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【小話】~サイドストーリー

【小話① 俺と陛下と夜光の歌姫】

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【小話①】



………ああ、そろそろか。


壁に掛けられている時刻計を見て「はぁ………」とため息が零れる。

そんな周りでも、自分の部下達が同じように時刻計をちらちらと見ては平常を装っているつもりだろうが扉の方をしきりに気にしているのが見て分かる。

さすがに年長の騎士団隊員達は第一騎士団所属の精鋭ともあって落ち着きはあるものの、若い隊員達はその時間が来ると、そわそわとし始め、急に気合いが入ったようにはりきって稽古に望んでいる。


………いや、これはこれで、第一騎士団隊全体の士気が上がって良いといえば良いのだがーーー


するとそれから間もなく、若い隊員達の期待を裏切ることなく彼女は現れた。二人の侍女と共に大きなバスケットを持って。


「ごきげんよう、皆さん。今日もお稽古お疲れ様ーーー」


丁度、午後の休憩が入るのを見計らって、彼女はほぼ毎日、この第一騎士団隊宿舎に現れるようになった。


「今日の差し入れは私が作った栄養満点の野菜入りスコーンよ。今日は朝から頑張ったんだから」


そう言って彼女が満面の笑みで微笑むと、周りの若い隊員達はどれもこれも皆、顔を赤らめて視線を逸らしている。

そしてさすがの年長の部下達も平静を保ってはいるものの顔が緩むのを必死で堪えている。

彼女本人は気にも留めてはいないようだが、彼女の笑顔は、まさに男の心臓を一突きにする『凶器』だ。

女性に慣れていない部下達がいつ彼女に“殺されやしないか”といつも彼女が来る度に内心ヒヤヒヤしているのに、そんな彼女はこちらの気もお構い無しで毎日来ては惜しげもなくその笑顔を皆に向けるので、俺の心労は絶えない。

しかも彼女は全く知らないようだが俺は国王から密かに彼女の護衛及びお目付け役を仰せつかっている。

自分の役割は国王の隣で王の身を護衛する為にある側近中の側近だ。しかも全騎士団の取りまとめ役でもあり、その中でも国王直属の精鋭部隊、第一騎士団隊を率いている隊長でもある多忙極まりない身であるのに、国王は敢えてそんな多忙な俺に自分が寵愛している愛妾の護衛役を押し付けてきた。

通常ならば国王の護衛役は第一騎士団隊。その王妃や王女達の護衛役は第二騎士団隊。親類王族の護衛役は第三騎士団隊。

ーーと、それぞれ役割が分かれている。なので本来であれば、国王の愛妾の護衛役は第二か第三騎士団隊が拝命を賜わるのが当然なのだが、国王はその慣例を無視して敢えて自分に白羽の矢を立てた。

その理由として俺が国王の傍に一番近い側近で、その国王からも個人的にも信頼を寄せられているからだ。

だから自分の溺愛する愛妾の安全対策として、王家の中でも身分の低い元市井出の彼女を良く思わない人間達から彼女の身を守る為と他の男を近付けさせない為の防衛策のだそうだ。

国王は一応、彼女に危害を加えそうな疑いのある王妃側の人間や貴族達に対しては直接牽制をしてはいるものの安心は出来ないと言い、また彼女の美しさに懸想した男達が彼女に近付かないように俺に監視をしろというのだ。

それならば第二騎士団隊でも問題ないのではないかとは思うが、国王は俺以外の男は信用出来ないという。

そこまで主から信頼されているのは臣下冥利に尽きて嬉しいのだが、俺としてはいくら主の愛する大事な女性であっても出来れば女のお守りは御免被りたい。

それというのも俺は女性が苦手なのだ。こんな王族、貴族の中で暮らしているせいか、女性達の計算高いと言うか腹黒い二面性が見えすぎて女性不信に近いものに陥っている。

貴族の女性達は一見は皆、上品で大人しく貞淑な淑女に見えるが、それは表向きの顔でその裏の顔は良縁を狙い他のライバル達を互いに牽制しつつ、自分の条件に合った男を物色する例えて言うなら、まるで獲物を狙う舌舐めずりをした『肉食獣』のようだ。


