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二人への意外な評価
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「それで、あの二人はどうなんだ?」
「あの二人と言うとメアリーとミディですか?」
「他にいないだろう」
メアリーとミディが私の侍女になってから一週間。
それまでその話題に触れなかったルード様から初めて二人の様子を聞かれて少し驚いてしまった。
「てっきり興味がないものとばかり…」
思わずそう呟けば「まあ、それほど興味深いわけでもないが」と苦笑と共に前置きして、
「君の周りにいる人間のことを気にするのは当たり前だろう?まして因縁とまでは言わないが問題があった二人だ」
優し気な言葉とともにそっと頬に触れられる。
私へ対する思いやりと労りが温かな体温とともにじんわりと伝わってきた。
「ルード様…」
「今日は少し頬が冷たいな。最近忙しくしているとマイラから聞いた。……あまり無理はしてくれるなよ」
そのまま目の下の皮膚が薄い場所を親指の腹で撫でられる。
睡眠はきちんととっているので隈などはできていないはずだが、なんとなく触られた感触に張りがない気がして恥ずかしい。
頬が冷たいと言っていたし、血行が悪いのかもしれない。
「大丈夫ですよ」
恥ずかしさを誤魔化すようにゆっくりと手を外しながらルード様を見上げて笑いかける。
いらぬ心配をかけたいわけではないし、他を疎かにするつもりはない。
ただ私があの子たちとの新しい繋がりを求めただけなのだから、苦労したとしても自業自得だろう。
それに思ったほどの苦労はしていない。
「二人とも真面目に働いてくれていますよ。まだぎこちない所はありますが、失敗することもほとんどありませんし」
「まあそうだろうな」
「あら?」
私がそう言うとルード様は不服そうに鼻を鳴らす。
その言葉の内容を考えればあの二人を多少なりとも買っていたということだ。
「あの二人、まさか本当に優秀でしたの?」
あんな杜撰な計画を立てる子たちなのに?
声に出さない私の疑問にも答えるようにルード様は頷く。
「考えてもみろ。少なくともあのアゼリアが見捨てなかった二人だぞ」
そして告げられた言葉に私は納得しかできなかった。
後日なんとなくアゼリアにも聞いてみると意外な答えが返ってきた。
「杜撰杜撰と仰いますけど、他の令嬢に比べれば随分とマシな方なのですよ」
「え?そうなの?」
てっきり手厳しい回答がくることかと思っていたのに、まさかの言葉だった。
「はい。逆にお伺いしますが、アンネローゼ様はマルグリット様が愚かしいとお思いですか?」
「思わないわね」
アゼリアは一つ息を吐いて、持っていた本からちらりと顔を上げて私に問う。
勿論答えは否だ。
多少ぼんやりして大らかすぎるとはいえ、愚かかと問われれば否定しかできない。
これは別に友人の欲目ではないはずだ。
「そうですよね。それでも彼女はまんまと二人の罠に引っ掛かりかけました。つまりはそういうことですよ」
わかっていただけて何よりです。
そんな顔でアゼリアは言葉を切り、顔を本に戻した。
いやどういうことよ。
「え、説明の途中放棄はよくないわ?」
そういうことって、メアリーとミディはマリー様より頭が良いということ?
