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第三章 三年前~奉納祭~
奉納祭⑧ー8(~貴賓席その2)
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【⑧ー8】
「本当にそなたの心配性は今に始まったことではないな。 私が口にしたのは我が父母の事だ。 己の親への苦言を口にしたくらいで何の問題があるのだ?
母上にしても いつもの事ではあるし、父王に至っては、そのような些細な事など、いちいち気にも留めぬだろうよ。 もっぱら父王の関心はあの愛妾親子にしかないのだからな」
「ですが、父上の事はともかく姉上が母上の事をそのように仰られては母上が お可哀想です。 そもそも母上の ご気分がすぐれない原因は姉上にもあるのですよ。
どうか お願いですから姉上まで母上を怒らせないで下さい。 姉上は すぐお逃げになるので、そんな母上を宥めて落ち着かせるこちらの身にもなって下さい」
ミレニアの言葉にイルミナは肩を竦めると自分の青いドレスをつまんでみせる。
「だから此度の祭典では母上の意向に逆らわず、不本意ではあるがこのような“女装”をしているのではないか。 本来であれば この日の為にあつらえた我が騎士団の新しい制服を着用する予定であったのだ。 勿論、父王の方からも了承済みでな。
それを母上が断固として猛反対されるので、致し方なく私が折れたにすぎない。 でなければ母上の部屋の花瓶や家具が全て無くなってしまうからな」
「“女装”などではなく、それが本来の正しきお姿ですわ。 ご自分が女性であることをお忘れなきよう。
ここ数年において姉上の様変わりようには周囲が戸惑うばかりです。 以前までは もう少し自重されておいででしたでしょう?
それなのに今では行動が あからさまなので外部に漏れぬよう手を回すのにも限度がありますのに。
それでなくとも人々の噂というものは、瞬く間に広がります。 それも事実の有る無しにも かかわらず面白おかしく事実を捻じ曲げて口にしてしまうのが人間の性ですもの。
とにかく姉上は第一王女なのです。くれぐれも姉上の評価を下げるような行動は慎むべきです」
そんなミレニアの苦言に対し、イルミナは ふんと不満げに鼻を鳴らすと、閉じてある扇をてのひらにパシパシと苛立だしげに打ち付ける。
「ふん、そなたの苦言はいい加減聞き飽きたわ。口煩いのは母上だけでうんざりだというのに。 そなたは母を同じくする妹だからこそ許してはいるが、これが他の者の戯れ言であれば、その口を二度と言葉が発せぬよう唇を鋼で縫い付けているところだ。
ミレニア。そなたは賢く要領が良いから分からぬかもしれないが、私はいい加減 馬鹿馬鹿しくなってしまったのだよ、己が女であることも王族であるがゆえの体裁もな。
確かに私は女であり第一王女だ。しかも二つの王家の純血でその血統に相応しく誇り高くあれと周囲から言われてきたが、所詮女は女だ。
国王の嫡子でありながら王位継承権もなく、そなたのように婿をとって血統を絶やさぬよう子を成す事しか存在価値がない。
幼き頃より不満に思いながらも、それが当然と受け入れてきたが、それでも己の中では女である事がひたすら嫌悪でしかなかった。 我が母上を見ていると尚の事な。
だが、父王や愛妾親子を見ていて思ったのだ。 あの者達は自由気ままに好き勝手に生きているのに、なぜ私が己を偽ってまで我慢し続けなければならないのだと。
愛妾親子が国王の庇護の元、何でも自分達の思い通りに出来ているのに、正妃の子であり王家の純血である我が自由を制限され自我を殺し周囲を伺いつつ我慢しなければならないのか。
そう考えたら、全てが馬鹿馬鹿しくなった。
なぜ この私が我慢などしなければならない? 私はブランノアの第一王女だぞ。 女であろうが国王の嫡子であることになんら変わりはない。
ならば愛妾親子が与えられている権限を私が行使して何が悪いのだ。 私は私らしく生きるまで。
外部に悪評が噂されようと、それが なんだというのだ? 実際、国王も愛妾親子も悪評だらけだが平然としているではないか。
私の性癖が世間に広まっても構わん。 むしろ暴君覇王の子だ。どこかしら異質があっても皆、不思議とも思わぬだろうよ」
ミレニアは俯きながら小さく息を吐く。
「……姉上のお気持ちは よく分かりましたわ。 ですが私はたとえ唇を鋼で縫い付けられようとも姉上への苦言は申し続けます。王家の人間として、そして姉上の身内として私くらいしか姉上に進言する事が出来ないようですから。
姉上は父上に ご容姿だけではなく ご気性も似ておいでですから、ご自身で納得されない限りは誰が何を申しても無駄である事は分かっては おりますが、くれぐれも思慮を忘れず周囲に足元をすくわれぬようお気をつけ下さい。
