転生少女、運の良さだけで生き抜きます!

足助右禄

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1巻

1-2

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 スライムが石の落ちた方へ進行方向を変えた。正解みたいだ。もしもの時の対処法が出来た。使う場面があるかはわからないけど、備えあればうれいなしだね。
 さてさて、それではスライムをやっつけてみよう。
 ショートソードを抜いてみたものの、武器のダメージについて思い出し、攻撃するのをやめる。
 非破壊属性がついているから壊れる心配はないのだけど、かえってそれが問題だ。スライム退治後なのに傷一つないショートソードを人に見られたら良くない気がする。まさか「スライム退治の達人なので得物えものいためませんでした」で納得してくれる人はいないだろう。またダキアさんに怒鳴られたら、今度こそ泣く自信がある。
 と、いうわけでスライム君の溶解力がどれほどのものか確かめてみる事にした。
 インベントリから捨てずにしまってあった串を取り出して、コア目がけて突き刺す。
 キンコンとチャイムのような音が聞こえてきて、スライムが一瞬ぶるりと震えると、ゲル状の部分がコアから剥がれ落ちる。何、今の音? それにスライムが……

「ひょっとして死んじゃった?」
[チャイム音はクリティカルが発生した時に鳴ります。ミナにしか聞こえません。状況を解説すると、クリティカルが発生してスライムのウィークポイントに命中。一撃で倒した事になります]

 そうなんだ。クリティカルって簡単に出るのかな?

[クリティカルの発生率は幸運に関わってきます。ミナの場合、幸運が規格外の数値になっているので必ずクリティカルが発生します]

 なるほど、それで軽く刺しただけで倒せたんだね。コアを手に取って見ると、串で刺した小さな穴がいているだけだった。
 これを持っていけば買い取ってくれるんだ。串の方はというと、刺した部分がグズグズになって崩れてしまった。コアから外れたゲルの方は、すでに溶解力をなくしているみたいで、串で刺しても溶けたりしない。これなら何とかなりそうだね。
 コアをアイテムボックスに入れて、周りを見回し手頃な棒を拾い上げる。
 ショートソードで先端を尖らせてお手製ショートスピアの完成! と、またキンコンとチャイム音が聞こえてきた。今度は何だろう?

[技能木工を習得しました。技能は教えてもらう事で得られますが、ごくまれに自然習得する事があります]

 なるほど。これも幸運の効果なんだね。幸運って凄く便利だ!
 さて、スライムを探して試し突きする事に。しっかり狙ってコアを突く。チャイムが頭の中で響き、スライムが身を震わせてコアが外れる。串よりも随分と太いお手製槍はまだまだ使えそう。
 日が暮れるまでに何度もスライムをやっつけて、コアを十二個回収出来た。
 暗くなる前に門をくぐり冒険者ギルドへ。相変わらず受付には列が出来ている。
 冒険者って結構多いんだね。誰でもなれるからかな? 私はさっきのお兄さんの列に並んだ。

「こんばんは。早速森に行ってきたのかい?」
「はい。スライムのコアを持ってきました!」
「お疲れ様。じゃあここに出してもらっていいかな?」

 相変わらず優しい笑顔で受け答えしてくれる。話しやすくて何だか落ち着く。

「はい!」

 アイテムボックスから十二個のコアを全部出して置いた。

「っ⁉」

 お兄さんは身を乗り出してコアをまじまじと見ている。何か凄く驚いているんだけど。

「ミナさんっ! このコアはどうやってってきたのかな?」
「え、落ちていた木を使ってコアを突いたんですけど、何かまずかったですか?」
「いや、その方法がスライム退治の最適解ではあるのだけどね、普通は大きな穴がいたり、割れたりするはずなんだよ。完全な球体で持ち込まれる事なんてほとんどないんだ」

 えぇ、でも軽く小突いたら死んじゃったよ? 全力で突き刺す必要なんてなかったんだけど。

「軽く突いたら倒せちゃったんですけど」
「一突きで?」
「はい。一突きでした」
「そ、そうなんだ。ええと、一応説明するんだけど、コアにはね、見た目じゃわからないけどウィークポイントがあるらしいんだ。そこを突くとほんの少しの力でもスライムは死ぬ。でも狙ってそこが突けないから何回も攻撃したり、勢いよく突いたりでまるごと破壊してしまうんだよ」
「壊しちゃった場合でも買い取ってもらえるんですか?」
「うん。スライムのコアは魔力の蓄積効率が凄くいいからね。魔晶石の代わりになるし、割れてても買い取れるよ。小さかったり傷がついていたりする分、安くなってしまうけどね」

 そうなんだ。魔晶石が何かはわからないけど、私が持ち込んだコアは結構いい感じなんじゃないかな?

