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第1章 流星の如き転入生編
其の14 激闘強襲グレタ組! 前編
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前回、マオ達はテイマーの基本知識を学び、いよいよ夏に向けて本格的に知識を蓄えようとしていた…
しかし、そんな彼女等をよく思わない者達が……
「凄いよルミリィ!グリフ!今日のランチってば豪華だよ!」
「豪華って言うか……一品多い感じ?」
「いつもは主食と副菜が1つずつだしな……まぁ豪華って程じゃないが…」
ある日の昼食、マオは心躍っていた。
何故かと言えばもちろんランチの品数が一つ多いからだ、いつもはこってりしたシチューにパンが2つと言う育ちざかりには少々辛い組み合わせだが…
今日の献立はジングルラムのシチューにソードレバリーのフリッター、そしてロールパンが2つ…いつもより幾分か豪華。
「どれから行くか迷っちゃうなぁ……」
「早くしねぇと冷めるぞ。」
「じゃあシチューから!お肉がごろごろしてるよ!」
マオは早速シチューから手を付けた。
ジングルラムと呼ばれるヤギの肉がゴロゴロと入ったこってりしたシチューは温かくなって来た今日この頃には少々暑苦しいが実に食欲をそそるものだ。
「うーん……コショウが欲しいかなぁ。」
マオは一口啜ってみれば、パンチが足りないとテーブルの上のコショウを取ろうとしたが…
「そんなに欲しいなら掛けてやるぜ、ホラよ!」
「うぎゃぁあああ!?あたしのシチューがァッ!!」
何処からやって来た誰かがマオのシチューへドバッと大量のコショウを振りかけた…
山盛りのコショウに親切なんて感情は無く、ただただ台無しにされてしまった料理が可哀想である。
もちろんマオは黙っているハズも無く、コショウを掛けた奴の顔を拝んだが…
「アンタ一体何を!!……ッ!…ジョラス…!」
「おいおい、親切にしてやったのにその態度か?」
マオが顔を見上げてみれば、そこに立って居たのはグレタ組のジョラス…
2度ほど顔を合わせたが、嫌な奴と言う印象しか抱かない、なんとも捻くれた男の子である。
「まだ一口しか食べてないのに…!」
「マオ、抑えて……結構食べちゃったけど私のあげるから…」
「良い所の坊ちゃんがする事がこれかよ、上流階級の底が知れるな。」
「黙れよみなしご、お前等下級人種がオレに意見できると思うなよ。」
「くっ…!…てめぇ!!」
グリフもジョラスへ突っかかるが……本人にとって一番の悩みである「みなしご」と言われてしまい、ついカッとなっ彼の首元を掴んだ。
しかし……相手はグレタ組、しかも大手空輸会社の御曹司である…もし怪我を負わせれば大変な事になってしまうだろう。
グリフは何も出来ず、手を離すとグッと堪えた…
「はん!所詮はただ臆病者だな!」
「う……(堪えろ堪えろ堪えろ…!)」
「ジョラス、アンタ何しに来たのよ!まさか嫌がらせをしに来ただけじゃないわよね?」
「当たり前だ!俺はマオ…お前に決闘を申し込みに来たんだぜ。」
「決闘…」
ジョラスはわざわざ何をしに来たのかと思えば、なんと決闘を申し込むと言うではないか。
マオは最初、「どんな殺し合いをさせるつもりだ?」なんて思っていたが……そんな生々しいモノでは無く、モンスターを使ったバトルをしたいと言うのだ。
「ルールはKO制、どちらかのモンスターが戦闘不可…または参ったと言えばもう片方の勝ちだ。」
「……なんでそんな事を?」
「お前がウザいからだ、新人のくせに出しゃばりやがって!良い顔できると思うなよ!」
「なッ…!出しゃばりって私は別に出しゃばった覚えはないわよ!何勘違いしてんのよ!」
「うるさいうるさいうるさい!黙れ黙れ黙れ!受けるか!受けないのか!どっちなんだ!!」
「受けて立とうじゃない!アンタくらい簡単にぶっ飛ばしてやるわよ!!」
と言うことでマオはジョラスの決闘を受けてしまった…
