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第7章〜ライブがはねたら〜②
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野球部がトップバッターを務めたクラブ紹介は、運動部系の紹介が終わり、続いて文化会系のクラブ紹介に移っている。
文化会系クラブの先陣を切ったのは、オレたちと同じクラスの天竹葵が部長を務める文芸部だ。
彼女たちの部のプロモーション動画は、小説の執筆や読書会だけでなく、文芸部が『ビブリオバトル』と呼ばれる、本の書評合戦の大会に出場した時の映像なども交えながら、楽しげで、興味深いモノに仕上がっていた。
失礼ながら、地味な印象のあった文芸部の活動に対するイメージを覆すエンターテイメント性の高い映像に、
「なかなか、やるじゃね~か、壮馬……」
と、つぶやきを漏らしてしまう。
コチラの声が耳に入ったのか、白草四葉も、感嘆の声をあげていた。
「この映像、黄瀬クンが編集したの? スゴいじゃない!」
「最近、壮馬は天竹と良く話してるみたいだし、文芸部を贔屓したんじゃね~の? 他の部よりも、編集に気合いが入ってる感じだし……」
冗談めかして言うと、
「へ~、広報部は、仲の良いクラブを贔屓したりするんだ? じゃあ、黒田クンは、紅野サンの所属してる吹奏楽部を贔屓するの?」
目を細めながら、ジロリとコチラに視線を送る白草。
「いや、今のはただのジョークだ! それに、吹奏楽部の映像だって、ほとんど壮馬が編集したんだから、オレが関わった箇所は、ほとんどないゾ!?」
さっきも言ったように、実際には、吹奏楽部だけ映像の撮影や編集を直前まで行っていたわけだが、「不公平は許さない!!」といった気配を全身から漂わせる二年生見学者のオーラの前で、その件については口に出さない方が良いと判断し、穏当な内容の返答をしておく。
「ふ~ん、まぁ、イイけど……」
コチラの答えに納得したのかはわからないが、彼女から、それ以上の追及はなかったのだが……。
「じゃあ、そろそろ時間だから、行くね!」
と言って、白草四葉は、テラスの座席から立ち上がる。
「おい、最後まで観ていかないのか? 広報部は、クラブ紹介の大トリなんだが……」
そう言って、引き留めようとすると、澄ました表情で
「残念だけど、もうすぐ時間だし……それに、誰かサンが紅野サンのソロ演奏中の映像を見て、デレデレするのを見せつけられのもね……」
思い切りイヤミたらしいことを言い放って、彼女は去って行った。
「なんなんだよ……いきなり現れたかと思ったら、好き勝手なこと言って、立ち去りやがって……」
独り言のような愚痴が漏れるが、その言葉を耳にして、オレ自身のモヤモヤした感情に同情を寄せてくれる相手もいないので、気持ちを切り替えることにする。
文芸部の紹介が終わった後は、演劇部・茶道部・華道部・書道部などの紹介が続き、その次のコーラス部の部長と副部長の二人が舞台から降りると、いよいよ紅野たちの吹奏楽部の出番だ。
講堂に目を向けると、吹奏楽部の代表者が講堂の壇上に上がり、部活動の紹介が始まった。
「わたしたち、吹奏楽部は、二年生と三年生合計三十名で活動しています。今日は、このクラブ紹介のために撮影したわたしたちの演奏するようすを見てもらいたいと思います。曲目は、映画『ニュー・シネマ・パラダイス』より、メインテーマ。それでは、お聞きください」
クラブ紹介本番の前日まで、クオリティにこだわり抜いた自分たちの演奏に自信があるのか、活動と曲目の紹介をいたってシンプルに行った部長さんの言葉に続き、舞台上のスクリーンには、最終下校時刻まで粘って、壮馬とオレが編集に付き合った映像が流れ始める。
遠景からの固定カメラ三台と、壮馬が担当した手持ちカメラの合計四台を駆使して編集された映像は、顧問の先生の指揮で演奏が始まると、すぐに、サックスを担当する紅野アザミのソロ・パートになった。