「それでその、このコアはいくらくらいになりますか?」
「それなんだけどね、ちょっと確認をとってきてもいいかな?」
「はい。ここで待っていればいいですか?」
「うん。すぐに戻ってくるから、ここで待っていて!」

 そう言うとお兄さんはコアを一つ持って急ぎ足で奥へ引っ込み、すぐに戻ってきた。

「お待たせ! ほぼ無傷のコアは珍しいからね、一つ二万レクスで買い取らせてもらうよ」
「そ、そんなに高く買い取ってくれるんですか?」
「うん。ギルドマスターに確認をとってきたから間違いないよ。はい、お金だよ。中を確認してね」

 確かに二十四万レクスある。半日どころか数時間で二十四万もかせいじゃったよ。冒険者ってもうかるんだなぁ。

「一応言っておくけど、壊れたコアだと、一つ二千レクスくらいだからね」

 十倍⁉

「やっぱり貰いすぎじゃないですか?」
「いや、このサイズならこれで適正だよ。あと、これはギルドマスターからのお願いなんだけど、しばらくはスライム退治を継続してほしいんだ」

 ちょっと申し訳なさそうに言われた。お兄さんには親切にしてもらっているし断る理由はない。

「はい。大丈夫ですよ。明日も森に行ってきます」

 どの道、やれる仕事はスライム退治か薬草採取しかないからね。

「よかった! じゃあ、明日もよろしくね」
「はい!」

 こうして私の初仕事は大成功で終了した。


 冒険者ギルドを出て穴熊亭へ。食堂はお客さんでいっぱいだった。
 給仕をしている女の人が奥さんらしい。少しふっくらした元気そうな人だ。
 挨拶あいさつをすると「亭主から聞いてるよ! すまないけど今席がいてないんだ。少ししたらくと思うから待っててもらえるかい?」とのこと。
 ここで待っているのも邪魔になりそうなので、一度自室へ戻る事にした。
 装備を外してベッドに腰かける。

「そういえばレベルってどうなったかな? 経験値とかが見えればいいのだけど」

 ステータスの事をイメージしたら目の前に表示が現れた。
 レベルが二つも上がっている! スライム十二匹で二レベルアップって、随分と経験値が高いのかな? 経験値は表示されてないからわからないけどね。
 あと職業が冒険者になって、クラスがノービスになっている。ヘルプで確認したけど、ノービスっていうのは専門的な能力に特化する前のクラスらしい。レベル五でクラスが変わり、始めに選べるのは、ウォリアー、ファイター、スカウト、プリースト、ソーサラー、シャーマンの六種類。
 ウォリアーは重戦士、ファイターは軽戦士、スカウトは索敵さくてきや罠の解除とかが出来る。プリーストは回復魔法使い、ソーサラーは魔術師、シャーマンは精霊使い。
 魔法ってどうやって覚えるのかな? と考えたらすぐにヘルプさんが教えてくれた。魔法職の場合はクラスが変わった時に必ず一つは覚えるそうで、後は人に教えてもらうかレベルアップごとに増えていくらしい。
 ただ、精霊魔法は精霊と契約しないといけなくて、誰でも使えるものではないそうだ。
 私は何になればいいかなぁ。筋力十四、耐久力十四、敏捷びんしょう性十六、知力十六、魅力六十二、幸運は振り切れているので変わらず。ステータスの伸び方を見ると、スカウトか魔法を使うクラスかな?
 この先も一人で行くならスカウトなんかいい気がする。
 次に、生命力、精神力、気力について。こちらも順当に三十七、三十八、三十九と増えている。
 そういえば武技アーツだっけ? これも魔法と同じで、戦闘職系の人が、クラスが変わった時に習得するものだそう。でも、魔法も武技アーツもごくたまに自然習得する事があるのだとか。そのへんは技能と同じなんだね。
 あと、技能欄に工作レベル一と槍術レベル一が追加されている。
 槍術は先を尖らせた棒を槍のように扱っていたから身についたんだろうね。
 こんな簡単に技能を習得していいのかな? 間違いなく幸運六万五千五百三十五のおかげだよね。女神様に感謝だよ。お祈りとかした方がいいのかな?
 明日もスライム退治だ。同時進行で薬草も探してみよう。
 食堂がいてきたみたいで、奥さんが呼びに来た。

