我儘王女は目下逃亡中につき

春賀 天(はるか てん)

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第二章 三年前

嫌いな『女』

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【10】


それから私が部屋に閉じこもること数日。 勿論、私の機嫌はすこぶる悪かった。

部屋には母以外は誰も入室を許さず、父が何度も私のご機嫌を伺いに来るも、顔も出さず口も利かずに一切無視した。


クラウスも何度か部屋に訪れたが、彼の口からアリシアの話など絶対に聞きたくはないので父同様に無視をした。

父はそんな私のご機嫌を何とか取るために私の好きなモノや食べ物など あらゆるモノを寄越してしたが、それすらも例外なく拒否した。


母からの話で、どうやらクラウスの結婚話は白紙になり、アリシアはというと 私の家庭教師の任を解かれ城には一切、出入り禁止になったのだという。

これでクラウスが結婚することは無くなったというのに、私の心は まだ黒いモヤが渦巻いて晴れない。やはりアリシアという存在自体が気に入らなかったのだ。


自分とは何もかもが違うアリシア。

世間から性格の悪い我儘王女と言われている自分とは違い、彼女は老若男女関係なく誰にでも親切で優しく、しかも努力家で頭も賢くて立ち振る舞いも上品な理想的なご令嬢で、性格の良いその内面が顔にも出ているのだろう。

彼女の笑顔はいつも明るく優しげで、顔には少しそばかすは見受けられるものの、強めのウェーブのかかった金髪と薄い空色の瞳の愛らしい容姿で誰もが彼女を綺麗だと言う。


そんな誰からも愛されるアリシアとは違い、私は我が国周辺諸国では数少ない真っ黒な黒髪に真っ黒な瞳で、その容姿の色からいってもたとえて言うならアリシアが『善』なら真っ黒な私は『悪』だろう。


だからと言って私は別に金髪に憧れているわけではなく、寧ろ数少ない自分の黒い色は私の自慢するところだ。

しかもどう見ても私の方が母譲りの美貌で絶世の美女と称されている容姿を持っているというのに、アリシアを見ていると性格はともかく、 

容姿では自分の方が女として遥かに優れているはずなのに、彼女に対しては いつも劣等感を覚えてならない。

しかも私よりも、ずっと長くクラウスの傍にいて、私の知らない彼を色々と知っている彼女は誰からも信頼されていて、私が見る限りでは、あの気難しいクラウスが優しく接している貴族令嬢は彼女しか見たことがない。

だから物心ついた時から何となくアリシアが気に入らなかったが、クラウスの親友の妹で彼が昔から信頼を置いているプリンヴェル男爵家の人間なので今までずっと我慢をしてきた。


そんな彼女が私の家庭教師に抜擢された時も、私は自分の気持ちとは裏腹に敢えて了承した。

確かに彼女は他の令嬢達の家庭教師としての評判もよく賢いだけあって、その知識や立ち振舞いには貴族内でも定評があったので教わる分には何の問題もなくそれに関して拒絶する理由もない。

何よりも私が単に彼女が気に入らないという理由だけで、クラウスが最も信頼している家の人間を私が拒絶をして彼を落胆させるのは嫌だった。


それでもやはりアリシアが私の家庭教師になってからというもの彼女が城に出入りする事が多くなり、アリシアとクラウスの接触する機会が増えて、城内でよく二人が談笑している様子を見かけると何だか無性に腹が立って、

その度に 二人の間に入ってクラウスを父の所に連れていくったり、そんな彼女の授業をサボってみたり意地悪や嫌味も授業のさいにしたり言ったりしてやった。


そんな私の所業を当然、彼女はクラウスに告げ口をしているものだと思っていた私だったが、彼女はそんな私の所業を一切、クラウスにも母にさえも他の誰にも言ってはおらず、

それを見かねた侍女の口から母に伝わって怒られもしたが、そんな時にもアリシアは“自分の教え方が至らないせいだ”と言って私に意地悪をされていたにも関わらず逆に私を庇う始末だ。


しかも、そんなこんなで今度は興味を持ってもらえるような授業内容になる様、頑張るから”と悪意のまるで存在しない顔で微笑まれてしまうと、ますます自分の劣等感を刺されて何とも形容しがたい気分になる。


今まで自分が付き合ってきた貴族令嬢の中に、こんなお伽噺とぎばなしに出てくる善人の塊の主人公のような人物など居たためしがない。大抵は自分の損得勘定で付き合うのが貴族の間の理とも言える。 

