異世界最弱だけど最強の回復職《ヒーラー》

波崎コウ

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第十五章 信条と約定

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 一人で首を傾げる僕のことなどそっちのけで、ヒルダとシャノンは言い争い続ける。

「いい加減な仕事ですって?」
 シャノンの目の色が変わった。
「ヒルダ、それは聞き捨てならないわね。私は依頼された仕事はきっちりこなす。あの下劣なハイオークと同列に扱われるなんて冗談じゃないわ」

「おやおや――?」
 と、ヒルダは皮肉めいた口調で返す。
「確かにハイオークどもは下品で強欲だが、少なくともキサマよりは数段マシだぞ。曲がりなりにもやつらはロードラント軍をほぼ殲滅せんめつしたのだからな」

「は!? 何言ってるの? 私が役立たずでも言いたいわけ? 今さっき、あなたを助けてあげたのはいったいどこの誰?」

「ではこの傷はなんだ!!」

 ヒルダはローブの袖をまくり右手の甲の傷を見せつけた。
 それは僕がショートソードで付けた切り傷だった。
 血はまだ止まっていない。白く細い手が真っ赤に濡れている。

「そいつにワタシは危うく切り殺されるところだったのだぞ! こういう時のためにキサマを雇っておいたのに、まったく使えない奴だ!」

「その程度のかすり傷でなに騒いでいるの? だいだいここ一帯はロードラントの領内。多少のリスクは覚悟の上で忍び込んだのでしょう? それに――」
 と、シャノンが僕をちらりと見る。
「その子に人が殺せると思う?」

「なんだと?」

「……私には分かる。その子は戦場でまだ人を殺したことはない。あなたや私みたいに手が血で汚れてはいないのよ。こんな荒んだ世界を生きているのにね」

「バカバカしい。そんなこと見ただけでわかるか!」

「あら、あなたほどの魔女がそんなことも見抜けなかったの? その子は王女を取り戻したい一心で剣を振るっただけ。でもね、私が止めなくても結局あなたを殺すことはできなかったはずよ」

 ――いや、それはどうだろう? 

 正直に言って、その点に関しては自信がなかった。
 リナを救い出すためならどんなことでもする。そう思ったのは事実だからだ。
 シャノンが割って入ってこなかったら、ヒルダの胸に剣を突き立てていたかもしれない。
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