「待たせて悪かったね。サービスするからいっぱいお食べよ」
「ありがとうございます!」

 そうして運ばれてきた料理は超大盛で、サラダにシチュー、ステーキまである。パンはバスケット一杯持ってきてくれた。

「食べきれなければ残していいよ! 何なら明日のお弁当にしてあげようか?」
「いいんですか? お金を払います」
「お代はいいよ。その代わりいた時間で森の食材を採ってきておくれよ」
「わかりました! 明日は何か採ってきますね」

 おじさんにも言われていたし、明日はキノコも探してみよう。ではでは、いただきます!
 シチューは濃厚で具沢山! ステーキも柔らかくてとってもジューシー! かけてあるソースが甘辛くてすっごく良く合う。サラダも新鮮でドレッシングをかけて食べたら本当に美味おいしい! ほんのりとした優しい酸味がいいアクセントになっている。パンも焼きたてのフカフカだ。
 ごはんが美味おいしいと、自然と笑顔になっちゃう。

「そんなにいか?」

 厨房ちゅうぼうからおじさんがこちらを覗いている。

「はい! とっても美味おいしいです!」

 おじさんは「沢山食べて大きくなれよ!」と言って、サッと引っ込んでしまう。でも、ちょっと嬉しそうだった。ごちそう様でした!
 お湯をお願いし自室に戻って体を拭き、着替えてベッドに入る。明日は洗濯とかをしてから森へ出かけよう。


 二日目の朝。随分と早起きをしてしまった。軽くストレッチをしてからベッドを出る。とりあえず洗濯をしよう。宿屋の裏庭に井戸があり、側にタライもある。自由に使っていいらしい。
 石鹸せっけんをつけて昨日着ていた服を洗い、部屋に干す。手洗いって大変なんだなぁ。
 そうこうしているうちに朝食が出来上がり、食堂でいただく。朝はスープにパンとサラダだ。アッサリめで食べやすかった。そういえばこの世界の食文化って結構良い気がする。ファンタジーな世界って調味料が貴重品で、味付けといえば塩のみ! みたいな感じかと思っていたけど、そんな事はない。昨日の食事には調味料が沢山使われていたし、食べにくいものは全くなかった。
 意外と住みやすい世界なんじゃないかな?
 奥さんからお弁当を貰い、今日も元気に狩りへ出発! 門で衛兵のおじさんに挨拶あいさつをして、いざ森へ。今日はショートソードでもスライムを突いてみよう。
 早速発見。ゆっくりと近付いてコアを軽く一突きし、コア一つゲット。やっぱり簡単だね。
 そうそう、今日は薬草採取とキノコ採取もやるんだった。薬草については、この森には結構な種類が自生しているらしく、どれを持っていっても適正な価格で買い取ってくれるそう。
 ここで役に立つのは鑑定だろう。葉っぱの形がそれっぽい草を見つけたら鑑定をしてみて、当たりなら採取って流れでいけそう。とりあえずやってみた。
【ディペン草】品質B。傷薬の材料。葉とくきは塗り薬に、せんじた根は飲み薬になる。
 おお! 鑑定出来た! 説明も細かいし、品質とかもわかるんだ。そういえば鑑定ってどれくらいの距離まで出来るんだろう……? 試してみようかな。周りを見回すように鑑定を使ってみる。

