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第1章
第22話『失われた手がかり』
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動物園の奥、最も古いエリアにある「旧保護エリア」。
えまと透子は、そこに立っていた。
薄暗く静まり返った空間。
どこからか聞こえる水の音が、不気味に耳に響く。
「……透子さん、本当にこの先に"それ"が……?」
「ええ。"それ"が現れたのは、ここのさらに奥。おそらく"もう一つの影"の次の目的地も、ここにあるわ。」
透子はタブレットを片手に、古い資料を確認する。
その地図には、**「旧保護エリア・特別個体飼育区」**と記されていた。
「この場所、かつては特別な個体が飼育されていたらしいわ。」
「……でも、さっきの資料には、その個体が亡くなったって……」
「問題は、その"特別な個体"と、あの子供の関係よ。」
「……母親の手がかりが、この場所にあるってことですよね?」
「ええ。その可能性が一番高い。」
二人は、慎重にフェンスを越え、旧保護エリアの奥へと進む。
---
しばらく進むと、木々の隙間にぽつんと取り残された小さな建物が現れた。
「……ここ?」
「ええ。かつての資料によれば、この建物は"飼育管理室"だったらしいわ。」
透子が鍵のかかっていない扉を押すと、重い音を立てて開いた。
室内はひどく散らかっていて、資料や書類が床に散乱していた。
「……これ、火事の跡ですね。」
「でも、完全には燃えてない。何か手がかりがあるかもしれないわ。」
二人は慎重に資料を探り始めた。
焦げ跡のある紙の束を手に取ると、ある名前が目に飛び込んできた。
---
「特別個体・カナエ(Kanae)」
「保護者:三浦優子」
---
「……三浦優子?」
「その名前、さっきの水族館の記録にはなかったわ。」
「もしかして、その人が"母親"……?」
「可能性は高いわね。」
透子が急いでタブレットに情報を打ち込む。
「……あったわ。三浦優子、数十年前に動物園で飼育員として働いていたみたい。」
「じゃあ、その人が……?」
「でも、待って……。」
透子が画面を見つめ、眉をひそめる。
「……"行方不明"になってる。」
「えっ?」
「火災があった日に、三浦優子は姿を消していたみたい。しかも、その直前に"何かを守ろうとしていた"という証言が残ってる。」
「……じゃあ、その人は"それ"に協力していた可能性がある?」
「ええ。きっと"それ"は、三浦優子の行方を追いながら、水族館と動物園を行き来していたんだわ。」
「……でも、もしその人がもう……」
えまが言いかけたその時──。
---
「……ギィ……」
---
突如、背後の扉が軋んだ。
「っ!?」
二人が振り返ると、扉の隙間から"影"がゆっくりと入り込んできていた。
それは黒くうねり、まるで何かを探しているかのように動いている。
「……"もう一つの影"!」
「くっ……えま、後ろに!」
透子がえまを引き寄せる。
──その瞬間、影が急に伸び、えまの腕を掴もうとした。
「きゃっ!」
「大丈夫、下がって!」
透子はカメラを構え、赤外線ライトを照らす。
──影が一瞬、怯む。
「今のうちに……!」
二人は慌てて部屋の隅に逃げ込んだ。
しかし──
「……そこに……いるのは……だれ……?」
頭の中に、再びあの声が響く。
「……この声……」
「えま、気を強く持って!」
影は再び揺らぎ、ゆっくりと子供の姿を浮かび上がらせた。
その子は、ぼんやりとクマのぬいぐるみを抱きしめたまま、涙のように揺れていた。
「……ママ……どこ……?」
その声に、えまはふとあることを思い出した。
「……透子さん、"それ"はもしかして……」
「……!」
透子も気づいた。
「"それ"は、三浦優子を探してるんじゃない。"それ"が探しているのは……」
「……あの子の母親の"思い出"!」
「そうよ……!だから"それ"は、ずっと動物園と水族館を行き来していたのね。」
「きっと……"それ"は、その"思い出"を見つけて、この子を影から解放しようとしてたんだ……!」
その瞬間、影が再び大きく膨れ上がった。
「……まずい、来る!」
透子がカメラを構え直す。
だが、その時──
---
「……ママ?」
---
えまのポケットから、ふいにクマのぬいぐるみの目のボタンが転がり落ちた。
「あっ……これ……!」
「それ」は、えまが水族館で拾ったものだった。
"それ"が残した"何か"──。
「……もしかして、これが……?」
えまがぬいぐるみの目のボタンを拾い上げ、影に向かってそっと差し出した。
──影の揺れが、止まった。
「……ママ……?」
小さな声が、悲しげに響いた。
「……おかえり……」
その瞬間、影はゆっくりと光に溶けて消えていった。
──光の中で、小さな子供の姿が笑っていた。
「……ありがとう。」
ふっと、その声が風に乗って消えた。
静寂が戻った部屋で、えまは涙を拭った。
「……"それ"の仲間は……」
「ううん。"それ"の仲間は、きっと今でも"守護者"として存在してるわ。」
透子が優しく答えた。
「……"それ"が守ろうとしたもの、きっと守れたよね。」
えまの言葉に、透子は静かに頷いた。
---
「夜の動物園の異変」──完
えまと透子は、そこに立っていた。
薄暗く静まり返った空間。
どこからか聞こえる水の音が、不気味に耳に響く。
「……透子さん、本当にこの先に"それ"が……?」
「ええ。"それ"が現れたのは、ここのさらに奥。おそらく"もう一つの影"の次の目的地も、ここにあるわ。」
透子はタブレットを片手に、古い資料を確認する。
