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第7章〜ライブがはねたら〜③
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そう言えば、クラブ紹介の仕事を鳳花部長や壮馬に任せきりにしていたオレは、広報部に所属しながら、ウチの部がどんな風に今年の紹介を行うのか、まったく知らなかった。
(あの部長と壮馬のことだから、またナニか企んでいるんだろうけど……)
半ば楽しみ、半ば不安を抱えながら、講堂の壇上に目を向ける。
舞台に上がった鳳花部長(彼女は、周囲の人間に名字ではなく、ファーストネームで呼ばれることを好む)は、泰然自若という言葉を体現するかのような振る舞いでマイクを持ち、おっとりとした口調で語り始めた。
「一年生の皆さん、こんにちは。広報部の代表を務めている花金鳳花です。学校の部活動として、広報部という名前は聞き慣れないヒトも多いと思いますが、それも、当然かも知れません」
相変わらず聞き取りやすく、落ち着いたその声には、生徒会役員も務めているためか、威厳すら感じられるほどだ。
「わたしたち広報部は、放送部・新聞部・映像研究会の文化系クラブ三つが統合し、一昨年、発足したばかりのこの学校で一番若いクラブになります。主な活動内容は、活字・映像などを使用した学校の広報活動および、文化祭、オープン・スクールなどでの企画全般です」
と、ここまでは、オレたちの良く知る鳳花部長らしい、ゆったりとした語り口調だった。
ところが、次の瞬間、なにかのスイッチが入ったように、普段めったに開くことのない、彼女を特徴づけている糸目をさらに細め、こう語った。
「――――――と言っても、ただ、広報活動や企画全般と言っても、新入生の皆さんには、理解しづらいと思うので……今日は、わたしたちの活動をわかりやすく伝えるために、こんな特別ゲストに来てもらいました~!」
それまでは、穏やかな口調で語っていた我らが代表が、そう言い放ち、左手をサッとかざすと、
ド~ン!!
と、大音響が鳴り響き、
「わたしの歌を聞け~~!!」
という絶叫とともに、近未来っぽい軍服風の衣装をまとった一人の女生徒が舞台に現れた。
ゆうに八十メートル近くの距離があるテラス席からでも、壇上にいる生徒が誰なのか、一目瞭然だ。
「おい、白草……!! ナニやってんだ…………!? それに、この曲は……」
思わず漏れる疑問をよそに、舞台の上の彼女は、歌姫然として、楽曲のイントロ部分が終わると、堂に入ったようすで歌唱を始めた。
それは、小学生の頃、CS放送のアニメ専門チャンネルで繰り返し見ていたSFアニメで、『銀河の妖精』と呼ばれる登場人物が歌う劇中歌だった。
「なぜ、『東リベ』でも『呪術』でもなくマクロスF……。女性ボーカルだからか? いや、それにしたって……」
他にも、十代向けの楽曲はたくさんあるだろうに――――――と感想を抱きつつも、彼女のパフォーマンスに釘付けになる。
白草四葉の歌唱力やステージ上でのパフォーマンスが際立っている、という理由もモチロンあるが――――――。
その姿は、オレにとって、見覚えのあるモノだったからだ――――――。
「シロ……白草四葉は、シロだったのか……」
つぶやくと同時に、スマホの通話アプリが着信を表示する。
この段階でスマホを鳴らす相手は一人しかいないので、発信先を確認するまでもなく、受話ボタンをタップして応答した。
「なんの用だ~、壮馬!」
「やぁ、竜司! おどろいた!?」
音声通話のみにしているので、表情は見えないが、おそらく通話相手の親友は、
「サプライズ大成功!」
という感じのドヤ顔をさらしていることだろう。
「言い出しっぺは、鳳花部長、白草、おまえ、の三人のうちの誰なんだ?」
答えを求めると、
「白草さんの申し出をボクが部長に伝えて、このプレゼン方法が認められたんだ~。彼女の歌唱力は、テレビ局のカラオケバトルでも確認済みだけど、ナマで聞くと、やっぱりスゴい迫力だね……」
壮馬は、アッサリと回答を提示し、ステージ上で躍動する彼女のパフォーマンスに対する感想を述べた。
親友の語った所感には、
