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第二十四章 油断

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 ミュゼットの前に再度そびえ立つハイオークの巨像。
 その影に隠れたミュゼットの顔に、真の恐怖が浮かぶ。

 ハイオークはそんなか弱いミュゼットを一息に叩き潰してやろうと、無言のまま、大木のような右腕を振り上げた。

「キャ―――――!!」

 ミュゼットが本気の悲鳴を上げる。
 突然の事態に体がすくみ、逃げることができないのだろう。 
 ただ意味なく両手で頭を覆いその場に立ちつくすのみだ。

「ミュゼット――――!!」 

 僕は死ぬ気で走った。
 そして最後は、ヘッドスライディングをするようにジャンプしてミュゼットの体に飛びついた。

『ガード!!!』

 超ギリギリ、間一髪間に合った!

 ハイオークは鉄の拳を力任せに振り下ろしてきのは、僕がミュゼットの体を抱きしめ魔法を唱えた直後だった。

 ドンッ、と音がしてハイオークの拳は『ガード』の壁に跳ね返える。
 その動きが鈍く感じられるのは、やはりミュゼットの『フレイムショット』で受けたダメージのせいか。

 が、ハイオークは一瞬何が起こったのか分からなかったのだろう。
 僕とミュゼットを守っている『ガード』の壁を、そのままガンガン殴り続けた。

 これは昨日ハイオークと戦い、エリックを庇った時と同じ状況。
 つまり気になるのは『ガード』の耐久力の問題だ。
 しかしハイオークの力はかなり弱っているわけだし、しばらくの間は耐えてくれるはずだ。

「大丈夫――ですか?」

 僕はそう言って、半裸のミュゼットを抱きしめていた手をほどいた。
 それでもミュゼットは僕に体を密着させ、離れようとしない。 

「ユウト……」
 ミュゼットが僕の目を見て言った。
「助けてくれたんだ……」

「いや、その――たまたま、です」

「ありがとう。今のユウト、ちょっと格好良かった。ボク、このこと絶対忘れないよ」

 よく見ると、ミュゼットの茶色の瞳は濡れて潤んでいた。
 さらにその顔にはうっすらと赤みが差している。
 こんな綺麗な子にこんな顔をされてしまうと、それだけでドキドキしてしまう。

 ……にしても何なんだ、このシチュエーションは。
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