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7 オメガへの道は険しい①※

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 サノユーの怒った手が、俺のネクタイを掴んだ。

「わかればいいんだ」

 にやっと笑った俺の唇を、サノユーは憤然と唇でふさいだ。
 いつも軽口をたたいている同居人の唇が自分の唇にくっついているのは、なんだか変なかんじだ。
 大きな手がぬっと伸びてきて、顎を掴んでくる。

「んぐっ」

 いつものサノユーにはない強引さだ。
 頬に指が沈んで、少し痛んだ。

「かはっ」

 顎が思わず開いた。
 その隙間に、ぬるりとアルファの舌が潜り込んできた。

「ん゛むッ」

 俺は驚いて呻いた。
 ふだんののんびり屋はどこへ行った。
 五年もいっしょに暮らしていたのに、ちっとも俺に手を出すそぶりを見せなかった、あの悠長なアルファはどこへ行った。

「……んふ、ん゛……ッ」

 ざらざらと口の中を舐められて、俺は思わず情けない声を漏らした。
 だが、こんなことでひるんでいてはいけない。
 俺はすべてのアルファをめろめろにする、魔性のオメガにならねばならない。

(こんなの、主導権を握られているからこわいだけだ)

 俺は覚悟を決め、舌を絡め返した。

「……っ!」

 サノユーは驚いて目を開いた。たじろいでいる隙に、俺はサノユーの口の中を舌で探った。
 アルファのにおいと味だ。
 トレーナーを引っ張って、もっと奥まで。アルファを翻弄しているのはやはり気分がいい。
 ねろっと舌を絡めて、唾液を混ぜ合わせる。
 まるですでに魔性のオメガになったかのようだ。
 俺はすっかり得意になって、ちらっとサノユーの顔を見た。
 それが、トリガーになってしまったらしい。
 サノユーの目の色が変わった。
 がぶり。
 アルファの口が思いっきり俺の口を覆った。

「んんッ……」

 サノユーはすごい力で口の中を吸ってくる。
 俺の唾液を飲み尽くしてしまいそうだ。
 サノユーの息が荒い。
 大きな手が俺の身体を這いはじめる。背中、腰、尻。
 俺は目を白黒させ、手をばたつかせた。
 やめてくれ、大事なスーツがくちゃくちゃになりそうだ。すぐにクリーニングに出さなくては。

「ほかのこと考えてる」

 サノユーは口を少し離して、低い声で言った。

「だって服が」
「弁償でもなんでもしてあげる」

 これ高いんだぞ、という言葉はまたキスに呑みこまれた。
 これでは主導権も何もない。
 さすがアルファ、火がつけば動物そのものだ。

(だがこの調子なら、回数をこなすのも訳ないな)

 俺はほくそ笑んだ。

 ジャケットが下に落ちた。ボタンをあっという間に外され、シャツの前がひらいた。
 熱い手がざらざらと胸を這った。
 ほう、なるほど。

(オメガになるってことは、そこも撫でられたりくすぐられたりするわけか)

 だが今は何も感じない。
 のっぺりと平らで鈍感なベータの胸だ。

「かわいい」

 サノユーの指が胸の粒をかすめた。
 引き続き何も感じない。
 オメガは本当にここで感じるのだろうか。
 アルファを誘惑するために、気持ちいいふりでもしているのではないだろうか。

「どう?」

 サノユーのかさかさした指が先をつまんだ。

「全然」
「じゃあこれは?」

 サノユーはゆっくりと胸の粒を指の間でころがした。

「うーん」

 さっきよりは何か感じる気はする。
 じんわりと粒の付け根が温かいような。
 だがその感覚はあまりに遠い。

「まあ、ゆっくり慣れていけばいいよ。どうせいっぱいしないとダメなんだしね」

 サノユーはかすれた声で笑った。

「毎日してれば、いつかここも気持ちよくなる。ここ触ってもらわないといられなくなる」

 くるくるとそこを弄りながら、サノユーは囁く。

「お前を振った子がそうだったの?」
「朝くんの馬鹿」

 サノユーは俺を抱きあげると、ダブルベッドに連行した。
 ぼふっ。
 柔らかい音を立て、俺の身体がマットレスに投げ出された。

「あっつ」

 サノユーはトレーナーを脱いだ。
 目にしみそうなほど白い肌だ。

「家でぼけーっとしてるわりに、案外筋肉あったんだ」

 男どうしで暮らしているのだから、サノユーの裸なんて何度も見かけた。
 ただ、鏡に映る俺の美しい肉体と違って、まじまじと見つめて楽しいものでもなかったので、よく覚えていなかったのが正直なところだ。

「アルファは筋肉つきやすいから」

 サノユーは俺に覆いかぶさった。

「まあ、俺の方が均整とれてるけどな」
「オメガになったらふわふわになるよ。こことかも」

 俺の硬い胸筋をつんとつついてくる。

「結局お前、オメガがいいんじゃないか」
「僕だってそのはずだったんだけどな。変だね」
「罪な俺」
「そうだね」

 サノユーは笑わなかった。
 よく見ると、サノユーのズボンの中がひどく膨らんでいる。


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