*****


俺がまだ10代の若い頃は、このブランノアの国ではなく他国の平民出身の地方騎士だった。

それがある日、ブランノアが我が国に侵略してきた時に、その戦で当時の国王と共に来ていた、まだ王太子であった陛下とたまたま戦で一戦を交えた事があり、その時何故か俺は陛下にいたく気に入られ、家族を人質に捕られて無理矢理ブランノアへと連れて来られた。

当時の俺は敵国の王太子になど誰が仕官などするものかと反発していたが、さすがに家族を人質に捕られていてはどうする事も出来ず、渋々仕官する羽目になった。

陛下はそんな俺を一方的に自分の指揮する第一騎士団隊に所属させ、更には自分の身近の側仕えの側近として常に自分のかたわらに俺を置いた。

他の臣下達は元敵兵である俺を「傍に置くのは危険だ」と進言していたようだが、陛下は全く無視していたようだ。

だから俺は身分の低い平民であるにもかかわらず、無理矢理仕官させられた反発心から言葉使いなど敬意を払う気にもなれず、たとえ陛下だろうが貴族だろうが、いつもの自分の素で通した。

周囲は当然、不敬だのなんだのと言っていたが、そんなのは知ったことか、嫌なら仕官させなければいい。と無視し続けた。

しかし陛下はそんな俺の態度にも全く意に介した様子もなく、貴族達からの俺に対しての進言も逆に一喝して黙らせてしまった。

しかも陛下の父である当時の国王までがどういうわけか俺を気に入っていたらしく、自分にも「息子と同じように接しろ」との仰せだ。

こうして国王と王太子からの直々のお墨付きをもらった俺は誰に対しても素の態度で接したが、周囲からは何も言われなくなった。

なので試しに敬語を使ってみれば、逆に陛下や国王から「天変地異が起こるからやめろ」と言われた。


ーー何故だ??


そして俺はこの国で王族に仕官するようになってから、自分の取り巻く環境が驚くほどに一変した。

俺は国王や特に陛下から重鎮され、陛下達は俺がいくら「嫌だ、要らない」と言ったのにもかかわらず、これまた無理矢理俺を貴族に仕立て上げ、子爵の称号を半ば強引に継がされた。

するとそんな貴族の仲間入りをした俺に、今まで俺の事を平民出の田舎者だの元敵国の野蛮人だの、陰で散々悪口を言って馬鹿にしていた貴族達が急にてのひらを返したように俺に対して友好的な態度を示してきた。

しかも俺が陛下のお気に入りだという事もあり、尚更近付いてきて、挙げ句には自分の娘や一族の娘を「俺の妻に」と薦めてきて親類関係を結ぼうとさえしてきた。

俺はあまりの身の変わりの早さに「なんなんだ?こいつらは」と呆れ果てていたが、陛下はそんなものは「貴族社会では当たり前にある事だから気にするな」と笑い飛ばしていた。

俺はそんな貴族達に馴染めずに、野心の見え隠れする貴族達の「うちの娘を嫁に」攻撃を交わしつつ、王家主催以外の貴族の催しものは騎士団所属の身なので忙しいという理由をつけて避けまくっていた。

そして陛下の父君である国王が病床の後、崩御され王太子であった陛下が新たなブランノアの国王として即位した。

それと同時に俺は国王直属第一騎士団隊長として拝命し、全ての騎士団の取り纏め役という重鎮の籍に就いた。

そんな陛下は国王になってからも王太子時代と変わらず好戦的で常に戦を好んだ。

陛下の傍で仕えるようになって分かったことだが、陛下はまるで子供のように好奇心旺盛で、とにかく面白い事や変わった事が大好きだった。

しかも自分の欲求には常に正直で、自分が欲しいと思えば何が何でも手に入れなければ気が済まない性分で、それも手に入れる事が難しければ難しいほど熱が入ってしまうらしく、その手に入れるまでの工程を特に楽しんでいた。

そんな陛下にとって侵略という行為も一種の『陣取りゲーム』のようなものらしく、昔から戦略知識に長けていて頭の回転も早かった陛下は、その知略もさることながら武術の才にも優れていて、今や向かうところ『敵無し』と戦に勝利しては自分の支配する領土が大きくなる事に意欲を燃やしていた。

