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賑やかになりました
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「今日からお世話になります、メアリアナ・モンドレーですわ」
「ミンディ・シスナと申します。どうぞよろしくお願いいたします」
翌日、メアリーとミンディは再び私の前に立っていた。
しかし昨日とは違いドレスではなく、お仕着せと呼ばれる服を着ている。
それは彼女たちの向かいに立つマイラやエル、リリと同じ衣装だ。
「カーマイラ・イルネージュです」
「エルルカ・ニールセンです」
「リーミリア・ククリカーナです!」
「家名でおわかりの通り私は伯爵家、エルは子爵家、リリは侯爵家の出ですが、ここでは実家の爵位に関係なく仕事が割り振られますのでそのつもりで。よろしいですね」
「はい」
「はい!」
マイラたちがそれぞれ名乗り、長としてマイラが締める。
それに二人が力強く頷き背筋を伸ばした。
「ではこれよりお二人のことはメアリーとミディと呼ばせていただきます」
「ここにいる間はただのメアリーとミディとして頑張ってくださいねー」
エルとリリも先輩として二人に優しく声をかけている。
エルはともかくリリは少し心配に思っていたが、二人に接する態度を見る限りは頼もしい先輩にしか見えない。
それが今だけの魔法でないことを祈ろう。
「承知しました」
そしてこの二人の殊勝な態度も。
まだまだ始まったばかりだから油断はできないけれど、私がどうこう言うことでもないだろうし気長に見守ることにする。
それにしても。
「そういえば私、三人の家名を初めて聞いたわ」
というか本名を初めて聞いた。
侍女は貴族子女が多いから元の爵位に左右されないよう普段から本名を隠してはいるのは知っていたけれど、今みたいに本名を名乗られたら名乗り返すのが礼儀ではなくとも当たり前のはずなのに。
「あ、そういえばそうでしたね」
リリがハッとしたように口元に手を当てる。
次いでエルもオロオロと目を彷徨わせる。
そしてマイラがキリッとした顔をして言うことには。
「すみません、初対面時はアンネローゼ様の為人がわからなかったので隠すよう私が指示しました。今さらですがお叱りは私がお受けします」
「いえ怒ってはいないのだけれど…、ええっと、それはつまり」
「はい。アンネローゼ様のことを殿下を誑かした女狐の可能性があると思い警戒しておりました。殿下からは婚約破棄をされたばかりの侯爵令嬢としか紹介されておりませんでしたし、城へのお招きも常軌を逸した早さでしたから」
ということらしい。
つまりは全てルード様のせいか。
そりゃこちらの侍女の手配が間に合わないくらいの早さで来たものね、疑いたくもなるわよ。
「実際に殿下との様子を傍で拝見して直接お話しをしてみましたら、そんな疑念を一瞬でも抱いていた自分が恥ずかしくなりました。しかしすぐに訂正すればよかったものをおしゃべりが楽し過ぎてうっかり正式な名乗りを忘れ、そのまま今に至ったのです。申し訳ございません」
マイラが頭を下げると、エルとリリも合わせて「申し訳ございませんでした」「すみませんでしたー!!」と頭を下げた。
まあそういう事情なら私からは特に何も言うことはない。
だって主君を思ってのことだもの、文句なんか言えないわ。
「私は怒っていないから。むしろ三人がいなかったらこんなに楽しく過ごせなかったんだもの、貴女たちには感謝しかしてないわ」
だからこれからもどうぞよろしくねと私が微笑みながら三人の手を取れば、
「なんてお優しい…」
「私たちもあの中に加えていただけるのかしら…」
メアリーとミンディ改めミディが呆けたような顔で私たちを見ていた。
そういえばマリシティにいた頃から侍女に甘過ぎると注意されていたっけ。
でも私のお世話をしてくれる彼女たちによくしたいと思うのはそんなに変なことかしら?
