27 / 62
マット・クーンの確信②
しおりを挟む
歩いて10分ほどの場所に、高等部の校舎はある。
マットはその10分ほどの間に、レイーアと会う計画を練り上げた。
練り上げた、と言っても、単純なものだ。
落とし物作戦。
元々マットの持ち物であるハンカチーフを、レイーアのものじゃないか、と言ってレイーアにつないでもらうのだ。
マディーを使うことを考えたが、そもそも今、マットがレイーアに会わなければいけない理由など皆無だ。
だから、今回はすぐに思いついた落とし物作戦で行くことにした。
少々単純すぎるが、きっとお人好しだろうレイーアは意図的なものに気付きもしないだろう、とマットは思っている。
そして、レイーアと知り合いになったら、天使の美貌を駆使して、高等部の人間たちとの繋がりをつけてもらうように誘導していくのだ。
マットはこの作戦は成功すると確信していた。
なぜなら、マディーの姉だからだ。
マディーもマットの顔に一瞬見惚れていたくらいだった。だから、姉であるレイーアも、きっとマットの顔だけで言うことを聞いてくれるはずだ。
他の大人たちのように。
中等部の制服の人間が高等部の敷地の中にいるのは、当然目立った。それにマットの美貌だ。
すぐさま、マットに声を掛けてくるお姉さまがいた。その目はハートに見える。
貴族名鑑が頭に入っているマットは、そのお姉さまが自分の役に立ちそうか否かを算段しながら、ニコニコと返事をした。勿論、その加減を間違えると、変に執着される。だから、その部分は慎重に行わなければならない。
下手をすると、自分より一枚上手な相手かもしれないのだ。
だが、幸いお姉さまはちょろかった。
すぐにレイーアを呼んでもらえることになった。
高等部の人間も、まだちょろい。マットは走って行くお姉さまの後ろ姿を見つめながら、次に会ったときには大げさにお礼を言わなければ、と頭の隅に置いた。
レイーアを待つ間、どんな会話でレイーアを御そうと算段する。
「えーっと、私を呼んだのは、あなたかしら?」
特別に美人と言うわけではないが、優しさが見てわかるような優しい表情の女性が、レイーアだった。
レイーアはマットのところに来ると、戸惑った様子で声をかけてきた。
見ず知らずの相手だ。仕方ないだろう。
「あの……ハンカチーフを落としませんでしたか?」
マットがハンカチーフを出してレイーアを見上げる。
今の身長差では、どうしても見上げることになってしまう。
そして、その見上げるしぐさが、天使の愛らしさに環をかけるのだと、マットは重々理解している。
だが、当のレイーアは表情も変えずに首をかしげた。
いつもなら、マットは見惚れられている瞬間なのに、だ。
マットは見惚れて来ないレイーアに驚く。
弟のマディーは、性別が違うにも関わらず見惚れてきたというのに、兄弟でもこんなに反応が違うのだろうか。
「ごめんなさい。それは私のではないわ」
レイーアの答えに、マットは目を潤ませてみた。
その表情が、庇護欲をそそると理解している。
「そうなんですか」
マットの反応に、レイーアが慌てる。
「ごめんなさいね。でも、違うのよ。代わりに、持ち主を探してあげましょうか?」
マットは首をふるふるとふった。
お人好しなのだけは、兄弟そっくりかもしれない。
「でも、わざわざこんなところまで持ってきたんでしょう? ……制服を着てたら見間違えて勘違いするかもしれないわよね。……私みたいに黒い髪の人だと、ルルック伯爵家のご令嬢とかいるわ?」
確かにレイーアが出した名前の令嬢は、レイーアと同じように黒髪だった。
「いえ……あなたみたいに、かわいらしい人だったんです!」
ルルック伯爵令嬢は、ゴージャス美人の部類だ。だから違うのだとマットは主張した。
「そう、なの」
だが、マットの誉め言葉は、レイーアにスルーされた。
「ごめんなさい。お役にたてそうになくて」
マットは首をふった。
問題は、レイーアを駒のひとつとして使えるかどうかだ。
今のところ、手応えがなかった。
「ねえ、おうち、一人で帰れる?」
マットはレイーアに言われた言葉が、一瞬理解できなかった。
「え?」
マットが見上げると、レイーアは真剣な目でマットを見ていて、マットは逆にドキリとする。