【ディペン草 C】【ディペン草 B】【ディペン草 A】【ディポイ草 A】【ディポイ草 B】【ディペン草 B】【ディパラ草 B】【ディペン草 B】

 うわっ、約五十メートルの範囲にある薬草が全部見える。情報量が多すぎてクラクラしてきた。
 複数を見た時は名前と品質だけが表示され、一つを注視すると説明が現れるみたいだ。
 とりあえず品質がAのものを採取する。全部採ってしまうとえてこないかもしれないし、品質Cの草なんてまだ小さい。成長したら品質も良くなるに違いない。
 ディペン草は丸ごと引っこ抜く。毒消しのディポイ草は根のみ使うので引っこ抜いて根だけをアイテムボックスへ。ディパラ草はしびれを取るのに使い、こちらは若芽が一番薬効が強いそう。若芽だけを摘む。ディペン草は十株、ディポイ草は八本、ディパラ草は四枚採取出来た。
 薬草は結構手に入ったけど、キノコは見当たらない。もう少し奥へ行ってみようかな。そうして森の奥へ進みながら、見つけたスライムを倒していく。これでコアは十個目。
 木々の間隔が段々と狭くなり、しげみも増えてきた。日の光がさえぎられて薄暗く、ちょっと不気味な感じがする。そろそろキノコが見つからないかな?
 キョロキョロと見回しつつ慎重に歩いていると、キンコンとチャイム音が聞こえてきた。
【ピエリ茸】品質B。香りが良く、焼いても煮込んでも美味おいしい。
 あった! とりあえず採取しちゃおう。形はシイタケに似ていて、マツタケっぽい匂いがする。他にもないかな? っと、もう少し奥に沢山えているところがあるみたい。よし! 品質の良いものから採っていこう。夢中で採り続けて二十本ほどアイテムボックスに放り込んだ。
 おじさんと奥さんに渡すものはバッチリ! その時、再びチャイム音が聞こえてくる。どうやら幸運が発動した時にもチャイムが鳴るようだ。もしかしてまだ何かあるのかな? 周りを見回していると木の陰に何か光るものを見つけた。そーっと近づいて見たら、虹色に光る花が一輪咲いていた。
【エリクル草】品質S。森の中にごくまれに咲く草花。通常は夜に花をつけるが、日中に咲いた花は万病に効く薬になる。
 凄いの見つけちゃった。とりあえず採取してインベントリに。
 そろそろお昼になるし、ここで休憩にしよう。丁度倒れた木があったのでそこに腰かけて、お弁当を取り出す。半分に切ったパンにサラダとお肉が挟んである、サンドイッチみたいなハンバーガーみたいな食べ物が四つも入っていた。美味おいしそうな匂いにたまらずパクついてしまう。
 ソースが辛めでクセになりそう! でも一つで満腹だよ。残りはインベントリに入れておこう。
 お腹いっぱいになって少し食休みをと思っていた時、突然それはやってきた。
 ヒュンッと何かが私の顔の近くをかすめていく。振り返ると後ろの木に矢が刺さっていた。
 慌てて木の後ろに隠れる。何⁉ 私が狙われているの?
 パニックになりながら矢の飛んできた方をコッソリと覗いてみた。
 しげみの向こう側、五十メートルほど先に小さな影がいくつかある。子供? そんなわけない。きっと人型の魔物だ。それらはこちらに向かって進んでくる。
 多分ゴブリンだ。緑色の肌、身長は百三十センチくらい、ボロボロの剣や棍棒こんぼうを手にしている。数は五。見えないところにもっといるかもしれない。
 えぇ……どうしよう……鞄は倒木のところに置いたままで、ショートソードも座るのに邪魔だと思って鞄の横に置いちゃっている。
 完全に油断していた。ここは森で魔物もいるんだ。逃げなきゃ――殺される‼
 ゴブリンって人を食べるのかな? 嫌! 絶対嫌だ! 近くへ来る前に走って逃げよう!
 ゴブリン達との距離は約二十メートル。まだ逃げ切れるだろう。でも矢を撃たれたら?
 そういえば、弓を持っているゴブリンがいない。まさか回り込まれていたりしないよね?
 逃げようと思っていたのに、考えたら足が動かなくなってしまう。
 怖い……誰か助けて……‼

「矢は当たっていない。油断するなよ」
「奴らの仲間じゃないのか? 始末しなければ奴らに逃げた方向を教えるはずだ」

 え? 人間の言葉じゃないけど言葉がわかる⁉ それなら、いちばちか!