こうして王太子時代から積み上がってきた陛下の評判は、世間では近隣諸国からも恐れられる暴君として悪い噂が常に流れて人々の意識に浸透していたが、陛下はそれすらも面白がっていた。

俺には信じられないが、どうやらこの陛下という人は、まるで野生の動物の如く本能のままに生きている。

だから本来の人間にある“道徳心”とか、善悪の“良し悪し”とかはこの陛下の中には皆無のようだ。

ただ自分が“面白ければ”“楽しければ”それで良い。それだけの感情で行動している。

俺は今まで生きてきて、こんな人間に出会った事などない。そして俺はどうやらそんな陛下の“面白い基準”の何かに引っ掛かったらしい。

陛下は本当に俺がお気に入りらしく、常に自分の身近にはべらせる側近は俺だけだった。

しかも俺は周囲の貴族達から恨まれてしまうほど、陛下からの特別待遇が厚かった。

だから俺がいくら「要らない」「必要ない」と言って断っても、陛下は自分がそうしたいと思った事は俺の意思など全く無視して事を進めてしまう。

以前にも俺がいつまでも女っ気がないのが気になったのか、はたまたちまたで、“女嫌いな第一騎士団隊長”と噂されているのを知っての事か、ある日、突然陛下は思いつきのままに本来予定のない王家主催の小規模な晩餐パーティーを催し、当然俺は王家の催しなので出席義務を課せられた。

内心嫌々ながらも、これも王家に仕える者の務めだと、いざ出席して見ると、どこかいつもとは感じが違っていた。

いや、突然の国王の気紛れで催されたパーティーだ。人数が揃わないのは当たり前なのだが、それにしては女の数がやけに多い。

男の姿もちらほら見られるが、もし比率をいうなら女が10なら男は1だ。

しかもその女達は綺麗に着飾ってはいるが、どれもこれも貴族の奥方や令嬢としては相応しくない派手なドレスを着用していて、見知っている貴族達は誰一人としていない。

全て初めて見る顔で、そんな女達は淑女らしからぬ黄色い声を上げながら陛下と俺を見て騒いでいる。


「………陛下? これは?」


「驚いたか? これはお前の為だけに開いたパーティーだぞ?」


「は?」


俺は意味が分からずに陛下を凝視すると、陛下はそんな俺を引っ張って女達の方へ連れて行く。


「さあ、皆の者、今宵は無礼講だ。存分に楽しもうではないか!」


陛下が給仕から果実酒のグラスを受け取り、それを掲げながら声を上げると、それを合図に女達が一斉に俺達を囲むように(襲いかかってきた)走り寄ってきた。

驚いて逃げようとしたが、一足遅かった。あっという間に女達に囲まれて退路を一切絶たれてしまう。


「今宵はお招き有り難うございます。陛下や第一騎士団隊長様に、こうしてお目にかかれるなんて光栄ですわ!」


「お招き有り難うございます。ーーああ、夢見たいですわ! 陛下やヴァンデル第一騎士団隊長様とこうして直接お話できるなんて!!」


「第一騎士団隊長様、いつも遠くから拝見していましたわ。それがこんなお近くでお会いする事ができるなんて! 私、もう死んでもいいわ!!」


「あああ、ヴァンデル隊長様ぁ~ なんて素敵なの!! それにすごくたくましくて間近で見たらもっと素敵ぃ~!!」


女達が口々に陛下や俺の名を呼び、しかも己の体を寄せて接近してくる。


「陛下!? 一体何なんだこれは!!」


「グレッグ、お前すごい人気だぞ? よかったじゃないか」


「よかったじゃないっ!! どういう事なんだ!? この女達は一体何なんだ!!」


俺は嫌な予感しかなかったが、そんな俺の驚きと苛立ちの混じった言葉にも、陛下は何食わぬ顔で声を上げて笑っている。


「たまにはこういう趣向もいいだろう? まあ、見てみろ、どれも美人揃いだ」


陛下は慣れた手つきで近くにいた二人の女の腰に手を回し自分の方に引き寄せると、女達は歓喜の声を上げる。


「こういう趣向とか関係ない! 俺を巻き込んで一体何を企んでいる!!」


どさくさに紛れて自分に伸びてくる女達の手を振り払いながら、俺は陛下に詰め寄った。


「ーーまあ、そう怒るな。企むとは人聞きの悪い。私はお前の女嫌いを直してやろうとしているだけだぞ? 

