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第二十四章 油断

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「そうだ! これから先――」
 と、ミュゼットが続けて言った。
「親愛の情をこめて、ユウトのこと“お兄ちゃん”って呼んでいい?」

「は!?」

「嫌なの? う~ん……それなら――ユウ兄ちゃんでどう?」

「別に何て呼んでもいいですけど……」
 と、僕はミュゼットに言った。
「まずはそこのハイオークをなんとかしないと……」

「わかってるから、そっちはまかせておいて!」
 ミュゼットはニッコリ笑った。
「変態オークには、ボクがとっておきの魔法でお仕置きしてやるんだから! これを使っちゃうと後がしんどいんだけどね」

 とっておきの――
 ということは、おそらく炎系の最上位攻撃魔法か。

 ミュゼットは僕から少しだけ離れ、パンチを繰り出し続けるハイオークの方を向いた。
 そして瞳を閉じ、精神統一して詠唱を始めた。

 
「偉大なる灼熱の神にして冥府の門番ジャウストよ――!
 我れの手に紅蓮の力と久遠の炎を――!!」

    『  地 獄 の 業 火インフェルノ――――!!!  』 

 
 中二病全開な魔法詠唱――

 が、それをするのがミュゼットだと、まったく痛く見えない。
 むしろ一瞬目を奪われてしまうぐらい、魔法でハイオークに立ち向うミュゼットの姿はさまになっていた。
 
 当然その威力も凄まじい。

 ミュゼットが『地獄の業火インフェルノ』の詠唱を終えた途端、ハイオークの真下の地面が網目状にひび割れ、そこから真紅のマグマが天にも届く勢いで吹き上がった。
 それは僕が今まで見てきたディスプレイに映し出されるゲームのCGとはまったく違う、魔法によって生み出されたリアルで凄絶な炎の嵐だった。

 ハイオークの巨体はたちまちその火柱に包まれ、その最後の咆哮も、燃え立つ炎の轟音によってかき消されてしまう。

 すべてを焼き尽くす『地獄の業火インフェルノ』はその後数分間、荒れ狂うように燃え続け――

 炎が消え去った時には、一体のハイオークが、この異世界から跡形もなく消滅していたのだった。 

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