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カインドマインド

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波打ち際で、貝殻を拾った。
耳を当てて、想った、愛する人のことを。
貝の重さ、滑らかな曲線、ざらりとしたその指の感触が、苦しみの涙を波に浸して、潮風に感じる頬に触れる優しさは、温かい故郷の音。
孤独の人は、ノクターンの黄昏る、追憶に押し流す、大きな波が、小さな心をさらう時、痛みを知った海岸線で、恋人ではなく、家族のことを考える。
苦しみにあえぐ少女の幻が、共感のパルスに、耳をふさぐ、正直になれない子供のような、思い出が、何もない、砂浜で、足を取られる、さざ波の優しさに。
海に降った雪が、積もることはない。でも、耳に当てた貝殻は、いつか割れる。
だから、音を聴いていなければいけない。
耳に流れる音楽、優しく穏やかな調べ、夕日が、西の空に沈むころ、日常に返るその日に、多くの傷と苦しみと、優しさと、温かさのパルスが、左から右へ抜けていく、そんな気持ちで、孤独者は、共感というものを得る。
いつでも苦しみは、あなたの横にいるが、痛みとは、耳をふさいで、もう考えない、でも考えて、行動しなければいけないものは、孤独を押し隠し、鋭く非情に、ナイフを切りつけて、守る。
そんな日々の中で、死んでいく仲間のことを想って、押し隠す、そう優しさを。
優しさは苦しいけど、波打ち際で拾った貝殻から流れる音楽は、思い出が死んだ人を励ます、それは、繰り返す中で、許すこと、そのためだけに、生きる、抱きとめる腕に、甘える女は、明日を殺して息を殺し、自由の意味を考えることはできない。
疾走するように転がって、壊れていく希望が、夜の訪れ、静かな浜辺で、泣いている。
だから、悲しくて、一人の時は、想い出してほしい。
この星空の下に、あなたと同じような孤独を抱えて、闘っている人がいることを。
ノクターンはやんでいく。
でも、苦しみはやまない。
だからこそ、独りではないから、信じることが、できる。
あなたの心をくれるなら、もらう人は、美しい人。
理解とは海に入っていくその素足が、二つなら、四つになった時、真の愛になる。
独りで生きないでほしい。隣にいる自殺者が、君のそばで、一緒に苦しみを殺していることを信じてほしい。
そしたら、朝日の訪れとともに、涙を分け合って、一つになる。
感触こそが、優しさのパルス。
貝殻をもって帰って、家について、もう一度空を見上げたら、星が出るまで、見とれていよう。
うっとりとしてきたら、眼が細くなって、涙が流れ、きっと、生きていけると信じることが、優しさなのだろうか。
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