「あ、あのっ! 戦うつもりはありません! 誰にも言わないから見逃してくださいっ!」

 意識して話そうとしたら、同じ言語で話す事が出来た。

「俺達の言葉がわかるのか? 顔を見せろ」

 恐る恐る顔を出す。五人のゴブリンは武器を構えたままだ。衣服がボロボロで傷だらけなのが痛々しい。

「やっぱり人間じゃないか、奴らが来る。早く殺すぞ」

 武器をこちらに向けてくるゴブリン達。

「ま、待ってください! 追っ手は人間ですか? 私が誤魔化しますから隠れてください」
「本当か……? 仕方ない、こいつに任せてみよう」
「おかしな事をしたらお前を殺すからな」

 ゴブリン達は私の側のしげみに隠れた。
 私は木に刺さったままの矢を引き抜いてしげみに隠してから、倒木に戻り腰かける。
 間もなくゴブリン達が来た方向から二人の男性が現れた。一人は革のよろいに長剣、もう一人は金属のよろいに槍を持っている。

「お、ルーキーのお嬢ちゃんじゃないか。こんな奥まで来て大丈夫か?」

 金属鎧に槍を持った人に聞かれた。茶色の短髪でいかつい雰囲気がいかにも冒険者って感じ。

「ほぉ。この子がうわさの」

 もう一人の革鎧の人は黒色のバケットハットを被り、無精ぶしょうひげをやしていた。うわさって?

「こんにちは。宿屋のおじさん達にキノコを採って帰ろうと探していたらここまで来ちゃいました」

 あははと笑って答える。

「俺達はゴブリンを追いかけているんだが、こちらには来ていないか?」

 帽子の人が周りを鋭い目つきで見回しながら言う。

「来ていませんよ。この辺りってゴブリンが出るんですか?」
「い、いつもはもっと奥にいるんだが、今日はこの辺りで遭遇してな、逃げ足が速くて追いかけているところなんだ」

 短髪の人が少し詰まりつつも丁寧に教えてくれた。話が苦手なのかな?

「そうなんですか」
「その、なんだ。ゴブリンにったら危険だ。俺達が安全な場所まで連れていってやろう」

 短髪の人が私を見下ろして言ってくる。表情が何だか引きつっているけど、私を怖がらせないように笑顔を作ろうとしているのだろう。気を遣ってくれるいい人なんだね。
 ここでこの人達に保護してもらえばゴブリン達からのがれられるかもしれない。でも私はゴブリン達に何とかすると言ってしまった。もし裏切ったように見えたら私もろとも二人も殺される危険がある。

「いえ、お兄さん達のお仕事の邪魔はしたくありませんから。一人で戻れるので大丈夫ですよ」

 そう言って柔らかく笑ってみせると帽子の人はニヤリと笑みを浮かべ、短髪の人はそっぽを向いた。顔が赤いけど、どうかしたのかな?

「そ、そうか。じゃあ俺達は行くからな。なるべく早く森を出るんだぞ」

 短髪の人は残念そうに言う。

「はい。心配してくれてありがとうございます。お仕事頑張ってください」
「おう! またな」

 そう言って森の奥の方へ戻っていく二人。

「おい。お前、どういうつもりだ?」

 私の危機は去っていない……しげみからぞろぞろとゴブリンが出てきた。

「どういうも何も、約束を守っただけですよ」

 努めて冷静に、受け答えする。

「この後、俺達に殺されるとは考えなかったのか?」

 殺されるという言葉に背筋が凍りついた。足が震える。でも何とか平静をよそおって言う。

「いやその、言葉が通じるなら何とかなるかなって。平和的に、みたいな?」
「へいわてきに? どういう意味だ?」

 あー、ゴブリン語にはない単語なのかな。

「争わない、戦わない、話し合いで解決するって事ですよ」
「信用出来ない。人は俺達を見るとすぐに襲ってくる」

 一人のゴブリンが私をにらみつけながら言ってくる。

「えっと、少なくとも私は意味もなく皆さんを傷つけたりしません」
「どうだかな。不利だからそう言うんじゃないのか?」
「でも約束は守ったぞ」

 口々に言われる中、小さく深呼吸をして話を進める。

「皆さんはいつもはこの辺りにいないそうじゃないですか。そんなに傷だらけになってまで、どうしてここにいるんですか?」

 話題を私の事から逸らそう。無事に解放される糸口が見つかるかもしれない。

「俺達は薬草を探しにきた。虹色の花が咲いている変わった草だ」

 さっき採った薬草だ!

「私、それ持っています!」

 これで交渉出来るかも!