「だって、おうちの人を連れずにこんなところまで来ちゃったんでしょう? おうちの人が心配しているわ。この学院がある場所って、王都の外れの辺鄙なところだから。来るのも大変だったんじゃない? おうちはどこなの?」
マットは嫌な予感がした。
「あの……中等部なので、そこまで遠くはありませんけど……」
マットの言葉に、レイーアはハッとする。
「そうなの? ごめんなさい! 制服も着てないし、中等部の生徒だとは思わなくって」
レイーアも顔を赤らめたが、マットも屈辱で顔を赤らめた。
レイーアは抜けている。それだけは間違いないとマットは確信した。
マットはその10分ほどの間に、レイーアと会う計画を練り上げた。
練り上げた、と言っても、単純なものだ。
落とし物作戦。
元々マットの持ち物であるハンカチーフを、レイーアのものじゃないか、と言ってレイーアにつないでもらうのだ。
マディーを使うことを考えたが、そもそも今、マットがレイーアに会わなければいけない理由など皆無だ。
だから、今回はすぐに思いついた落とし物作戦で行くことにした。
少々単純すぎるが、きっとお人好しだろうレイーアは意図的なものに気付きもしないだろう、とマットは思っている。
そして、レイーアと知り合いになったら、天使の美貌を駆使して、高等部の人間たちとの繋がりをつけてもらうように誘導していくのだ。
マットはこの作戦は成功すると確信していた。
なぜなら、マディーの姉だからだ。
マディーもマットの顔に一瞬見惚れていたくらいだった。だから、姉であるレイーアも、きっとマットの顔だけで言うことを聞いてくれるはずだ。
他の大人たちのように。
中等部の制服の人間が高等部の敷地の中にいるのは、当然目立った。それにマットの美貌だ。
すぐさま、マットに声を掛けてくるお姉さまがいた。その目はハートに見える。
貴族名鑑が頭に入っているマットは、そのお姉さまが自分の役に立ちそうか否かを算段しながら、ニコニコと返事をした。勿論、その加減を間違えると、変に執着される。だから、その部分は慎重に行わなければならない。
下手をすると、自分より一枚上手な相手かもしれないのだ。
だが、幸いお姉さまはちょろかった。
すぐにレイーアを呼んでもらえることになった。
高等部の人間も、まだちょろい。マットは走って行くお姉さまの後ろ姿を見つめながら、次に会ったときには大げさにお礼を言わなければ、と頭の隅に置いた。
レイーアを待つ間、どんな会話でレイーアを御そうと算段する。
「えーっと、私を呼んだのは、あなたかしら?」
特別に美人と言うわけではないが、優しさが見てわかるような優しい表情の女性が、レイーアだった。
レイーアはマットのところに来ると、戸惑った様子で声をかけてきた。
見ず知らずの相手だ。仕方ないだろう。
「あの……ハンカチーフを落としませんでしたか?」
マットがハンカチーフを出してレイーアを見上げる。
今の身長差では、どうしても見上げることになってしまう。
そして、その見上げるしぐさが、天使の愛らしさに環をかけるのだと、マットは重々理解している。
だが、当のレイーアは表情も変えずに首をかしげた。
いつもなら、マットは見惚れられている瞬間なのに、だ。
マットは見惚れて来ないレイーアに驚く。
弟のマディーは、性別が違うにも関わらず見惚れてきたというのに、兄弟でもこんなに反応が違うのだろうか。
「ごめんなさい。それは私のではないわ」
レイーアの答えに、マットは目を潤ませてみた。
その表情が、庇護欲をそそると理解している。
「そうなんですか」
マットの反応に、レイーアが慌てる。
「ごめんなさいね。でも、違うのよ。代わりに、持ち主を探してあげましょうか?」
マットは首をふるふるとふった。
お人好しなのだけは、兄弟そっくりかもしれない。
「でも、わざわざこんなところまで持ってきたんでしょう? ……制服を着てたら見間違えて勘違いするかもしれないわよね。……私みたいに黒い髪の人だと、ルルック伯爵家のご令嬢とかいるわ?」
確かにレイーアが出した名前の令嬢は、レイーアと同じように黒髪だった。
「いえ……あなたみたいに、かわいらしい人だったんです!」