日時は明日の真昼、場所は校舎から遠く離れた旧訓練場跡地にて待つ……とジョラスはマオ達へ告げると笑いながら何処かへ行ってしまった。
それに決闘なんてつい勢いで受けてしまったが、もし教師にバレれば怒られるなんてどころじゃ無いだろう…
「良いのかよマオ……こんな事はあまり言いたくは無いがな、ジョラスの相棒はゲートルバードだぜ?知能も戦闘力も高いぜ。」
「ゲートルバードだろうがタートルネックだろうが相手がアイツなら負けるわけには行かない…増してや逃げる事も…」
「わ、私は……怖くて何も言えなかったけど……止めといた方が…」
「ルミリィ、忠告は感謝するけど……私はやるよ!ちゃんとした関係と言うのを叩き込んであげないと。」
「お前……ガンコだな…」
斯くして、マオは決闘を受けてしまったが…
「てなワケでザミ、頼んだよ。」
【キャゥウ!?】
肝心のザミは急な話でオロオロと分かりやすく犬だと言うのに狼狽えた…
そりゃそうだろう、部屋でグースカと(主人の)ベッドの上で寝ていればいきなり戦えと言うのだ、冷静でいられなくなるのも無理は無いだろう。
【ワウ、カゥウウウ…】
「勝てるか心配?ザミならいけるよ!絶対いけるって!!」
「凄い自信だねマオ……」
「だってザミだよ?勝てないわけ無いじゃん!見てよこの勇ましさ!!」
【……ハゥ?】
「「………」」
ルミリィと共にザミへ熱い視線を送るマオだが……本犬は呑気にお腹を丸出しで窓から差し込む太陽光で日光浴を楽しんでいる…
とてもじゃないが強そうと言う感想は湧かず、出て来る言葉は「可愛い」や「愛玩犬」と言ったもの。
こんな野良犬もどきが勝てるのかどうか疑問に思うルミリィだが、それとは反対にマオの自身は凄いものである…
さて、戦うとならばそれなりに準備は必要。
例えばモンスターのバトルにおいて勝敗を決めるのはやはり魔法や一撃必殺だろう。
マオとルミリィはザミの得意魔法を見つけるため、図書館にて魔法大全を読み漁っていた…
「ふむふむ……スカベンジハウンドが得意なのは強化系と物理系かぁ…」
「どっちも基本中の基本って感じだね。」
モンスターにはそれぞれ種族によって得意なものとそうでないものが存在する。
例えばザミのようなスカベンジハウンドは身体強化を行う強化系(別名豪化系とも)と火球や雹球などの自然攻撃類の1つ、物理系が得意で覚えやすいらしい。
だが、やはり個体にも得意不得意があるので全てが全てそうだとは限らないのである。
ちなみにその他の魔法種には大地系、念力系、怪毒系、植物系、天気系などなど……現在知られているだけでも10種類はある…
「と言うことで……ザミ、魔法の特訓を行うよ!」
【……カフッ…】
「あー……マオ、流石に急すぎるんじゃない?」
「やっぱり?…明日までに魔法は無理かぁ……だとすればする事は一つ!」
「な、何をするの?」
「寝る!」
流石のザミでも1日で魔法を覚えることは不可能。
なので出来る事と言えば寝ることぐらいだ、なにせ寝る子は育つと言うじゃないか……とマオは思っている。
「今更ジタバタしたってしょうがないしぃ……もうこの際万全の状態で挑む方が良くない?」
「変な苦労よりかは賢い選択だとは思うけど……マオはザミが勝てると思ってるの…」
「当たり前だよ!私が今こうやって寝てられるのもザミが強いって信じられるからだよ、ねぇザミ?」
【………ワン…】
「ほら、任せとけだって。」
「心配だなぁ…」
いくら魔法が使えないとは言え、ザミにはマオと共に幾度も修羅場を潜り抜けた経験が備わっている。
ザミ自身にも鋭い牙や強靭な足など戦いに申し分ない力はあるのだ。
マオとルミリィは本を本棚へ戻すとさっさと自分達の部屋へ戻り、寝てしまった…
しかし、この間にもジョラス達が努力を怠っていない事を忘れてはならない。
彼もマオとザミを全力で潰そうと企てているのだった…
それから時間が過ぎるのは早いもので、気が付けば翌日の正午近く…
マオとザミはもちろん、心配だと言うことでルミリィとイコ…そしてグリフの3人と2匹は校舎からかなり離れた場所にある旧訓練場跡へ訪れていた。