お前ときたらもういい歳なのに結婚もせず、女の噂一つ聞かない。しかも巷では、女嫌いとまで言われているそうじゃないか。だからお前の主として心配してやっているんだ」


「心配などと余計なお世話だ! 俺は女嫌いで大いに結構!! 実際、女なんて大して好きじゃない!!」


端から聞けば国王に対して、なんという口の利き方だと不敬極まりないと罰せられそうだが、俺と陛下の間にはこれがまかり通っている。


「グレッグ、いい歳をした大の大人がそれじゃ駄目だろ。実際その歳で女遊びも知らない様じゃ、お前の若い部下達からも馬鹿にされるぞ? 

全くこれじゃ放っておいたら一生女も知らず結婚もせず、孫の顔を見たがっているお前の母親が嘆くぞ。

これもいい機会だ。お前もいい加減、女嫌いとか言っていないでこの女達で慣れておけ。 

なに、心配せずともここにいる女達は貴族ではないし、どれも娼館の女達だ。心置きなく遊んでいいぞ?」


ーーっつ、この人は!! いきなり晩餐パーティーだとか言って、目的は俺に女遊びをさせる為だと!? 

何を考えているんだ! それが一国の国王のする事か! しかも女嫌いだろうが結婚しないだろうが、それは個人の自由だろ! 陛下や他の貴族の男達のように女で遊びまくっている自分達と俺を一緒にするな! 俺はそういう不実な事は大嫌いなんだ!


怒りで思わず心の中の声を叫びそうになったが、いくら娼館の女達だろうと一応は人前だ。

しかも陛下を罵倒する言葉など二人きりの時ならいざ知らず、他人の前でなど、いくら素を許されている俺でもそれは絶対に口に出してはいけない。我が国の国王の尊厳に関わる。

俺はなんとか冷静さを取り戻し、陛下に物申した。


「陛下、俺の事を心配してくれるのは嬉しいが、先ほども言った通り、俺は女が好きじゃない。だから女遊びなど断じて出来ん!  

それで部下に馬鹿にされたとしても俺は気にもならないし孫だって俺が無理に結婚せずともまだ弟妹達がいる。だからもう今後一切、こういう事はやめてくれ! 

ーー話は終わりだ。だから彼女達はもう引き上げさせてくれ。俺はこれで失礼する!!」


女達が一斉に「えええっ!!」と不満の声を上げるが、そんなもの俺の知ったことじゃない。文句ならそこにいる陛下に言ってくれ!!


俺は女達を退けるときびすを返して庭に続くバルコニーからさっさと退散しようとすると、また陛下から呼び止められる。

無視するわけにもいかず仕方なく振り返ると、陛下は俺を呼ぶように手招きをする。


「待て、グレッグ。お前の気持ちはよく分かった。もう金輪際こんな事はしない。

だが、ここにいる女達は皆、こちらの呼び出しに応じて、自分達の生活のかかっている仕事を休んでまで、お前の為だけに集まって来てくれた優しい女達だ。

それなのにお前はそんな彼女達に食事すらさせずに来て早々帰れなどと、いくらなんでも酷いとは思わないのか?  

皆、お前に憧れて普段ならこうして言葉すら交わせないお前に会いたい一心で健気にもこうして集まって来てくれたのだぞ?  

何も“夜の相手”をしろとは言わん。せめて普通の晩餐くらいなら相手をしてやっても良いではないか」


陛下の言葉に女達は「陛下ぁ~」と涙する者もいる。陛下はそんな女達を、あれはどう見ても撫で回しているのだろうが、一応慰めているつもりなのか。

俺は「くっ、」と唇を噛み締め、ぎゅっと拳を握り締めた。陛下は本当になんと言うか『策士』だ。あんな事を言われてしまったら俺はもう応じるしかない。 

それも自分が勝手に女達を呼びつけておいて、その責任を俺にも押し付けようとはーーー


「………分かった。ただし今回だけだ。もう何があろうと絶対に応じないからな」


女達は俺の言葉を聞いて一斉に歓喜の叫びを上げる。


ーーああ、うるさい。


「よしよし、それでこそ国を代表する第一騎士団隊長だ。人の上に立つものは自分達の国民も大切にしなくてはな」


やはり『策士』の国王に俺はキッとにらみ付けてやる。何が国民を大切にーーだ。そんなこと本気で思っていないだろ!


