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第1章 流星の如き転入生編

其の15 激闘強襲グレタ組! 後編

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 前回、決闘を挑まれたマオは何故かジョラス一行に対して3人抜きをする事に…
 そして3人のうち1人であるバドとその相棒、ホイラに勝利したマオが次に挑むのはマキ・グリルンと名乗る顔を布で隠した少女であった…



「アンタ、モンスターは?」
「ちゃんといるわよ、フフフフ……」

 そう言って彼女が取り出したのは両手に抱えるには適度な大きさの壺。
 木製で軽そうな造りをしており、マキがパカッと蓋を開けて中身を地面にぶちまければ…

 サァアアアア…

「た、ただの砂…じゃん…」
【アゥ…】
「それはどうかしら?」

 壺から出て来たのは大量の砂と黒い宝玉のようなもの……こんな物がモンスターとでも言うのか?と思うマオであったが、その考えはいとも容易く撃ち砕かれた…
 なんと砂が勝手に集まり、宝玉に纏わり付いて行くのだ。

【ザァアア…!】
「す、砂が勝手に…!」
「自然の粒子を身に纏う究極のモンスター…サンドールよ!」

 そうこうしているうちに砂は一つの塊…まるで液体のように不定形なものとなった…
 その姿は言うなれば流砂のスライムと言うべきか。
 しかしながら見た目は所詮砂場の小山…弱そうな上に動きもナメクジのようにトロい…

「ザミ!こっちから仕掛けるよ!体当たりをぶちかましてやって!!」
【ワゥウッ!!】
「フフフフ…どうかしら?」

 ザミは助走を付けると全速力で相手へ突っ込み、渾身の体当たりをぶちかました!
 がしかし……勢いよく相手を突き抜けてしまった…

 ブアッサァッ!!

【ヒゥウウッ!?】
「な!?つ、突き抜けた…!」
「当たり前でしょ?砂に実体はないわ……!チャンスよ!飲み込んでやりな!」
【ザァアアッ!!】
【キャゥ…!】

 さらに今度はザミが後ろ脚を砂に取り込まれ、そのままズルズルと引っ張るように飲み込まれて行く…
 それはまるで流砂にハマった哀れな犬の様だ……そしてこのままでは飲み込まれて溺死してしまうのだが……

【ザ、ザァア…】
【……ハゥ…】
「あぁ~ッ!!体積足りないじゃないッ!!」

 残念ながら相手の体積ではザミを溺死させるほどの砂量は無く、これではただの砂浴び状態である。
 ザミは起き上がるとズボッとその砂場から抜け出し、素早くマオの元まで戻った。

「なんてバカな奴…!」
「う、うるさいうるさいうるさーい!!スナッキー、模擬コピーよ!相手の犬畜生を模擬コピーして!!」
【ザァアッ!サァアア……】
「こぴい…?」

 コピーとは『写し、または模造』を意味する言葉である。
 一体なんだとマオが相手の様子を伺ってみれば砂は木枯らしのように渦巻くとある1つの形へと変わって行く……それは紛れもなく…ザミ、そのものであった。

「ざ、ザミ…!……かなぁ…アレは…」
【ワゥウ…】
「見た目はどうあれ性能は段違い!スナッキー!ぶちのめしてやりな!!】
【ザゥウウッ!!】

 しかしながら外見は犬の形をした砂……所詮は砂の塊でしかない。
 だがそう思っていたのも束の間、相手は機敏な動きでザミへ噛み付きかかった。
 咄嗟に回避したものの、トロかった動きが嘘のように素早い身のこなしである……なんで最初から使わなかったんだろうと言う疑問はさておき、いよいよ強敵になってきたことでマオの闘争心にも火が点いた模様。

「ザミ!行くよ!相手の急所を狙って!」
【ガゥウウ!!】
【ザアアッ!!】

 ザミとスナッキー、互いが睨み合い……刹那の瞬間に牙を交えれば…ザミの首には砂が付着し、スナッキーの首は抉られ、血のように砂が地面へ零れた。
 やはり先ほど違って相手にダメージが与えられない反面、相手もこちらへ与えるダメージは少ない様だ。

「やっぱり砂は砂……物理攻撃が効かない…?」
「当たり前よ、砂とは粒の集合体……そんじょそこらの攻撃如きじゃすり抜けるの!すなわち最強!」
「(だけど……ハッ!?そうだ!あの宝石…!)」