演奏に合わせ、彼女をクローズアップするカメラは壮馬が担当していたが、撮影を行った音楽室でも、放送室での編集中も、そして、講堂で大勢の下級生の前で映像を流している、この時点でも……。なぜか、紅野のパートを確認する度に、緊張している自分に気付く。
(演奏本番にも、編集にも立ち会って、彼女が無事に演奏し終えたってわかってんのにな……)
そんなことを考えつつ、息苦しさを覚える自分自身に苦笑しながら、大スクリーンの映像を眺めていると、サックスのソロ・パートが終了し、観客席に座る一年生からは、ささやかながらも拍手が聞こえた。
その光景を目撃し、
「良かったな紅野……クラブ紹介の演奏は、新入生にシッカリと受け入れられたみたいだぞ!」
クラス委員でパートナーを務める彼女に会ったら、そんな風に伝えてやりたいと考える。
五分ほどの演奏時間が、あっという間に終了すると、今度は、階下からより大きな拍手が聞こえてきた。今年の新入生は、なかなかにノリの良い連中が揃っているようだ。
再び壇上に立つ三年生がマイクを持ち、部活動の紹介をはじめた。
「わたしたちの演奏、いかがだったでしょうか? 演奏の冒頭でサックスのソロを務めていた紅野さんは、まだ二年生ながら、堂々とパートを務めてくれました。このように、わたしたち吹奏楽部では、練習熱心で実力さえあれば、学年に関係なく、重要なパートを担当してもらうことができます」
吹奏楽部の早見部長は、落ち着いた口調で、自分たちの活動のPRを行っている。
「楽器の演奏に自信がある人も、今日の演奏でブラスバンドに興味を持って楽器に触れてみたいと感じた人も、ぜひ、吹奏楽部の活動拠点である放課後の音楽室に遊びに来てください! 以上で、吹奏楽部のクラブ紹介を終わります」
なるほど――――――。
紅野は、このクラブ紹介で、吹奏楽部の実力主義をアピールするために、ソロ・パートを任された、という側面もあったのか、とあらためて気付かされる。
そのプレッシャーに負けず、見事に演奏をしきった彼女に、さっき考えていたことは別に、何か伝えたいな――――――。
そんな風に考えを巡らせていると、いつの間にか、クラブ紹介の大トリを務める我らが広報部代表・花金鳳花部長が壇上に上がっていた。
文化会系クラブの先陣を切ったのは、オレたちと同じクラスの天竹葵が部長を務める文芸部だ。
彼女たちの部のプロモーション動画は、小説の執筆や読書会だけでなく、文芸部が『ビブリオバトル』と呼ばれる、本の書評合戦の大会に出場した時の映像なども交えながら、楽しげで、興味深いモノに仕上がっていた。
失礼ながら、地味な印象のあった文芸部の活動に対するイメージを覆すエンターテイメント性の高い映像に、
「なかなか、やるじゃね~か、壮馬……」
と、つぶやきを漏らしてしまう。
コチラの声が耳に入ったのか、白草四葉も、感嘆の声をあげていた。
「この映像、黄瀬クンが編集したの? スゴいじゃない!」
「最近、壮馬は天竹と良く話してるみたいだし、文芸部を贔屓したんじゃね~の? 他の部よりも、編集に気合いが入ってる感じだし……」
冗談めかして言うと、
「へ~、広報部は、仲の良いクラブを贔屓したりするんだ? じゃあ、黒田クンは、紅野サンの所属してる吹奏楽部を贔屓するの?」
目を細めながら、ジロリとコチラに視線を送る白草。
「いや、今のはただのジョークだ! それに、吹奏楽部の映像だって、ほとんど壮馬が編集したんだから、オレが関わった箇所は、ほとんどないゾ!?」
さっきも言ったように、実際には、吹奏楽部だけ映像の撮影や編集を直前まで行っていたわけだが、「不公平は許さない!!」といった気配を全身から漂わせる二年生見学者のオーラの前で、その件については口に出さない方が良いと判断し、穏当な内容の返答をしておく。
「ふ~ん、まぁ、イイけど……」
コチラの答えに納得したのかはわからないが、彼女から、それ以上の追及はなかったのだが……。
「じゃあ、そろそろ時間だから、行くね!」
と言って、白草四葉は、テラスの座席から立ち上がる。
「おい、最後まで観ていかないのか? 広報部は、クラブ紹介の大トリなんだが……」