荒れたグラウンドに苔の生えたボロボロの高台やヘドロを蓄えたプール…どれもかつては使われていたものだが今は見る影もない。
「なんだかお腹空いてきちゃった、ご飯食べて来れば良かったなぁ…」
「お前、こんな状況でも飯が喉を通るのか…」
「どんな時だってお腹は空くからね。」
「ちょっと緊張感無さ過ぎじゃない…マオ…」
正午ピッキリなので昼食は食べずに胃は空っぽのまま来ていたマオ達は若干の空腹感を覚えていた。
とは言え、この場に居るマオを除いた面々はとてもじゃないが食事が喉を通らないだろう……イコは相変わらず草を食しているが…
「よう、待たせたようだな。落第組の諸君。」
「ホントにね!エリート気取るなら少しは時間に合わせてよね!」
「バカヤロウ、余裕のある姿勢と言わないか。」
少し待っていればお目当てと言うか、まさに呼び出した本人であるジョラスが腰巾着の2人を連れてやって来た…
そう、あちらも3人でやって来たのだ。
「決闘じゃ無かったのかよ…」
「黙れ、お前等だって3人いるじゃないか。」
「そうよ。こういう時はフェアに行かないとねぇ?」
「テメェなんか兄貴が相手しなくても俺が捻り潰してやるよ。」
そう言い、ジョラスの腰巾着の少年はマオの前へ立ちはだかった。
決闘と言う割には3人抜きさせる模様……増々エリートと言うのは嫌な奴等だよマオは思いつつも、ザミと共に相手を睨んだ。
「バド、あまり本気になり過ぎるなよ?」
「分かってるって兄貴……さぁホイラ、こんな子犬如き叩き潰してやりな。」
【チュバァアッ!】
【ガゥウウ!!】
「な、なによそんな老けた亀みたいな動物は…」
腰巾着の1人、バドの相棒モンスターのホイラはなんとも奇妙な…甲殻を纏って老けた小型犬のような生き物であった。
所謂アルマジロと言うヤツだが、マオはもちろんそんな事知らないので「ふざけたモンスター」とばかり思っている…
ザミも相手が弱そうだと知った瞬間、歯茎をグルルとひん剥いて相手を威嚇した。
「行けホイラ!!噛み付いて穴だらけにしてしまえ!!」
【チュバゥウ!ヂュァアア!!】
「そんな小さい口で……ええい!ザミ!!こっちも噛み付いちゃえ!!」
【ワゥウ!!】
洗濯バサミのような小さな口で噛み付こうとノソノソ走って来る相手を見てマオも負けるなと噛み付き作戦で行くことに。
ザミはトラバサミのような大口を開けて相手へ噛み付こうとしたが…
「今だ!丸まれ!!」
【チュミィッ!】
【ガゥッ!!……フゥ…】
「な!か、噛み付けない…!」
なんと相手は器用に球体のように丸まってしまい、ザミが噛み付こうとも圧倒的硬さで歯が通らなくなってしまった…
さらに甲殻は前面を包むようにしているのでまるで隙が無い状態である。
「はーっはっは!どうだ!!思い知ったか!」
「そんなのただ丸まっただけじゃない!」
【ガフゥ!…ハゥ…】
ザミはとりあえず相手を転がしたり、噛み付きまくったり、舐めたりもしてみたが一向に歯が立たず…
ちょっと目を背けた隙に噛み付かれてしまう始末……
まさに無敵の防御と姑息な攻撃の2つを持ち合わせた嫌なモンスターである。
しかしながらグリフは相手の弱みを完全に理解している模様。
「マオ!まだ分からないか!」
「だってどうしようもないじゃん!」
「そうだ!まさにオレのモンスターこそ最強!!……いや、兄貴のモンスターも最強だ!」
「よく見ろマオ!相手は何をしている!」
そう言われてホイラを観察してみれば……丸まっている。
にしても見事な球体である、寸分の狂いも無いその姿はある種の美しさも感じるが………今は生憎それどころでは無い…
「ぼ、防御…かな…」
「だとしたら分かるだろ…」
「……ぁあそうか!!攻撃が出来ないんだ!」
そう、ホイラは球体になる際に頭も手足も中に収納してしまっているので攻撃が出来ないのだ。
となれば勝つ方法は簡単…
「ザミ!高速穴掘りよ!!」
【ワンッ!!】
「無駄な事を…!ホイラ!!噛みつけ!!」
【ヂュバァ!】
【ヒャゥウ!!】
ザミが高速で穴掘りを始めればホイラは噛み付こうとするも、所詮はただの小動物。
意識さえしていれば躱せない事は無い!
