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≪ 弘徽殿 ≫

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「尚侍さま」

 翠子の局を出て、人のいない渡り廊下まで行くと後ろから声がかかった。

「申し訳ございませんでした。止められず、あのようなことに」

 頭を下げるのは、翠子の世話を担当している女官である。

「よい。弘徽殿も様子をみただけじゃ」

 女官はうなずいた。試したのだろうと思う。祓い姫が脅しにどう出るか。

「一歩も引かず負けていなかったのは見事であったな」

「芯の強い方のようです」

 尚侍は満足そうにゆっくりとうなずく。

 様子をみたのは弘徽殿だけではなく自分もだがと、尚侍は密かに思う。凄まれて、すごすごと泣いて帰るようでは困る。

「少しずつ監視を緩めて、女官の出入りを自由にしてよい。噂話でもなんでも耳に入れて、慣れてもらうのじゃ、ここの暮らしに。いい塩梅にな」

「はい」

「殿下は、籠の鳥のように遮断して、真綿で包むように守りたいと思っておられるようだが、あの姫ならば大丈夫であろう。よいか、少しずつじゃ。監視は怠るでないぞ」

「承知いたしました」

 尚侍は女官に向き直る。

「いつか、弘徽殿も本気でくるかもしれぬ」

 美しい顔に浮かんでいるのは微笑みだが、その瞳は鋭く光った。

「万が一の時は、なにを捨て置いても姫をお守りするのじゃ。わかっておるな」

 女官の顔は緊張で青くなる。

「はい。必ず。命にかえても、必ずお守りします」
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