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第42章

異世界のハラミとバラは美味しくないです(4)

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 しばらくフレドリックくんに身を委ねていたのだが、オレの頭の中で書き上げていた城内地図と、フレドリックくんの選択したコースが合致しない?
 わざと遠回りしているように感じるかな?

「フレドリックくん?」
「なんでしょう?」
「道、間違ってない?」
「いえ、これが正しいルートです」

 そう答えながら、フレドリックくんは、ゆっくりと、堂々とした足取りで、人通りの多いルートをわざわざ選択して歩いていく。

 道は間違っていないようだけど、いつものフレドリックくんなら、絶対に使用しないルートだね。
 このルート選択にはなにか意図が隠されているようだ。

 すれ違う騎士、文官、メイドたちが、オレとフレドリックくんを認識すると、慌てたように壁際に寄り、オレたちを凝視する。

 が、フレドリックくんと視線が合うと、びっくりしたようにお辞儀をする。

 手にしていた書類を落としてしまう文官、腰を抜かすメイド、手にしていた槍を落として顔面蒼白になる警備兵。

 突然、涙をにじませながらガタガタと震えだす者もいた。

 その様子を満足そうに眺めながら、フレドリックくんはことさらゆっくりとその前を通り過ぎていく。

「ちょ……フレドリックくん。なにしてるのさ?」

 いつもは壁に徹して目立とうとせずに、気配を殺しているフレドリックくんが、やたらと存在感を周囲にアピールしているよ。しまくっているよ。どうしちゃったんだろうか。

 王者の行進といってもいいくらい、威圧的だよ。
 ぶっちゃけ、ドリアよりも王太子らしい立ち居振る舞いだから困っちゃうね。

 本気モード全開のフレドリックくんの姿は、とても堂々としているよ。

 そのたたずまいはとても格好良くて、できることなら、少し離れた場所で全身を上から下までくまなく観察したい……いや、違う。

 えええと、鑑賞したい……じゃない。

 そうじゃなくて……いつものフレドリックくんとは違う態度に、オレは違和感を覚えた。

「ご不快でしたか?」
「いや……そんなことはない」

 うっかり見惚れてしまいました、とは恥ずかしくて、とてもじゃないけど言えないよ……。

「お疲れのところ申し訳ございません。あともう少しでこの作業も終わりますので、しばし、ご辛抱を……」
「なにが終わるって?」
「威嚇です」
「いかく?」

 ……どういうことでしょうか?

「よい機会ですので、わたしが勇者様のモノであることを、城内の者へ周知させております」
「…………へ?」

 ……なんで?

 今、なんて言った?

「王太子殿下以外にも、アホなことをしそうな身の程知らずな連中が、城内には少しばかりおりますので」

(ちょ、そんな身も蓋もないコト言ってどうするんだよ……)

「そのような連中には、勇者様にアプローチしたければ、まずは、わたしを倒してからにしろ、と、威嚇して回っております。先制攻撃をしかけて抹殺した方が簡単で世のためにはよいのですが、いろいろと込み入った事情がありますので」

(ええええええっっっ!)

 なにそれ、カッコいい……じゃなかった、その、物騒な発想! 危険思想!

 やめて!

 フレドリックくん、やめよう!
 そんな、危険なことはやっちゃだめだ!
 フレドリックくんが、変なことをはじめて大怪我でもしたらどうしよう……。

 顔色をなくしたオレに、フレドリックくんは「大丈夫ですから」と優しく微笑みかけてくる。

「あ――……」

 その蕩けるような男らしい微笑にオレはなにも言えなくなる。

「ずるい……」

 それだけを言うと、オレはフレドリックくんの胸に顔をスリスリする。

 そう、いつも、いつも、このヒトは……ずるいんだよ。

「勇者様は、わたしがお護りいたします」

 フレドリックくんの甘い告白に、オレは嬉しくなって、おもわずうっとりと微笑み返してしまう。

 このやりとりに偶然、遭遇してしまったメイドさんたちの集団が、バタバタとドミノのように倒れていったんだが……大丈夫だろうか。

 誰かに発見してもらって、ちゃんと介抱されたのだろうか。

 それだけが心配だった。
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