ルルック伯爵令嬢は、ゴージャス美人の部類だ。だから違うのだとマットは主張した。
「そう、なの」
だが、マットの誉め言葉は、レイーアにスルーされた。
「ごめんなさい。お役にたてそうになくて」
マットは首をふった。
問題は、レイーアを駒のひとつとして使えるかどうかだ。
今のところ、手応えがなかった。
「ねえ、おうち、一人で帰れる?」
マットはレイーアに言われた言葉が、一瞬理解できなかった。
「え?」
マットが見上げると、レイーアは真剣な目でマットを見ていて、マットは逆にドキリとする。
「だって、おうちの人を連れずにこんなところまで来ちゃったんでしょう? おうちの人が心配しているわ。この学院がある場所って、王都の外れの辺鄙なところだから。来るのも大変だったんじゃない? おうちはどこなの?」
マットは嫌な予感がした。
「あの……中等部なので、そこまで遠くはありませんけど……」
マットの言葉に、レイーアはハッとする。
「そうなの? ごめんなさい! 制服も着てないし、中等部の生徒だとは思わなくって」
レイーアも顔を赤らめたが、マットも屈辱で顔を赤らめた。
レイーアは抜けている。それだけは間違いないとマットは確信した。
0
お気に入りに追加
118
あなたにおすすめの小説
異世界転生してみたら、攻略対象に躾けられています!
三谷朱花
恋愛
渡辺円は37才独身。彼氏いない歴年齢。趣味は乙女ゲーム。そして、目が覚めるとなぜか乙女ゲームのヒロイン(アンナ・オレック男爵令嬢)役に! ひゃっほい! と思えたのは、一瞬だけだった。最初に出会う攻略対象ハンセン・フォーム伯爵令息に、マナーがなっていないと、こっぴどく叱られた! そして、気が付けば、アンナはフラグを探し回る暇がないほど、ハンセンに嫌味を言われながらレディとして躾けられている。他の攻略対象に走りたいアンナと、マナーのなっていないアンナが気に食わないハンセンのラブコメディ
※アルファポリスのみの公開です。
こわいかおの獣人騎士が、仕事大好きトリマーに秒で堕とされた結果
てへぺろ
恋愛
仕事大好きトリマーである黒木優子(クロキ)が召喚されたのは、毛並みの手入れが行き届いていない、犬系獣人たちの国だった。
とりあえず、護衛兼監視役として来たのは、ハスキー系獣人であるルーサー。不機嫌そうににらんでくるものの、ハスキー大好きなクロキにはそんなの関係なかった。
「とりあえずブラッシングさせてくれません?」
毎日、獣人たちのお手入れに精を出しては、ルーサーを(犬的に)愛でる日々。
そのうち、ルーサーはクロキを女性として意識するようになるものの、クロキは彼を犬としかみていなくて……。
※獣人のケモ度が高い世界での恋愛話ですが、ケモナー向けではないです。ズーフィリア向けでもないです。
【完結】お見合いに現れたのは、昨日一緒に食事をした上司でした
楠結衣
恋愛
王立医務局の調剤師として働くローズ。自分の仕事にやりがいを持っているが、行き遅れになることを家族から心配されて休日はお見合いする日々を過ごしている。
仕事量が多い連休明けは、なぜか上司のレオナルド様と二人きりで仕事をすることを不思議に思ったローズはレオナルドに質問しようとするとはぐらかされてしまう。さらに夕食を一緒にしようと誘われて……。
◇表紙のイラストは、ありま氷炎さまに描いていただきました♪
◇全三話予約投稿済みです
面倒くさがりやの異世界人〜微妙な美醜逆転世界で〜
波間柏
恋愛
仕事帰り電車で寝ていた雅は、目が覚めたら満天の夜空が広がる場所にいた。目の前には、やたら美形な青年が騒いでいる。どうしたもんか。面倒くさいが口癖の主人公の異世界生活。
短編ではありませんが短めです。
別視点あり
転生無双なんて大層なこと、できるわけないでしょう!〜公爵令息が家族、友達、精霊と送る仲良しスローライフ〜
西園寺若葉
ファンタジー
転生したラインハルトはその際に超説明が適当な女神から、訳も分からず、チートスキルをもらう。
どこに転生するか、どんなスキルを貰ったのか、どんな身分に転生したのか全てを分からず転生したラインハルトが平和な?日常生活を送る話。
- カクヨム様にて、週間総合ランキングにランクインしました!