なのでそんな私達の認識では常識外れの彼女が違和感極まりなく、貴族の男性達からは非常に評判の良かった彼女も、それとは逆に令嬢達の間では私と同様に彼女をよく思わない者が多数存在した。


だからそんな令嬢達からも嫌味を言われたり意地悪もされていただろうに、それでも彼女は笑顔を絶やさずその親切は崩れる事はない。

本当に、どうやったらそんな人間が育つのか逆に彼女の両親に問いたい。


そんなプリンヴェル男爵夫妻もその人柄や仕事ぶりなど、世間でも評判がよく、何でも教会と共同で孤児施設も運営しているとかで、市井の間でも慕われているという私達側から見ても大変珍しい貴族だ。

そして その子息でクラウスの親友でもあるレスターも、クラウス同様に王立中央学習院で教鞭を執っていて、その授業は生徒の間でも面白いと定評があり、男女共に大変人気のある教師なのだという。

そのレスターとも何度か面識はあったが、彼はクラウスとは子供の頃からの付き合いでクラウスと同い歳であり10代の頃には王立中央学習院で共に勉学を教わっていたらしい。

そんな彼は両親と同じく、茶色混じりの赤毛の髪と薄い茶色の瞳をしている。


彼は生徒から人気があるだけあって、その人柄は確かに気さくで話しやすく貴族であるのに上から目線の気取った感じもなく、それどころか庶民的であり、くだけた性格でまた大変行動力のある好青年だ。

しかも『超』がつくほどの妹思いであり、シスコンとも呼べるほどに妹のアリシアを大事にしていて、私のアリシアへの所業はまだ彼に知られてはいないのか今だ私には抗議をしに来た事はないが、

聞くところによると、他の貴族令嬢達がアリシアに意地悪をしているのを知ると、そんな妹を彼女達から庇うと同時に自分の両親に相談する間もなく、いち早く当事者の令嬢や その両親に抗議をしてしまうくらい大変な妹思いの兄上なのだそうだ。


だから今回アリシアが私の機嫌を損ねて家庭教師を解任され、しかも王城も出禁になった事を知れば彼女の兄はこの王女である私にも抗議をしてくるのだろうか?     

あの重度のシスコンの兄の事だ。 多分何かしら言ってくるかもしれないが、その時はきっとクラウスが止めるだろう。

私への抗議はそれは即ち父である国王への抗議となりうるのだから。



そんなこんなで私は一人で自分の中にある黒いモヤモヤを持て余しながら、何よりも今は大好きな父に裏切られた感が強くて、その抗議とばかりに徹底して反発していると、  

私への物でご機嫌を取る作戦も通用せずクラウスさえも受け入れない私に、父はどうやら次の作戦を思いついた様だ。


その日、私に昼食を運んできた母が私の様子を伺うように口を開いた。



「リルディア、まだ怒っているの? あれからもう14日はたつのよ? あの父親に関しては全く同情なんてしないけれど、あんたが父親を拒絶しているせいで国王の機嫌がここのところずっと悪くて、臣下はおろか城中の使用人達がその八つ当たりにあって気の毒な目に合っているのよ?     

クラウスの結婚話も無くなった事だし、アリシアも あんたからは遠ざけられたのだから、そろそろ機嫌を直して皆の平穏の為にも あの父親の機嫌を取ってくれると有り難いわ。

あんたは部屋に閉じこもっているから知らないでしょうけれど、今、城中が国王の機嫌がこれ以上悪くなるのかと、異様な緊張感が漂っているし、貴族達すら恐れて極力、城には近寄っては来ないのよ?    

あんたの気持ちはもう十分に伝わったことだし、あの父親も二度とあんたを無視して事を進めるようなことはしないわよ。 だから、いい加減、許してあげてもいいんじゃない?」



しかしそんな母の言葉に私は首を横に振る。



「駄目よ! まだ私の中の苛々はそう簡単には治まらないわ! だってお父様は私に隠し事をして裏切っていたのよ? とても許せないわよ!」


「でもそれを言うなら私も同じでしょ? 私もあんたには言えずに黙っていたことだし。 しかも最初はクラウスの結婚も容認していたのだもの。やっぱり私の事も許せない?」


「母様はいいのよ。 母様は許すわ。 元々母様は第三者的な考えのそういう人だし、クラウスの事を私に言えなかったというのも私の気持ちを考えての事だったのは分かるから。 それに母様は最終的には何があっても私側の人間でしょ? 

