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垣間見た狂気は
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「どうして…」
どうして貴方がここにいるの?
どうやってここに入り込んだの?
どうして、こんな一番幸せな日に現れたの…?
言いたいことが多すぎて喉の奥で言葉が絡まる。
なによりあの日斬りつけられ刺された恐怖が、苦しめられた記憶が、喉をきつく絞めつけて言葉を、そして体の自由を奪っていく。
「どうしてって、愛しい貴女を迎えに来たんですよ?」
目の前に立つ騎士はさも当然のようにそう言って、なにかおかしいかと言うように首を傾げた。
「今までの生では貴女は誰とも結婚しなかった。私を想って誰とも結婚しなかったのでしょう?」
「……は?」
なんだ、それは。
寝耳に水どころか寝耳に熱した油を注ぎ込まれたような、そんな衝撃的な言葉が耳に届いた。
いや、「いいんです、何も言わなくてもわかってます」じゃなくて。
なんでそんな幻想を抱いたのか説明を、あ、やっぱいいや、絶対意味わかんない理論を展開されるだろうから聞くだけ無駄だわ。
騎士の言葉に変に力が抜けたからか、少しずつ体が動くようになってきた。
私は彼から距離を取るように少し後ろに移動しようとする。
「なのに何故今回は結婚なんて、しかも私の仇敵であるオークリッドの王太子とだなんて!!」
「ひっ!?」
なのに距離を詰められてがっしりと腕を握られて、私の体はまた硬直して口からは情けない悲鳴が漏れる。
捕まれた箇所が熱いのは、男の体温が高いのか、それとも私の体温が下がり過ぎているのか。
いずれにしろ火傷をしてしまいそうなほどに熱く感じる。
「私が迎えに来ないからでしょう?早く来てほしくてこんなことをしたのでしょう?全く、もう少し待っていてくれれば私は完全な形で貴女を迎えに行けたというのに」
私を掴んでいない彼の右手がそっと頬に添えられる。
騎士なだけあって硬い剣だこが幾つもあり、皮膚の薄い頬に刺さって痛い。
そして私を見つめて優し気に細められる目には狂気しか感じられなかった。
「な、にを」
「今まで私は準備を進めてきたんです。一体何度繰り返したかもう覚えていないけれど、ジャスパルで初めて貴女を見つけた時からずっと、ずーっと長い年月をかけて調べて実験して…。貴女は知らないでしょう?まだたった9回しか繰り返していない貴女に、きっと私の苦痛や苦悩などわからない」
「は?」
「けれどそれでいいのです。貴女を思って過ごした年月は私だけが知っていればいい。そんなことよりこれから重ねていく貴女との何十年の方が余程大切だから」
目の前の騎士が言っている言葉がわからない。
この大陸は元々一つの大きな国だったために同じ言語なはずなのに、まるで海の外の別大陸の言葉を聞いている気分だ。
数回だが実際に聞いた時は全く違う言葉に理解どころか聞き取ることもできなかったけれど、今の彼の言葉はそのくらいの内容だった。
ああでも、使っている言語が同じだから冷静になれば理解できてしまう。
少なくともこの男が私よりも遥かに多数の繰り返しを経験していること、そしてその過程で私に目を付け、私が一度目と思っている生の時に長い繰り返しの中で得た知識を利用して私を繰り返しの輪に加えたこと、さらに何故かルード様をもその輪に加えたこと。
そしてその目的が、本当に私と結婚するためだけしかなかったこと。
「今回で全て終わるはずだったのです。貴女が今日結婚などしなければ!!」
騎士は急に感情が昂ったのか私の頬から手を外し、そのまま握った拳を震わせた。
ともすれば殴られそうな距離。
それでも私の頭は怒りでいっぱいだった。
「そんな、そんなくだらない理由で…?」
私ばかりかルード様をも巻き込んでこんなことをしたというのか。
そのせいで私は、記憶を封じてしまいたくなるような目に遭ったというのか。
「くだらない!?なにがくだらないというのです!?」
「くだらないわよ!!私なんかと結婚するためだけにこんな…、馬鹿げてる!!」
騎士が目を剥く。
目に宿る狂気の色が強くなって、顔つきまで変わっていく。
それでも私は引かなかった、引けなかった。
この騎士の身勝手が原因ではあるものの、その発端が自分の存在だったのだとはっきりしてしまった。
愛する人を悩ませる原因が自分あったなんて、こんな日に知りたくなかった。
私が幸せになっていけるはずの日々は一日目にして脆くも崩れ去ってしまった。
どうして貴方がここにいるの?
