16 / 21
第16話 二人の子供
しおりを挟む出向先の子会社での仕事は順調だった。いくつかのプロジェクトの起案からリリースまでの各工程における課題を担当者の資料から吸い上げ、指摘事項としてまとめ、それを改修させる事が僕の役目だった。
確かにプロジェクトリードサポートという名目に間違いのない仕事だった。
指摘は概ね好評で、今まで客先から出て来ていたクレームを事前につぶせると各プロジェクトリーダは喜んでいた。
出向という身分も有るのか、偶に部長が気を使って夕食誘ってくれる。上手く行っている証拠だろう。
薫が、僕のマンスリーマンションに来てから、一か月近くが立っていた。そろそろ連絡が、ある事だ。
香澄にもはっきり言わないといけない。
美羽を寝かしつけ、食事を終えた僕達は、リビングでコーヒーを飲んでいる。
「香澄。話がある」
僕の言い方に顔を緊張させながら
「なに。あなた」
「二つ話したいことがある。
一つ目だが。美羽の事だ。美羽は、中田洋二と香澄の間に出来た子供だ。
だが、あいつは犯罪者だ。家族からも勘当とは言えないが、仕事上の色々な立場を外されている。
だから、美羽に中田をお父さんと呼ばせるわけには行かない。美羽は、成人になるまで、僕が父親になる。もちろんその後もだ。美羽が成人になった時、あの子の精神的成長具合を見て、話すか判断しよう」
香澄は、僕の意見を嬉しく思ったらしく
「ごめんなさい。あなた。……ありがとうございます」
「美羽は、二人の子だ。もうその顔は、今限りにしなさい」
「はい」
涙目で笑顔を作ってくれた。
「二つ目の事だ」
「美香ちゃんの件ですね」
「そうだ。薫さんと会った」
「えっ」
「聞きなさい。美香は、僕と薫さんとの間に出来た子供だ。僕は父親としての責任がある。戸籍上は、違うとしても。
薫さんに聞いた。いずれ美香が、本当の父親を知る時が来るだろう。その時、不幸な事は、偶然として知られることだ。今教えるか。将来教えるか。どちらを選ぶか聞いた。
……今教えて欲しいと言われた。美香への説明は薫さんがするそうだ。養育費などの請求は一切しないと。
……後、正直に言おう。薫さんが、月に一度僕と会いたいと言っている。
もう、二人の間に隠し事は無い様にしたい。だから正直に話した」
「あなたは、それを受けたのですか」
泣きそうな寂しそうな顔で言って来る。
頷いた。
・・・・・・。
「薫さんとの間にまた子供が出来たらどうするのですか。また、産むのですか」
自棄になった言い様だ。
「それは無い様にする」
「二人目は香澄とだけだ」
・・・・・・。
香澄が口を開くまで待った。
ずっと下を向いている。長い時間が過ぎた。もう十二時を過ぎている。
「約束してください。二人目は、私が必ず先に産むと」
「……。約束する。薫さんにもはっきり言う」
「私達を捨てて薫さんと一緒になる様な事は無いですね。必ずここへ戻って来てくれますよね」
「僕は香澄と美羽を、この世で一番大切な家族と思っている。香澄、世界で一番愛しているのはお前だ」
・・・・・・。
「分かりました。絶対に約束守って下さいね」
「大丈夫だ」
はっきりと意思を込めて言った。
「なら、今日も証明してくれますよね」
「……」
○○ケル飲んでない。はぁー。
それから数日後、薫と会った。香澄に話した内容を薫にも話した。相当驚いていた。
特に自分と月に一度会う事を本妻が許したという事を。
「ふふっ、私の負けですね。香澄さんの勝ちです」
「えっ、どういう意味」
「ふふっ、男の人には分からない女性の心の中だけの戦いです。香澄さんは、私の言葉を理解したのでしょう」
全く分からなかった。
子供を産んだ女性恐ろしき。(世界のお母さまたちへ、これは小説です)
子会社に出向して、一年が経った。香澄と薫。それぞれのとの関係も平穏に過ごしていた時だった。
「康人さん。突然で申し訳ないのですが、父があなたに会いたいと申しております」
「えっ。ええっー。それってもしかして」
切り刻まれて、東京湾に。……。ひーぃ。
「変な妄想していませんでした」
「い、いや」
「ふふっ、お仕事の話です。父が、私が幸せそうな雰囲気にしているのを見て、不思議に思ったそうです。洋二と別れて、子供が居て大変なはずなのにと。
それで。……申し訳なかったのですが、今の康人と私の関係を話しました。もちろんご家族の事も。
そうしたら、面白い男だ。一度会いたいと申しまして」
「……」
「いつ。金田物産の社長ですよね。薫のお父さん」
「大丈夫です。私にとっては、一人の父親ですから」
「そうは、言っても」
「日付ですが、来週辺り、何処か空いていないかという事です。出来れば木曜日の午後六時に会社に来て欲しいと」
「えっ、えっ、えー」
「私も一緒です。殺されはしません」
「コロサレ……」
「冗談です」
「ふう、参ったな」
「忘れさせてあげます」
いきなり唇を塞いできた。
僕は、事の次第を香澄に話した上で、薫と一緒に金田物産の東京本社に行った。
ただ見上げるだけの巨大なオフィスビル。
「ここ?」
「ええ、入りましょう」
入り口を入ると社長秘書なのか
「薫様。お待ちしておりました。社長がお待ちです。そちらが河西様ですね。本日はご足労頂きありがとうございます。こちらへ」
通行証も無く、セキュリティゲートはオープンに。考えられない。
エレベータは直通。
「こちらです。お入りください」
社長秘書の方が、ドアを開けると
「社長。来られました」
