妻の秘密

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第16話 二人の子供

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 出向先の子会社での仕事は順調だった。いくつかのプロジェクトの起案からリリースまでの各工程における課題を担当者の資料から吸い上げ、指摘事項としてまとめ、それを改修させる事が僕の役目だった。
確かにプロジェクトリードサポートという名目に間違いのない仕事だった。
 
 指摘は概ね好評で、今まで客先から出て来ていたクレームを事前につぶせると各プロジェクトリーダは喜んでいた。

 出向という身分も有るのか、偶に部長が気を使って夕食誘ってくれる。上手く行っている証拠だろう。

 薫が、僕のマンスリーマンションに来てから、一か月近くが立っていた。そろそろ連絡が、ある事だ。
香澄にもはっきり言わないといけない。


美羽を寝かしつけ、食事を終えた僕達は、リビングでコーヒーを飲んでいる。
「香澄。話がある」

僕の言い方に顔を緊張させながら
「なに。あなた」

「二つ話したいことがある。
 一つ目だが。美羽の事だ。美羽は、中田洋二と香澄の間に出来た子供だ。
だが、あいつは犯罪者だ。家族からも勘当とは言えないが、仕事上の色々な立場を外されている。
だから、美羽に中田をお父さんと呼ばせるわけには行かない。美羽は、成人になるまで、僕が父親になる。もちろんその後もだ。美羽が成人になった時、あの子の精神的成長具合を見て、話すか判断しよう」

香澄は、僕の意見を嬉しく思ったらしく
「ごめんなさい。あなた。……ありがとうございます」
「美羽は、二人の子だ。もうその顔は、今限りにしなさい」
「はい」
涙目で笑顔を作ってくれた。


「二つ目の事だ」
「美香ちゃんの件ですね」
「そうだ。薫さんと会った」

「えっ」
「聞きなさい。美香は、僕と薫さんとの間に出来た子供だ。僕は父親としての責任がある。戸籍上は、違うとしても。
 薫さんに聞いた。いずれ美香が、本当の父親を知る時が来るだろう。その時、不幸な事は、偶然として知られることだ。今教えるか。将来教えるか。どちらを選ぶか聞いた。
 ……今教えて欲しいと言われた。美香への説明は薫さんがするそうだ。養育費などの請求は一切しないと。
 ……後、正直に言おう。薫さんが、月に一度僕と会いたいと言っている。
もう、二人の間に隠し事は無い様にしたい。だから正直に話した」

「あなたは、それを受けたのですか」
泣きそうな寂しそうな顔で言って来る。

頷いた。

・・・・・・。



「薫さんとの間にまた子供が出来たらどうするのですか。また、産むのですか」
自棄になった言い様だ。

「それは無い様にする」
「二人目は香澄とだけだ」

・・・・・・。



香澄が口を開くまで待った。
ずっと下を向いている。長い時間が過ぎた。もう十二時を過ぎている。

「約束してください。二人目は、私が必ず先に産むと」
「……。約束する。薫さんにもはっきり言う」

「私達を捨てて薫さんと一緒になる様な事は無いですね。必ずここへ戻って来てくれますよね」
「僕は香澄と美羽を、この世で一番大切な家族と思っている。香澄、世界で一番愛しているのはお前だ」

・・・・・・。



「分かりました。絶対に約束守って下さいね」
「大丈夫だ」

はっきりと意思を込めて言った。

「なら、今日も証明してくれますよね」

「……」
○○ケル飲んでない。はぁー。



それから数日後、薫と会った。香澄に話した内容を薫にも話した。相当驚いていた。
特に自分と月に一度会う事を本妻が許したという事を。


「ふふっ、私の負けですね。香澄さんの勝ちです」
「えっ、どういう意味」

「ふふっ、男の人には分からない女性の心の中だけの戦いです。香澄さんは、私の言葉を理解したのでしょう」


全く分からなかった。 
子供を産んだ女性恐ろしき。(世界のお母さまたちへ、これは小説です)


子会社に出向して、一年が経った。香澄と薫。それぞれのとの関係も平穏に過ごしていた時だった。

「康人さん。突然で申し訳ないのですが、父があなたに会いたいと申しております」
「えっ。ええっー。それってもしかして」

切り刻まれて、東京湾に。……。ひーぃ。

「変な妄想していませんでした」
「い、いや」


「ふふっ、お仕事の話です。父が、私が幸せそうな雰囲気にしているのを見て、不思議に思ったそうです。洋二と別れて、子供が居て大変なはずなのにと。
 それで。……申し訳なかったのですが、今の康人と私の関係を話しました。もちろんご家族の事も。
 そうしたら、面白い男だ。一度会いたいと申しまして」

