月城副社長うっかり結婚する 〜仮面夫婦は背中で泣く〜

◆真実 ＊ 尊

4

「――ご存じだったんですか」

「お前は大切な月城の跡取りだ。相手がどんな女性かは調べるのは、俺の義務だよ」

　言われてみれば当然で、何も言い返せない。叔父は自分にとって亡き父のような存在である。

「正直に言ってくれ、どうして弥衣さんと結婚したんだ？」

　隠しても仕方がない。月城一族の事情は、叔父ならばわかってくれる。

「アレキサンドライトの指輪をご存じですか？」

「ああ。代々、月城の当主の正妻に引き継がれているっていう指輪だろう？　そういえば今誰が持っているんだ？」

「あの指輪は家を出た時のまま母が持っていました。祖母がずっと指輪のことだけが気がかりだと気にしていたので。母を探したんです。既に亡くなっていましたが」

　そこから先の話を正直に話した。

　自分は息子だと話したが、それでも弥衣が固辞したこと。それならばと結婚した経緯を全て。

「そうか――。尊。もしお前が智子さんのことをもし恨んでいるなら、それは違うぞ」

「違う？」

「兄が智子さんと結婚した頃、俺はニューヨークにいたから詳しいことは知らなかった。とてもきれいな人でね。どこかの令嬢ではなかったが生まれ持った品の良さがにじみ出るような素敵な女性だったよ」

　母が美しかったことは、よく覚えている。

「ただ、智子さんの父親は酷い父親でね、ギャンブル狂いで智子さんの母親はそんな夫から逃げるように智子さんを置いて蒸発したらしい。智子さんは健気に父を見捨てず、夜学で高校を卒業し奨学金で大学に進み、賢明に働いていたそうだ。その話は知っているか？」

「いえ……、全く」

　初耳だ。
　母の話題は禁句になっていたから。

　俺の知らない母の話に心臓が早撃ちする。