「知ってるよ……」
と、だけ小声で答える。
当然だ……。
七年前、オレは彼女が初めて人前で歌を披露するのを観ていた人間の一人なのだから――――――。
(あの部長と壮馬のことだから、またナニか企んでいるんだろうけど……)
半ば楽しみ、半ば不安を抱えながら、講堂の壇上に目を向ける。
舞台に上がった鳳花部長(彼女は、周囲の人間に名字ではなく、ファーストネームで呼ばれることを好む)は、泰然自若という言葉を体現するかのような振る舞いでマイクを持ち、おっとりとした口調で語り始めた。
「一年生の皆さん、こんにちは。広報部の代表を務めている花金鳳花です。学校の部活動として、広報部という名前は聞き慣れないヒトも多いと思いますが、それも、当然かも知れません」
相変わらず聞き取りやすく、落ち着いたその声には、生徒会役員も務めているためか、威厳すら感じられるほどだ。
「わたしたち広報部は、放送部・新聞部・映像研究会の文化系クラブ三つが統合し、一昨年、発足したばかりのこの学校で一番若いクラブになります。主な活動内容は、活字・映像などを使用した学校の広報活動および、文化祭、オープン・スクールなどでの企画全般です」
と、ここまでは、オレたちの良く知る鳳花部長らしい、ゆったりとした語り口調だった。
ところが、次の瞬間、なにかのスイッチが入ったように、普段めったに開くことのない、彼女を特徴づけている糸目をさらに細め、こう語った。
「――――――と言っても、ただ、広報活動や企画全般と言っても、新入生の皆さんには、理解しづらいと思うので……今日は、わたしたちの活動をわかりやすく伝えるために、こんな特別ゲストに来てもらいました~!」
それまでは、穏やかな口調で語っていた我らが代表が、そう言い放ち、左手をサッとかざすと、
ド~ン!!
と、大音響が鳴り響き、
「わたしの歌を聞け~~!!」
という絶叫とともに、近未来っぽい軍服風の衣装をまとった一人の女生徒が舞台に現れた。
ゆうに八十メートル近くの距離があるテラス席からでも、壇上にいる生徒が誰なのか、一目瞭然だ。
「おい、白草……!! ナニやってんだ…………!? それに、この曲は……」
思わず漏れる疑問をよそに、舞台の上の彼女は、歌姫然として、楽曲のイントロ部分が終わると、堂に入ったようすで歌唱を始めた。
それは、小学生の頃、CS放送のアニメ専門チャンネルで繰り返し見ていたSFアニメで、『銀河の妖精』と呼ばれる登場人物が歌う劇中歌だった。
「なぜ、『東リベ』でも『呪術』でもなくマクロスF……。女性ボーカルだからか? いや、それにしたって……」
他にも、十代向けの楽曲はたくさんあるだろうに――――――と感想を抱きつつも、彼女のパフォーマンスに釘付けになる。
白草四葉の歌唱力やステージ上でのパフォーマンスが際立っている、という理由もモチロンあるが――――――。
その姿は、オレにとって、見覚えのあるモノだったからだ――――――。
「シロ……白草四葉は、シロだったのか……」
つぶやくと同時に、スマホの通話アプリが着信を表示する。
この段階でスマホを鳴らす相手は一人しかいないので、発信先を確認するまでもなく、受話ボタンをタップして応答した。
「なんの用だ~、壮馬!」
「やぁ、竜司! おどろいた!?」
音声通話のみにしているので、表情は見えないが、おそらく通話相手の親友は、
「サプライズ大成功!」
という感じのドヤ顔をさらしていることだろう。
「言い出しっぺは、鳳花部長、白草、おまえ、の三人のうちの誰なんだ?」
答えを求めると、
「白草さんの申し出をボクが部長に伝えて、このプレゼン方法が認められたんだ~。彼女の歌唱力は、テレビ局のカラオケバトルでも確認済みだけど、ナマで聞くと、やっぱりスゴい迫力だね……」
壮馬は、アッサリと回答を提示し、ステージ上で躍動する彼女のパフォーマンスに対する感想を述べた。
親友の語った所感には、
「知ってるよ……」
と、だけ小声で答える。
当然だ……。
七年前、オレは彼女が初めて人前で歌を披露するのを観ていた人間の一人なのだから――――――。
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