とくに“かの侯爵家”は油断ならぬ相手です。我が一族の権力を持ってしても唯一掌握出来ぬ上に、今は“あちら”に取り入っておりますので、それでなくても我等は侯爵家から嫌われておりますし、隙を見せれば忽ち付け込まれてしまいます」
それを聞いたイルミナは扇を口元にあてて不敵に笑う。
「クククッ、デコルデか。 確かに敵にまわすと大変厄介な相手ではあるな。 しかも奴らもなかなかにして強かで あざとく計算高い上、一族の利益になる事ならば すぐに貪欲に食らいつく。
ーーフッ、ミレニア、そなたといい勝負だな?」
「………イルミナ姉上。 私は見境なくはありませんわ。 少なくとも“あの一族”のように裏で不穏に暗躍するほどの度胸はありませんことよ」
姉の言葉に少し気分を害したのかミレニアの声の調子が僅かに落ちる。 しかしイルミナはお構い無しで笑っている。
「ククッ、そう間に受けるな。 ただの言葉遊びよ。 なに、そう心配せずとも、奴らも愚かではない。 いくら愛妾親子に付いたところで我等フォルセナ王家の血族を敵に回す事は得策とは言えぬだろう。大貴族とはいえ、国家に対して戦を仕掛けるような欲長けだけの愚鈍な阿呆ならばともかくな。
ーーそれに奴らを黙らせる方法は無きにしもあらず、だ」
「どういう事です? あの侯爵家が そう簡単に他人に弱みを見せる事など無いとは思いますがーーー」
訝しげな表情を浮かべるミレニアは姉の顔を見つめると、イルミナは真っ直ぐ前を向いて、ニヤリと笑う。
「フッ、簡単な事だ。 あの小娘を『利用』すればよい」
イルミナの視線は舞台の上の中央に向けられていた。
「それは……“第四”を……ですか?」
ミレニアは思わず声が大きくなりそうになるのを扇で口元を隠しながら小声で話す。
「イルミナ姉上、なりません! あの娘に、あの親子に関わっては ならぬのです。 あれは もはや災いの元凶なのです。あの親子に関われば、それが どんな相手であろうと身の破滅を呼ぶ。 それは我等にとっても同じ事。
父上はーーいえ、国王は あの親子に手を出す者に対し決して容赦する事はないでしょう。 それがたとえ血を分けた肉親であろうと無情で処断する事に躊躇はありません。
このような事を己の口から言うのは古傷を抉るようで大変心苦しくもありますが、父上にとって大切な家族は あの愛妾親子だけです。
そして私達は さしずめ国王の血をひいているだけの国の戦略駒の一つというところでしょうか。
そんな私達が不用意に国王の逆鱗に触れるような事は絶対にあってはならないのです。
姉上に おかれてましても、色々と思うところは おありでしょうけれど、今が堪えどころなのですわ。
ですから母上も あのように今現在も堪え忍んでおられるのでしょう。その ご心情をどうか お察し差し上げて下さい」
真剣な眼差しで訴えてくる妹に、イルミナは母である王妃のいる貴賓席をチラリと見やると、再びミレニアに視線を戻す。
「ミレニア、そう色々考え悩むのは よくない癖だな。 もし腹の中の子に悪影響が及んだらどうする。 いまや そなたは母上の唯一の希望であり心の拠り所でもあるのだ。
なにより、そなたが無事男児を産めば全てが丸く収まり母上の心労も一気に解消されるだろう。 それに私に不用意な言葉には気を付けろと言っておきながら、その本人が不用意な発言をしているではないかーーククッ、どこぞに耳があるのでは なかったのか?」
ニヤニヤと含み笑いを浮かべている姉に対し、ミレニアは小さく息を吐いた。
「私は姉上に苦言を申し上げているだけですわ。 それでも いざというときには姉上が対処して下さるのでしたわね?
それに私はあの親子に関わる気は毛頭ございませんの。私の今の望みは夫と子供と平穏な生活が送りたいだけなのです。
ですから他ならぬ姉上の前ですから申しますが、私個人の正直な気持ちとしてはお腹の子が女児であればと思ってさえいるのです。
それこそ王位などは順当にクラウス叔父上が継いで下されば よろしいのですもの。それが母上の本来の望みでもあったのですから」
それを聞いたイルミナは小さく肩を竦める。
「やれやれ、そなたも結婚した途端に随分と角がとれて丸くなったものだ。 しかも、そんな退屈な平穏生活を望むような平凡な女に成り下がるとはな」
「私は もともと平凡な女なのですわ。 王女ではあっても特に容姿も頭脳も秀でているわけでは ありませんし殿方の目を引くものでもありませんので。
ですから我が夫には私のような凡庸な妻で大変申し訳なく思っております。 夫ほどの身分があれば、それこそ美しいご令嬢を伴侶に望む事もできたでしょうから」
「フフッ、そなたは本当に昔から素直ではないな。 本音は優しい御夫君で嬉しいといったところだろう?