ザミは器用に立ち回りながら穴を掘って行き、頃合いになると…
「ザミ!噛み付きよ!」
【ワゥウウ!!】
「無駄だ無駄だ無駄だ!!丸まれぇ!!」
【チュッバア!】
「ふん!勝った!!」
「何を…」
丸まったホイラを見たザミは思い切り噛み付く……ように見せて咥えて持ち上げると掘った穴へ落とした。
そして上からザッザッと土をかぶせて行き…
埋めてしまった。
「うわぁああああああ!!ホイラ!ホイラァア!!」
【ヂュ、ヂュバァァ……フェ…】
慌ててバドは掘り返したが出て来たのは土にまみれて気絶したホイラ…
誰が見ても戦闘は続行不可である……つまり…
「この勝負はアタシの勝ちね!」
【ワウ!!】
「き、汚ねぇぞ!!よくもホイラを…!」
「3人抜きの時点で汚いもクソも無い!負けたならさっさと引っ込んで!!次っ!!」
「しょ、しょうがない……バド、こっちに戻れ。」
「クソぅ…クソ……」
「じゃあ私の出番ね。」
そして次に出て来たのはジョラスのもう一人の腰巾着の少女。
顔を目以外黒い布で覆っていて忍者みたいな風貌をしているが民族衣装か何かだろう…
「私はマキ……マキ・グリルン…」
「これはご丁寧にどうも……って!そんな場合じゃない!!アンタ、モンスターは?」
「ちゃんといるわよ……フフフフ…」
謎の少女、マキの正体とは……そして、彼女のモンスターとは…?
マオとザミは更なる相手に闘志を見せつけるのだった…
つづく…
・・・
キャラクタープロフィール
【バド・スペーン】通称:バド、バディ
身長151㎝ 年齢:11歳 血液型W4 出身:シントリア 髪色:赤色
学年:1年グレタ組 現在成績:優秀 進路:テイマー
相棒:ホイラ(マジロッド) 関係:良好
テイマーランク:無 追従石の有無:非所持
所属宗教:大いなる自然教
『農村の貴族出身の男の子。ジョラスの取り巻きの片方であり、学園内でもそう言う認識をされている。元々は気が弱い生徒と思われていたが幾分か克服した模様。6人兄弟の末子で政治を兄たちに任せる名目でテイマーを目指している。普段はジョラスの横でイエスマンなどをしているのだが、陰では少しやり過ぎだと言うことで彼の身を案じている……両親が過保護なため、週一で手紙が来るのだが本人は少しうんざり気味…』
【ホイラ】通称:ホイラ、かめまる
種類:マジロッド 年齢:おそらく6歳ほど 体の色:ベージュ
主人:バド(1年生) 知能:高 戦闘能力:中
推定モンスターランク:B+(平均以上)
『バドの相棒のマジロッドと呼ばれるアルマジロのようなモンスター。本来マジロッドは臆病な性格をしていて戦闘は好まないのだが彼に至っては少し好戦的と言えよう。丸まる早さは野生の個体に比べて格段に早く、急な奇襲でも直ぐに防御が可能。しかし肝心の攻撃が噛みつきだけと少々火力不足。結構小さいので間違えて踏んだりすると激しく怒って噛み付いて来る………ちなみにスケロクから、かめまると言うよく分からないあだ名を付けられている…』
しかし、そんな彼女等をよく思わない者達が……
「凄いよルミリィ!グリフ!今日のランチってば豪華だよ!」
「豪華って言うか……一品多い感じ?」
「いつもは主食と副菜が1つずつだしな……まぁ豪華って程じゃないが…」
ある日の昼食、マオは心躍っていた。
何故かと言えばもちろんランチの品数が一つ多いからだ、いつもはこってりしたシチューにパンが2つと言う育ちざかりには少々辛い組み合わせだが…
今日の献立はジングルラムのシチューにソードレバリーのフリッター、そしてロールパンが2つ…いつもより幾分か豪華。
「どれから行くか迷っちゃうなぁ……」
「早くしねぇと冷めるぞ。」
「じゃあシチューから!お肉がごろごろしてるよ!」
