【完結】幽閉の王を救えっ、でも周りにモブの仕立て屋しかいないんですけどぉ?

北川晶

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番外 モブから略奪? リーリア・ブランの野望 ④

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 シオン様の逆ハー攻略が、ほぼできなくなったから。私は、次の段階に、速やかに向かうことにした。

 次のターゲットは、ベルナルドよ。
 留学生の主人公は、学園の授業内容がハイレベルで、図書室で自習をしているの。
 そこに、ベルナルドがやってきて。勉強の手伝いをしてくれるのよ?
 そのときに世間話をして。ベルナルドは、伯爵領の農地問題に悩んでいる、と知るの。
 彼はなんとか、自分の手で解決したいと思っているわ。
 それで主人公は、隣国の農業の、よくわからないけど、機具とか紹介して、ベルナルドを手助けするのよ。

 ベルナルドは私に感謝して。五月の連休、伯爵領に招待してくれるって、そんな感じよっ。

 図書室に行くと。この学園の蔵書量には、圧倒されてしまうわ。
 高い天井まで伸びる、飴色の、重厚な本棚に、ぎっしりと本が並べられていて…お目当ての本を探すの、すごく大変そう。
 まぁ、私は、あまり活字は好きじゃないというか。
 前世でも、小説は読まないで。漫画オンリーだったし。
 実は、攻略本を読むのも面倒で。流し見する感じだった。

 だけど。ちゃんとアイキンはクリアしたんだから。大丈夫。私はやれるはずなの。

 シオン様で、ちょっと、つまずいちゃったけど。
 絶対に、カザレニアの王妃に、私はなるのよぉ。
 心の中で拳を握った私は、歴史の自習に合うような、それらしい本をなんとか見つけ出して。生徒が読書や自習をする際に使う、大きめの机が並ぶ一角を見渡した。

 ゲームの通りに、ベルナルドを発見。

 彼は、伯爵だから、公女の私は呼び捨てでいいの。
 つか、隣国の姫なんだから。陛下以外は、呼び捨てでいいの。

 シオン様は、なんとなくシオン様、なんだけどね?
 ほら、あのたたずまいとか。冷たくて、厳しくて、超ドSっぽい感じとか?
 自然と、様をつけたくなっちゃうの。
 氷の貴公子とか、ヴァンパイア伯爵、みたいな? 公爵だけど。

 それはともかく。机の上に五冊くらい本を積んである、その近くに、ベルナルドがひとり、ポツンと座っている。
 その隣に、そっと座った。

 ま、席はいっぱい空いているから、隣に座るのは、ちょっと不自然だけど。
 シオン様の、失敗のあとを引きたくないから。
 ベルナルドは早々に、確実に、絶対、絶対、攻略したいわ。

 ベルナルドは、私が隣に座ったことに、気づいていないみたい。
 真剣に、なにを読んでいるのかしら? と思って。本の背表紙をチラ見すると。やっぱり農業関係の本だった。
 でも、まずはイベントを起こさないと。
 ベルナルドに勉強を教えてもらって、めんどくさいけど、領地の話を打ち明けてもらわないとね。

 でも、なんでか。ベルナルドに気づいてもらえない。
 ゲームでは、隣に座ると、すぐに声をかけてきてくれるのに。

『留学生のリーリアさん、ですよね? なにかお困りですか? 学園生活を円滑にする、お手伝いをするよう、先生方から言われているので…』って。
 真面目なベルナルドに、先生方も一目置いていて。留学生のお世話をするよう、言われているはず、なのだけど?

 気づいていないから、セリフを言ってこないのよね?
 じゃあ、思い切って。消しゴムを落としてみるわ。
 コロン…。

 果たして、ベルナルドは。ようやく私のことに気づき。消しゴムを拾ってくれたのだ。
「落としましたよ」
 …って、以上? 以上なの?
 いえいえ、セリフを続けて?
 つか。全然、お世話してくれないのですけど?

