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最悪との最悪すぎる再会
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そして時はあっという間に経ち、あと一週間で私とルード様は結婚式を行うという日になっていた。
勿論その間にも繰り返しや時戻しの短剣について調べていたのだが、流石オークリッドという大国の王太子の結婚式なだけあって途中からそれどころではなくなってしまったのだ。
当然そんな状況では侍女だけで手が足りるはずもなく、マリー様やアゼリアにも手伝いを依頼したために一旦そちらの調査は結婚式が終わって落ち着くまで全てお預けとなっている。
毎日招待状の手配や衣装合わせ、作法の確認、会場を彩る諸々の確認と忙しなく過ごしていれば時が過ぎるのは本当に早い。
そうしていると体力も思考も限界ギリギリで。
忍び寄る暗い影に私たちは誰一人気がつけないでいた。
「———これより二人は夫婦となり、いついかなる時にも互いを助け合い、人生の良き伴侶として末永く結ばれるものとする!」
わあああああぁっ!!
オークリッド正教の大司祭様による宣言が成されると、その場には歓声が満ちた。
今この瞬間、私はアンネローゼ・アリンガムからアンネローゼ・ユオラ・オークリッドとなった。
この『ユオラ』という名前は義父となる国王陛下につけていただいた。
なんでも古語で「貴女だけを愛する」という意味の言葉の一部だそうだ。
なによそれ、めちゃくちゃ恥ずかしいじゃない…。
陛下もニヤニヤしていたし、絶対面白がってつけたに違いないと思う。
けれど不思議とその響きがしっくりきて、私は有難くそのまま受け入れた。
陛下は「お前マジか」と言いたげな顔をしていたが、気に入ったのだからいいじゃない。
だって意味なんて、私と陛下しか知らないのだもの。
まあその後もう一人増えたのだけれど。
誰って「ユオラ?……ああ、陛下も大概ですね」とため息混じりに言ったアゼリアに決まっている。
さておき、晴れて王太子の婚約者候補から一気に王太子妃になった私は早々にお暇し、初夜に向けルード様を迎える準備をしていた。
とはいえすでに侍女が部屋を整えてくれ、あとは私が湯浴みをして夜着を着るだけだったので、少しだけ休憩として一人の時間をもらった。
忙しさから解放されて、限界だった頭を一度真っ白にしたかったのだ。
「ああ、ようやく終わった…」
達成感に満ちた呟きだったはずだが、その声音は自分が思っていたよりも疲れ切ったもので思わず苦笑が漏れる。
こんなに疲れたのはいつぶりだろう。
「……少しだけ」
私は疲労に身を委ねて重くなった瞼をゆっくりと閉じた。
けれどすぐに目が覚めた。
目を閉じていたのは多分5分くらいだろう。
その僅かな間に、私は誰かに抱きしめられて、
「…んんぅっ!?」
あろうことか先ほどルード様に捧げた唇を誰かに奪われていた。
「んー!!!!!」
感覚でそれがルード様のものではないことはすぐにわかった。
彼のはこんなにカサカサと荒れた感触ではない。
私は必死に抵抗して何とか相手を引き剥がそうとした。
けれど押しても叩いても殴っても、相手は一向に離れなかった。
こうなったら、手段は一つ。
「っつぅ!!?」
相手の唇に思いっきり噛みついてやった。
ようやく少しだけ離れた薄めの唇の端からたらりと血が流れるのが目に映る。
思いっきり噛んだわりには出血量は多くないようだ。
もっと力を込めてがっぷりといけばよかったわ。
それこそ二度とこんなことができないように噛み千切るくらいの勢いで。
「ああ、血が…。全く、久々の再会だというのに酷い人だ」
そう思ったのも束の間、その唇が紡ぐ音に背筋が凍った。
さあっと全身の血が引いていくのがわかる。
「まあ、愛しい貴女が与えてくれた痛みだと思えば、それすらも愛おしくなるけれど」
なんとか顔を上げてみれば、真っ先に目に飛び込んでくるのは一つの黒子。
左目中心の真下にある、見覚えのあるそれは、見間違いようもなくあの騎士のもので。
「会いたかったです、アンナ。私の最愛」
怖気を誘う声で、今ではもう誰も知らないはずの私のもう一つの愛称を告げた。
勿論その間にも繰り返しや時戻しの短剣について調べていたのだが、流石オークリッドという大国の王太子の結婚式なだけあって途中からそれどころではなくなってしまったのだ。
当然そんな状況では侍女だけで手が足りるはずもなく、マリー様やアゼリアにも手伝いを依頼したために一旦そちらの調査は結婚式が終わって落ち着くまで全てお預けとなっている。
毎日招待状の手配や衣装合わせ、作法の確認、会場を彩る諸々の確認と忙しなく過ごしていれば時が過ぎるのは本当に早い。
そうしていると体力も思考も限界ギリギリで。
忍び寄る暗い影に私たちは誰一人気がつけないでいた。
「———これより二人は夫婦となり、いついかなる時にも互いを助け合い、人生の良き伴侶として末永く結ばれるものとする!」
わあああああぁっ!!