「待っていたぞ。河西君」
じっと、瞳の奥にある光で射貫く様に僕を見た。
ここまで来ると、僕も場数を踏んでいる。
「本日は、お招き頂きありがとうございます。河西康人です」
「ふむ」
それだけ言うと、
「取敢えず掛け給え。立っていても仕方ない。薫も座りなさい」
「はい。お父様」
「河西君。娘の薫から事の次第を聞いているよ。男として羨ましい限りだな。本妻がいて幸せな家庭を持っている上に、うちの娘を妾の様に、いや失礼。大事にしてくれているそうじゃないか。礼を言う」
「いえ、とんでもありません。美香ちゃんの父としてどうすればいいか、薫さんと話し、妻とも話した上で出した結論です」
「いやあ、だから凄いんだよ。普通、そんなことになれば、家庭崩壊も免れないぞ」
「はあ」
「薫、思っていた通り、自己評価が低い人のようだな」
「そんな事ありません。薫にとって康人さんは素晴らしい人です」
「聞くだけ野暮か」
「本題に入ろう。今日来てもらったのは、仕事の件だ。今、君は今回の件で責任を取らされて、子会社に出向になっているそうじゃないか。
だが、聞くところによると、君の手腕でプロジェクトの客先評価が高くなっていると聞く。
本社サイドも、そろそろその事が耳に入り始めたようだ」
「なぜ、その事を」
「君、我が社は君の親会社の顧客、それも重要顧客だ。その程度の情報はいくらでも入る。
話が逸れた。実言うと、この話を聞いた私の友人である中田産業の社長が、君に興味を示してな」
「えっ」
「詳しい事は聞いていないが、社長付として雇いたいそうだ。そうだな。中田」
奥のドアが開いて背の高い男が現れた。
「その通りだよ。河西君。君と薫さんの話を聞いた時は、金田社長と全く同じ感想でね。そんな豪傑この世にいるかと思ったが、取敢えず会ってみたいものだと思ってな。
そこで、金田社長を通じて君を紹介して貰ったわけだ。
実際に会ってみれば、仕事は出来るのに、自己評価控えめ。処遇が合わないのに愚痴も言わない。それでいて、二人の女性の心を射止めている。なんて男なんだね君は。
そう言う訳で、僕の側で仕事してみる気はないかね。社長付として」
「社長付ですか」
「そうだ、成果次第では、中田産業を任せてもよい」
「しかし、中田社長には、ご子息がいるのでは」
「洋二の事か。だめだ。あれは、あの後、ほとぼりの覚めた三か月後に、部署を変えて復帰させたが、女の子に手を出してな。それも合意の上ではなく。身内の恥をさらすようだが、あれは、もう期待していない。自分で自立しろと言ってある」
金田社長が口を開いた。
「こういう表現は好ましくないが、少なくとも今の収入の三倍は出る。どうかな。薫の幸せの為にも、この話、受けてくれないか」
「会社に話さないと」
「君の親会社の社長とは、大学の同期でね。もう話は通した。中田も同期だよ」
「えっ、えー。すみません。驚いて」
「なあに構わんさ」
―――――
なんか、凄い話になってきました。
次回をお楽しみに。
面白そうとか、次も読みたいなと思いましたら、ぜひご評価頂けると投稿意欲が沸きます。
感想や、誤字脱字のご指摘待っています。
宜しくお願いします。
1
お気に入りに追加
75
あなたにおすすめの小説
寝室から喘ぎ声が聞こえてきて震える私・・・ベッドの上で激しく絡む浮気女に復讐したい
白崎アイド
大衆娯楽
カチャッ。
私は静かに玄関のドアを開けて、足音を立てずに夫が寝ている寝室に向かって入っていく。
「あの人、私が
抱きたい・・・急に意欲的になる旦那をベッドの上で指導していたのは親友だった!?裏切りには裏切りを
白崎アイド
大衆娯楽
旦那の抱き方がいまいち下手で困っていると、親友に打ち明けた。
「そのうちうまくなるよ」と、親友が親身に悩みを聞いてくれたことで、私の気持ちは軽くなった。
しかし、その後の裏切り行為に怒りがこみ上げてきた私は、裏切りで仕返しをすることに。
お嬢様、お仕置の時間です。
moa
恋愛
私は御門 凛(みかど りん)、御門財閥の長女として産まれた。
両親は跡継ぎの息子が欲しかったようで女として産まれた私のことをよく思っていなかった。
私の世話は執事とメイド達がしてくれていた。
私が2歳になったとき、弟の御門 新(みかど あらた)が産まれた。
両親は念願の息子が産まれたことで私を執事とメイド達に渡し、新を連れて家を出ていってしまった。
新しい屋敷を建ててそこで暮らしているそうだが、必要な費用を送ってくれている以外は何も教えてくれてくれなかった。
私が小さい頃から執事としてずっと一緒にいる氷川 海(ひかわ かい)が身の回りの世話や勉強など色々してくれていた。
海は普段は優しくなんでもこなしてしまう完璧な執事。
しかし厳しいときは厳しくて怒らせるとすごく怖い。
海は執事としてずっと一緒にいると思っていたのにある日、私の中で何か特別な感情がある事に気付く。
しかし、愛を知らずに育ってきた私が愛と知るのは、まだ先の話。
バスで帰ってきたさ!車の中で見つめ合う夫と浮気相手の姿を見て、私は同じように刺激を与えましょう。
白崎アイド
大衆娯楽
娘と20時頃帰宅した私は、ふと家の100mほど手前に車がとまっていることに気がつく。
その中に乗っていた男はなんと、私の夫だった。
驚きつつも冷静にお弁当を食べていると、夫が上機嫌で帰宅して・・・
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる