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第七章 死闘

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「これじゃあ迂闊うかつに近づけねえな」
 エリックが舌打ちをする。

 確かに少しでも近づけば飛んでくる鉄球の餌食になるし、なんとかふところに入りこんでも、今度は斧で叩き切られてしまう。

 ところが――
 マティアスは躊躇ちゅうちょすることなく長槍を手に持ち、ハイオーク目がけて馬を走らせた。
 しかも一人で。

 ハイオークは「バカめ」と思ったに違いない。
 鎖から手を離し、鉄球をマティアス目がけ勢いをつけて放った。

 ぶつかる! と思ったその寸前――

 マティアスは長槍を持ったまま、馬を捨て地面にわざと転がった。
 鉄球は馬を直撃し、地面にドンッと落ちた。
 張りつめていた鉄球の鎖がだらんと緩む。

 マティアスはすぐさま立ち上がり、長槍を持って、その柄の部分にたるんだ鎖をグルグルと巻き付けてしまった。
 さらに、ハイオークが簡単に鉄球を引き戻さないようにするため、長槍の穂先をぐさりと地面に突き刺した。

 続けてマティアスは槍から手を離し、鎖を握ってそれをグイッと引っ張った。
 ハイオークとマティアスの間で鎖はピン、と直線を描く。
 まるで鉄の鎖でする綱引きだ。

 だが相手は怪物ハイオーク。
 どう考えても人間のマティアスに勝ち目はない。

 と、誰もがそう感じたその時、
 マティアスの体が一瞬、赤く光った。

「うおおおおおおお」

 マティアスが全身の力を込めて鎖を引いた。
 すると、ハイオークがズルズルと地面を引きずられ始めたではないか。

 そうか!
 あれは『パワー』のスキルだ。

『パワー』はごく短時間、力を数十倍にまで高める強力なスキルで高レベルの戦士にしか使えない。
 さすがロードラント軍の副官に任命されるだけの事はある。
 マティアスは竜騎士の中においても、特に優れた能力の持ち主なのだろう。

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