マオは早速シチューから手を付けた。
ジングルラムと呼ばれるヤギの肉がゴロゴロと入ったこってりしたシチューは温かくなって来た今日この頃には少々暑苦しいが実に食欲をそそるものだ。
「うーん……コショウが欲しいかなぁ。」
マオは一口啜ってみれば、パンチが足りないとテーブルの上のコショウを取ろうとしたが…
「そんなに欲しいなら掛けてやるぜ、ホラよ!」
「うぎゃぁあああ!?あたしのシチューがァッ!!」
何処からやって来た誰かがマオのシチューへドバッと大量のコショウを振りかけた…
山盛りのコショウに親切なんて感情は無く、ただただ台無しにされてしまった料理が可哀想である。
もちろんマオは黙っているハズも無く、コショウを掛けた奴の顔を拝んだが…
「アンタ一体何を!!……ッ!…ジョラス…!」
「おいおい、親切にしてやったのにその態度か?」
マオが顔を見上げてみれば、そこに立って居たのはグレタ組のジョラス…
2度ほど顔を合わせたが、嫌な奴と言う印象しか抱かない、なんとも捻くれた男の子である。
「まだ一口しか食べてないのに…!」
「マオ、抑えて……結構食べちゃったけど私のあげるから…」
「良い所の坊ちゃんがする事がこれかよ、上流階級の底が知れるな。」
「黙れよみなしご、お前等下級人種がオレに意見できると思うなよ。」
「くっ…!…てめぇ!!」
グリフもジョラスへ突っかかるが……本人にとって一番の悩みである「みなしご」と言われてしまい、ついカッとなっ彼の首元を掴んだ。
しかし……相手はグレタ組、しかも大手空輸会社の御曹司である…もし怪我を負わせれば大変な事になってしまうだろう。
グリフは何も出来ず、手を離すとグッと堪えた…
「はん!所詮はただ臆病者だな!」
「う……(堪えろ堪えろ堪えろ…!)」
「ジョラス、アンタ何しに来たのよ!まさか嫌がらせをしに来ただけじゃないわよね?」
「当たり前だ!俺はマオ…お前に決闘を申し込みに来たんだぜ。」
「決闘…」
ジョラスはわざわざ何をしに来たのかと思えば、なんと決闘を申し込むと言うではないか。
マオは最初、「どんな殺し合いをさせるつもりだ?」なんて思っていたが……そんな生々しいモノでは無く、モンスターを使ったバトルをしたいと言うのだ。
「ルールはKO制、どちらかのモンスターが戦闘不可…または参ったと言えばもう片方の勝ちだ。」
「……なんでそんな事を?」
「お前がウザいからだ、新人のくせに出しゃばりやがって!良い顔できると思うなよ!」
「なッ…!出しゃばりって私は別に出しゃばった覚えはないわよ!何勘違いしてんのよ!」
「うるさいうるさいうるさい!黙れ黙れ黙れ!受けるか!受けないのか!どっちなんだ!!」
「受けて立とうじゃない!アンタくらい簡単にぶっ飛ばしてやるわよ!!」
と言うことでマオはジョラスの決闘を受けてしまった…
日時は明日の真昼、場所は校舎から遠く離れた旧訓練場跡地にて待つ……とジョラスはマオ達へ告げると笑いながら何処かへ行ってしまった。
それに決闘なんてつい勢いで受けてしまったが、もし教師にバレれば怒られるなんてどころじゃ無いだろう…
「良いのかよマオ……こんな事はあまり言いたくは無いがな、ジョラスの相棒はゲートルバードだぜ?知能も戦闘力も高いぜ。」
「ゲートルバードだろうがタートルネックだろうが相手がアイツなら負けるわけには行かない…増してや逃げる事も…」
「わ、私は……怖くて何も言えなかったけど……止めといた方が…」
「ルミリィ、忠告は感謝するけど……私はやるよ!ちゃんとした関係と言うのを叩き込んであげないと。」
「お前……ガンコだな…」
斯くして、マオは決闘を受けてしまったが…
「てなワケでザミ、頼んだよ。」