だけどお父様は違うわ! お父様は何があっても、最初から最後まで私の味方でなければならないの! 

お父様はいつも私と母様の事を一番だと仰るわ。 勿論、私だってお父様が一番大好きなのはずっと変わらない。

だからこそお父様は私の嫌がる事や隠し事なんて、絶対にしてはいけないのよ!

それなのに お父様は私を裏切って私の大嫌いなアリシアとクラウスを結婚させようとしたのよ? 

しかもそれを私に隠していたのよ? お父様はたとえ何があっても私の一番の味方だと信じていたのに酷い裏切り行為だわ! 

しかも更に信じられない事に、娘の私の前でアリシアを良い娘だと誉めたのよ!? 

お父様は私が一番なのだから母様は良いとしても私以外の女を誉めるなんて言語道断よっ!! 浮気者だわ!! 

私の怒りが治まらないのは全てお父様のせいよ!!  当然でしょ!?

それに他の皆も同罪よ! たとえお父様の命令であっても、私に隠していたのだから お父様の八つ当たりくらい甘んじて受けていればいいのよ! 

浮気者のお父様のご機嫌なんて私の知った事じゃないわっ!!」



思い出したかのように眉間にしわを寄せて苛々し不貞腐れながら ふいっと横を向く娘に、母は言葉には出さないが思わず天を仰ぎたくなった。


やはり この父親にして、この娘だ。元の本質が同じだけに対処のしようがない。

父親も娘に対して盲目的な執着を見せているが、そんな娘もまた父親に対しての盲目的な独占欲を見せている。

そしてどうやら娘のここ何日も機嫌が悪いのが続いているのは勿論、クラウスの結婚話の事もあるが、何より絶対的に信じていた父親に裏切られたという気持ちの方が原因のようだ。

だから、いくら娘のお気に入りであるクラウスが宥めに来たところで、その機嫌が直るわけがない。


あの父親は娘が嫁いでも手放すつもりはないとは言ってはいたが、そんな娘の方もこのままでいけばきっと嫁いだとしても直ぐに父親の元に戻って来るに違いない。

今の娘にとっての何よりの一番は父親その人だからだ。それもまだ子供だから仕方がないとは思うがこの先、大人になっても娘が父親にべったりで、いつまでも離れずに甘えていたらどうしよう? 

ーーと、娘の将来が不安にもなってくる。


ここはやはり娘には他にも目を向けて貰わなければ、と丁度良いタイミングを見計いながら当初の目的の話を切り出す事にする。



「それはそうと、リルディア? 今日はあんたに特別な お客様が来ているのよ?」


「え? お客様??」



突然、話が変わって私にお客様だと言う母に、そっぽを向いていた顔を思わず母の方に向ける。 すると母は意味深にニッコリと微笑んでいる。

 

「ふふっ、誰だと思う?」


「な、なによ? 母様、随分勿体ぶるわね? どうせまたお父様の差し金なんでしょう? 無駄よ。誰が来ようと私の機嫌は直らないんだから」



私は再び、ふんっ、と腕を組んで今度は体を後ろに向けた。 しかし母はまだ笑っているようだ。



「あら? 折角あんたの王子様が わざわざあんたに会いに来ているのに、そんなことを言っていいの?」



その言葉に私は後ろに向けていた体を戻すと首を傾げる。



「は? 王子様?」


「そうよ。あんたの婚約者のセルリアのユーリウス王太子様」



意外な人物名に思わず口がポカンと開いてしまう。



「ユーリウス王子とは数ヶ月ぶりかしらね? あんたが伏せっている事を聞いて、ご自身もお忙しい身でいらっしゃるのに、あんたを心配して わざわざお見舞いに来て下さったのよ? よかったわね」



ユ、ユーリウス王子!?

本当に!?



ユーリウス王子とは私が父に頼んで権力に ものを言わせて無理矢理婚約者にしたセルリアの王太子だ。

そんなユーリウス王子と婚約はしたものの、お互い他国者同士なので、そう頻繁に会う事はなく、私達が顔を会わせるのは年に数回の国の特別行事の時くらいだった。

しかもユーリウス王子は現在19歳で昨年から本格的に時期国王としての学術、武術、外交術など様々な勉学を始めているので、騎士達との領地の見回りや時には国王代理として他国への訪問などもあり、多忙な日々を過ごしていると聞く。

なので時折、時節柄に親書を挨拶がてら送ることはあるが、今年はそんな王子と顔を会わせたのは数ヶ月前の一度きりだった。

そんなこともあって私はと言うと現在はクラウスの事で頭が一杯だったこともあり、たまにしか会わない自分の婚約者の存在を薄情にもすっかり忘れてしまっていた。



ーーああ、そうだった。私には『婚約者』がいたのだった。



「よくないわよ。ユーリウス王子を呼んだのは、お父様の差し金なんでしょ? 