しかし陛下はそんな強面と言われる俺の顔など見慣れているせいか、全く気にもせずに女達を侍らせてテーブルへと向かう。

そしてやはり残った女達が俺の周りで俺の腕に強引に腕を絡め、俺のマントや服を引っ張ってテーブルへと連れて行く。

それからが俺にとって苦行とも呼べる非常に精神的苦痛をともなう時間だったーーー

大きなテーブルを前に側のソファーには陛下と女達が、そしてソファーなんて「冗談じゃない」と俺はテーブルの前で立ちっぱなしだったが、その周りを女達がベッタリと張り付いて煩くさえずっている。

しかも色々な女達の香水が混じって、それでなくとも気分は最悪なのに増々具合が悪くなる。

俺が眉間にしわを寄せて思いきり不快な表情を隠しもせずに浮かべているにもかかわらず、女達はベタベタと俺の腕や肩、腰など、やたらと不自然に触ってくるし、

もう胸など申し訳程度にしか隠れていない肩や背中が大きく開いた体の線すらはっきりと分かるような密着したドレスを着た女達が俺にその体を押し付けてくる。


正直こんな、いかがわしさ極まりないドレスなど、どこで売っているんだ!! 後で見つけ出して取り締まってやる!!


そんな事を考えながら陛下を見ると、陛下は相変わらず女達の体を撫で回しながら俺を見てニヤニヤしている。


ーーあれは絶対に俺の反応を見て楽しんでいる。くそっ、もう二度とこんな真似はさせん!!


俺はぐっと再び拳を握り締めて、この耐難い時間を必死で耐え忍んだ。


*****


「グレッグ、どうだった? 気に入った女はいたか?」


ようやく苦痛から解放されグッタリとしている所へ陛下が呑気にやって来る。

結局、陛下のせいで思いの外、長い晩餐の時間を付き合わされた。俺の精神はもう疲労の限界を超えていて、このまま直ぐに部屋に戻って休みたい。


「ーーこんな苦痛を味わったのは過去にない。これなら戦で敵の将と戦っていた方がずっとマシだ」


「確かにそれも楽しいが、女というのも良いものだぞ?」


陛下は俺の肩に腕を回して引き寄せながら、俺の耳元で女の良さを囁いている。


どこがいいんだ!!  あんなもの!!


俺は心底疲れきった深いため息を吐くと、肩に回された陛下の腕をゆっくりとほどく。


「もう本当に、こういう事は勘弁してくれ。何度も言うが俺はそういうのは苦手なんだ」


すると陛下はまだ諦めていないのか、俺から解かれた腕を再び俺の肩に回しながら、ここには俺と陛下しかいないのに何故か内緒話でもするように俺の耳元で囁いた。


「グレッグ、何事も経験だぞ? 一度試してみなければ分からんだろう? 

ーーそれでな、今夜はあの女達の中から特に見目の良い女を城に泊めてある。だから今晩、経験してみたらどうだ? 

なに、あの女達も商売だ。後々面倒事にはならないし、もし万が一、失敗して子が出来てもその時は私がなんとかしてーーー」


「……………陛下」


俺は静かに、それでもいつもよりずっと低い声で陛下の言葉を遮って無言で睨み付ける。

すると陛下は俺が本当に怒っていると分かったのか「分かった、分かった。もう言わない」と言って、それでも可笑しそうに笑いながら俺を残して部屋から出て行った。

俺はその後ろ姿を見つめながら陛下の姿が見えなくなるとガックリと肩を落として壁に寄り掛かった。


「………完全に面白がっているな。俺を玩具にするのはやめてくれ。頼むからーーー」


たとえそれを言ったところで、その相手には全く通じない言葉を今は見えないその後ろ姿に俺は呟いた。




【①ー続】






























































































 
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