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星空はいらない
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少しの間があって、ちゅぽんっと間抜けな音を立てて唇が離れた。
「……最初から、怒っているだろう」
ムッとしたように眉根を寄せたフェリクスに、ゆるゆると首を振った。
「ううん。最初から、怒ってないよ」
「なら何故俺を拒む」
「……君のそばにいるのが辛かったから」
情けなく声が震えた。でも、僕以上にフェリクスの方が辛そうに顔を顰めた。
「そばにいられない方が辛い」
フェリクスの言葉は飾り気がなくて真っ直ぐで、時折どうしようもなく泣きたくなる。
その言葉がどれほど僕の胸を打つのかを、君はこれっぽっちも分かってない。
「俺にはお前が必要だ」
「っ……」
「失いたくない」
フェリクスの掌が僕の頬を撫でる。冷たく乾いた指先が目尻に触れると、その拍子にぽろっと涙が溢れた。
「っ、大事だよ」
泣きながら、それでも懸命に言葉を紡ぐ。
「僕にとっても君は、大事な人なんだよ」
大切すぎて、失いたくなくて、君に嫌われるのが何より怖くて。
「本当は、ずっと一緒にいたいよ」
好きだから。心から愛してるから。誰よりも君のことを想ってるから。
「それを、望んじゃいけないと思ってた。だから、嘘をついた」
フェリクスの瞳に映る自分を見て、ああやっぱり僕はこの子が好きなんだなと改めて思った。
この国の星空よりもずっと、フェリクスの瞳の方が綺麗だ。その目でずっと僕を見続けてくれるなら、それ以上に欲しいものなんて何もないんだ。
「……フェリクス」
両手を伸ばしてフェリクスの頬を包み込んだ。
少し冷たい肌の感触に胸がきゅっと締め付けられる。そっとフェリクスの顔を引き寄せて、美しい双眸を間近に見上げた。
「ごめんね。僕は君に、王様になってほしくない。この国の綺麗な星空よりも、君のそばにいることの方がずっと大事なんだ」
王様になったら、いつでも綺麗な星空が見られるようにすると言ってくれた。でも、その時僕は君の隣にいられないんだ。
フェリクスがこの国を統べる王様になったら、二人で一緒に星を数えることすらできない。
「ごめんね。君の夢を素直に応援してあげられるような優しい人じゃなくてごめん。君のことが誰より大切なのに、君の大切なものを同じように大切に思うことができないんだ」
フェリクスにとって、お母さんの遺言がどれほど大切なことなのか痛いほど分かる。
それなのに、その気持ちを蔑ろにしてでもフェリクスと一緒にいたいと思ってしまうんだ。
「ごめん……自分でもどうしようもないくらい、君が好きで仕方ないんだ」
この子の未来を縛るような大それたことは望めない。それでも、どうか傍にいさせてほしい。
「ずっと、フェリクスの隣にいたい」
長い沈黙の後、フェリクスは深くため息をついて顔を覆った。そのまま髪をぐしゃりと乱して力なく首を横に振る。
「……お前は、馬鹿だ」
フェリクスがゆっくりと僕の体を抱き起こした。そのまま膝の上に乗せられて向かい合う形で抱き締められる。
僕を見るフェリクスの眼差しは、泣きたくなるくらいに優しかった。
「フェリクス、僕は」
「いい。何も言うな」
「……うん」
こつんと額が合わさって、互いの鼻先が微かに触れ合う。
「俺だって同じだ。お前のいない世界に意味などない」
低く掠れた声でフェリクスが囁く。
「王になったとして、お前が隣にいなければ何の意味もない」
「フェリクス……」
「もう泣くな。……お前に泣かれると、どうすればいいか分からなくなる」
「っ、うん、泣かない」
泣いちゃダメだって歯を食いしばるけど、込み上げてくる感情は涙腺を緩ませるばかりだった。
「ふっ、う……っ」
「……泣くな、マコト」
フェリクスらしくない、柔らかい声。その声を知っているのは僕だけだって今なら分かる。
くだらない嫉妬をする必要なんてなかった。この不器用な男の子が、僕を騙すために嘘をつくはずなんてないんだ。
聖女様が現れてからもずっと、フェリクスは僕を求めてくれていた。それが答えだ。
「っごめんね、ごめん……っ」
「謝るな」
「君のこと、遠ざけて、傷つけて、悲しませて、っ、本当に、ごめんなさい……っ」
「……俺のそばにいるのが辛かったんだろう。無理をしてまでそばにいさせたのは俺だ。すまなかった」
「っ、ううん……っ、ちがう、ちがうんだよ、っ」
「何がお前をそこまで追い詰めた」
「フェリクスは、っ悪くない。っ……僕が勝手に、不安になっただけだよっ」
「何が不安なんだ。お前が俺から離れないと約束するなら、他の何も捨てても構わない」
「っ、なにも、捨ててほしくない」
「マコト」
宥めるように背中を撫でられると余計に涙が止まらなくなった。
こんなにも優しい君から何かを奪うなんて、そんなのしたくない。
「君はいつか王様になる人で、僕はそれを心から応援できない。君の未来を縛るようなことはしたくないのに……ずっと傍にいたいと思ってしまうんだ……」
