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リスの乳

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流れていく乳腺の、吐息は晴れやか、痛みは破瓜。
それは、リスの恋。
儚いまでの調べが、ショパンの恋を歌う、逢瀬の静寂。
出会った瞬間、惹かれ合い、大地に歌う好きは鋤の、好き過ぎる。
絞って、声は、もれ伝う、喘ぎの白い乳は揺れる。
ああ、ああ、ああ、牛の頭に鳥が止まり、泣いている彼女を励ますかのように、こう言った。
「泣かないで、きっとあの人が、どこかで、あなたを見ているわ」
すると、カウガールは、手を止めて、牛を見てから、空を見上げた。
信じている、きっと来てね、解放のリスリズム。
鼻歌歌ってのら作業。腰を振って稲を植えて、みんなで手を叩く、そんな放課後。
チャイムの音は、お茶の合図。
目を見て、話して、あの人を思って、指がためらう。
さよなら。
自転車のペダルを漕いで、坂道を登る。
はだけたスカート直さない。お尻の辺りがしわくちゃよ。
ほら、他の男が見てる。
あの人にだけ見てほしいのに、嫌な感じ、見るんじゃねえよ。
途中で、デパートにいって、コスメを見るわ。
ディオールあたりでいいかしら。
試しに振って、すぐにおく。綺麗なお姉さんが寄ってきて、レズる?
ああ、きっと、この人もあの人のことが好きなんだわ、むかつく、でも、同じね。
昨日はバイトでお金が入ったし、買っちゃおう。
家に帰って、いっぱい香水をふりかけて、ためらう指。
私の心はあの人のもの。私の体はあの人のもの。私の全てをもらってくれる?
あの人の写真、部屋中にある、あの人の匂いを嗅ぎたい、でも一緒の匂いじゃ、もう嬉しくって、窒息してしまうから、私はディオール、あの人はきっと資生堂。
絶妙のブランド感覚、あの人の口癖。
「絶妙のブランド感覚!」
真似をするの。
そしたら、幸福に包まれて、私、もういつ死んでもいいわ。
「ふふ、リスちゃんでちゅねえ」
あの人の決め台詞、それから最後は、
「この街狂ってる」
なんなんだろうね、とっても変だけど、とっても可愛くてかっこいいの。
狂っちゃうのは私だよお。
下からお母さんが呼んでいるわ。
じゃあ、いくね。
写真にキスして私リスでよかったなあ。




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