【完結】幽閉の王を救えっ、でも周りにモブの仕立て屋しかいないんですけどぉ?

北川晶

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番外 モブから略奪? リーリア・ブランの野望 ③

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     ◆モブから略奪? リーリア・ブランの野望 ③

 ゲームが開始されて、一週間が過ぎたというのに。
 なんでか、うまく進行しなくて。私、困っていますの。

 一番の誤算は、シオン様が私に、会いに来てくれないことなのよね?
 ゲームでは、猫の姿だったシオン様を、木の上からおろしてあげて。それで、感謝した彼が、私の前に人の姿で現れてね?
『あのときの礼に、ひとつ願いを叶えてやるぜ?』って言ってくれるの。
 物憂げだった陛下が気になるわ、とシオン様に相談すると。
 陛下が休憩に使う、部屋の番号を教えてくれるってわけ。

 でも、そのイベントが起きないのよね?
 部屋番号がわからないと、陛下とお近づきになれないのに。

 剣術大会が始まる、五月中旬までに。
 いいえ、ベルナルドを逆ハー攻略するなら、五月の初めには。陛下と、接触しておきたいのよ。

 だって、五月の初めの連休で、ベルナルドの伯爵領に行って。いろいろ、感謝されなくてはならないのだけど。
 その前に、メインルートを決定づけておかないとならないの。

 陛下をメインに据えておかないと、王妃になれないのよぉ。
 攻略の順番を間違えたら駄目なのよぉ。めんどくさっ。

 剣術大会の前には、カッツェのイベントもあるし。
 どんどん、イベントがやってくるのだから。ここで、足踏みしていられないのっ。

 というわけで。ちょっと強引だけど。私からシオン様に会いに行くことにしたわ。

 放課後、シオン様が在籍している、第二学年の魔法科の教室に行く。
 ちょうど、シオン様がドアから出てきたので。彼の目の前に立った。

 ほら、イベント、あるでしょ? なにか忘れていない?

 そんな気持ちで、大きな瞳をぱっちり開けて。シオン様を、上目遣いにみつめる。
「急いでいるんだが、そこを退いてくれないか?」
 そうじゃないでしょ?
 あのときの、君? でしょっ。

 でも、シオン様は。エメラルドの宝石のように、深い緑色した瞳を、冷たく凍てつかせ。不快そうに、私のことを見ているの。
 なんで? 特に嫌われることは、していないつもりだけど?

「こんにちは、シオン様。先日、お目にかかりましたよね? リーリア・ブランです」
 上品にカーテシーをしたのに。なんで無言?

 あと、なんでか。頭の中で、ブモブモって音がなっているわ。なにかしら?

 不思議に思っていると、教室にいる令嬢が、なんでか、私に怒鳴った。
 つか、怒鳴る? 私に向かって?
 不敬ね。私は姫よ?

「貴方、シオン様は、第二学年の最高位貴族よ? 留学生の貴方から話しかけるのは、失礼にあたるわ?」
 どうやら、この令嬢は。私が、第三学年に編入してきた留学生だってことは、知っているみたいね?
 このあと、私が隣国の公女で。陛下と結婚することを知ったら、腰を抜かすわね、きっと。

「なに、笑っているの? 本当に失礼な方ね」
 思わず、口元がゆるんでしまったわ。
 はしたないわね。ごめんあそばせ。

「まぁ、いいですよ。なにか、話があるなら、手短かにお願いします」
 シオン様が、令嬢から私をかばってくれたわ?
 やっぱり、私が主人公だから。どうしても、優しくしちゃうわよねぇ。

 それに、シオン様を間近でよく見てみたら。
 やだっ、すっごいイケメンじゃね?

 黒い前髪の隙間からのぞく、シオン様の目は。シャープに吊り上がっていて、厳しい色をしているけれど。どこか色っぽく見える。
 十四歳には、とても見えないわ。

 本当に、私より年下なの?
 アンニュイな雰囲気が、大人の色気を醸しているんですけど?
 年下の男子なんて、子供っぽくて、今まで視界に入れたことないけど。シオン様はクールアンドセクシーで。私のそばに置いても見劣りしないから。良くてよ、良くてよぉ?

 ヤバーい。陛下とはまた違った魅力があるわね?
 第二攻略対象だし。陛下の次に、いっぱい時間取ってあげても、いいかなぁ? なんて、思っちゃったわ。

 でも、まずはイベントを起こさなきゃ。
「あの、なにか、お忘れではありませんか?」
「いえ、なにも」
 なにも、じゃないでしょっ。
 思わず、心の中で激しいツッコミを入れてしまったわ。

「あの、先日。木の上から降りられなくなっていたのを、私が助けてあげたこと、なのですけど?」
「貴方に、助けられた覚えは、ありません」
 すっごい、低い声の、腰骨に響く美声で。あぁ、声だけでメロメロになりそう。
 でも、メロメロになっている場合じゃないわ。
 えっと、どうしましょう。人に聞かれないよう、こっそりとバラしちゃうか?