【キャゥウ!?】
肝心のザミは急な話でオロオロと分かりやすく犬だと言うのに狼狽えた…
そりゃそうだろう、部屋でグースカと(主人の)ベッドの上で寝ていればいきなり戦えと言うのだ、冷静でいられなくなるのも無理は無いだろう。
【ワウ、カゥウウウ…】
「勝てるか心配?ザミならいけるよ!絶対いけるって!!」
「凄い自信だねマオ……」
「だってザミだよ?勝てないわけ無いじゃん!見てよこの勇ましさ!!」
【……ハゥ?】
「「………」」
ルミリィと共にザミへ熱い視線を送るマオだが……本犬は呑気にお腹を丸出しで窓から差し込む太陽光で日光浴を楽しんでいる…
とてもじゃないが強そうと言う感想は湧かず、出て来る言葉は「可愛い」や「愛玩犬」と言ったもの。
こんな野良犬もどきが勝てるのかどうか疑問に思うルミリィだが、それとは反対にマオの自身は凄いものである…
さて、戦うとならばそれなりに準備は必要。
例えばモンスターのバトルにおいて勝敗を決めるのはやはり魔法や一撃必殺だろう。
マオとルミリィはザミの得意魔法を見つけるため、図書館にて魔法大全を読み漁っていた…
「ふむふむ……スカベンジハウンドが得意なのは強化系と物理系かぁ…」
「どっちも基本中の基本って感じだね。」
モンスターにはそれぞれ種族によって得意なものとそうでないものが存在する。
例えばザミのようなスカベンジハウンドは身体強化を行う強化系(別名豪化系とも)と火球や雹球などの自然攻撃類の1つ、物理系が得意で覚えやすいらしい。
だが、やはり個体にも得意不得意があるので全てが全てそうだとは限らないのである。
ちなみにその他の魔法種には大地系、念力系、怪毒系、植物系、天気系などなど……現在知られているだけでも10種類はある…
「と言うことで……ザミ、魔法の特訓を行うよ!」
【……カフッ…】
「あー……マオ、流石に急すぎるんじゃない?」
「やっぱり?…明日までに魔法は無理かぁ……だとすればする事は一つ!」
「な、何をするの?」
「寝る!」
流石のザミでも1日で魔法を覚えることは不可能。
なので出来る事と言えば寝ることぐらいだ、なにせ寝る子は育つと言うじゃないか……とマオは思っている。
「今更ジタバタしたってしょうがないしぃ……もうこの際万全の状態で挑む方が良くない?」
「変な苦労よりかは賢い選択だとは思うけど……マオはザミが勝てると思ってるの…」
「当たり前だよ!私が今こうやって寝てられるのもザミが強いって信じられるからだよ、ねぇザミ?」
【………ワン…】
「ほら、任せとけだって。」
「心配だなぁ…」
いくら魔法が使えないとは言え、ザミにはマオと共に幾度も修羅場を潜り抜けた経験が備わっている。
ザミ自身にも鋭い牙や強靭な足など戦いに申し分ない力はあるのだ。
マオとルミリィは本を本棚へ戻すとさっさと自分達の部屋へ戻り、寝てしまった…
しかし、この間にもジョラス達が努力を怠っていない事を忘れてはならない。
彼もマオとザミを全力で潰そうと企てているのだった…
それから時間が過ぎるのは早いもので、気が付けば翌日の正午近く…
マオとザミはもちろん、心配だと言うことでルミリィとイコ…そしてグリフの3人と2匹は校舎からかなり離れた場所にある旧訓練場跡へ訪れていた。
荒れたグラウンドに苔の生えたボロボロの高台やヘドロを蓄えたプール…どれもかつては使われていたものだが今は見る影もない。
「なんだかお腹空いてきちゃった、ご飯食べて来れば良かったなぁ…」
「お前、こんな状況でも飯が喉を通るのか…」
「どんな時だってお腹は空くからね。」
「ちょっと緊張感無さ過ぎじゃない…マオ…」
正午ピッキリなので昼食は食べずに胃は空っぽのまま来ていたマオ達は若干の空腹感を覚えていた。