でもそれにしてはなんだか釈然としない。
「違いますよ」
アゼリアはため息と共に本を閉じる。
お目当ての情報はその本にはなかったようで、他の読み終わった本の方へぽいと投げた。
それをマイラが床に着地する前にシュッと取り、表紙を一瞥しただけで分類していく。
この侍女も相当である。
「無自覚なようですが、アンネローゼ様のその推理力や洞察力は貴族令嬢の中ではかなり抜きんでたものなのですよ?」
「才ある者に非才の気持ちはわからないとまでは申しませんが、もう少し一般的な令嬢の知能を理解していただければとは思います」
そう思っているとアゼリアとマイラからそんなことを言われてしまった。
その目は「全く仕方のない」と言いたげなもので。
……正直、貴女たちにそう言われるのはちょっと違うと思うわ。
私は溢れ出そうになったその言葉とため息を紅茶で喉の奥になんとか流し込んだが、上手く流れて行かず妙に胸に突っかかる思いがしばらく残った。
「あの二人と言うとメアリーとミディですか?」
「他にいないだろう」
メアリーとミディが私の侍女になってから一週間。
それまでその話題に触れなかったルード様から初めて二人の様子を聞かれて少し驚いてしまった。
「てっきり興味がないものとばかり…」
思わずそう呟けば「まあ、それほど興味深いわけでもないが」と苦笑と共に前置きして、
「君の周りにいる人間のことを気にするのは当たり前だろう?まして因縁とまでは言わないが問題があった二人だ」
優し気な言葉とともにそっと頬に触れられる。
私へ対する思いやりと労りが温かな体温とともにじんわりと伝わってきた。
「ルード様…」
「今日は少し頬が冷たいな。最近忙しくしているとマイラから聞いた。……あまり無理はしてくれるなよ」
そのまま目の下の皮膚が薄い場所を親指の腹で撫でられる。
睡眠はきちんととっているので隈などはできていないはずだが、なんとなく触られた感触に張りがない気がして恥ずかしい。
頬が冷たいと言っていたし、血行が悪いのかもしれない。
「大丈夫ですよ」
恥ずかしさを誤魔化すようにゆっくりと手を外しながらルード様を見上げて笑いかける。
いらぬ心配をかけたいわけではないし、他を疎かにするつもりはない。
ただ私があの子たちとの新しい繋がりを求めただけなのだから、苦労したとしても自業自得だろう。
それに思ったほどの苦労はしていない。
「二人とも真面目に働いてくれていますよ。まだぎこちない所はありますが、失敗することもほとんどありませんし」
「まあそうだろうな」
「あら?」
私がそう言うとルード様は不服そうに鼻を鳴らす。
その言葉の内容を考えればあの二人を多少なりとも買っていたということだ。
「あの二人、まさか本当に優秀でしたの?」
あんな杜撰な計画を立てる子たちなのに?
声に出さない私の疑問にも答えるようにルード様は頷く。
「考えてもみろ。少なくともあのアゼリアが見捨てなかった二人だぞ」
そして告げられた言葉に私は納得しかできなかった。
後日なんとなくアゼリアにも聞いてみると意外な答えが返ってきた。
「杜撰杜撰と仰いますけど、他の令嬢に比べれば随分とマシな方なのですよ」
「え?そうなの?」
てっきり手厳しい回答がくることかと思っていたのに、まさかの言葉だった。
「はい。逆にお伺いしますが、アンネローゼ様はマルグリット様が愚かしいとお思いですか?」
「思わないわね」
アゼリアは一つ息を吐いて、持っていた本からちらりと顔を上げて私に問う。
勿論答えは否だ。
多少ぼんやりして大らかすぎるとはいえ、愚かかと問われれば否定しかできない。
これは別に友人の欲目ではないはずだ。
「そうですよね。それでも彼女はまんまと二人の罠に引っ掛かりかけました。つまりはそういうことですよ」
わかっていただけて何よりです。
そんな顔でアゼリアは言葉を切り、顔を本に戻した。
いやどういうことよ。
「え、説明の途中放棄はよくないわ?」
そういうことって、メアリーとミディはマリー様より頭が良いということ?
でもそれにしてはなんだか釈然としない。
「違いますよ」
アゼリアはため息と共に本を閉じる。
お目当ての情報はその本にはなかったようで、他の読み終わった本の方へぽいと投げた。
それをマイラが床に着地する前にシュッと取り、表紙を一瞥しただけで分類していく。
この侍女も相当である。
「無自覚なようですが、アンネローゼ様のその推理力や洞察力は貴族令嬢の中ではかなり抜きんでたものなのですよ?」
「才ある者に非才の気持ちはわからないとまでは申しませんが、もう少し一般的な令嬢の知能を理解していただければとは思います」
そう思っているとアゼリアとマイラからそんなことを言われてしまった。
その目は「全く仕方のない」と言いたげなもので。
……正直、貴女たちにそう言われるのはちょっと違うと思うわ。
私は溢れ出そうになったその言葉とため息を紅茶で喉の奥になんとか流し込んだが、上手く流れて行かず妙に胸に突っかかる思いがしばらく残った。
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