オークリッド正教の大司祭様による宣言が成されると、その場には歓声が満ちた。
今この瞬間、私はアンネローゼ・アリンガムからアンネローゼ・ユオラ・オークリッドとなった。
この『ユオラ』という名前は義父となる国王陛下につけていただいた。
なんでも古語で「貴女だけを愛する」という意味の言葉の一部だそうだ。
なによそれ、めちゃくちゃ恥ずかしいじゃない…。
陛下もニヤニヤしていたし、絶対面白がってつけたに違いないと思う。
けれど不思議とその響きがしっくりきて、私は有難くそのまま受け入れた。
陛下は「お前マジか」と言いたげな顔をしていたが、気に入ったのだからいいじゃない。
だって意味なんて、私と陛下しか知らないのだもの。
まあその後もう一人増えたのだけれど。
誰って「ユオラ?……ああ、陛下も大概ですね」とため息混じりに言ったアゼリアに決まっている。
さておき、晴れて王太子の婚約者候補から一気に王太子妃になった私は早々にお暇し、初夜に向けルード様を迎える準備をしていた。
とはいえすでに侍女が部屋を整えてくれ、あとは私が湯浴みをして夜着を着るだけだったので、少しだけ休憩として一人の時間をもらった。
忙しさから解放されて、限界だった頭を一度真っ白にしたかったのだ。
「ああ、ようやく終わった…」
達成感に満ちた呟きだったはずだが、その声音は自分が思っていたよりも疲れ切ったもので思わず苦笑が漏れる。
こんなに疲れたのはいつぶりだろう。
「……少しだけ」
私は疲労に身を委ねて重くなった瞼をゆっくりと閉じた。
けれどすぐに目が覚めた。
目を閉じていたのは多分5分くらいだろう。
その僅かな間に、私は誰かに抱きしめられて、
「…んんぅっ!?」
あろうことか先ほどルード様に捧げた唇を誰かに奪われていた。
「んー!!!!!」
感覚でそれがルード様のものではないことはすぐにわかった。
彼のはこんなにカサカサと荒れた感触ではない。
私は必死に抵抗して何とか相手を引き剥がそうとした。
けれど押しても叩いても殴っても、相手は一向に離れなかった。
こうなったら、手段は一つ。
「っつぅ!!?」
相手の唇に思いっきり噛みついてやった。
ようやく少しだけ離れた薄めの唇の端からたらりと血が流れるのが目に映る。
思いっきり噛んだわりには出血量は多くないようだ。
もっと力を込めてがっぷりといけばよかったわ。
それこそ二度とこんなことができないように噛み千切るくらいの勢いで。
「ああ、血が…。全く、久々の再会だというのに酷い人だ」
そう思ったのも束の間、その唇が紡ぐ音に背筋が凍った。
さあっと全身の血が引いていくのがわかる。
「まあ、愛しい貴女が与えてくれた痛みだと思えば、それすらも愛おしくなるけれど」
なんとか顔を上げてみれば、真っ先に目に飛び込んでくるのは一つの黒子。
左目中心の真下にある、見覚えのあるそれは、見間違いようもなくあの騎士のもので。
「会いたかったです、アンナ。私の最愛」
怖気を誘う声で、今ではもう誰も知らないはずの私のもう一つの愛称を告げた。
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