確かに そなたの夫君は実直ある真面目な男だからな。そなたのひねくれた性格を矯正しただけのことはある。 それにな、そなたは自分を過小評価しているが、女は痩せ型よりも、そなたのような厚みのある唇や肉付きのいい体の方が男の本能をそそってモテるのだそうだ。
なにより安産型の大きな尻を持つ妻は特に理想的なんだと。 だから、そなたは もっと自信を持ってよいのだぞ?」
妹の全身を無遠慮に見つめながらニヤニヤと笑うイルミナに、ミレニアは扇で顔を隠しながら顔を赤らめた。
「あ、姉上。はしたなくてよ。 淑女が口にして良いお言葉ではありませんわ。 もし母上のお耳に入れば、お小言どころではすみません。
とにかく私は生まれてくる子供が女児であれば、たとえ母上から反対されようとも夫と共にフォルセナに移り住む事を考えております。 このような複雑な環境の中で我が子を育てたくはないのです。
ですから姉上もくれぐれも、あの親子に関わらぬ様になさいませ。この国では国王が絶対であり、万が一、父王の逆鱗に触れてしまっても、母上のお力だけでは私達を守る事は出来ませんわ。それに父王のお気に入りの叔父上がいたとしても同じ事でしょう」
そんなミレニアの心配にも、イルミナは事も無さげに肩を竦める。
「フン。そう心配するな。何の得にもならない国王の不興をわざわざ買うような愚かな真似をこの私がすると思うのか? 私も馬鹿ではない。 己の置かれている状況くらい言われずとも当然理解している。 我が父王の性格も含めてな。
それに『第四』親子に関しては父王に次いでクラウス叔父上にも、重々に釘を刺されているゆえ、こちらから直接手は出せない。
しかも面倒な事に、叔父上は あの『第四』を特に目を掛けているからな。叔父上とは個人的にも懇意にしている手前、叔父上の不興も買いたくはない」
それを聞いてミレニアはホッと胸を撫でおろす。
「それならば良いのです。 それでなくとも姉上の行動は大胆不敵で、いちど感情が昂られると、みさかいなく暴走されてしまう傾向がおありなので、側で見ている方が毎度ながら不安に駆られてしまいますのよ?」
「フッ、それは私の中の父王の血がそうさせるのだろうよ。 それに直接手は出せずとも『利用』する程度であれば、父王も何も言うまいて。
生き物の世界での弱肉強食はごく当然の事よ。 生き残こる術を持たぬ弱き者は淘汰されるが運命。 特に王家の人間は そんな中で生きているからな。
だから父王も我々の愛妾親子への嫌がらせ程度などでは動かれないのだ。 特に御家騒動などは王家において珍しくもなんともない当たり前の付きものだからな。
それに『利用』しているのは、『第四』親子も同じだろう? 最上級の容姿を武器として異性に対しての天性のたらし込み術も備わっている。 その成果が自分達にとって、もっとも有益である人間達を取り込んでいるのだから、なんとも小賢しい女達だ。
しかも『第四』はセルリアの王太子までも、幼き子供の身でありながら既に篭絡しているようではあるしな。 処世術とはいえ、権力のある男達をこうも次々に、たらし込むとは親子そろって、なんとも末恐ろしい事よ」
そんなイルミナは舞台上を遠い視線で見つめながら、閉じた扇で自分の右肩を小刻みに叩いている。 そして視線はそのままに、ニヤリと口角を上げて微笑んだ。
「………なあ、ミレニア。 人間が一番美しく魅力的であるのは、大人になる手前の時期だとは思わないか?
