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残月記番外編・反魂二
29(R18+G要素を含んでいます)
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(・・・あ・・・)
一瞬、脳裏に浮かんだ策に遠雷の思考が揺れる。
しかし、生まれた一瞬の隙を狙うように相手の唇が離れると、すぐに別の者が遠雷の唇に吸い付いた。
「・・・ぅ」
形の良い眉を歪ませながら、遠雷の右腕がだらんと落ちる。
生温い息に嫌悪感を抱きながらも、遠雷は袖の下に隠した指を素早く動かしながら、相手に向かって術を繰り出そうとした。
しかし、遠雷の方が一寸遅かった。
その者は遠雷の舌をぴちゃりと自身の舌で舐め取ると喉を動かし、彼の咥内へと何かを流し込んだ。
途端に広がる薄い酸を含んだ液体に遠雷の両目が開く。
彼は無意識のまま、自身に絡む者を突き飛ばすと指を口の中に何度も差し込み,どうにかしてその液体を吐き出そうとした。
床に這いながら嘔吐を繰り返す遠雷の口からは、びちゃびちゃと酸味を含んだ液体が何度も零れ落ち、その度に遠雷の両目からは涙が幾度も伝い落ちていく。
「・・・はっ・・・ぐっ・・・!」
液体を吐き出すことに集中していた彼の体が、急に床へと引きずられる。
無意識に視線を背後に向けてみれば、何者かが自分の両足を掴んでいるではないか。
「・・・っ」
見えずとも分かるその感触に身を捩りながら、視線を上に向けて初めて、遠雷は自身を見る黒い霞に気が付いた。
じわじわと大きく、そしてどす黒くなっていく黒い霞の姿に遠雷の顔からは一瞬にして血の気が引いた。
「・・・・・・」
ごくりと息を飲む。
今度は一体何だと思う一方で、師匠の繰り返す攻撃に上手く頭がついていかないまま、遠雷は大きく頭を振ると強く掴まれたままの両足へと視線を向けた。
「・・・!?」
その時、遠雷の体に衝撃が走り、彼の体は左へと吹っ飛ばされてしまった。
「・・・げほっ!・・・ううっ・・・!」
いつの間に壁が出来ていたのか。
それさえも、もう分からない。
ジンジンと痛む横腹を押さえながら、ヨロヨロと立ち上がった遠雷の足がふわりと浮いた。
「・・・ぅ・・・」
別の腕が遠雷の喉を掴み、彼を持ち上げている。
遠雷の足は手折られる寸前の花のように力無くぐったりとしているように見えた。
「・・・っ?」
遠雷の視界が先程よりも白くなる。
そんな彼の顔に近づく影があり、遠雷は妖力を込めると灰色の視界の中で何とかして、相手の姿を捉えようとした。
そうして初めて、彼は言葉を失ってしまった。
「・・・顔が・・・なぃ・・・?」
幽霊とも悪霊とも異なるその者の姿は、触れた途端に崩れてしまう。なのに、自身を掴む腕の力は強く人間のそれと何ら変わらない。
水泡を浮かばせながら近づいて来たその者は、やがて人の姿へと形を変えると、遠雷の顔に自身の顔を近づけながらニヤリと口元を歪ませた。
「・・・・・・」
遠雷は絞められた喉のせいで上手く言葉を発することが出来ないままだ。
けれども相手はニヤニヤと口元を歪ませるだけで、何も言葉を話そうとはしない。
しかし、相手の雰囲気からは「これからどうやってこの玩具を相手に遊んでやろうか?」と話す声がひしひしと伝わってくるのだ。
その声なき声に、遠雷はビクリと背筋を強張らせると、飲み込めない喉を動かそうとした。
その様を見たのだろう。
相手は強く遠雷の後頭部をガシッと掴むと、無理矢理にその唇を奪い取った。
一瞬、脳裏に浮かんだ策に遠雷の思考が揺れる。
しかし、生まれた一瞬の隙を狙うように相手の唇が離れると、すぐに別の者が遠雷の唇に吸い付いた。
「・・・ぅ」
形の良い眉を歪ませながら、遠雷の右腕がだらんと落ちる。
生温い息に嫌悪感を抱きながらも、遠雷は袖の下に隠した指を素早く動かしながら、相手に向かって術を繰り出そうとした。
しかし、遠雷の方が一寸遅かった。
その者は遠雷の舌をぴちゃりと自身の舌で舐め取ると喉を動かし、彼の咥内へと何かを流し込んだ。
途端に広がる薄い酸を含んだ液体に遠雷の両目が開く。
彼は無意識のまま、自身に絡む者を突き飛ばすと指を口の中に何度も差し込み,どうにかしてその液体を吐き出そうとした。
床に這いながら嘔吐を繰り返す遠雷の口からは、びちゃびちゃと酸味を含んだ液体が何度も零れ落ち、その度に遠雷の両目からは涙が幾度も伝い落ちていく。
「・・・はっ・・・ぐっ・・・!」
液体を吐き出すことに集中していた彼の体が、急に床へと引きずられる。
無意識に視線を背後に向けてみれば、何者かが自分の両足を掴んでいるではないか。
「・・・っ」
見えずとも分かるその感触に身を捩りながら、視線を上に向けて初めて、遠雷は自身を見る黒い霞に気が付いた。
じわじわと大きく、そしてどす黒くなっていく黒い霞の姿に遠雷の顔からは一瞬にして血の気が引いた。
「・・・・・・」
ごくりと息を飲む。
今度は一体何だと思う一方で、師匠の繰り返す攻撃に上手く頭がついていかないまま、遠雷は大きく頭を振ると強く掴まれたままの両足へと視線を向けた。
「・・・!?」
その時、遠雷の体に衝撃が走り、彼の体は左へと吹っ飛ばされてしまった。
「・・・げほっ!・・・ううっ・・・!」
いつの間に壁が出来ていたのか。
それさえも、もう分からない。
ジンジンと痛む横腹を押さえながら、ヨロヨロと立ち上がった遠雷の足がふわりと浮いた。
「・・・ぅ・・・」
別の腕が遠雷の喉を掴み、彼を持ち上げている。
遠雷の足は手折られる寸前の花のように力無くぐったりとしているように見えた。
「・・・っ?」
遠雷の視界が先程よりも白くなる。
そんな彼の顔に近づく影があり、遠雷は妖力を込めると灰色の視界の中で何とかして、相手の姿を捉えようとした。
そうして初めて、彼は言葉を失ってしまった。
「・・・顔が・・・なぃ・・・?」
幽霊とも悪霊とも異なるその者の姿は、触れた途端に崩れてしまう。なのに、自身を掴む腕の力は強く人間のそれと何ら変わらない。
水泡を浮かばせながら近づいて来たその者は、やがて人の姿へと形を変えると、遠雷の顔に自身の顔を近づけながらニヤリと口元を歪ませた。
「・・・・・・」
遠雷は絞められた喉のせいで上手く言葉を発することが出来ないままだ。
けれども相手はニヤニヤと口元を歪ませるだけで、何も言葉を話そうとはしない。
しかし、相手の雰囲気からは「これからどうやってこの玩具を相手に遊んでやろうか?」と話す声がひしひしと伝わってくるのだ。
その声なき声に、遠雷はビクリと背筋を強張らせると、飲み込めない喉を動かそうとした。
その様を見たのだろう。
相手は強く遠雷の後頭部をガシッと掴むと、無理矢理にその唇を奪い取った。
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