「……」

「いつ。金田物産の社長ですよね。薫のお父さん」
「大丈夫です。私にとっては、一人の父親ですから」
「そうは、言っても」

「日付ですが、来週辺り、何処か空いていないかという事です。出来れば木曜日の午後六時に会社に来て欲しいと」
「えっ、えっ、えー」

「私も一緒です。殺されはしません」
「コロサレ……」
「冗談です」

「ふう、参ったな」
「忘れさせてあげます」

いきなり唇を塞いできた。



僕は、事の次第を香澄に話した上で、薫と一緒に金田物産の東京本社に行った。

ただ見上げるだけの巨大なオフィスビル。
「ここ?」
「ええ、入りましょう」


入り口を入ると社長秘書なのか
「薫様。お待ちしておりました。社長がお待ちです。そちらが河西様ですね。本日はご足労頂きありがとうございます。こちらへ」

通行証も無く、セキュリティゲートはオープンに。考えられない。
エレベータは直通。


「こちらです。お入りください」
社長秘書の方が、ドアを開けると
「社長。来られました」


「待っていたぞ。河西君」
じっと、瞳の奥にある光で射貫く様に僕を見た。
ここまで来ると、僕も場数を踏んでいる。


「本日は、お招き頂きありがとうございます。河西康人です」
「ふむ」
それだけ言うと、

「取敢えず掛け給え。立っていても仕方ない。薫も座りなさい」
「はい。お父様」

「河西君。娘の薫から事の次第を聞いているよ。男として羨ましい限りだな。本妻がいて幸せな家庭を持っている上に、うちの娘を妾の様に、いや失礼。大事にしてくれているそうじゃないか。礼を言う」
「いえ、とんでもありません。美香ちゃんの父としてどうすればいいか、薫さんと話し、妻とも話した上で出した結論です」

「いやあ、だから凄いんだよ。普通、そんなことになれば、家庭崩壊も免れないぞ」
「はあ」
「薫、思っていた通り、自己評価が低い人のようだな」
「そんな事ありません。薫にとって康人さんは素晴らしい人です」
「聞くだけ野暮か」

「本題に入ろう。今日来てもらったのは、仕事の件だ。今、君は今回の件で責任を取らされて、子会社に出向になっているそうじゃないか。
だが、聞くところによると、君の手腕でプロジェクトの客先評価が高くなっていると聞く。
本社サイドも、そろそろその事が耳に入り始めたようだ」

「なぜ、その事を」
「君、我が社は君の親会社の顧客、それも重要顧客だ。その程度の情報はいくらでも入る。
話が逸れた。実言うと、この話を聞いた私の友人である中田産業の社長が、君に興味を示してな」

「えっ」
「詳しい事は聞いていないが、社長付として雇いたいそうだ。そうだな。中田」
奥のドアが開いて背の高い男が現れた。

「その通りだよ。河西君。君と薫さんの話を聞いた時は、金田社長と全く同じ感想でね。そんな豪傑この世にいるかと思ったが、取敢えず会ってみたいものだと思ってな。
 そこで、金田社長を通じて君を紹介して貰ったわけだ。
実際に会ってみれば、仕事は出来るのに、自己評価控えめ。処遇が合わないのに愚痴も言わない。それでいて、二人の女性の心を射止めている。なんて男なんだね君は。
そう言う訳で、僕の側で仕事してみる気はないかね。社長付として」

「社長付ですか」
「そうだ、成果次第では、中田産業を任せてもよい」
「しかし、中田社長には、ご子息がいるのでは」
「洋二の事か。だめだ。あれは、あの後、ほとぼりの覚めた三か月後に、部署を変えて復帰させたが、女の子に手を出してな。それも合意の上ではなく。身内の恥をさらすようだが、あれは、もう期待していない。自分で自立しろと言ってある」

金田社長が口を開いた。
「こういう表現は好ましくないが、少なくとも今の収入の三倍は出る。どうかな。薫の幸せの為にも、この話、受けてくれないか」

「会社に話さないと」
「君の親会社の社長とは、大学の同期でね。もう話は通した。中田も同期だよ」
「えっ、えー。すみません。驚いて」
「なあに構わんさ」


―――――

なんか、凄い話になってきました。

次回をお楽しみに。

面白そうとか、次も読みたいなと思いましたら、ぜひご評価頂けると投稿意欲が沸きます。
感想や、誤字脱字のご指摘待っています。
宜しくお願いします。


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