どうやってここに入り込んだの?
どうして、こんな一番幸せな日に現れたの…?
言いたいことが多すぎて喉の奥で言葉が絡まる。
なによりあの日斬りつけられ刺された恐怖が、苦しめられた記憶が、喉をきつく絞めつけて言葉を、そして体の自由を奪っていく。
「どうしてって、愛しい貴女を迎えに来たんですよ?」
目の前に立つ騎士はさも当然のようにそう言って、なにかおかしいかと言うように首を傾げた。
「今までの生では貴女は誰とも結婚しなかった。私を想って誰とも結婚しなかったのでしょう?」
「……は?」
なんだ、それは。
寝耳に水どころか寝耳に熱した油を注ぎ込まれたような、そんな衝撃的な言葉が耳に届いた。
いや、「いいんです、何も言わなくてもわかってます」じゃなくて。
なんでそんな幻想を抱いたのか説明を、あ、やっぱいいや、絶対意味わかんない理論を展開されるだろうから聞くだけ無駄だわ。
騎士の言葉に変に力が抜けたからか、少しずつ体が動くようになってきた。
私は彼から距離を取るように少し後ろに移動しようとする。
「なのに何故今回は結婚なんて、しかも私の仇敵であるオークリッドの王太子とだなんて!!」
「ひっ!?」
なのに距離を詰められてがっしりと腕を握られて、私の体はまた硬直して口からは情けない悲鳴が漏れる。
捕まれた箇所が熱いのは、男の体温が高いのか、それとも私の体温が下がり過ぎているのか。
いずれにしろ火傷をしてしまいそうなほどに熱く感じる。
「私が迎えに来ないからでしょう?早く来てほしくてこんなことをしたのでしょう?全く、もう少し待っていてくれれば私は完全な形で貴女を迎えに行けたというのに」
私を掴んでいない彼の右手がそっと頬に添えられる。
騎士なだけあって硬い剣だこが幾つもあり、皮膚の薄い頬に刺さって痛い。
そして私を見つめて優し気に細められる目には狂気しか感じられなかった。
「な、にを」
「今まで私は準備を進めてきたんです。一体何度繰り返したかもう覚えていないけれど、ジャスパルで初めて貴女を見つけた時からずっと、ずーっと長い年月をかけて調べて実験して…。貴女は知らないでしょう?まだたった9回しか繰り返していない貴女に、きっと私の苦痛や苦悩などわからない」
「は?」
「けれどそれでいいのです。貴女を思って過ごした年月は私だけが知っていればいい。そんなことよりこれから重ねていく貴女との何十年の方が余程大切だから」
目の前の騎士が言っている言葉がわからない。
この大陸は元々一つの大きな国だったために同じ言語なはずなのに、まるで海の外の別大陸の言葉を聞いている気分だ。
数回だが実際に聞いた時は全く違う言葉に理解どころか聞き取ることもできなかったけれど、今の彼の言葉はそのくらいの内容だった。
ああでも、使っている言語が同じだから冷静になれば理解できてしまう。
少なくともこの男が私よりも遥かに多数の繰り返しを経験していること、そしてその過程で私に目を付け、私が一度目と思っている生の時に長い繰り返しの中で得た知識を利用して私を繰り返しの輪に加えたこと、さらに何故かルード様をもその輪に加えたこと。
そしてその目的が、本当に私と結婚するためだけしかなかったこと。
「今回で全て終わるはずだったのです。貴女が今日結婚などしなければ!!」
騎士は急に感情が昂ったのか私の頬から手を外し、そのまま握った拳を震わせた。
ともすれば殴られそうな距離。
それでも私の頭は怒りでいっぱいだった。
「そんな、そんなくだらない理由で…?」
私ばかりかルード様をも巻き込んでこんなことをしたというのか。
そのせいで私は、記憶を封じてしまいたくなるような目に遭ったというのか。
「くだらない!?なにがくだらないというのです!?」
「くだらないわよ!!私なんかと結婚するためだけにこんな…、馬鹿げてる!!」
騎士が目を剥く。
目に宿る狂気の色が強くなって、顔つきまで変わっていく。
それでも私は引かなかった、引けなかった。
この騎士の身勝手が原因ではあるものの、その発端が自分の存在だったのだとはっきりしてしまった。
愛する人を悩ませる原因が自分あったなんて、こんな日に知りたくなかった。
私が幸せになっていけるはずの日々は一日目にして脆くも崩れ去ってしまった。
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