とは言え、この場に居るマオを除いた面々はとてもじゃないが食事が喉を通らないだろう……イコは相変わらず草を食しているが…
「よう、待たせたようだな。落第組の諸君。」
「ホントにね!エリート気取るなら少しは時間に合わせてよね!」
「バカヤロウ、余裕のある姿勢と言わないか。」
少し待っていればお目当てと言うか、まさに呼び出した本人であるジョラスが腰巾着の2人を連れてやって来た…
そう、あちらも3人でやって来たのだ。
「決闘じゃ無かったのかよ…」
「黙れ、お前等だって3人いるじゃないか。」
「そうよ。こういう時はフェアに行かないとねぇ?」
「テメェなんか兄貴が相手しなくても俺が捻り潰してやるよ。」
そう言い、ジョラスの腰巾着の少年はマオの前へ立ちはだかった。
決闘と言う割には3人抜きさせる模様……増々エリートと言うのは嫌な奴等だよマオは思いつつも、ザミと共に相手を睨んだ。
「バド、あまり本気になり過ぎるなよ?」
「分かってるって兄貴……さぁホイラ、こんな子犬如き叩き潰してやりな。」
【チュバァアッ!】
【ガゥウウ!!】
「な、なによそんな老けた亀みたいな動物は…」
腰巾着の1人、バドの相棒モンスターのホイラはなんとも奇妙な…甲殻を纏って老けた小型犬のような生き物であった。
所謂アルマジロと言うヤツだが、マオはもちろんそんな事知らないので「ふざけたモンスター」とばかり思っている…
ザミも相手が弱そうだと知った瞬間、歯茎をグルルとひん剥いて相手を威嚇した。
「行けホイラ!!噛み付いて穴だらけにしてしまえ!!」
【チュバゥウ!ヂュァアア!!】
「そんな小さい口で……ええい!ザミ!!こっちも噛み付いちゃえ!!」
【ワゥウ!!】
洗濯バサミのような小さな口で噛み付こうとノソノソ走って来る相手を見てマオも負けるなと噛み付き作戦で行くことに。
ザミはトラバサミのような大口を開けて相手へ噛み付こうとしたが…
「今だ!丸まれ!!」
【チュミィッ!】
【ガゥッ!!……フゥ…】
「な!か、噛み付けない…!」
なんと相手は器用に球体のように丸まってしまい、ザミが噛み付こうとも圧倒的硬さで歯が通らなくなってしまった…
さらに甲殻は前面を包むようにしているのでまるで隙が無い状態である。
「はーっはっは!どうだ!!思い知ったか!」
「そんなのただ丸まっただけじゃない!」
【ガフゥ!…ハゥ…】
ザミはとりあえず相手を転がしたり、噛み付きまくったり、舐めたりもしてみたが一向に歯が立たず…
ちょっと目を背けた隙に噛み付かれてしまう始末……
まさに無敵の防御と姑息な攻撃の2つを持ち合わせた嫌なモンスターである。
しかしながらグリフは相手の弱みを完全に理解している模様。
「マオ!まだ分からないか!」
「だってどうしようもないじゃん!」
「そうだ!まさにオレのモンスターこそ最強!!……いや、兄貴のモンスターも最強だ!」
「よく見ろマオ!相手は何をしている!」
そう言われてホイラを観察してみれば……丸まっている。
にしても見事な球体である、寸分の狂いも無いその姿はある種の美しさも感じるが………今は生憎それどころでは無い…
「ぼ、防御…かな…」
「だとしたら分かるだろ…」
「……ぁあそうか!!攻撃が出来ないんだ!」
そう、ホイラは球体になる際に頭も手足も中に収納してしまっているので攻撃が出来ないのだ。
となれば勝つ方法は簡単…
「ザミ!高速穴掘りよ!!」
【ワンッ!!】
「無駄な事を…!ホイラ!!噛みつけ!!」
【ヂュバァ!】
【ヒャゥウ!!】
ザミが高速で穴掘りを始めればホイラは噛み付こうとするも、所詮はただの小動物。
意識さえしていれば躱せない事は無い!