 その時マオが思い出したのは壺の中から砂と一緒に出て来た宝石。
 怪しいとしたらそれしか無く、確実に本体だろうと睨んだのだ。
 だがしかし、相手の身体の中を自由に移動できるであろうコアは決して外部へ出ることなく、攻撃してもスラスラと躱してしまうだろう。
 だとしたら外壁を剥がすしか無いが……砂単体の弱点を考えれば容易い事だ。

「思いついた!ザミ!!」
【ハゥ?】
「相手にしてやって!」

「……は?…マーキング…?」

 そう、砂の弱点と言ったら水である。
 砂の粒子に水分が加わると隙間を埋めるように固まる……つまりは水分を吸収してしまえば動きが一気に遅くなるのだ。

【……ガゥア?】
「本気だってば!さっきしこたま水飲んだから出るでしょ?」
【ワゥ!ガゥウウ!!】
【ズァ!?】

 ザミは主の命令を聞くと素早く相手へタックルをぶちかまし、打ち砕く。
 そして再生する前にマーキング……まぁつまり尿を掛けようと後ろ脚を片方上げたのだが…

「ヒィッ!?ダメダメダメダメ!!!絶対やめてぇ!!」
「な!邪魔しないでよ!」

 マキがそれよりも早く駆け付け、やめるように言った。
 自分のモンスターが犬如きに尿を掛けられようとしているのなら当たり前だ…

「おしっこだけは勘弁を…!」
「じゃあ降参しろ!」
「するから!!」

 愛砂が小便まみれになるのを防ぐため、彼女はいとも簡単に勝利を手放した。
 まぁこの戦い……ハッキリ言って決着が着くのかと少し心配になるほど長引きそうだったのでラッキーと言えばラッキーだろう…



「よしっ!!次、ジョラス!!アンタよ。」
「な、中々やるな……だが、ここからが本番だと言うことは忘れるなよ…」

 そしていよいよ3人抜きで2人を制したマオが最後に挑むのはジョラス……この戦いを始めた張本人にして現在立った1人の……マオの敵である。
 決闘と言った割には3人抜きさせる辺り、かなり姑息だがザミはまだまだやる気に満ち溢れている。
 なので実質決闘と言っても過言では無い。

「来い!サンパチ!!」
【キェエエン!!】

 ジョラスの相棒はゲートルバードと呼ばれる猛禽類型のモンスター…
 その名の由来である強靭な足と鋭利な爪は最大の武器であり、いくらザミとは言え……一撃でも喰らえば致命傷は免れない。

「ザミ、準備は良い?何処か悪かったりしない?」
【ワン!!】
「良い返事!じゃあボンボンを叩き潰しに行くわよ!!」
「はん!叩き潰すだと?ならこっちはぶっ飛ばしてやるよ!行くぞサンパチ!エリートと落ちこぼれの差を分からせてやるんだ!!」
【キェエエ!!】

 いよいよ始まったザミとサンパチのガチンコ勝負。
 猟犬として開発されたスカベンジハウンドと古来より狩猟民族の友として利用されたゲートルバード……両者共に奇妙な類似点を持ちながらも対峙するのは非常に稀だろう…
 サンパチの冷たい獲物を見つめる目つきとザミの冷酷な眼が向かい合う…

「サンパチ!ハンディストームだ!!」
【ギォオオオオ!!】
【ヒゥウッ!?】
「ッ!?ま、魔法…!」

 先に動き出したのはサンパチ……ジョラスが命令すれば白と青の魔法陣を空中に形成し、凄まじい暴風を吹かせる!
 魔法を使用するモンスターとの対面はこれが初で、マオもザミも吹き荒ぶ風に戸惑うばかり…
 そしてそうこうしているうちに相手はバサリと大きく翼を広げると暴風の中を素早く跳び始めた。

「早い…!まさかこの風を…」
「その通り!この風はただの攻撃じゃねぇ!!土台も含んでいる!」

 ゲートルバードの生息地は暴風が荒れ狂うオルデン渓谷……羽根の一本一本は細かな筋肉の動きによって完璧に制御され、風圧を殺すだけでなく推進力としても活用する事が可能!
 つまりこの状況では圧倒的に相手が有利な立場である!言うなれば生簀の鯉…

 暴風と言う土台が出来上がればいよいよサンパチは攻撃のフェーズへと移行。
 渦を巻くように上空へ飛びあがると一回転しながらザミへ狙いを定め、一直線に降下!!

 ズビャンッ!!

