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温かな一杯を
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ゆっくりと目が覚めて、篠原はそっと目を開けた。時計は確かに朝を示しているのに部屋の中はまだ暗い。ベッドの中は二人分の体温がこもってひどく温かかった。弛緩した体にいつまでも力が入らない。指の先まで微熱を持って、無造作にシーツに投げ出されていた。
中野は気持ち良さそうな寝息を立てていた。穏やかな寝顔をしばし眺める。体が蕩けたように心地いい。ずっとここにいたいが、篠原はなんとか布団をずらすとベッドから足を下ろした。暑いほど火照った体には冷たい床が気持ちいい。ん、と微かな声がして篠原はベッドに腰掛けた体勢のまま振り返った。
中野が眠たそうな目を少しだけ開いて篠原を見ている。眠りを妨げられたからか、不機嫌そうに唇が曲げられていた。幼子がぐずって泣き出しそうな表情に似ていて、篠原はくすりと笑う。優しく額に口付けてやると中野はふにゃりと顔つきを緩めて目を閉じた。
篠原はまだ暗い室内をペタペタと裸足で歩いていく。キッチンに入り、鍋に牛乳を注いで火にかけた。灰色の室内で青い炎が存在感を持つ。寒い朝に似つかわしく、静かで澄んだ色だった。くるくると掻き回しながら湯気が立ち昇るのを眺める。白い筋が鈍色の部屋に溶けていく。ほのかに甘い香りが漂ってきた。篠原はホットミルクをふたつのマグに注いで寝室に戻った。体はもう冷えてしまっていて、マグの温かさが嬉しい。ベッドでは中野が夢と現の境を彷徨っていて、近づけば緩慢な瞬きをした。篠原を捉え、へにゃりと笑う。
「ん、おはよ」
篠原は答えてサイドテーブルにふたつのマグを置いた。篠原が足先を入れると冷たさに中野は眉を顰める。だいぶ目が覚めたのか、もぞもぞと体を起こして篠原の体を抱き締めた。そのまま体重がかけられて篠原は後ろについた手で体を支える。寝起きの体温がじわじわと染みてきて心地よかった。
「体冷たいね」
呟いて、中野は体を離す。布団を引き上げて腹まで覆ってくれた。触れ合った足の温度があまりに違っている。二人ともベッドで上半身を起こして並び、下半身は布団の中で温まっていた。篠原が中野にマグを渡してやる。両手でマグを持ち、熱を堪能する。甘い乳の香りに体の力が抜けていくのを感じた。ホットミルクは神聖な白さをもってマグに収まっている。
篠原は口をつけると、一口胃に収めた。温かさが体の内側に落ちる。ほわっと熱が広がって冷えていた頬に赤みが戻った。ほうっとため息をつき、とろりとした瞳をする。続けて数口飲み込んでいく。中野は表面に息を吹きかけて軽く冷まし、口をつけた。こくん、と喉を鳴らすと寝起きの体に優しい味が染み渡っていく。
「んまい」
力の抜けた声で呟いて、中野は幾度かに分けてゆっくりと飲んでいく。思考がぼんやりとしてしまう。急激に眠気を覚え、二人はとろとろとしたまま飲み続けた。柔らかい香りが鼻から抜ける。優しい甘さが口に残る。マグは空になり、二人ともそれを置くともぞもぞと布団に潜り込んだ。やっと仕事を終えたとでもいうように、抗い難い眠気に体を任せる。
ベッドの中で自然と寄り添う。体温が上がっていて、感覚さえなくなりそうなほど布団の中は心地よく温かい。向かい合った二人はすっかり眠たげな顔つきをしている。気持ち良さに身を委ね、力を抜いた体はもう指先も動かない。気づけばいつの間にか瞼が落ちていた。そうなればどうすることもできず、眠りへと再び落ちていく。どろどろに溶かされるような眠りは気持ち良くてたまらない。甘い香りに慣れた匂いと気配が混じり、心も安心しきっている。