その地図には、**「旧保護エリア・特別個体飼育区」**と記されていた。
「この場所、かつては特別な個体が飼育されていたらしいわ。」
「……でも、さっきの資料には、その個体が亡くなったって……」
「問題は、その"特別な個体"と、あの子供の関係よ。」
「……母親の手がかりが、この場所にあるってことですよね?」
「ええ。その可能性が一番高い。」
二人は、慎重にフェンスを越え、旧保護エリアの奥へと進む。
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しばらく進むと、木々の隙間にぽつんと取り残された小さな建物が現れた。
「……ここ?」
「ええ。かつての資料によれば、この建物は"飼育管理室"だったらしいわ。」
透子が鍵のかかっていない扉を押すと、重い音を立てて開いた。
室内はひどく散らかっていて、資料や書類が床に散乱していた。
「……これ、火事の跡ですね。」
「でも、完全には燃えてない。何か手がかりがあるかもしれないわ。」
二人は慎重に資料を探り始めた。
焦げ跡のある紙の束を手に取ると、ある名前が目に飛び込んできた。
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「特別個体・カナエ(Kanae)」
「保護者:三浦優子」
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「……三浦優子?」
「その名前、さっきの水族館の記録にはなかったわ。」
「もしかして、その人が"母親"……?」
「可能性は高いわね。」
透子が急いでタブレットに情報を打ち込む。
「……あったわ。三浦優子、数十年前に動物園で飼育員として働いていたみたい。」
「じゃあ、その人が……?」
「でも、待って……。」
透子が画面を見つめ、眉をひそめる。
「……"行方不明"になってる。」
「えっ?」
「火災があった日に、三浦優子は姿を消していたみたい。しかも、その直前に"何かを守ろうとしていた"という証言が残ってる。」
「……じゃあ、その人は"それ"に協力していた可能性がある?」
「ええ。きっと"それ"は、三浦優子の行方を追いながら、水族館と動物園を行き来していたんだわ。」
「……でも、もしその人がもう……」
えまが言いかけたその時──。
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「……ギィ……」
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突如、背後の扉が軋んだ。
「っ!?」
二人が振り返ると、扉の隙間から"影"がゆっくりと入り込んできていた。
それは黒くうねり、まるで何かを探しているかのように動いている。
「……"もう一つの影"!」
「くっ……えま、後ろに!」
透子がえまを引き寄せる。
──その瞬間、影が急に伸び、えまの腕を掴もうとした。
「きゃっ!」
「大丈夫、下がって!」
透子はカメラを構え、赤外線ライトを照らす。
──影が一瞬、怯む。
「今のうちに……!」
二人は慌てて部屋の隅に逃げ込んだ。
しかし──
「……そこに……いるのは……だれ……?」
頭の中に、再びあの声が響く。
「……この声……」
「えま、気を強く持って!」
影は再び揺らぎ、ゆっくりと子供の姿を浮かび上がらせた。
その子は、ぼんやりとクマのぬいぐるみを抱きしめたまま、涙のように揺れていた。
「……ママ……どこ……?」
その声に、えまはふとあることを思い出した。
「……透子さん、"それ"はもしかして……」
「……!」
透子も気づいた。
「"それ"は、三浦優子を探してるんじゃない。"それ"が探しているのは……」
「……あの子の母親の"思い出"!」
「そうよ……!だから"それ"は、ずっと動物園と水族館を行き来していたのね。」
「きっと……"それ"は、その"思い出"を見つけて、この子を影から解放しようとしてたんだ……!」
その瞬間、影が再び大きく膨れ上がった。
「……まずい、来る!」
透子がカメラを構え直す。
だが、その時──
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「……ママ?」
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えまのポケットから、ふいにクマのぬいぐるみの目のボタンが転がり落ちた。
「あっ……これ……!」
「それ」は、えまが水族館で拾ったものだった。
"それ"が残した"何か"──。
「……もしかして、これが……?」
えまがぬいぐるみの目のボタンを拾い上げ、影に向かってそっと差し出した。
──影の揺れが、止まった。
「……ママ……?」
小さな声が、悲しげに響いた。
「……おかえり……」
その瞬間、影はゆっくりと光に溶けて消えていった。
──光の中で、小さな子供の姿が笑っていた。
「……ありがとう。」
ふっと、その声が風に乗って消えた。
静寂が戻った部屋で、えまは涙を拭った。
「……"それ"の仲間は……」
「ううん。"それ"の仲間は、きっと今でも"守護者"として存在してるわ。」
透子が優しく答えた。
「……"それ"が守ろうとしたもの、きっと守れたよね。」
えまの言葉に、透子は静かに頷いた。
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「夜の動物園の異変」──完
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