特に子供は精神的にも不安定で、一挙一動に揺れ動く心も穢れを知らぬ綺麗な体も、徐々に儚く脆く崩れ徐々に壊れていく、その限りある瞬間がなによりも一番美しいのだよ。
大人になると水が濁っていくように、心も体も汚れて醜くなるからな」
「………イルミナ姉上?」
舞台を見つめたままポツリと呟くイルミナの横顔に、ミレニアの背筋をゾクリとさせた。
「だからこそ、壊しがいもある。 まだ誰にも穢されていないものを、この手で己の色に染めてしまうことへの快感は最高の絶頂感すら得られる事を知っているか? それが美しく か弱きものであるならば尚の事な………」
「あ、姉上………?」
嫌な予感がするーー
ミレニアに新たな不安が芽生えた。
そんな目の前の姉は、まるで肉食の獣のようなギラついた目で狙った獲物を見定めるように一点を見つめたまま、ニヤニヤと口角を上げて己の赤い舌でペロリと唇を横に なぞっている。
「しかし、ただ従順になるだけでは 面白くもなんともない。 初めは抵抗して暴れるくらいが丁度良い。 それだけ躾甲斐があるというものだ。
反抗的な愛玩動物に苦痛と快楽を両方与え、飼い主がいなければ生きてはいけないよう体に教え込む。
フフッ、あの苦痛を与えた時に見せる泣き顔は毎度ゾクゾクしてしまうな。 勿論、その後はたっぷりと快楽を与えて愛でてやるのだ。 そうすることで私だけを求めるようになる。
ーーもし、あの生意気な小娘をこの私が躾けたならば、どれほど従順になるのだろうな? 私の躾を受けて苦痛と快楽に悶え泣き叫ぶ、ぐちゃぐちゃになった顔でさえも さぞ美しかろうて。
ククッ、想像しただけでも、全身がゾクゾクして身震いしてくるわ 」
そんなイルミナの どこか倒錯的な視線は舞台の上の異母妹へ真っ直ぐに向けられていた。 その異常なまでの視線に、ミレニアは慌てて姉の視線の先を遮るように前に立ちはだかった。
「姉上! ご冗談も大概になさいませ。 今さら姉上の趣向にとやかく口を出すつもりはありませんが、あの娘だけは絶対に駄目です。
あの娘は私達の異母妹でもあるのですよ。 いくら姉上といえどもむやみに手を出して良い相手ではありません。 それに先ほどはあの娘に手は出さないと自ら仰っていたではありませんか」
言われてイルミナは、舞台から視線を逸らし、 つまらなさそうに鼻を鳴らして、閉じた扇をピタピタと自分の頬に当てている。
「やれやれ、冗談だと思うのなら、そう怒るなよ。 ただ身近に調教しがいのある『子狐』がいたから口に出たまでだ。
私とて本気なわけがなかろう? 一応、アレも半分血の繋がった異母妹だしな。 それに私も己の身は可愛いゆえ、 そのような心配など杞憂というものだ」
それを聞いてミレニアは小さくため息をつく。
「是非とも杞憂であって欲しいものです。 それでなくとも姉上は理性を失うと何をしでかすか分かりませんもの。
ですから、くれぐれもご自分の お言葉を心に忘れずに、ご自重下さいませ。我が身が可愛いのであれば尚の事ですわ」
厳しい表情で姉の顔を見つめるミレニアに、イルミナはわざとらしく大きく肩を竦める。
「我が妹に そこまで信用されていないとは心外だな。 それに父王の気性に一番似ているのは『第四』の方だろう? 私はアレに比べれば、まだ理性的な方だ」
「ええ、だからこそ お気をつけ下さい。 姉上まで『暴君王女』と呼ばれないように」
「ふん、『暴君王女』か。 あながち間違ってはいないがな」
薄笑いを浮かべるイルミナに、ミレニアは小さく首を横に振る。
「『事実』は いくらでも隠蔽できますわ。 要は他人に与える印象が一番重要なのです。 父上と愛妾親子が『悪』であればあるほど、私達、王妃親子への周囲からの同情心を煽れるのですから。
ですから私達に“多少”問題が起こったとしても揉み消すのは簡単ですが、姉上、くれぐれも“多少”ですので、そこをお間違えなきよう。
事が大きくなると、私達を擁護して下さっているフォルセナの国王のお手を煩わせることにも なりかねませんわ」
「はいはい、分かったよ。 大人しくしていろと言うのだろう? まあ、さしずめ今の私の興味は逃げた夫を追い詰める算段に忙しいからな。 しばらくは そなたの気苦労になる事もないだろうから安心しろ。
そんな事より、そろそろ、そなたのご夫君を呼び戻したら どうだ? 我等の会話の邪魔にならぬように、さりげなく席を外すとは本当に気遣いの行き届いた夫だな。そなたの夫でなくば、我が執事に欲しいところだよ。
フォルセナの国王の人を見る目は確かなようだな。 我が妹にこのような素晴らしい良縁を結んで頂いた事に感謝しなくては。 私も姉として、そなたが幸せである事を望んでいるよ」
そんなイルミナの妹を慈しむ言葉に、ミレニアの表情に笑顔が浮かぶ。
「ありがとうございます。私も思いは同じですわ。 イルミナ姉上にも満ち足りた平穏な幸せが訪れる事を、妹として心から願っております」
するとイルミナは小さく首を竦めた。
「フッ、第一王女でありながら『女』ですらない私に平穏などとは、まるで笑止だな」
そんな自虐的に呟くイルミナに、ミレニアは姉の背中に そっと手を添えた。
「そんなことはありません。 私も望んで得られたものでは ありませんでしたので、まさに幸運だったと思っております。
ですからイルミナ姉上も妹のアニエスにしても、きっと思いがけない幸運が訪れると信じています。 私は たとえ何があろうと、イルミナ姉上とアニエスの味方ですわ。そして私の己の出来る全てを持ってして二人の事を守ってみせます」
イルミナはそんなミレニアの肩を抱くと自分の方に引き寄せた。
「そなたは本当に頼もしい妹だな。 このように優しく理解ある賢い妹を持っている私は なんと果報者なのだろうか。
ミレニア、私は そなたを信頼している。そなたが私を守ると言ってくれたように、私も己の持てる力で そなたを守ろう。 だから どこにあろうと私が側にいる事を忘れるな」
「はい、ありがとうございます。 イルミナ姉上………」
【⑧ー終】
「本当にそなたの心配性は今に始まったことではないな。 私が口にしたのは我が父母の事だ。 己の親への苦言を口にしたくらいで何の問題があるのだ?