【ヒゥン!?】
「ザミ!!」

 空を切ってザミへ突撃したサンパチは掻っ攫うかのように足の肉を薄く抉り、傷を負わせた…
 薄く血が垂れ、地面へ染み込んで行く……傷を負ったのは初めてでは無いが…誰かのモンスターからの攻撃で明確に血を流したのは初である…

 そしてこの戦況は非常にマズい。
 避けようにも風で下手に動けず、バランスを崩せば大きな隙を作ってしまう……

「ザミ!…だ、大丈夫?」
【ワウウゥ…!】
「まだ立つか!行け、サンパチ!!攻撃の手を緩めるな!!」
【ギェエエエァアア!!】

 攻撃も回避も出来ないザミはされるがままにサンパチの攻撃を2度3度受け続ける…
 その間、マオはただひたすらザミを見ながら風に吹かれており、何も命令する事なく見守るのみ…

「ふん!己の浅はかさに嫌気が差したか?生兵法と言うワケか……やれサンパチ!トドメだ!!」
【ギィエエン!!】

「……ザミ!!今よ!右後ろに飛んで!!」
【ガゥッ!】
【ギュァッ!?】

 トドメの一撃を喰らわせようとサンパチが背後から迫るその時、マオは右後ろへ飛ぶように命令。
 ザミはすぐさま言われた通りに後ろへ飛べば風圧で押され、サンパチへ激突!
 暴風は解除され、サンパチは地面へと墜落…

「なにッ!?」
「ザミ!今度は頭突きをぶちかまして!!」
【ガゥウウッ!!】

バギィッ!!

【ギュァッグァ!!】

 落ちたところへすかさずマオの命令でザミは助走をつけた頭突きをお見舞い。
 ドゴンッと鈍い音を鳴らし、サンパチは数メートル先まで地面に擦り付けられるように吹き飛ばされた…

「へへん!どんなもんよ!例えザミと私が落ちこぼれだろうとアンタ達を吹き飛ばすくらい出来るのよ!」
【ワンッ!ハゥウ!】
「くそったれぇ…!く、屈辱的だ……サンパチ!大丈夫か!立てるか!!」
【ぎ、ギゥウウ!】

 かなり強烈な頭突きだったのだろうが、なんとサンパチは立ち上がった。
 小柄な体に対して意外と打たれ強いのかもしれない……しかし、同じ手が通用するか分からないなら…勝てる見込みも無い…!



「おいマオ、まだ戦うつもりか?」
「そうだよ…もう止めた方が良いんじゃない?」
「グリフ…ルミリィ……だ、だけど…」

「兄貴もそろそろやめませんか?」
「これ以上無駄な戦いを続けてもモンスターが傷つくだけだわ…」
「ぐぅう…!だ、だが…!」

 現在ザミとサンパチは互いに傷を負っている。
 大事では無いにしろ、このまま戦いを続行させれば悪化するのは確かだろう。
 今回は今まで出番が無かった2人が止めるほどの事態なのでマオも迷いがち………そしてそれはジョラスの方も同じでバドとマキも彼を止めようと説得している…

「まぁ…あれだ………2人共、この戦いは一回…止めにしないか?」
「ぇえ!?そ、それマジえ言ってるの?」
「はぁ!?何言ってやがる…!」

 流石にグリフも見るに見かねて2人に休戦を提案。
 これ以上、浅はかな知識で自身の相棒を傷付けるよりもきちんと段階を踏んでからにした方が良いのではないかとマオとジョラスへ話したのだ。

「それにもう結構時間経ってるよ……戻らないと先生に怒られちゃう…」
「そ、そうね…もしこんな事してるのが先生に見つかればパパとママにも連絡が…」
「やべぇえ!そんな事になったら手紙の量が増える!なぁ兄貴!もう行きましょうよ!!」
「……しょ、しょうがねぇ…」
「まぁ今回ばかりは…どうにもならないからね……ザミも心配だしここは一時休戦にしようか…」

 と言うことで一時的に2人は休戦する事に。
 互いに知識を学んでから存分に力を引き出して戦う事にしたのだ。

「あー……お前ら……もう休戦どころじゃねぇぞ…」
「「「「え?」」」」



「お前等……一体何を…やってやがる…!!」
「はぁあッ…!?せ、先生…!」
【カゥウ…】【キェ…】

 だがしかし、時すでに遅し……グリフの視線の先には険しい表情のスケロクが…!
 どうやら少しばかり戦闘時間が長引いてしまったようだ……

「お前等無許可でモンスターを戦わせていたのか!!なんて事をしているんだ!!無許可でのバトルは駄目だと何度も何度も…!!」

「す、すいません…」
「ちくしょう…」

 もちろんスケロクは大激怒。
 無許可でのバトルはテイマー界では非常に問題視されており、モンスターやテイマーのみならず無関係の第三者まで巻き込む可能性も大いにあるのだ…

