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第二十七章 一夜の出来事

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 最初の一手は、ナニをどうすればいい?
 
 アリスは裸なんだから、服を脱がす手間はない。
 ベッドに入ったら、しばらくモジモジした後、そっとアリスに覆いかぶさり、向き合ってキスをする。
 最初は軽く唇を重ねる程度に、徐々に激しく、やがてお互い口を開き、クチュクチュと舌と舌を絡ませる。
 頃合いを見計らって、手をアリスの胸にもっていって優しくさわり、興奮が高まったところで、さらに揉んで舐めて吸って、もっと下へもっと下へ――
 それからそれから――

 いやダメダメダメだぁー!!

 あまりの恥ずかしさと強烈な刺激に耐えかねて、僕は妄想するのをやめた。
 これ以上考えると、全身の血液が沸き立って、頭が爆発してしまいそうな気がしたからだ。

 しかし情けない。
 想像するだけでこれなら、実際アリス相手にそんなことしたら、いったい自分はどうなってしまうんだろう?
 なにしろ現実世界では、異性と手をつないだことすらないのだ。
 一足飛びにそんなことをして絶対に上手くできるわけないし、緊張しすぎて本当に心臓発作でも起こしてしまうかもしれない。

 とはいえ、本音では、このまま紳士的にここを立ち去るのも非常に惜しい気がした。 
 こんな絶世の美少女と初体験できるチャンスは、異世界生活の中でもおそらく二度と巡って来ない。
 やっぱりここは、健全な男として、勇気を出して勢いに任せて突き進むべきではないのか?

 だが――
 この期に及んでもまだ頭に浮かんでくるのは、囚われのリナのことだ。
 今も、魔女ヒルダの元でつらく恐ろしい目にあっているリナ。 
 このベッドでアリスと一夜を共にするなんて、リナに対する大きな裏切りのような気がする。
 
 いや待て『裏切り』――?

 バカバカしい! 
 と、急に悲しく皮肉な笑いが込み上げてきた。
 ここでそんな言葉を思い浮かべてしまうなんて、完全な思い上がり。独り相撲も甚だしい。
 なにしろリナにリューゴと言う立派な恋人がいるのだ。彼女が僕のことなんか何とも思っていないのは、はっきりとしている。
 そもそもリナだって、リューゴとやることはやっているのかもしれない。
 グリモ男爵はまだ二人はそういう関係ではない、と言い切っていたけれど……。

 とにかくリナのことは必ず救い出す!
 それでいいではないか。
 だから今はリナに義理立てして、アリスのことを諦める必要なんてまったくないのだ。

 開き直って、僕はもう一度ベッドのアリスを見下ろした。
 アリスはさっきからずっと目を閉じている。
 もう寝てしまったのか、あるいは僕がベッドに飛び込んでくるのを待ってくれているのかは、全然わからない。

 本当に綺麗だ……。

 アリスの美しい寝顔を見ているうちに、僕は喉がカラカラしてきて、さっきのティザーヌ茶のカップを取り、ゴクリと残みほした。
 それからベッドに近づいて、震える手を伸ばした。 
 上掛けの下には、生まれたままの姿のアリスがいる。
 再び体に熱いものがたぎってくる。

 アリスを抱きしめたい! 
 キスしたい! 
 その先もしたい!

 あれ…………?

 この感情って、もしかしたら、僕はアリスのことを好きになりかけているのだろうか?
 あんなに恋焦がれていたリナのことを差し置いて……。
 いや、それとも、この気に乗じて単に自分のギラついた性欲を満たしたいだけなのか?

 わからない。
 自分でもわからない。  
 
 と、かれこれ10分くらいその場で迷い、懊悩おうのうし、身もだえしていると――

「すぴー
   すぴー」

 というアリスの可愛い寝息が、僕の耳に聞こえてきたのだった。

 これは、やってしまった……。
 またしても優柔不断な性格が裏目に出たのだ……。
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