「当たり前じゃない。見習いとはいえ、貴女たちはもう私の侍女なんだもの」
二人の呟きに私はそちらに向き直ってちゃんと答える。
こんな形で侍女にされて不満かもしれないけれど、彼女たちも私の侍女になるなら大切にしたい。
ルード様とのことで今後絶対に迷惑をかける自信があるし。
なのに二人は感極まったように両手を胸の前で組むと「ありがとうございます」と言って再び涙を流し始めた。
大袈裟だなあと思わないでもないが、それだけ私からどう扱われるかが不安だったのだろう。
これで誤解が解けてくれればいいな。
「そうですね。まずはアンネローゼ様をよく知るところから始めていただきましょうか」
「あ、それならお衣装や装飾品の確認をしてもらったらいいんじゃないですかぁ?」
「そうね。アンネローゼ様のお好みやお似合いになるものを知るのは侍女の嗜みですから」
マイラが泣く二人の肩に手をかけて言うと、その後ろからリリが笑顔で人差し指を立て提案し、エルが頷いている。
メアリーとミディは仲が良いけれど、この三人も仲良しよね。
話しがまとまり、これから本格的に侍女修業が始まるようだと感じた私はソファに座って少し冷めたお茶を啜った。
マイラに掴まれたメアリーとミディの肩がみしぃっと嫌な音を立てていたことも、リリの笑顔に暗い影が差していたことも、エルがちっとも笑っていなかったことにも気がつかないままで。
「ミンディ・シスナと申します。どうぞよろしくお願いいたします」
翌日、メアリーとミンディは再び私の前に立っていた。
しかし昨日とは違いドレスではなく、お仕着せと呼ばれる服を着ている。
それは彼女たちの向かいに立つマイラやエル、リリと同じ衣装だ。
「カーマイラ・イルネージュです」
「エルルカ・ニールセンです」
「リーミリア・ククリカーナです!」
「家名でおわかりの通り私は伯爵家、エルは子爵家、リリは侯爵家の出ですが、ここでは実家の爵位に関係なく仕事が割り振られますのでそのつもりで。よろしいですね」
「はい」
「はい!」
マイラたちがそれぞれ名乗り、長としてマイラが締める。
それに二人が力強く頷き背筋を伸ばした。
「ではこれよりお二人のことはメアリーとミディと呼ばせていただきます」
「ここにいる間はただのメアリーとミディとして頑張ってくださいねー」
エルとリリも先輩として二人に優しく声をかけている。
エルはともかくリリは少し心配に思っていたが、二人に接する態度を見る限りは頼もしい先輩にしか見えない。
それが今だけの魔法でないことを祈ろう。
「承知しました」
そしてこの二人の殊勝な態度も。
まだまだ始まったばかりだから油断はできないけれど、私がどうこう言うことでもないだろうし気長に見守ることにする。
それにしても。
「そういえば私、三人の家名を初めて聞いたわ」
というか本名を初めて聞いた。
侍女は貴族子女が多いから元の爵位に左右されないよう普段から本名を隠してはいるのは知っていたけれど、今みたいに本名を名乗られたら名乗り返すのが礼儀ではなくとも当たり前のはずなのに。
「あ、そういえばそうでしたね」
リリがハッとしたように口元に手を当てる。
次いでエルもオロオロと目を彷徨わせる。
そしてマイラがキリッとした顔をして言うことには。
「すみません、初対面時はアンネローゼ様の為人がわからなかったので隠すよう私が指示しました。今さらですがお叱りは私がお受けします」
「いえ怒ってはいないのだけれど…、ええっと、それはつまり」
「はい。アンネローゼ様のことを殿下を誑かした女狐の可能性があると思い警戒しておりました。殿下からは婚約破棄をされたばかりの侯爵令嬢としか紹介されておりませんでしたし、城へのお招きも常軌を逸した早さでしたから」
ということらしい。
つまりは全てルード様のせいか。
そりゃこちらの侍女の手配が間に合わないくらいの早さで来たものね、疑いたくもなるわよ。
「実際に殿下との様子を傍で拝見して直接お話しをしてみましたら、そんな疑念を一瞬でも抱いていた自分が恥ずかしくなりました。しかしすぐに訂正すればよかったものをおしゃべりが楽し過ぎてうっかり正式な名乗りを忘れ、そのまま今に至ったのです。申し訳ございません」
マイラが頭を下げると、エルとリリも合わせて「申し訳ございませんでした」「すみませんでしたー!!」と頭を下げた。
まあそういう事情なら私からは特に何も言うことはない。
だって主君を思ってのことだもの、文句なんか言えないわ。
「私は怒っていないから。むしろ三人がいなかったらこんなに楽しく過ごせなかったんだもの、貴女たちには感謝しかしてないわ」
だからこれからもどうぞよろしくねと私が微笑みながら三人の手を取れば、
「なんてお優しい…」
「私たちもあの中に加えていただけるのかしら…」
メアリーとミンディ改めミディが呆けたような顔で私たちを見ていた。
そういえばマリシティにいた頃から侍女に甘過ぎると注意されていたっけ。
でも私のお世話をしてくれる彼女たちによくしたいと思うのはそんなに変なことかしら?
「当たり前じゃない。見習いとはいえ、貴女たちはもう私の侍女なんだもの」
二人の呟きに私はそちらに向き直ってちゃんと答える。
こんな形で侍女にされて不満かもしれないけれど、彼女たちも私の侍女になるなら大切にしたい。
ルード様とのことで今後絶対に迷惑をかける自信があるし。
なのに二人は感極まったように両手を胸の前で組むと「ありがとうございます」と言って再び涙を流し始めた。
大袈裟だなあと思わないでもないが、それだけ私からどう扱われるかが不安だったのだろう。
これで誤解が解けてくれればいいな。
「そうですね。まずはアンネローゼ様をよく知るところから始めていただきましょうか」
「あ、それならお衣装や装飾品の確認をしてもらったらいいんじゃないですかぁ?」
「そうね。アンネローゼ様のお好みやお似合いになるものを知るのは侍女の嗜みですから」
マイラが泣く二人の肩に手をかけて言うと、その後ろからリリが笑顔で人差し指を立て提案し、エルが頷いている。
メアリーとミディは仲が良いけれど、この三人も仲良しよね。
話しがまとまり、これから本格的に侍女修業が始まるようだと感じた私はソファに座って少し冷めたお茶を啜った。
マイラに掴まれたメアリーとミディの肩がみしぃっと嫌な音を立てていたことも、リリの笑顔に暗い影が差していたことも、エルがちっとも笑っていなかったことにも気がつかないままで。
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