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残月記番外編・反魂二
21(酒器について、分かりづらい表現になってしまいました。ごめんなさい)
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「・・・・・・」
遠雷の頬を幾度も汗が滑り落ちる。
伝う汗と、眉間の皺をジッと眺める男の目は伏せられたままで、それが返って遠雷の背筋をより固くした。
(この感覚は、覚えが、ある)
遠雷はカラカラに乾いた喉を潤すために唾を飲み込もうとしたのだが、体中の筋肉が強張っているせいか、どうにもうまくいかない。
焦りと緊張を悟られないようにしようとすればするほど、心臓核が五月蠅く鳴り響き、今にも飛び出してしまいそうだ。
「・・・・・・」
男との距離はさほど離れてはおらず、卓上に置かれた木製の蒸し器から沸々と湯気が天井へと上り、微かに甘い香りがこちらまで匂ってくる。
しかし今はそんな事に構っていられる程の余裕などありはしない。それどころか、言葉に出来ない緊張感のみが増し、じっとりと伝う汗が幾度も衣の内側へと滑り落ちていく。
「・・・・・・」
そんな遠雷の様子に目もくれず、眼前に座すその男の態度は相変わらずで。
魚香肉絲(豚肉の細切り炒め)の豚肉と木耳を小皿に取り分け、少量を口に含んだかと思えば、数回の咀嚼でで酒器に手を伸ばし、酒で一気に流し込んでしまっている。
そうして、また酒に手を伸ばそうとした男の眉が僅かに動いた。
彼は、注ぎ口が細く長い陶器製の酒器の底を何度も揺らしていたが、もう一滴も入っていないと分かると、その酒器を手にしたまま、すぐに給仕の青年を呼び止めたのだ。
店は大層繁盛していた為、給仕の青年が来るまでに数分かかると思われたが、意外にも青年の足は速く、男の席へやって来ると空になった酒器を手に一礼し、また厨房へと戻ろうとした。
その時である。
何を思ったのか。男が急に青年の背へと声をかけ、彼と二、三、言葉を交わすと両手を組んだまま椅子の背に深く腰掛けてしまったではないか。
その態度に遠雷の首が僅かに動いた。
(・・・なんだ?)
「お待たせしました」
それから程なくして、給仕の青年は酒壷(お酒の入った小さな壷)と勘定札(注文した品と価格が書かれた小さな木札)を男に手渡し、足早にその場を去って行ってしまった。
男は勘定札に書かれている酒の値段には興味が無いようで、つまらなそうに木札を指で弾くと視線を壁へと向けてしまった。
伏し目がちに開かれた瞼から覗く長い睫毛が妖しく揺れる。
「・・・・・・」
弾かれた勘定札だけが小さな山を築いたままグラグラと揺れ、今にも崩れ落ちてしまいそうだ。
男は少しの間、頬杖をつきながら店の壁に視線を向けていたのだが、何かに気づいたように運ばれたばかりの酒壷に手を伸ばすと壷を軽く左右に揺らしては、その音に耳を傾けた。
「ふむ。悪くない」
そんなことを男が話す。
遠雷の頬を幾度も汗が滑り落ちる。
伝う汗と、眉間の皺をジッと眺める男の目は伏せられたままで、それが返って遠雷の背筋をより固くした。
(この感覚は、覚えが、ある)
遠雷はカラカラに乾いた喉を潤すために唾を飲み込もうとしたのだが、体中の筋肉が強張っているせいか、どうにもうまくいかない。
焦りと緊張を悟られないようにしようとすればするほど、心臓核が五月蠅く鳴り響き、今にも飛び出してしまいそうだ。
「・・・・・・」
男との距離はさほど離れてはおらず、卓上に置かれた木製の蒸し器から沸々と湯気が天井へと上り、微かに甘い香りがこちらまで匂ってくる。
しかし今はそんな事に構っていられる程の余裕などありはしない。それどころか、言葉に出来ない緊張感のみが増し、じっとりと伝う汗が幾度も衣の内側へと滑り落ちていく。
「・・・・・・」
そんな遠雷の様子に目もくれず、眼前に座すその男の態度は相変わらずで。
魚香肉絲(豚肉の細切り炒め)の豚肉と木耳を小皿に取り分け、少量を口に含んだかと思えば、数回の咀嚼でで酒器に手を伸ばし、酒で一気に流し込んでしまっている。
そうして、また酒に手を伸ばそうとした男の眉が僅かに動いた。
彼は、注ぎ口が細く長い陶器製の酒器の底を何度も揺らしていたが、もう一滴も入っていないと分かると、その酒器を手にしたまま、すぐに給仕の青年を呼び止めたのだ。
店は大層繁盛していた為、給仕の青年が来るまでに数分かかると思われたが、意外にも青年の足は速く、男の席へやって来ると空になった酒器を手に一礼し、また厨房へと戻ろうとした。
その時である。
何を思ったのか。男が急に青年の背へと声をかけ、彼と二、三、言葉を交わすと両手を組んだまま椅子の背に深く腰掛けてしまったではないか。
その態度に遠雷の首が僅かに動いた。
(・・・なんだ?)
「お待たせしました」
それから程なくして、給仕の青年は酒壷(お酒の入った小さな壷)と勘定札(注文した品と価格が書かれた小さな木札)を男に手渡し、足早にその場を去って行ってしまった。
男は勘定札に書かれている酒の値段には興味が無いようで、つまらなそうに木札を指で弾くと視線を壁へと向けてしまった。
伏し目がちに開かれた瞼から覗く長い睫毛が妖しく揺れる。
「・・・・・・」
弾かれた勘定札だけが小さな山を築いたままグラグラと揺れ、今にも崩れ落ちてしまいそうだ。
男は少しの間、頬杖をつきながら店の壁に視線を向けていたのだが、何かに気づいたように運ばれたばかりの酒壷に手を伸ばすと壷を軽く左右に揺らしては、その音に耳を傾けた。
「ふむ。悪くない」
そんなことを男が話す。
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