まだ目覚めない街はごく静かで、日の光さえ二人の朝寝を邪魔しなかった。すう、と寝息が聞こえてくる。冷たい部屋の一角でぬくぬくと熱に包まって、体の求めるままに眠りを貪っている。深い眠りは朝日が差しても続く。
中野は気持ち良さそうな寝息を立てていた。穏やかな寝顔をしばし眺める。体が蕩けたように心地いい。ずっとここにいたいが、篠原はなんとか布団をずらすとベッドから足を下ろした。暑いほど火照った体には冷たい床が気持ちいい。ん、と微かな声がして篠原はベッドに腰掛けた体勢のまま振り返った。
中野が眠たそうな目を少しだけ開いて篠原を見ている。眠りを妨げられたからか、不機嫌そうに唇が曲げられていた。幼子がぐずって泣き出しそうな表情に似ていて、篠原はくすりと笑う。優しく額に口付けてやると中野はふにゃりと顔つきを緩めて目を閉じた。
篠原はまだ暗い室内をペタペタと裸足で歩いていく。キッチンに入り、鍋に牛乳を注いで火にかけた。灰色の室内で青い炎が存在感を持つ。寒い朝に似つかわしく、静かで澄んだ色だった。くるくると掻き回しながら湯気が立ち昇るのを眺める。白い筋が鈍色の部屋に溶けていく。ほのかに甘い香りが漂ってきた。篠原はホットミルクをふたつのマグに注いで寝室に戻った。体はもう冷えてしまっていて、マグの温かさが嬉しい。ベッドでは中野が夢と現の境を彷徨っていて、近づけば緩慢な瞬きをした。篠原を捉え、へにゃりと笑う。
「ん、おはよ」
篠原は答えてサイドテーブルにふたつのマグを置いた。篠原が足先を入れると冷たさに中野は眉を顰める。だいぶ目が覚めたのか、もぞもぞと体を起こして篠原の体を抱き締めた。そのまま体重がかけられて篠原は後ろについた手で体を支える。寝起きの体温がじわじわと染みてきて心地よかった。
「体冷たいね」
呟いて、中野は体を離す。布団を引き上げて腹まで覆ってくれた。触れ合った足の温度があまりに違っている。二人ともベッドで上半身を起こして並び、下半身は布団の中で温まっていた。篠原が中野にマグを渡してやる。両手でマグを持ち、熱を堪能する。甘い乳の香りに体の力が抜けていくのを感じた。ホットミルクは神聖な白さをもってマグに収まっている。
篠原は口をつけると、一口胃に収めた。温かさが体の内側に落ちる。ほわっと熱が広がって冷えていた頬に赤みが戻った。ほうっとため息をつき、とろりとした瞳をする。続けて数口飲み込んでいく。中野は表面に息を吹きかけて軽く冷まし、口をつけた。こくん、と喉を鳴らすと寝起きの体に優しい味が染み渡っていく。
「んまい」
力の抜けた声で呟いて、中野は幾度かに分けてゆっくりと飲んでいく。思考がぼんやりとしてしまう。急激に眠気を覚え、二人はとろとろとしたまま飲み続けた。柔らかい香りが鼻から抜ける。優しい甘さが口に残る。マグは空になり、二人ともそれを置くともぞもぞと布団に潜り込んだ。やっと仕事を終えたとでもいうように、抗い難い眠気に体を任せる。
ベッドの中で自然と寄り添う。体温が上がっていて、感覚さえなくなりそうなほど布団の中は心地よく温かい。向かい合った二人はすっかり眠たげな顔つきをしている。気持ち良さに身を委ね、力を抜いた体はもう指先も動かない。気づけばいつの間にか瞼が落ちていた。そうなればどうすることもできず、眠りへと再び落ちていく。どろどろに溶かされるような眠りは気持ち良くてたまらない。甘い香りに慣れた匂いと気配が混じり、心も安心しきっている。
まだ目覚めない街はごく静かで、日の光さえ二人の朝寝を邪魔しなかった。すう、と寝息が聞こえてくる。冷たい部屋の一角でぬくぬくと熱に包まって、体の求めるままに眠りを貪っている。深い眠りは朝日が差しても続く。
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