母上にしても いつもの事ではあるし、父王に至っては、そのような些細な事など、いちいち気にも留めぬだろうよ。 もっぱら父王の関心はあの愛妾親子にしかないのだからな」
「ですが、父上の事はともかく姉上が母上の事をそのように仰られては母上が お可哀想です。 そもそも母上の ご気分がすぐれない原因は姉上にもあるのですよ。
どうか お願いですから姉上まで母上を怒らせないで下さい。 姉上は すぐお逃げになるので、そんな母上を宥めて落ち着かせるこちらの身にもなって下さい」
ミレニアの言葉にイルミナは肩を竦めると自分の青いドレスをつまんでみせる。
「だから此度の祭典では母上の意向に逆らわず、不本意ではあるがこのような“女装”をしているのではないか。 本来であれば この日の為にあつらえた我が騎士団の新しい制服を着用する予定であったのだ。 勿論、父王の方からも了承済みでな。
それを母上が断固として猛反対されるので、致し方なく私が折れたにすぎない。 でなければ母上の部屋の花瓶や家具が全て無くなってしまうからな」
「“女装”などではなく、それが本来の正しきお姿ですわ。 ご自分が女性であることをお忘れなきよう。
ここ数年において姉上の様変わりようには周囲が戸惑うばかりです。 以前までは もう少し自重されておいででしたでしょう?
それなのに今では行動が あからさまなので外部に漏れぬよう手を回すのにも限度がありますのに。
それでなくとも人々の噂というものは、瞬く間に広がります。 それも事実の有る無しにも かかわらず面白おかしく事実を捻じ曲げて口にしてしまうのが人間の性ですもの。
とにかく姉上は第一王女なのです。くれぐれも姉上の評価を下げるような行動は慎むべきです」
そんなミレニアの苦言に対し、イルミナは ふんと不満げに鼻を鳴らすと、閉じてある扇をてのひらにパシパシと苛立だしげに打ち付ける。
「ふん、そなたの苦言はいい加減聞き飽きたわ。口煩いのは母上だけでうんざりだというのに。 そなたは母を同じくする妹だからこそ許してはいるが、これが他の者の戯れ言であれば、その口を二度と言葉が発せぬよう唇を鋼で縫い付けているところだ。
ミレニア。そなたは賢く要領が良いから分からぬかもしれないが、私はいい加減 馬鹿馬鹿しくなってしまったのだよ、己が女であることも王族であるがゆえの体裁もな。
確かに私は女であり第一王女だ。しかも二つの王家の純血でその血統に相応しく誇り高くあれと周囲から言われてきたが、所詮女は女だ。
国王の嫡子でありながら王位継承権もなく、そなたのように婿をとって血統を絶やさぬよう子を成す事しか存在価値がない。
幼き頃より不満に思いながらも、それが当然と受け入れてきたが、それでも己の中では女である事がひたすら嫌悪でしかなかった。 我が母上を見ていると尚の事な。
だが、父王や愛妾親子を見ていて思ったのだ。 あの者達は自由気ままに好き勝手に生きているのに、なぜ私が己を偽ってまで我慢し続けなければならないのだと。
愛妾親子が国王の庇護の元、何でも自分達の思い通りに出来ているのに、正妃の子であり王家の純血である我が自由を制限され自我を殺し周囲を伺いつつ我慢しなければならないのか。
そう考えたら、全てが馬鹿馬鹿しくなった。
なぜ この私が我慢などしなければならない? 私はブランノアの第一王女だぞ。 女であろうが国王の嫡子であることになんら変わりはない。
ならば愛妾親子が与えられている権限を私が行使して何が悪いのだ。 私は私らしく生きるまで。
外部に悪評が噂されようと、それが なんだというのだ? 実際、国王も愛妾親子も悪評だらけだが平然としているではないか。
私の性癖が世間に広まっても構わん。 むしろ暴君覇王の子だ。どこかしら異質があっても皆、不思議とも思わぬだろうよ」
ミレニアは俯きながら小さく息を吐く。
「……姉上のお気持ちは よく分かりましたわ。 ですが私はたとえ唇を鋼で縫い付けられようとも姉上への苦言は申し続けます。王家の人間として、そして姉上の身内として私くらいしか姉上に進言する事が出来ないようですから。
姉上は父上に ご容姿だけではなく ご気性も似ておいでですから、ご自身で納得されない限りは誰が何を申しても無駄である事は分かっては おりますが、くれぐれも思慮を忘れず周囲に足元をすくわれぬようお気をつけ下さい。
とくに“かの侯爵家”は油断ならぬ相手です。我が一族の権力を持ってしても唯一掌握出来ぬ上に、今は“あちら”に取り入っておりますので、それでなくても我等は侯爵家から嫌われておりますし、隙を見せれば忽ち付け込まれてしまいます」