- アルファポリス様にて、人気ランキング、HOTランキングにランクインしました!
- この話はフィクションです。
【完結】夜会で借り物競争をしたら、イケメン王子に借りられました。
櫻野くるみ
恋愛
公爵令嬢のセラフィーナには生まれつき前世の記憶があったが、覚えているのはくだらないことばかり。
そのどうでもいい知識が一番重宝されるのが、余興好きの国王が主催する夜会だった。
毎年余興の企画を頼まれるセラフィーナが今回提案したのは、なんと「借り物競争」。
もちろん生まれて初めての借り物競争に参加をする貴族たちだったが、夜会は大いに盛り上がり……。
気付けばセラフィーナはイケメン王太子、アレクシスに借りられて、共にゴールにたどり着いていた。
果たしてアレクシスの引いたカードに書かれていた内容とは?
意味もなく異世界転生したセラフィーナが、特に使命や運命に翻弄されることもなく、王太子と結ばれるお話。
とにかくツッコミどころ満載のゆるい、ハッピーエンドの短編なので、気軽に読んでいただければ嬉しいです。
完結しました。
小説家になろう様にも投稿しています。
小説家になろう様への投稿時から、タイトルを『借り物(人)競争』からただの『借り物競争』へ変更いたしました。
【完結】聖女召喚に巻き込まれたバリキャリですが、追い出されそうになったのでお金と魔獣をもらって出て行きます!
チャららA12・山もり
恋愛
二十七歳バリバリキャリアウーマンの鎌本博美(かまもとひろみ)が、交差点で後ろから背中を押された。死んだと思った博美だが、突如、異世界へ召喚される。召喚された博美が発した言葉を誤解したハロルド王子の前に、もうひとりの女性が現れた。博美の方が、聖女召喚に巻き込まれた一般人だと決めつけ、追い出されそうになる。しかし、バリキャリの博美は、そのまま追い出されることを拒否し、彼らに慰謝料を要求する。
お金を受け取るまで、博美は屋敷で暮らすことになり、数々の騒動に巻き込まれながら地下で暮らす魔獣と交流を深めていく。
泥棒猫になり損ねた男爵令嬢は、策士な公爵令息に溺愛される。第二王子の公妾になるつもりが、どうしてこうなった。
石河 翠
恋愛
母が亡くなり、父である男爵に引き取られた平民育ちのケリー。
彼女は父の命令により、貴族の子女が通う学園に放り込まれてしまう。結婚相手を見つけられなければ、卒業後すぐに好色な金持ち老人に後妻として売り飛ばすと脅された上で。
そんな彼女が目をつけたのは、婚約者の公爵令嬢とは不仲という噂の第二王子。正妃である必要はない。殿下の妾になればきっと今より幸せになれるはず。
必死にアプローチする彼女だったが、ある日公爵令嬢と第二王子、それぞれの本音を知ってしまう。
バカらしくなった彼女は慎ましやかな幸せを手に入れるため心を入れ換えるのだが……。
悪人になれないお人好しヒロインと、一目惚れしたヒロインを一途に追いかけた策士なヒーローのお話。
ハッピーエンドです。
この作品は他サイトにも投稿しております。
扉絵は、写真ACよりチョコラテさまの作品(写真ID:5059760)をお借りしております。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる