反魂2・空白の時間編

四宮

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残月記番外編・反魂二

28(R18+G要素を含んでいます)

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「ぅぐ・・・!」
乾いた口内に生温い息と血の匂いにも似た生臭さが広がり、一気に気分が悪くなる。
嘔吐したい衝動に駆られるも、喉を強く掴まれているせいで、うまく呼吸が出来ないままだ。

「・・・んぶっ・・・うっ・・・ぐっ」
上顎を抉るように締めつける指を引き剥がそうと、藻掻く遠雷の両腕が伸びてきた別の腕によって遮られる。
その腕にグッと爪を立て、どうにか抵抗を試みてみるものの、太く強い腕の力は変わらず、ビクリとも動かない。
それどころか、力を込めた親指が遠雷エンライの喉を更に締めつけていくではないか。
喉仏のすぐ下をグイグイと押される度に、鈍い痛みと息苦しさで遠雷の意識が一瞬遠のいた。

「・・・ぅ・・・」
意識を失いかけた遠雷には目もくれず。先程とは違う別の何かが遠雷の唇を奪い、彼の舌に自身の舌を絡め始める。
先程とは違う、ぬるりとした感触と這うような動きに遠雷の眉が僅かに歪み、ジュルジュルと吸いつくような水音だけが耳へと届く。

遠雷の口を塞ぐように絡む舌は、人間とほぼ変わらない。
顔の見えないその者が角度を変えながら遠雷の唇に吸い付く度に、遠雷の肩が無意識に揺れ、彼は失いかけていた意識を取り戻した。

「・・・う・・・」
ザラザラとした舌が、遠雷の乾いた口内を貪るように吸い付いている。
その度に生臭さと生温い息が鼻へと上り、その心地の悪さに耐え切れなくなった彼は、きつく目を閉じたまま、相手を押しのけようとした。
しかし、思うように力の入らない腕では引き離すどころか、ビクリとも動かないのだ。
その現実を前にして、遠雷エンライの背筋から一滴の汗が滑り落ちていった。

「・・・う・・・」

それから、どれほどの時間が経過したのだろう。
実際には一分だったかもしれないし、五分なのかもしれない。

遠雷の喉を掴む指の力は変わらない。腕も変わらず太いままだ。
いやむしろ、先程よりも太くなっているような気がして、ますます遠雷の顔に焦りの色が見えた。

(・・・これ・・・は・・・まずい・・・)

喉を絞められているせいで上手く息を吸うことも出来ないまま、少しずつ遠雷の意識が遠のいていく。
それをさせまいとするかの如く飛んだ拳が遠雷の腹部を打ち、構える隙も与えないまま、続いた膝は迷うことなく遠雷のみぞおちを狙った。

「・・・ぐ」
鋭い痛みに眉を顰めた遠雷の息が一瞬止まり、滑り落ちた汗は頬を伝い顎へと落ちる。
「・・・は」
心臓部分を司る妖核ヨウカクだけがドクンと五月蠅ウルサく鳴り響き、今にも爆発してしまいそうだ。

(息が・・・出来ん)

魚が酸素を乞うように口をパクパクと開けようとするものの、相手の唇が吸い付き、蓋の役目をするせいで上手く息を吸うことが出来ない。
それどころか、相手の舌が余計にねっとりと絡みつくだけで十分な酸素を得ることは出来そうもなかった。

「・・・は」

(どうにかしなくては・・・反撃・・・出来ないとしても)

ぼんやりと霞む頭で解決策を考えようとするものの、どうしても良い案が浮かばない。
腕は一つだけではないのだ。
自分を狙う複数の相手の攻撃を一つでも防ぎながら、ここから逃れる策なんて・・・と、そこまで考えていた遠雷の指が一瞬止まった。
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