それを聞いたイルミナは扇を口元にあてて不敵に笑う。
「クククッ、デコルデか。 確かに敵にまわすと大変厄介な相手ではあるな。 しかも奴らもなかなかにして強かで あざとく計算高い上、一族の利益になる事ならば すぐに貪欲に食らいつく。
ーーフッ、ミレニア、そなたといい勝負だな?」
「………イルミナ姉上。 私は見境なくはありませんわ。 少なくとも“あの一族”のように裏で不穏に暗躍するほどの度胸はありませんことよ」
姉の言葉に少し気分を害したのかミレニアの声の調子が僅かに落ちる。 しかしイルミナはお構い無しで笑っている。
「ククッ、そう間に受けるな。 ただの言葉遊びよ。 なに、そう心配せずとも、奴らも愚かではない。 いくら愛妾親子に付いたところで我等フォルセナ王家の血族を敵に回す事は得策とは言えぬだろう。大貴族とはいえ、国家に対して戦を仕掛けるような欲長けだけの愚鈍な阿呆ならばともかくな。
ーーそれに奴らを黙らせる方法は無きにしもあらず、だ」
「どういう事です? あの侯爵家が そう簡単に他人に弱みを見せる事など無いとは思いますがーーー」
訝しげな表情を浮かべるミレニアは姉の顔を見つめると、イルミナは真っ直ぐ前を向いて、ニヤリと笑う。
「フッ、簡単な事だ。 あの小娘を『利用』すればよい」
イルミナの視線は舞台の上の中央に向けられていた。
「それは……“第四”を……ですか?」
ミレニアは思わず声が大きくなりそうになるのを扇で口元を隠しながら小声で話す。
「イルミナ姉上、なりません! あの娘に、あの親子に関わっては ならぬのです。 あれは もはや災いの元凶なのです。あの親子に関われば、それが どんな相手であろうと身の破滅を呼ぶ。 それは我等にとっても同じ事。
父上はーーいえ、国王は あの親子に手を出す者に対し決して容赦する事はないでしょう。 それがたとえ血を分けた肉親であろうと無情で処断する事に躊躇はありません。
このような事を己の口から言うのは古傷を抉るようで大変心苦しくもありますが、父上にとって大切な家族は あの愛妾親子だけです。
そして私達は さしずめ国王の血をひいているだけの国の戦略駒の一つというところでしょうか。
そんな私達が不用意に国王の逆鱗に触れるような事は絶対にあってはならないのです。
姉上に おかれてましても、色々と思うところは おありでしょうけれど、今が堪えどころなのですわ。
ですから母上も あのように今現在も堪え忍んでおられるのでしょう。その ご心情をどうか お察し差し上げて下さい」
真剣な眼差しで訴えてくる妹に、イルミナは母である王妃のいる貴賓席をチラリと見やると、再びミレニアに視線を戻す。
「ミレニア、そう色々考え悩むのは よくない癖だな。 もし腹の中の子に悪影響が及んだらどうする。 いまや そなたは母上の唯一の希望であり心の拠り所でもあるのだ。
なにより、そなたが無事男児を産めば全てが丸く収まり母上の心労も一気に解消されるだろう。 それに私に不用意な言葉には気を付けろと言っておきながら、その本人が不用意な発言をしているではないかーーククッ、どこぞに耳があるのでは なかったのか?」
ニヤニヤと含み笑いを浮かべている姉に対し、ミレニアは小さく息を吐いた。
「私は姉上に苦言を申し上げているだけですわ。 それでも いざというときには姉上が対処して下さるのでしたわね?
それに私はあの親子に関わる気は毛頭ございませんの。私の今の望みは夫と子供と平穏な生活が送りたいだけなのです。
ですから他ならぬ姉上の前ですから申しますが、私個人の正直な気持ちとしてはお腹の子が女児であればと思ってさえいるのです。
それこそ王位などは順当にクラウス叔父上が継いで下されば よろしいのですもの。それが母上の本来の望みでもあったのですから」
それを聞いたイルミナは小さく肩を竦める。
「やれやれ、そなたも結婚した途端に随分と角がとれて丸くなったものだ。 しかも、そんな退屈な平穏生活を望むような平凡な女に成り下がるとはな」
「私は もともと平凡な女なのですわ。 王女ではあっても特に容姿も頭脳も秀でているわけでは ありませんし殿方の目を引くものでもありませんので。
ですから我が夫には私のような凡庸な妻で大変申し訳なく思っております。 夫ほどの身分があれば、それこそ美しいご令嬢を伴侶に望む事もできたでしょうから」
「フフッ、そなたは本当に昔から素直ではないな。 本音は優しい御夫君で嬉しいといったところだろう?