そう言って、引き留めようとすると、澄ました表情で
「残念だけど、もうすぐ時間だし……それに、誰かサンが紅野サンのソロ演奏中の映像を見て、デレデレするのを見せつけられのもね……」
思い切りイヤミたらしいことを言い放って、彼女は去って行った。
「なんなんだよ……いきなり現れたかと思ったら、好き勝手なこと言って、立ち去りやがって……」
独り言のような愚痴が漏れるが、その言葉を耳にして、オレ自身のモヤモヤした感情に同情を寄せてくれる相手もいないので、気持ちを切り替えることにする。
文芸部の紹介が終わった後は、演劇部・茶道部・華道部・書道部などの紹介が続き、その次のコーラス部の部長と副部長の二人が舞台から降りると、いよいよ紅野たちの吹奏楽部の出番だ。
講堂に目を向けると、吹奏楽部の代表者が講堂の壇上に上がり、部活動の紹介が始まった。
「わたしたち、吹奏楽部は、二年生と三年生合計三十名で活動しています。今日は、このクラブ紹介のために撮影したわたしたちの演奏するようすを見てもらいたいと思います。曲目は、映画『ニュー・シネマ・パラダイス』より、メインテーマ。それでは、お聞きください」
クラブ紹介本番の前日まで、クオリティにこだわり抜いた自分たちの演奏に自信があるのか、活動と曲目の紹介をいたってシンプルに行った部長さんの言葉に続き、舞台上のスクリーンには、最終下校時刻まで粘って、壮馬とオレが編集に付き合った映像が流れ始める。
遠景からの固定カメラ三台と、壮馬が担当した手持ちカメラの合計四台を駆使して編集された映像は、顧問の先生の指揮で演奏が始まると、すぐに、サックスを担当する紅野アザミのソロ・パートになった。
演奏に合わせ、彼女をクローズアップするカメラは壮馬が担当していたが、撮影を行った音楽室でも、放送室での編集中も、そして、講堂で大勢の下級生の前で映像を流している、この時点でも……。なぜか、紅野のパートを確認する度に、緊張している自分に気付く。
(演奏本番にも、編集にも立ち会って、彼女が無事に演奏し終えたってわかってんのにな……)
そんなことを考えつつ、息苦しさを覚える自分自身に苦笑しながら、大スクリーンの映像を眺めていると、サックスのソロ・パートが終了し、観客席に座る一年生からは、ささやかながらも拍手が聞こえた。
その光景を目撃し、
「良かったな紅野……クラブ紹介の演奏は、新入生にシッカリと受け入れられたみたいだぞ!」
クラス委員でパートナーを務める彼女に会ったら、そんな風に伝えてやりたいと考える。
五分ほどの演奏時間が、あっという間に終了すると、今度は、階下からより大きな拍手が聞こえてきた。今年の新入生は、なかなかにノリの良い連中が揃っているようだ。
再び壇上に立つ三年生がマイクを持ち、部活動の紹介をはじめた。
「わたしたちの演奏、いかがだったでしょうか? 演奏の冒頭でサックスのソロを務めていた紅野さんは、まだ二年生ながら、堂々とパートを務めてくれました。このように、わたしたち吹奏楽部では、練習熱心で実力さえあれば、学年に関係なく、重要なパートを担当してもらうことができます」
吹奏楽部の早見部長は、落ち着いた口調で、自分たちの活動のPRを行っている。
「楽器の演奏に自信がある人も、今日の演奏でブラスバンドに興味を持って楽器に触れてみたいと感じた人も、ぜひ、吹奏楽部の活動拠点である放課後の音楽室に遊びに来てください! 以上で、吹奏楽部のクラブ紹介を終わります」
なるほど――――――。
紅野は、このクラブ紹介で、吹奏楽部の実力主義をアピールするために、ソロ・パートを任された、という側面もあったのか、とあらためて気付かされる。
そのプレッシャーに負けず、見事に演奏をしきった彼女に、さっき考えていたことは別に、何か伝えたいな――――――。
そんな風に考えを巡らせていると、いつの間にか、クラブ紹介の大トリを務める我らが広報部代表・花金鳳花部長が壇上に上がっていた。
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