フェリクスの双眸が戸惑いに揺らいだ。
その顔には確かに、疑念と困惑が浮かんでいる。
「……最初から、怒っているだろう」
ムッとしたように眉根を寄せたフェリクスに、ゆるゆると首を振った。
「ううん。最初から、怒ってないよ」
「なら何故俺を拒む」
「……君のそばにいるのが辛かったから」
情けなく声が震えた。でも、僕以上にフェリクスの方が辛そうに顔を顰めた。
「そばにいられない方が辛い」
フェリクスの言葉は飾り気がなくて真っ直ぐで、時折どうしようもなく泣きたくなる。
その言葉がどれほど僕の胸を打つのかを、君はこれっぽっちも分かってない。
「俺にはお前が必要だ」
「っ……」
「失いたくない」
フェリクスの掌が僕の頬を撫でる。冷たく乾いた指先が目尻に触れると、その拍子にぽろっと涙が溢れた。
「っ、大事だよ」
泣きながら、それでも懸命に言葉を紡ぐ。
「僕にとっても君は、大事な人なんだよ」
大切すぎて、失いたくなくて、君に嫌われるのが何より怖くて。
「本当は、ずっと一緒にいたいよ」
好きだから。心から愛してるから。誰よりも君のことを想ってるから。
「それを、望んじゃいけないと思ってた。だから、嘘をついた」
フェリクスの瞳に映る自分を見て、ああやっぱり僕はこの子が好きなんだなと改めて思った。
この国の星空よりもずっと、フェリクスの瞳の方が綺麗だ。その目でずっと僕を見続けてくれるなら、それ以上に欲しいものなんて何もないんだ。
「……フェリクス」
両手を伸ばしてフェリクスの頬を包み込んだ。
少し冷たい肌の感触に胸がきゅっと締め付けられる。そっとフェリクスの顔を引き寄せて、美しい双眸を間近に見上げた。
「ごめんね。僕は君に、王様になってほしくない。この国の綺麗な星空よりも、君のそばにいることの方がずっと大事なんだ」
王様になったら、いつでも綺麗な星空が見られるようにすると言ってくれた。でも、その時僕は君の隣にいられないんだ。
フェリクスがこの国を統べる王様になったら、二人で一緒に星を数えることすらできない。
「ごめんね。君の夢を素直に応援してあげられるような優しい人じゃなくてごめん。君のことが誰より大切なのに、君の大切なものを同じように大切に思うことができないんだ」
フェリクスにとって、お母さんの遺言がどれほど大切なことなのか痛いほど分かる。
それなのに、その気持ちを蔑ろにしてでもフェリクスと一緒にいたいと思ってしまうんだ。
「ごめん……自分でもどうしようもないくらい、君が好きで仕方ないんだ」
この子の未来を縛るような大それたことは望めない。それでも、どうか傍にいさせてほしい。
「ずっと、フェリクスの隣にいたい」
長い沈黙の後、フェリクスは深くため息をついて顔を覆った。そのまま髪をぐしゃりと乱して力なく首を横に振る。
「……お前は、馬鹿だ」
フェリクスがゆっくりと僕の体を抱き起こした。そのまま膝の上に乗せられて向かい合う形で抱き締められる。
僕を見るフェリクスの眼差しは、泣きたくなるくらいに優しかった。
「フェリクス、僕は」
「いい。何も言うな」
「……うん」
こつんと額が合わさって、互いの鼻先が微かに触れ合う。
「俺だって同じだ。お前のいない世界に意味などない」
低く掠れた声でフェリクスが囁く。
「王になったとして、お前が隣にいなければ何の意味もない」
「フェリクス……」
「もう泣くな。……お前に泣かれると、どうすればいいか分からなくなる」
「っ、うん、泣かない」
泣いちゃダメだって歯を食いしばるけど、込み上げてくる感情は涙腺を緩ませるばかりだった。
「ふっ、う……っ」
「……泣くな、マコト」
フェリクスらしくない、柔らかい声。その声を知っているのは僕だけだって今なら分かる。
くだらない嫉妬をする必要なんてなかった。この不器用な男の子が、僕を騙すために嘘をつくはずなんてないんだ。
聖女様が現れてからもずっと、フェリクスは僕を求めてくれていた。それが答えだ。
「っごめんね、ごめん……っ」
「謝るな」
「君のこと、遠ざけて、傷つけて、悲しませて、っ、本当に、ごめんなさい……っ」
「……俺のそばにいるのが辛かったんだろう。無理をしてまでそばにいさせたのは俺だ。すまなかった」
「っ、ううん……っ、ちがう、ちがうんだよ、っ」
「何がお前をそこまで追い詰めた」
「フェリクスは、っ悪くない。っ……僕が勝手に、不安になっただけだよっ」
「何が不安なんだ。お前が俺から離れないと約束するなら、他の何も捨てても構わない」
「っ、なにも、捨ててほしくない」
「マコト」
宥めるように背中を撫でられると余計に涙が止まらなくなった。
こんなにも優しい君から何かを奪うなんて、そんなのしたくない。
「君はいつか王様になる人で、僕はそれを心から応援できない。君の未来を縛るようなことはしたくないのに……ずっと傍にいたいと思ってしまうんだ……」
フェリクスの双眸が戸惑いに揺らいだ。
その顔には確かに、疑念と困惑が浮かんでいる。
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