「あ、あの…セントカミュ学園の授業は、とても進んでいるのですね? 私、なかなかついていけなくて…」
 ちょっと、弱音を吐いてみる。
 すると、ベルナルドはこちらに視線を向けもしないで。言った。

「留学生のリーリアさん、ですよね?」
 そう、それよっ。そのセリフを待っていましたぁ。

「編入試験をクリアしていれば、学園の授業にはついていけるはずです。そもそも、まだ四月の半ばで、つまずくなんて、あり得ない。真面目に授業を受けていれば、なにも難しいことはないのではありませんか? あと、図書室では私語厳禁です。お静かに」

 そうして、ベルナルドは。読書に没頭してしまった。
 つか、また頭の遠くの方で、ブモブモ音が鳴り始めているんですけど?
 やだぁ、待って、待って。

 ええぇ? ちょっと。私の助言がないと、伯爵領が助からないんじゃないの?
 水不足の農地を、荒れたままにしておいて良いの?
 水をあまり必要としない苗の存在とか、荒れ地を耕す万能農機具とか。いろいろ紹介できると思うわよ?

「べ、ベルナルド様、ですわよね? 私の母国では、農業が盛んで。農機具なども、新しく開発されておりますの。ご興味ありません?」
 ちょっと強引に、話を振ってみたのだが。
 彼は、小さくため息をついた。

「私は伯爵子息なので。農業は専門家に任せております。農業の関連本を読んでいるから、貴方はそうおっしゃっているのでしょうが。…私は、ある方に、伯爵領の問題を解決していただいたのですが。それに関して、あまりにも知識がないことに、気づかされまして。せめて、基本くらいは、身につけておこうと。そういうつもりで、今、勉強をしているのです。リーリア嬢。私の勉学の邪魔を、しないでいただけますか?」

 嘘ぉ? なんで、私以外の人が、伯爵領の問題を解決しちゃってんのよ?
 誰よ? 誰っ!

 いやいや、待て待て。まだ間に合うかもしれないわ?
 その人よりも、私の方が、良い提案ができるはずよ。
 だって、私は主人公なのだもの。
 主人公の私が言うものよりも、良い提案なんて。あるわけないものね?

「い、今、我が国では。水をあまり必要としない、穀類の開発が進んでいるのですわ。五月の連休に、ベルナルド様の領地へ訪問させていただけたら、良いご提案ができると思いますのよ?」
「がえんじない」
 いやーぁっ、また、がえんじない、出ちゃったんですけどぉ?

 嘘でしょ? ベルナルドもなの? なんでなの?
 そしてブモブモが、耳元ではっきり鳴ったわぁ? いやぁーっ。

 そう思っていたら、ベルナルドが、とうとうと説明してくれた。
「御令嬢が、よく知らぬ男性の領に出向くなどと、軽々しく言ってはなりませんよ。私も、婚約者のいない身です。ヘタな噂を立てられても困りますし。水をあまり必要としない穀物、というのは。自領のことを詳しく調べているから出る言葉のようですが。そのような怪しげな方を、自領に招くような愚かな真似はいたしません。なんですか? 伯爵領を乗っ取るつもりなのですか? 貴方の国は」

 眼鏡の奥の瞳を、厳しく光らせて。そう言い。ベルナルドは席を立つと。机の上に積んでいた本を持って、違う席に移ってしまった。

 そしてまた、ブモブモ音が、アウトーッの勢いで連打されているぅ。

 マジか。まじか? マジで、なんなのよう?
 がえんじないを喰らって。ベルナルドから避けられて。追いかけていけるような、そこまで神経太くないんですけどぉ?
 つか、ふたりも離脱しちゃったら。さすがに逆ハー成立しないんじゃない?

 マズいわよ、これは。
 つか、なんで、みんな主人公に優しくないの?
 なにも間違えていないはずなのに? ストーリー通りに進んでいるはずなのに?

 大丈夫よ、まだ。とにかく、陛下を攻略すればいいんだから。
 取り巻きの男たちは、後からついてくるわ? たぶん。
 しかし、しかし。これは、もう。奥の手を出すしかなさそうね。

 あのモブを懐柔して、陛下に近づくのよ。

 黒髪の、のっぺり顔モブは。陛下と親しそうだったもの。
 モブに、陛下と私の恋路を応援してもらえたら。
 陛下とお話もできて。王妃ルートに一直線よっ。

 ま、あのモブ、ちょっと和風美人だったし。
 男性的な魅力はないけど、腐っても公爵令息ですものね? シオン様の代わりに、逆ハーに入れてあげてもいいかもぉ。
 それに、お兄さんが私に惚れたら。弟のシオン様もくっついてくるかもしれないし?
 あら、なかなかいいアイデアじゃね?

 イケる、イケるぅ。まだまだやれるわ。次に行こう、次ぃ。

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