「みんな怪我はないか!そこのモンスターだけか!?」
「はい…」
「全く……なら良いが……いや良くない!!モンスターは怪我だらけじゃないか!色々と言うことはあるが……まずは医務室へ連れて行くぞ!!」

 スケロクに連れられ、マオ一行は学園の医務室へと向かった…
 モンスターはもちろん、一応ルミリィやグリフ等全員分の診察も受けてから改めて6人は学園長の部屋へと連行。
 その場には学園長のリイダはもちろん、教頭のシューダとグレタ組の担任教師であるノアールも既に待ち構え、皆が皆……恐ろしい顔をしている。

「バラク組マオ、グレタ組ジョラス……以下並びに四名…しでかした事の重大さはご存知で?」
「無許可での躁怪闘技は協会でも固く禁じられている行為……みんなは何度も先生から言われているよね?」

 シューダとリイダの圧が利いた恐ろしい話声……マオとジョラス、マキとバドは恐怖に震え…連帯責任を喰らったグリフとルミリィもすっかり震えていた…

「全員この事は保護者に伝えます。もちろんジョラス……あなたはルーキーテイマーとして協会にも連絡を…」
「そ、それだけは…」
「ジョラス、駄目よ。あなたのした事は禁句中の禁句…教師として取り消す事も見逃す事も出来ないわ。」

 ジョラスはルーキーテイマーとして協会に申請を行っているため、もちろん連絡が向かう。
 とは言え、精々減点程度で特にお咎めは無いのだが……記録は残るので嫌がる者は多い。

「リイダ校長、マオ達に罰を……って言ってもあまりきついのは…」
「分かっています…そうですね……闘技を行った4人には反省文を4枚とを受けてもらいます。そしてそこの2人には反省文1枚を命じます。」

「さ、流石校長…!反省文を4枚だなんて…残酷だ…!……と言うワケで6人共、反省室へ行くぞ。」

 マオ、ジョラス、バド、マキの4人は反省文4枚と特別講習とやらを受けることに。
 そしてグリフとルミリィは止めずにいた事で反省文1枚を喰らってしまった…


 さて、いろいろと起きつつもマオとザミの学園生活はまだ幕を開けたばかり。
 春も過ぎ去る中で1人と1匹……そして仲間たちに待ち受ける運命とは…
 波乱万丈で奇妙な戦いと運命の交差する未来にこうご期待。

つづく 第1章 完



・・・



 キャラクタープロフィール

【ジョラス・J・アボブ】通称:ジョラス、兄貴
身長155㎝ 年齢:12歳 血液型:Y2 出身:北の空 髪色:黒
学年:1年グレタ組 現在成績:優秀 進路:バトルテイマー
相棒:サンパチ(ゲートルバード) 関係:良好
テイマーランク:ルーキー 追従石の有無:非所持
所属宗教:揺り籠の騎士団

『空輸会社の御曹司の男の子。グレタ組に所属するエリート生徒で成績優秀、頭脳明晰、文武両道と完璧。学園の入学理由は一般人との交流が建前だが本音は自分より下の人間を嘲笑うためであろう。上記のように成績は優秀とされているが性格に難があり、一定の人間との交流を拒んで自分を保とうとしている。自分を完璧であると考えるがために少しでもプライドに傷が付けば夜も眠れない。相棒のサンパチとは唯一対等に話せる仲である。ちなみに両親は彼に対して非干渉気味で寂しさも感じている模様。』


【サンパチ】通称:サンパチ、キエエどり
種類:ゲートルバード 年齢:10歳 体の色:茶色と白
主人:ジョラス(1年生) 知能:極高 戦闘能力:高
査定モンスターランク:A(かなり優秀)

『ジョラスの相棒のゲートルバード。種の中でもずば抜けた知能と忠誠心を持ち合わせており、彼の事を心から信頼している。元はジョラスが5歳の誕生日に父と母から贈られた愛玩用のペットであったが彼がバトルテイマーになる事を目標と聞き、自身も猛禽類が故の戦闘能力をフル活用する事に。風の魔法を操り、速度を上乗せした飛びつき攻撃が得意。主人のライバルの相棒であるザミとは何だかんだ仲良くしており、友達としてライバルとしても付き合うつもりらしい。ちなみにメス。』
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