ザミは器用に立ち回りながら穴を掘って行き、頃合いになると…
「ザミ!噛み付きよ!」
【ワゥウウ!!】
「無駄だ無駄だ無駄だ!!丸まれぇ!!」
【チュッバア!】
「ふん!勝った!!」
「何を…」
丸まったホイラを見たザミは思い切り噛み付く……ように見せて咥えて持ち上げると掘った穴へ落とした。
そして上からザッザッと土をかぶせて行き…
埋めてしまった。
「うわぁああああああ!!ホイラ!ホイラァア!!」
【ヂュ、ヂュバァァ……フェ…】
慌ててバドは掘り返したが出て来たのは土にまみれて気絶したホイラ…
誰が見ても戦闘は続行不可である……つまり…
「この勝負はアタシの勝ちね!」
【ワウ!!】
「き、汚ねぇぞ!!よくもホイラを…!」
「3人抜きの時点で汚いもクソも無い!負けたならさっさと引っ込んで!!次っ!!」
「しょ、しょうがない……バド、こっちに戻れ。」
「クソぅ…クソ……」
「じゃあ私の出番ね。」
そして次に出て来たのはジョラスのもう一人の腰巾着の少女。
顔を目以外黒い布で覆っていて忍者みたいな風貌をしているが民族衣装か何かだろう…
「私はマキ……マキ・グリルン…」
「これはご丁寧にどうも……って!そんな場合じゃない!!アンタ、モンスターは?」
「ちゃんといるわよ……フフフフ…」
謎の少女、マキの正体とは……そして、彼女のモンスターとは…?
マオとザミは更なる相手に闘志を見せつけるのだった…
つづく…
・・・
キャラクタープロフィール
【バド・スペーン】通称:バド、バディ
身長151㎝ 年齢:11歳 血液型W4 出身:シントリア 髪色:赤色
学年:1年グレタ組 現在成績:優秀 進路:テイマー
相棒:ホイラ(マジロッド) 関係:良好
テイマーランク:無 追従石の有無:非所持
所属宗教:大いなる自然教
『農村の貴族出身の男の子。ジョラスの取り巻きの片方であり、学園内でもそう言う認識をされている。元々は気が弱い生徒と思われていたが幾分か克服した模様。6人兄弟の末子で政治を兄たちに任せる名目でテイマーを目指している。普段はジョラスの横でイエスマンなどをしているのだが、陰では少しやり過ぎだと言うことで彼の身を案じている……両親が過保護なため、週一で手紙が来るのだが本人は少しうんざり気味…』
【ホイラ】通称:ホイラ、かめまる
種類:マジロッド 年齢:おそらく6歳ほど 体の色:ベージュ
主人:バド(1年生) 知能:高 戦闘能力:中
推定モンスターランク:B+(平均以上)
『バドの相棒のマジロッドと呼ばれるアルマジロのようなモンスター。本来マジロッドは臆病な性格をしていて戦闘は好まないのだが彼に至っては少し好戦的と言えよう。丸まる早さは野生の個体に比べて格段に早く、急な奇襲でも直ぐに防御が可能。しかし肝心の攻撃が噛みつきだけと少々火力不足。結構小さいので間違えて踏んだりすると激しく怒って噛み付いて来る………ちなみにスケロクから、かめまると言うよく分からないあだ名を付けられている…』
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