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第二十八章 王女殿下がXXXの丸焼きをお召し上がりなるまで

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 いや、これでよかったんだ。
 これで……。

 スヤスヤ眠るアリスを見て、僕はほっとしたようながっかりしたような、変なため息をついた。
 いまさらアリスを起こすなんて不躾ぶしつけで身勝手なことはできないし、明日もおそらく、朝早くから地獄のタワーディフェンスが始まる。
 ロードラント軍のかなめとして、アリスにはまだまだ頑張ってもらわなければならないのだから、今夜はゆっくり休んでくれた方が良いのだ。

 と、一応自分を納得させたものの、なおも心残りで、未練がましくアリスの顔を覗き込む。
 それがまずかった。
 見ているうちにどうしても我慢できなくなって、まるで白磁のように美しいアリスのひたいに顔を近づけてしまった。
 これくらいなら許されるだろう。
 そう思って、おやすみのキスをしようとしたのだ。

 けれど――
 気が付いた時には、僕はアリスのうっすら赤い唇に自分の唇を重ねていたのだった。


◇◆◇◆◇◆◇◆◇


 なんてことをしてしまったんだ!

 僕は顔を火照らせ、心臓をバクバクさせながら寝室を出た。

 どうしよう?
 どうしよう?
 よりによって眠れる王女様に勝手にキスしてしまうとは!!

 キス、口づけ、接吻……。
 側から見れば、一晩いっしょに寝てエッチなことをしようとまで考えていたのだから、単にキスしたくらいで、そんなにやましく感じる必要はないのかもしれない。
 でも、キスを――しかもたぶん、アリスにとってのファーストキスを、彼女の寝ている間に僕が合意なく奪ってしまったのは大問題だ。
 たぶんアリスは寝たままで気が付いてないと思うけれど、万が一起きていて、あとから咎めらたら言い訳できない。
 自分の意思に関係なく他人に一方的にキスされるなんて、プライドの高いアリスがもっとも嫌う行為だろうし、もしもここが現実世界だったなら、間違いなく犯罪になってしまう。

 そう考えると後ろめたくて、どうにも居たたまれなくなり、早くこの場から立ち去りたくなった。
 が、眠っているアリスの安全のため、ドアを閉め錠をかけようとしても、肝心のカギを持っていない。
 カギはおそらく部屋の中のどこかにあるはずだが、戻って探すのもかなりの手間だし、その際にアリスを起こしてしまう可能性があった。
 何かいい方法が――?
 と、首をひねっていると、ある呪文のことを思い出した。
 そうだ、ここは魔法でいけるかもしれない。

『ロック!』

 試しに唱えてみると、「カチャッ」と音がしてあっさりドアに鍵がかかった。


◇◆◇◆◇◆◇◆◇


『ロック』『アンロック』

 本当にそのまんま。
 白魔法のレベルが高ければ、どんなドアも扉も一発で開け閉めできる。
 地味ながら非常に便利な魔法だ。


◇◆◇◆◇◆◇◆◇


 よかった、これでアリスの身は安心。
 今はキスのことはひとまず悩むのは止め、シスターマリアとメイドのロゼットが待っている大広間に戻ろう。 
 そう思い、振り返ると――

「ゆ・う・ちゃ・ん!」

 ものすごく唐突に、グリモ男爵がヌッと現れたのだった。
 
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