確かに そなたの夫君は実直ある真面目な男だからな。そなたのひねくれた性格を矯正しただけのことはある。 それにな、そなたは自分を過小評価しているが、女は痩せ型よりも、そなたのような厚みのある唇や肉付きのいい体の方が男の本能をそそってモテるのだそうだ。
なにより安産型の大きな尻を持つ妻は特に理想的なんだと。 だから、そなたは もっと自信を持ってよいのだぞ?」
妹の全身を無遠慮に見つめながらニヤニヤと笑うイルミナに、ミレニアは扇で顔を隠しながら顔を赤らめた。
「あ、姉上。はしたなくてよ。 淑女が口にして良いお言葉ではありませんわ。 もし母上のお耳に入れば、お小言どころではすみません。
とにかく私は生まれてくる子供が女児であれば、たとえ母上から反対されようとも夫と共にフォルセナに移り住む事を考えております。 このような複雑な環境の中で我が子を育てたくはないのです。
ですから姉上もくれぐれも、あの親子に関わらぬ様になさいませ。この国では国王が絶対であり、万が一、父王の逆鱗に触れてしまっても、母上のお力だけでは私達を守る事は出来ませんわ。それに父王のお気に入りの叔父上がいたとしても同じ事でしょう」
そんなミレニアの心配にも、イルミナは事も無さげに肩を竦める。
「フン。そう心配するな。何の得にもならない国王の不興をわざわざ買うような愚かな真似をこの私がすると思うのか? 私も馬鹿ではない。 己の置かれている状況くらい言われずとも当然理解している。 我が父王の性格も含めてな。
それに『第四』親子に関しては父王に次いでクラウス叔父上にも、重々に釘を刺されているゆえ、こちらから直接手は出せない。
しかも面倒な事に、叔父上は あの『第四』を特に目を掛けているからな。叔父上とは個人的にも懇意にしている手前、叔父上の不興も買いたくはない」
それを聞いてミレニアはホッと胸を撫でおろす。
「それならば良いのです。 それでなくとも姉上の行動は大胆不敵で、いちど感情が昂られると、みさかいなく暴走されてしまう傾向がおありなので、側で見ている方が毎度ながら不安に駆られてしまいますのよ?」
「フッ、それは私の中の父王の血がそうさせるのだろうよ。 それに直接手は出せずとも『利用』する程度であれば、父王も何も言うまいて。
生き物の世界での弱肉強食はごく当然の事よ。 生き残こる術を持たぬ弱き者は淘汰されるが運命。 特に王家の人間は そんな中で生きているからな。
だから父王も我々の愛妾親子への嫌がらせ程度などでは動かれないのだ。 特に御家騒動などは王家において珍しくもなんともない当たり前の付きものだからな。
それに『利用』しているのは、『第四』親子も同じだろう? 最上級の容姿を武器として異性に対しての天性のたらし込み術も備わっている。 その成果が自分達にとって、もっとも有益である人間達を取り込んでいるのだから、なんとも小賢しい女達だ。
しかも『第四』はセルリアの王太子までも、幼き子供の身でありながら既に篭絡しているようではあるしな。 処世術とはいえ、権力のある男達をこうも次々に、たらし込むとは親子そろって、なんとも末恐ろしい事よ」
そんなイルミナは舞台上を遠い視線で見つめながら、閉じた扇で自分の右肩を小刻みに叩いている。 そして視線はそのままに、ニヤリと口角を上げて微笑んだ。
「………なあ、ミレニア。 人間が一番美しく魅力的であるのは、大人になる手前の時期だとは思わないか?
特に子供は精神的にも不安定で、一挙一動に揺れ動く心も穢れを知らぬ綺麗な体も、徐々に儚く脆く崩れ徐々に壊れていく、その限りある瞬間がなによりも一番美しいのだよ。
大人になると水が濁っていくように、心も体も汚れて醜くなるからな」
「………イルミナ姉上?」
舞台を見つめたままポツリと呟くイルミナの横顔に、ミレニアの背筋をゾクリとさせた。
「だからこそ、壊しがいもある。 まだ誰にも穢されていないものを、この手で己の色に染めてしまうことへの快感は最高の絶頂感すら得られる事を知っているか? それが美しく か弱きものであるならば尚の事な………」
「あ、姉上………?」
嫌な予感がするーー
ミレニアに新たな不安が芽生えた。
そんな目の前の姉は、まるで肉食の獣のようなギラついた目で狙った獲物を見定めるように一点を見つめたまま、ニヤニヤと口角を上げて己の赤い舌でペロリと唇を横に なぞっている。
「しかし、ただ従順になるだけでは 面白くもなんともない。 初めは抵抗して暴れるくらいが丁度良い。 それだけ躾甲斐があるというものだ。
反抗的な愛玩動物に苦痛と快楽を両方与え、飼い主がいなければ生きてはいけないよう体に教え込む。
フフッ、あの苦痛を与えた時に見せる泣き顔は毎度ゾクゾクしてしまうな。 勿論、その後はたっぷりと快楽を与えて愛でてやるのだ。 そうすることで私だけを求めるようになる。
