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「お父様?」
私が問いかけると、父が我に返って咳ばらいをする。
「サシャ、自分が以前、家庭教師を追い出したのを忘れたのか?」
サシャ……。本当にわがまま放題やってたのか。
「申し訳ありません。今度は心を入れ替えて勉強しますので、お願いします」
私は頭を下げた。
道理で、貴族令嬢なのに、日がな一日何もすることなくて暇だなー、って感じだったわけだ。
ことばは通じたけど、文字が全然わからなくて、侍女に教えてもらおうとしたら、侍女は文字は殆ど書けないって言われてしまった。
ただ、これから伯爵家を出ていくなら、知識を得なきゃ、と思っていた。
だけど、返事は返って来ない。
沈黙に、胃がキリキリと痛む。
「お義父様! 僕の家庭教師と一緒に勉強すればいいでしょう?」
ティエリの提案に、顔を上げる。
ティエリが目をキラキラさせて、父に懇願していた。
天使がいる。
「……だが、ティエリが学ぶものはサシャの年齢では既に学んでいるものだ」
固い声で父が告げる。
「いえ。私はずっと勉強から逃げておりましたので、ティエリが学ぶものを一緒に学ばせてもらえるだけでもありがたいです」
何しろ、沙耶の記憶に書き換えられたせいか、この世界の記憶が全くない。
だから、小さい頃に学ぶものを一緒に学ばせてもらえる方が、願ったりかなったりだ。
それに……きっと両親は私とティエリを二人きりにはもうさせないようにするだろう。
そのつもりがないと宣言したところで、両親は可能性をゼロにしたいはずだ。
そうすると、ティエリに会えるのは、この食事の時間だけになってしまう。
学ぶ時間も一緒に居られるのであれば、癒しの時間がきちんと確保できるから、一石二鳥だ。
「ティエリの勉強の邪魔はしません。一緒に受けさせてもらえるだけでも良いのです」
幸い、勉強するのは嫌いじゃなかった。
だから、聞いたことを、また復習して、自分のものにしていけばいいだけだ。
「……あなた、勉強するくらいいいんじゃなくて? 今後、サシャが文字が読めないことで我が家が悪く言われてしまうことはあっても、勉強をさせたことで私たちが困ることはないわ」
「……そうだな」
義母は“勉強する私”にメリットを感じたようだ。
義母が私を嫌っていたとしても、常識的で良かった!
「やった! お義姉様と一緒に勉強できるんだね!」
「お父様、お義母様ありがとうございます。ティエリ。一生懸命勉強しましょうね」
「うん。頑張って勉強する!」
私がニコリと笑いかけると、ティエリもニコリと笑う。
「サシャ、ダンスのレッスンはどうするんだ」
父の提案に驚く。
確かに、令嬢としてはダンスはたしなみなんだろうけど。
「私にダンスの才能はなさそうですので……」
他の誰かと触れるってことが無理なのに、ダンスとか無理。
「だったら、僕と練習しよう!」
「身長差があって、練習にならないと思うわ」
私は苦笑する。
ティエリとだったら踊れると思うけど、身長差だけはどうしようもない。
しゃがんで踊るわけにもいかないし。
「僕の身長が伸びないままだったら、誰とも踊れなくて結婚できないってこと?」
眉を寄せるティエリに焦ったのは、義母だ。
「身長はもっと伸びるはずよ。それに、例え身長が低かったとしても、ティエリは結婚出来るわ」
「じゃあ、身長差があっても踊れるように、練習しないといけないよね?」
こてんと首を傾げるティエリの上目遣いに胸を射抜かれる。
ティエリのおねだりとか、叶えたさ過ぎる。
私が問いかけると、父が我に返って咳ばらいをする。
「サシャ、自分が以前、家庭教師を追い出したのを忘れたのか?」
サシャ……。本当にわがまま放題やってたのか。
「申し訳ありません。今度は心を入れ替えて勉強しますので、お願いします」
私は頭を下げた。
道理で、貴族令嬢なのに、日がな一日何もすることなくて暇だなー、って感じだったわけだ。
ことばは通じたけど、文字が全然わからなくて、侍女に教えてもらおうとしたら、侍女は文字は殆ど書けないって言われてしまった。
ただ、これから伯爵家を出ていくなら、知識を得なきゃ、と思っていた。
だけど、返事は返って来ない。
沈黙に、胃がキリキリと痛む。
「お義父様! 僕の家庭教師と一緒に勉強すればいいでしょう?」
ティエリの提案に、顔を上げる。
ティエリが目をキラキラさせて、父に懇願していた。
天使がいる。
「……だが、ティエリが学ぶものはサシャの年齢では既に学んでいるものだ」
固い声で父が告げる。
「いえ。私はずっと勉強から逃げておりましたので、ティエリが学ぶものを一緒に学ばせてもらえるだけでもありがたいです」
何しろ、沙耶の記憶に書き換えられたせいか、この世界の記憶が全くない。
だから、小さい頃に学ぶものを一緒に学ばせてもらえる方が、願ったりかなったりだ。
それに……きっと両親は私とティエリを二人きりにはもうさせないようにするだろう。
そのつもりがないと宣言したところで、両親は可能性をゼロにしたいはずだ。
そうすると、ティエリに会えるのは、この食事の時間だけになってしまう。
学ぶ時間も一緒に居られるのであれば、癒しの時間がきちんと確保できるから、一石二鳥だ。
「ティエリの勉強の邪魔はしません。一緒に受けさせてもらえるだけでも良いのです」
幸い、勉強するのは嫌いじゃなかった。
だから、聞いたことを、また復習して、自分のものにしていけばいいだけだ。
「……あなた、勉強するくらいいいんじゃなくて? 今後、サシャが文字が読めないことで我が家が悪く言われてしまうことはあっても、勉強をさせたことで私たちが困ることはないわ」
「……そうだな」
義母は“勉強する私”にメリットを感じたようだ。
義母が私を嫌っていたとしても、常識的で良かった!
「やった! お義姉様と一緒に勉強できるんだね!」
「お父様、お義母様ありがとうございます。ティエリ。一生懸命勉強しましょうね」
「うん。頑張って勉強する!」
私がニコリと笑いかけると、ティエリもニコリと笑う。
「サシャ、ダンスのレッスンはどうするんだ」
父の提案に驚く。
確かに、令嬢としてはダンスはたしなみなんだろうけど。
「私にダンスの才能はなさそうですので……」
他の誰かと触れるってことが無理なのに、ダンスとか無理。
「だったら、僕と練習しよう!」
「身長差があって、練習にならないと思うわ」
私は苦笑する。
ティエリとだったら踊れると思うけど、身長差だけはどうしようもない。
しゃがんで踊るわけにもいかないし。
「僕の身長が伸びないままだったら、誰とも踊れなくて結婚できないってこと?」
眉を寄せるティエリに焦ったのは、義母だ。
「身長はもっと伸びるはずよ。それに、例え身長が低かったとしても、ティエリは結婚出来るわ」
「じゃあ、身長差があっても踊れるように、練習しないといけないよね?」
こてんと首を傾げるティエリの上目遣いに胸を射抜かれる。
ティエリのおねだりとか、叶えたさ過ぎる。
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