「猫になっていたことは、内緒にしますけど?」
 ひそひそと、彼に告げる。
 ここまで言えば、わかるでしょう?

「ぼくが猫になれることは、秘密ではありませんよ。さらに、あの程度の低い木から、ぼくが降りられないわけでもないし。最終的にぼくを助けたのは、兄上でしたが?」

 うううぅ、ぐうの音も出ないわ。
 ってか、イベント成功していなかったってこと?
 嘘でしょ? 公女を木に登らせておいて。
 もうっ、単刀直入に言うわぁ。

「へ、陛下と、お話がしたいのだけど。休憩場所とか、教えてくれないかしら?」
「がえんじない」
 シオン様がそう言った途端、頭の中の、ちょっと遠くの方で鳴っていた、あのブモブモ音が。耳元ではっきり聞こえた。
 もう、これ、なんなのっ?

 それにぃ、あああぁぁっ、がえんじない、喰らっちゃったじゃないのぉ?

 がえんじない、は。アイキンⅡでは禁句なの。
 意味は、うなずけないとか、考えられないとか、不快だとか、そんな感じ、だったかしら?
 これを言われたら、攻略できなくなっちゃうって、言葉なのだけど。
 ってことは?
 くっそ。もう、シオン様を攻略できないってことじゃない? まじかーぁ?

 あっ、今、思い出したわ。
 このブモブモ音。好感度ゲージが下がるときの音じゃーん? なんでよっ!

 嘘でしょー? そりゃ、ちょっと、強引に進めちゃった自覚はあるけど。
 そんな、食い気味に、がえんじないを出すことないでしょ?
 これは、なんとか挽回したいところよ。まだ間に合うんじゃないかしら?

 そう思って、私はオレンジの瞳をウルウルさせて、シオン様をみつめた。
「そ、そんなこと、おっしゃらないで? じゃ、陛下のお友達のクロウ様を…」
「がえんじないっ。兄上に近づいたら、令嬢でも容赦しませんよ」
 ひゃっ、切れ長の目をさらに吊り上がらせて、唇はへの字で。なんか、陛下の部屋を聞いたとき以上に、激おこなんですけど?
 つか、話の途中で、がえんじない二連発とか。もう、無理じゃね?

 それにブモブモ音が、連続して、ブモブモ言ってるぅ。
 これ、もう、警告音レベルじゃね?
 全然ストーリー通りに行かなくて、引くんですけどぉ?

 私が、超ショックを受けているっていうのに。空気を読まない二学年の教室にいた令嬢が、追い打ちをかけるように、大人数でビービーギャーギャー言い出した。
「貴方、陛下にお話するなんて、なに言ってらっしゃるの?」
「身の程をわきまえなさい」
「貴方なんかと、陛下が言葉を交わすわけないでしょう?」
「あのふたりに近づこうとするなんて、考えられないわっ? 脳みそにお花が咲いているのバカじゃないのっ?」

 令嬢らしく、オブラートに包んだ、怒涛の口撃に、私がタジタジになっている間に。
 シオン様は、廊下をさっさと歩いて行ってしまった。
 あぁっ、ここで行ってしまったら、マジで、シオン攻略が失敗しちゃうじゃーん。やだ、やだぁ。

 私の逆ハーがぁ…。

 でも、がえんじないを喰らったら。好感度ゲージはゼロに近くなって、ここからの追い上げは本当に難しいのよね。
 さらに、シオン様は。ブモブモが激しく鳴っていたから。きっとゲージはゼロになっちゃったわ。

 あぁ、ショック。シオン様は、もったいないけれど。あきらめるしかないわね。

 つか、ゲージ見えないのに、なんでブモブモ音だけ、くっきり聞こえるのよっ?
 ステータスも、ちゃんと見せなさいよ。

 サービス悪いわねぇ、公式さんっ!

 待って待って、ちょっと落ち着いて考えてみましょう、リーリア?
 シオン様抜きでも、逆ハー達成は、出来なくもないわよ?
 あとの攻略対象を、全員ゲットできれば、まだイケるわ。

 当然、そのつもりだったし。
 あとがないけど、ま、なんとかなるでしょ。
 前世で培った、ギャル的手練手管を駆使すれば、この世のウブな男どもなんか、赤子も同然よ。

 気を取り直して、次、行こう、次ぃ。

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