ーーもし、あの生意気な小娘をこの私が躾けたならば、どれほど従順になるのだろうな? 私の躾を受けて苦痛と快楽に悶え泣き叫ぶ、ぐちゃぐちゃになった顔でさえも さぞ美しかろうて。
ククッ、想像しただけでも、全身がゾクゾクして身震いしてくるわ 」
そんなイルミナの どこか倒錯的な視線は舞台の上の異母妹へ真っ直ぐに向けられていた。 その異常なまでの視線に、ミレニアは慌てて姉の視線の先を遮るように前に立ちはだかった。
「姉上! ご冗談も大概になさいませ。 今さら姉上の趣向にとやかく口を出すつもりはありませんが、あの娘だけは絶対に駄目です。
あの娘は私達の異母妹でもあるのですよ。 いくら姉上といえどもむやみに手を出して良い相手ではありません。 それに先ほどはあの娘に手は出さないと自ら仰っていたではありませんか」
言われてイルミナは、舞台から視線を逸らし、 つまらなさそうに鼻を鳴らして、閉じた扇をピタピタと自分の頬に当てている。
「やれやれ、冗談だと思うのなら、そう怒るなよ。 ただ身近に調教しがいのある『子狐』がいたから口に出たまでだ。
私とて本気なわけがなかろう? 一応、アレも半分血の繋がった異母妹だしな。 それに私も己の身は可愛いゆえ、 そのような心配など杞憂というものだ」
それを聞いてミレニアは小さくため息をつく。
「是非とも杞憂であって欲しいものです。 それでなくとも姉上は理性を失うと何をしでかすか分かりませんもの。
ですから、くれぐれもご自分の お言葉を心に忘れずに、ご自重下さいませ。我が身が可愛いのであれば尚の事ですわ」
厳しい表情で姉の顔を見つめるミレニアに、イルミナはわざとらしく大きく肩を竦める。
「我が妹に そこまで信用されていないとは心外だな。 それに父王の気性に一番似ているのは『第四』の方だろう? 私はアレに比べれば、まだ理性的な方だ」
「ええ、だからこそ お気をつけ下さい。 姉上まで『暴君王女』と呼ばれないように」
「ふん、『暴君王女』か。 あながち間違ってはいないがな」
薄笑いを浮かべるイルミナに、ミレニアは小さく首を横に振る。
「『事実』は いくらでも隠蔽できますわ。 要は他人に与える印象が一番重要なのです。 父上と愛妾親子が『悪』であればあるほど、私達、王妃親子への周囲からの同情心を煽れるのですから。
ですから私達に“多少”問題が起こったとしても揉み消すのは簡単ですが、姉上、くれぐれも“多少”ですので、そこをお間違えなきよう。
事が大きくなると、私達を擁護して下さっているフォルセナの国王のお手を煩わせることにも なりかねませんわ」
「はいはい、分かったよ。 大人しくしていろと言うのだろう? まあ、さしずめ今の私の興味は逃げた夫を追い詰める算段に忙しいからな。 しばらくは そなたの気苦労になる事もないだろうから安心しろ。
そんな事より、そろそろ、そなたのご夫君を呼び戻したら どうだ? 我等の会話の邪魔にならぬように、さりげなく席を外すとは本当に気遣いの行き届いた夫だな。そなたの夫でなくば、我が執事に欲しいところだよ。
フォルセナの国王の人を見る目は確かなようだな。 我が妹にこのような素晴らしい良縁を結んで頂いた事に感謝しなくては。 私も姉として、そなたが幸せである事を望んでいるよ」
そんなイルミナの妹を慈しむ言葉に、ミレニアの表情に笑顔が浮かぶ。
「ありがとうございます。私も思いは同じですわ。 イルミナ姉上にも満ち足りた平穏な幸せが訪れる事を、妹として心から願っております」
するとイルミナは小さく首を竦めた。
「フッ、第一王女でありながら『女』ですらない私に平穏などとは、まるで笑止だな」
そんな自虐的に呟くイルミナに、ミレニアは姉の背中に そっと手を添えた。
「そんなことはありません。 私も望んで得られたものでは ありませんでしたので、まさに幸運だったと思っております。
ですからイルミナ姉上も妹のアニエスにしても、きっと思いがけない幸運が訪れると信じています。 私は たとえ何があろうと、イルミナ姉上とアニエスの味方ですわ。そして私の己の出来る全てを持ってして二人の事を守ってみせます」
イルミナはそんなミレニアの肩を抱くと自分の方に引き寄せた。
「そなたは本当に頼もしい妹だな。 このように優しく理解ある賢い妹を持っている私は なんと果報者なのだろうか。
ミレニア、私は そなたを信頼している。そなたが私を守ると言ってくれたように、私も己の持てる力で そなたを守ろう。 だから どこにあろうと私が側にいる事を忘れるな」
「はい、ありがとうございます。 イルミナ姉上………」
【⑧ー終】
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