗面所で手を洗い、お母さんの待っているリビングに向かった。
ダイニングキッチンと一体になっている広いリビングには、明るい照明と日本ではあまりみられないようなオシャレな家具が揃っている。
部屋の内装やテーブルに見入っているわたしに、クロのお母さんは、
「この部屋の家具やカーテンは、ウチの仕事で扱っている商品ばかりなの! 良かったら、シロちゃんのお母さんやお父さんにも教えてあげて」
と、快活に笑いながら話しかけてきた。
その言葉に、家庭の事情で、伯父夫婦の家に居候状態であるわたしは、
「は、はい……」
と、曖昧な笑みで応じるしかない。
さらに、彼女からの矢継ぎ早の質問が続く。
「竜司とは、同じクラスだったの? このコ、学校では、どんなようす?」
「あ、あの……」
自分の置かれた立場や、クロとは同じ小学校に通っていないことなどを説明しようとするも、上手く言葉が出てこない。
すると、リビングの隣にあるダイニングテーブルのチェアを引いて、わたしに座ることをうながしてくれたクロが、
「シロは、別の学校に通ってるんだよ」
と、代わりに答えてくれた。
「あら、そうなんだ? じゃあ、二人は、どこで知り合ったの?」
テーブルに着いたわたしたち二人を眺めながら、紅茶を注ぎつつ、お母さんは、質問を重ねる。
他人からすると当然のこの疑問には、わたし自身が、答えることができた。
「先週の金曜日に、わたしが、池のところでスマホを落としちゃって……その時、竜司クンが、柵を乗り越えて、わたしのスマホを拾いに行ってくれたんです」
「へぇ~。このコが……竜司、アンタもなかなかヤルじゃない? ナンパとしては、ちょっと古典的な方法だけど」
わたしの答えに、黒田家の母が、ニコニコと笑いながら応じると、クロが、大声を張り上げて反論する。
「ナ……!? バカ!? そんなんじゃね~よ!」
「アハハ……冗談だって! ――――――で、シロちゃんは、竜司のどんなトコロを気に入ってくれているの? 母親としては、ちゃんと把握しておきたいんだけど……」
今度は、興味津々といった感じで、微笑みながら、わたしにむかってたずねてくる。
すると、クロは、ついに付き合いきれない、と思ったのか、
「トイレに行って来る!」
と言って、せっかく座ったばかりの席を立ち、リビングを出て行ってしまった。
「あ~、ちょっと調子に乗り過ぎたか……せっかく遊びに来てくれたのに、ゴメンね」
苦笑いをしながら言うクロのお母さんに、わたしが「アハハ……」と、愛想笑いを返すと、
「ところで、シロちゃん。あなたのお名前は、なんて言うの?」
と、問い掛けてきた。
「あっ、ハイ! 白草四葉って言います」
返事をしたあと、少し小声になって、自分の名前を答えると、「ハッ」とした表情になった彼女は、声のトーンを落として、テーブル越しに顔を寄せ、内緒の話しをするように、たずねてくる。
「突然こんなこと聞いてゴメンね。もしかして、シロちゃんのお母さんって、女優の小原真紅だったりする?」
その問いに、「はい……」と、小さく首をタテに振って応じると、彼女は、
「やっぱり……!」
と、目を丸く見開き、
「私、あなたのお母さんのファンなの! たしかに、目元が、お母さんソックリね。四葉ちゃん……」
と語った。
これまでも、母のファンと称するヒトにはたくさん会ってきたし、わたし自身の容姿についても、母の面影を感じる、という主旨の発言をするヒトが多かったことから、ニコリと笑顔を添えて、一言お礼を述べておく。
「ありがとうございます」
すると、目の前の彼女は、顔をほころばせてうなずいた後、何かを思い出したかのように、
「あっ、でも、シロちゃん……それで――――――」
と、つぶやき、表情を曇らせた。
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