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第14話 康人の処遇
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河西康人も無傷では済みません。
――――
「河西。人事課長が呼んでいる」
「はい」
中田洋二の一件の後、中田薫は実家へと帰った。幼稚園へは車で送迎いているらしい。
しばらく香澄から離れている予定だったが、今回の一件の後、我が家に帰った。今の状況では仕方ない。
だが、これだけでは終わらないだろうと、僕は考えていた。中田産業と金田物産それに警察が動いた。各会社の外部情報収集部門(主に警察からの情報が多い)のアンテナに引っかからない訳がない。わが社も当然だ。
人事課に行くと開発部長も同席していた。最初に開発部長が話し始めた。
「河西君。呼ばれた理由は分かっているね」
「はい」
「では、話が早い。個人的な色恋問題に会社が関与する事は基本無い。だが、プロジェクトを進める上で重要な事の一つに協調、和というものが有る。
君が今のプロジェクトにいる事は、その和を乱す要因だ。よって、プロジェクトから君を外す。
但し、誤解しない様に。君の能力の優秀さは、我が社の万人が認める所だ。その上での処分と思ってくれ」
「分かりました」
想定していた事だ。
次に人事課長が口を開いた。
「今回の件で関係した、金田物産、中田産業は、君も知っている通り、我が社の顧客でもある。このまま会社に居続けさせることは、対客の印象上よくない。
よって、君を子会社に出向させる」
「えっ」
「表向きは、プロジェクトリードの支援だ。肩書も課長職で行って貰う。収入に変化はない。これが人事通達だ」
人事課長はそう言って、僕に一通の紙を渡した。
子会社出向までは考えていなかった。だが、覆すことは出来ない。止めるか、従うかだけだ。
「人事課長、人事通達、拝領しました」
「河西君。僕達も君が早く本社に復帰出来る様に努力する。数年の我慢だ。頑張ってくれ」
「……」
「話は以上だ。本日より施行する。詳細は追って連絡させる」
「分かりました」
僕はそのまま、人事課を後にした。
席に戻ると、今まで同じプロジェクトに関係していた人達が、余所余所しくなっているのが分かる。……仕方ない事だ。
そのままPCのロックを外してメールを見ると、先ほど人事課長が行っていた、行先や手続きの詳細が、送られて来ていた。
「香澄、明日から子会社へ出向になる。今度の件で、責任を取る形だ」
「えっ、……ごめんなさい。私の所為でこんなことになって」
「香澄の所為だけじゃない。僕も同じだ」
「……あなた、中田さんの所は離婚したんでしょ。薫さんの子供美香ちゃんはどうするの。美羽の事もそうだけど」
…………。
「寝るよ。今日は一人で寝る」
「ごめんなさい。私がいう事では無かった。ごめんなさい」
夫は、会社の事で疲れているのに、私はなんて無神経な事を言ってしまったんだろう。
美香ちゃんは、康人の子。でも美羽は、洋二の子。なんて事を私は康人に言ってしまったんだろう。
次の日の朝、夫は私が目覚める前に家を出てしまった。テーブルに紙切れが一枚。
『二、三日一人にしてくれ』
直ぐに康人のスマホに電話した。……出てくれない。
私は、昨日自分が言った事が彼に取ってどれだけ精神的にも、物理的にも大変な事だという事を今知った。
涙が止まらなかった。自分の愚かさと。せっかく戻って来てくれた康人が、出て行くきっかけを、また自分が作ったことに。
子会社に出勤したが、事情(理由)が伝わっていないのか、思ったより丁寧な受け入れだった。
簡単な事務手続きを終わらせ、支給されたPCを起動させる。会社で利用する基本セットアップは、終わっていて、直ぐに使えた。
メールソフトとスケジュールソフトを開けると既に結構な会議通知と連絡メールが届いていた。
今日は、部長からプロジェクトに関する説明と既に動いているプロジェクトの会議に参加する事で一日が終わった。
歓迎会は、明日行ってくれるらしい。今日は、そのまま、まだ解約していないマンスリーマンションに戻った。
一度会社の鞄を置くと食事に出かけた。
一人で食べていると考える事は、家族の事ばかりだ。美香の事、美羽の事、香澄の事、そして薫の事。
中田を警察に送り、社会的地位を略奪した事で、薫と香澄の今後発生したであろう、いやな事は防げたが。
だが、残った事は、全て自分に集まってしまった。
香澄と美羽は、僕の家族。美羽は僕が父親として今後も生きて行けばいい。いずれ話す時が来るとしてもだ。
美香はどうする。僕が血を分けた子。無視する訳にはいかない。それは、別れたはずの薫との関係を元に戻す事にもつながる。
金銭的な事もある。自分の収入では、香澄と美羽それにマンションのローンで手いっぱいだ。美香の養育費など出せない。
…………。
薫に会って話す必要がある。美香の事を。
明日連絡して、明後日会う事にしよう。
―――――
河西康人が無傷という訳には、行きませんからね。
次回をお楽しみに。
面白そうとか、次も読みたいなと思いましたら、ぜひご評価頂けると投稿意欲が沸きます。
感想や、誤字脱字のご指摘待っています。
宜しくお願いします。
――――
「河西。人事課長が呼んでいる」
「はい」
中田洋二の一件の後、中田薫は実家へと帰った。幼稚園へは車で送迎いているらしい。
しばらく香澄から離れている予定だったが、今回の一件の後、我が家に帰った。今の状況では仕方ない。
だが、これだけでは終わらないだろうと、僕は考えていた。中田産業と金田物産それに警察が動いた。各会社の外部情報収集部門(主に警察からの情報が多い)のアンテナに引っかからない訳がない。わが社も当然だ。
人事課に行くと開発部長も同席していた。最初に開発部長が話し始めた。
「河西君。呼ばれた理由は分かっているね」
「はい」
「では、話が早い。個人的な色恋問題に会社が関与する事は基本無い。だが、プロジェクトを進める上で重要な事の一つに協調、和というものが有る。
君が今のプロジェクトにいる事は、その和を乱す要因だ。よって、プロジェクトから君を外す。
但し、誤解しない様に。君の能力の優秀さは、我が社の万人が認める所だ。その上での処分と思ってくれ」
「分かりました」
想定していた事だ。
次に人事課長が口を開いた。
「今回の件で関係した、金田物産、中田産業は、君も知っている通り、我が社の顧客でもある。このまま会社に居続けさせることは、対客の印象上よくない。
よって、君を子会社に出向させる」
「えっ」
「表向きは、プロジェクトリードの支援だ。肩書も課長職で行って貰う。収入に変化はない。これが人事通達だ」
人事課長はそう言って、僕に一通の紙を渡した。
子会社出向までは考えていなかった。だが、覆すことは出来ない。止めるか、従うかだけだ。
「人事課長、人事通達、拝領しました」
「河西君。僕達も君が早く本社に復帰出来る様に努力する。数年の我慢だ。頑張ってくれ」
「……」
「話は以上だ。本日より施行する。詳細は追って連絡させる」
「分かりました」
僕はそのまま、人事課を後にした。
席に戻ると、今まで同じプロジェクトに関係していた人達が、余所余所しくなっているのが分かる。……仕方ない事だ。
そのままPCのロックを外してメールを見ると、先ほど人事課長が行っていた、行先や手続きの詳細が、送られて来ていた。
「香澄、明日から子会社へ出向になる。今度の件で、責任を取る形だ」
「えっ、……ごめんなさい。私の所為でこんなことになって」
「香澄の所為だけじゃない。僕も同じだ」
「……あなた、中田さんの所は離婚したんでしょ。薫さんの子供美香ちゃんはどうするの。美羽の事もそうだけど」
…………。
「寝るよ。今日は一人で寝る」
「ごめんなさい。私がいう事では無かった。ごめんなさい」
夫は、会社の事で疲れているのに、私はなんて無神経な事を言ってしまったんだろう。
美香ちゃんは、康人の子。でも美羽は、洋二の子。なんて事を私は康人に言ってしまったんだろう。
次の日の朝、夫は私が目覚める前に家を出てしまった。テーブルに紙切れが一枚。
『二、三日一人にしてくれ』
直ぐに康人のスマホに電話した。……出てくれない。
私は、昨日自分が言った事が彼に取ってどれだけ精神的にも、物理的にも大変な事だという事を今知った。
涙が止まらなかった。自分の愚かさと。せっかく戻って来てくれた康人が、出て行くきっかけを、また自分が作ったことに。
子会社に出勤したが、事情(理由)が伝わっていないのか、思ったより丁寧な受け入れだった。
簡単な事務手続きを終わらせ、支給されたPCを起動させる。会社で利用する基本セットアップは、終わっていて、直ぐに使えた。
メールソフトとスケジュールソフトを開けると既に結構な会議通知と連絡メールが届いていた。
今日は、部長からプロジェクトに関する説明と既に動いているプロジェクトの会議に参加する事で一日が終わった。
歓迎会は、明日行ってくれるらしい。今日は、そのまま、まだ解約していないマンスリーマンションに戻った。
一度会社の鞄を置くと食事に出かけた。
一人で食べていると考える事は、家族の事ばかりだ。美香の事、美羽の事、香澄の事、そして薫の事。
中田を警察に送り、社会的地位を略奪した事で、薫と香澄の今後発生したであろう、いやな事は防げたが。
だが、残った事は、全て自分に集まってしまった。
香澄と美羽は、僕の家族。美羽は僕が父親として今後も生きて行けばいい。いずれ話す時が来るとしてもだ。
美香はどうする。僕が血を分けた子。無視する訳にはいかない。それは、別れたはずの薫との関係を元に戻す事にもつながる。
金銭的な事もある。自分の収入では、香澄と美羽それにマンションのローンで手いっぱいだ。美香の養育費など出せない。
…………。
薫に会って話す必要がある。美香の事を。
明日連絡して、明後日会う事にしよう。
―――――
河西康人が無傷という訳には、行きませんからね。
次回をお楽しみに。
面白そうとか、次も読みたいなと思いましたら、ぜひご評価頂けると投稿意欲が沸きます。
感想や、誤字脱字のご指摘待っています。
宜しくお願いします。
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