それでなくとも多忙な時期にある世継ぎの王太子が私のご機嫌伺いなんかで自身の貴重な時間を割く余裕なんて無いはずよ。 直ぐに自分の国に帰ってもらってよ。

本当にお父様ったらいくら何でも他国の人間にまで個人的な事で迷惑をかけないで欲しいわ。 これじゃますます私が我儘を言って、多忙な王子に対して都合も考えずに呼びつけたのだと周りから思われてしまうじゃない」



母はそれを聞いて、娘が“他国の人間にまで迷惑をかけるな”と言ってはいるが、

その王子を見初めて王子には その時既に婚約者がいたのに父親の権力を公然と使って王子を強引に自分の婚約者にした事はセルリアの国やその王子にとって迷惑この上ない事ではないのか?と思う。

それに昨年まではユーリウス王子、王子と騒いではしゃいでいたはずの娘が、今ではすっかり興味の薄れたような反応を見せている。


たった一年で、ここまで反応が変わるとは、やはり娘の流行り病の風邪のような憧れ熱が冷めてしまったのだろうか? 

しかも娘が今執着しているのは、よりにもよって娘の父親の異母弟で叔父にあたるクラウスである。

それも昨年までの娘がユーリウス王子に対して取っていた態度とは、少し反応が違うような感じもする。


ーー母としては勿論、娘の気持ちが一番大事なのではあるが、我が子の将来の平穏無事な幸せを考えると、

敢えて棘の道に突き進まずとも、確実に舗装された道であるユーリウス王子の方向に向かって欲しいと考えてはいるのだが、

そこはお互い他国に住まう者同士であり、二人の面会回数が少ないという事もあって娘の王子に対しての意識がどうしても希薄になってしまうのだろう。  

しかもあの父親の性分を受け継いでいるだけに、多感な年頃ということも相まって興味が薄れると心変わりも早いのかもしれない。


セルリア王家やユーリウス王子にはこちらの都合で度々振り回しておいて本当に申し訳ないとは思うのだが、

この分でいくと娘が16歳になる前に婚約解消になる可能性もある。それならば、なるべく早い段階で婚約を解消してあげた方が王子の為になる。

セルリア側からは婚約を解消する事は権力の立場上出来ないが、こちらから解消を申し出れば王子は晴れて自由の身になれるのだ。

なので今度、それとなく娘に提案してみようと思うのだが、今はそのユーリウス王子に娘のご機嫌を取ってもらうしかない。 何と言っても娘は現在、クラウスでさえも受け付けないのだ。

娘の父親からの突然の傍迷惑な助っ人の依頼にもユーリウス王子は快く快諾し、多忙な身であるのに、こうしてわざわざ娘に会いに来てくれている。

そんなユーリウス王子は他人に対しての気遣いなど、非常に礼儀正しい上に女性にも大変優しく親切で、話の聞き上手な穏やかで物腰の柔らかい男性だ。

しかも容姿端麗で銀色の髪と同じく薄い灰色の瞳をしていて、男性にしては珍しい まるで女性のような きめの細かい美しい白い肌など多分、女装をしても絶世の美女になる様な中性的な美しさがある。

なので世間からはセルリアの王太子が“この世で一番美しい王子”だと称されているらしい。



確かに世間からそう噂される通りユーリウス王子の麗しさは年を重ねるごとに成長して、それこそ世の女性達が想い焦がれてやまない憧れの存在でもあるのだが、

しかし我が娘には自分も“この世で一番美しい王女”と称されているだけに、外見の美しさには免疫があり、特に容姿に対しての特別視はしてはいない。

それにユーリウス王子とは直ぐに打ち解けたらしく、まだ指折りで数えられるくらいしか会ってはいないというのに、公の場以外ではまるで兄と妹のように大変仲も良いようだ。


そんな娘にとって兄のような存在でもある性格の温和なユーリウス王子ならば、きっと上手く娘の機嫌を取ってくれるに違いない。

他国の王子を利用する事には大いに気が引けるが、これも全てはこの国の平穏な日々を取り戻す為だ。  

ユーリウス王子の人柄の良さに感謝と共に敬服する。



「本当にそうよねーーでもね、リルディア? その多忙なユーリウス王子が ご自分の貴重な時間を割いてまで、あんたを心配してわざわざ遠いところを こうしてお見舞いに来て下さったのよ? 

そんな心優しい王子様に対して あんたは薄情にも顔すらも見せずにさっさと追い返してしまうつもりなの? それはあまりにも可哀想ではないかしら?

たとえそれがあんたの父親の差し金であったとしても、彼はきっと自分の意思で伏せっているというあんたをすごく心配して、ご自分の責務を後回しにしてまで訪問して下さったのだと思うわ? 

そんなユーリウス王子が本当に優しい人であるという事は、あんたが一番よく知っているのではなくて? 

せめてあんたの元気な顔だけでも見せて差し上げたら、きっと安心して帰国なされるわよ」



母の言葉が、あまりにも核心を突いていて、私は自分の怒りや苛々で今まで失念していた分、自分の心にあるとは思う、なけなしの良心にプスプスと長い針が何本も突き刺さる。


確かに母の言う通りだ。 ユーリウス王子は本当に優しい人なので私の父に頼まれたから義務的に私に会いに来たという訳ではないという事は分かっている。

そして父がどのような内容で彼に親書を送ったのかは分からないが、彼は本当に私の事を心配して自身の忙しい最中であるにも関わらず私のお見舞いに来てくれたに違いない。


それなのに私の方は遠くの国からこうして私を心配して会いに来てくれた婚約者を、自分の不機嫌や何となく王子を避けたいと思う自分本位な気持ちを理由に、顔すらも見せずにさっさと国へ帰そうとするのは確かに薄情かつ酷い行為だと私でも思う。

これがどうでもいい相手なら気にもならないが、相手はユーリウス王子なのだ。

私は決して彼を嫌いな訳ではなく寧ろ兄のような存在でもあるユーリウス王子の事は勿論好きで慕ってもいる。やはり私は彼に会って然るべきだろう。



「ーー分かったわ。 確かに私を心配して、わざわざお見舞いに来て下さったユーリウス王子に対して、それを会わずに追い返すような真似は、そんな薄情な非礼、あってはならないわよね。 ーー母様。私、ユーリウス王子と面会するわ」



私がそう言うと母は安心したのか、ホッとした表情を浮かべた。



「ああ、よかった! それじゃあ、昼食が終わった後でお庭の方にお呼びするわね。 今日はお天気も良いからその方が良いでしょ?」


「ええ、それでいいわ。 だけどお父様とはまだ会いたくないから、お父様が来ないようにしてくれる?」


「分かったわ。しっかり脅しておくから安心なさい? さあ、そうと決まれば早く昼食を済ませてしまいましょうか。 支度もある事だし、あまりお待たせするのも申し訳ないわ」



私は頷いて母と手早く昼食を済ませることにした。



*****



しかしユーリウス王子と面会する事にはしたものの、自分の心境がよく分からないから複雑だ。

勿論、ユーリウス王子の事は嫌いじゃない。そして、そんな綺麗で親切で優しい彼の事を好きだという気持ちも本物だ。

そんな年に数回しか会うことのない王子が私の為に、こうして会いに来てくれたのに。本来であればすごく嬉しいはずなのに。

何故だろう? 私の今の心境といったら彼に会う事が憂うつで仕方がない。それに何だか少し怖いような感じもする。


彼は本当に優しい人で雰囲気も穏やかで物腰も柔らかくて、まさに女性の憧れる理想の王子様像が具現化されたような、外見も中身も綺麗な完璧な王子様である。

我が国の第一騎士団隊長のように外見からして恐怖を覚えてしまうような そんな印象など、どこにも微塵にも有りはしない。


それでも怖いと思ってしまうのは、自分の気持ちの方に原因があるとは漠然とではあるが分かってはいるのに、その正体ははっきりとは形をとってはいない。

しかも王子が自分の『婚約者』だという事も私の中では絵空事のようで、あるけど無い?みたいな認識でしかない。

自ら望んでユーリウス王子を王子の元婚約者である良い子ぶりっこの あの侯爵令嬢から奪って自分のモノにしたというのに。

それなのに何故、そんな風に感じるのか自分で自分が分からなくなる。



ーー自分で自分が分からないなんて、一体どうなっているの? 私は??




【10ー終】





































































































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