「何⁉ どこにも持っている、見せてみろ」
「これですよね?」

 インベントリからエリクル草を取り出して差し出す。

「おお! ホントに持っていた! 虹草にじくさだ!」
「たまたま見つけただけなので、使ってください」
「本当にいいのか?」
「これを探していたという事は、重い病気の方がいるんですよね? 私は特に必要じゃないので」
「ありがとう!」

 ゴブリンの一人がエリクル草を受け取る。

「いえいえ、あっそうだ。傷薬になる薬草も持っていますので、良かったらどうぞ」

 ディペン草をインベントリから五株取り出して他のゴブリンに手渡した。

「何から何まですまない」

 頭を下げるゴブリン達。こっちの世界の魔物にもお辞儀っていう文化はあるんだね。

「いえいえ! それでその、私は帰ってもいいでしょうか?」
「俺達は恩あるものに危害を加えたりはしない」

 と、頭上の木の葉がガサガサと音を立て、私の後ろに何かが着地した。

「この人間を殺さなくて済んだな」

 弓を持ったゴブリンだ。私を上から狙っていたのだろう。もしあの二人に助けを求めていたら頭に矢を受けて死んでいたかもしれない。

「じゃあ私は行きますね。まだあの二人が近くにいるかもしれません。お気をつけて」
「本当に助かった」
「お前、いい奴」

 それぞれお礼を言いながら森に帰っていく。

「俺達のおさが毒を持ったデカいスライムにやられたんだ。何とか追い払ったんだが毒が強くて普通の薬草では治せなかった。お前も気をつけろ」

 弓を持ったゴブリンはそう言うとしげみに消えていった。
 鞄とショートソードを手にして、私も足早に森の奥から抜け出す。
 メチャクチャ怖かったよ~。どうにか無事に切り抜けられて良かった。
 ゴブリンの言葉がわかった事、相手が話のわかるゴブリンだった事、エリクル草を持っていた事、いくつもの偶然が重なって助かったんだ。
 次からは油断しないように気をつけよう。帰りに森の入り口付近でスライムを十匹やっつけて、品質の良いディペン草を五株採取したところで、早めに街へ戻る事にした。


 冒険者ギルドはまだ人が少なくて、受付にはそんなに人が並んでいなかった。

「お疲れ様。森はどうだった?」

 昨日のお兄さんが優しく話しかけてくれる。それだけでちょっと涙ぐんでしまった。

「ちょっ! 何かあったの⁉」
「い、いえ! 薬草採取をしていたら迷ってしまって、帰ってこられて良かったって……」
「怪我はしてない? 良かった」

 お兄さんは本当に心配している様子だ。あんまり人に心配をかけちゃいけないな。
 気を取り直し、買い取りをお願いしますと、スライムコア二十個と薬草各種をカウンターに並べる。

「おおっ! コアをこんなに。薬草も処理がしっかりしてあるね」

 お兄さんは手早くコアと薬草の品質を確認していく。

「コアが一つ二万レクスで四十万レクス。ディペン草が一株二千レクスで二万レクス。ディポイ草が一つ三千レクスで二万四千レクス、ディパラ草の若芽が一枚四千レクスで一万六千レクスだね。合計で四十六万レクス。確かめてね」
「はい、確かにあります。ありがとうございます!」
「いえいえ、こちらこそ。それとミナさんはFランクに昇格だよ。おめでとうございます!」

 笑顔で言うお兄さん。昇格ってそんなに簡単に出来るの?

「いいんですか? 二回しか依頼をやっていませんけど?」
「うん、これほど品質の良いものを納品出来るのだから当然だよ」

 やった! 素直に嬉しい!

「では冒険者証を少し借りるね。情報を書き換えてくるので」
「はい! お願いします!」

 ほどなくして私の冒険者証が返ってくる。銅ではなく鉄に変わっていた。

「Fランクになったのに申し訳ないのだけど、明日もスライムコアをってきてもらえると助かるよ」
「はい! わかりました」

 こうして二日目の冒険は波乱もあったけど、しっかりお金をかせぐ事が出来た上で無事に終える事が出来た。二日で七十万とか、こんなにかせげるなんて思ってもみなかったな。
 お金には随分と余裕があるので明日は午前中は買い物をして、午後からスライム退治をしよう。
 宿に帰ってキノコを渡したら、おじさんも奥さんも飛び跳ねて喜んだ。何でもピエリ茸は結構価値のあるキノコらしい。これしか見つけられなかったんだよなぁ。


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「妻はお妃様一人とお約束されたそうですが、今でもまだ同じことが言えますか?」 「正直なところ、不安を感じている」 久方ぶりに招かれた故郷、セレンティア城の月光満ちる庭園で、アシュレイは信じ難い光景を目撃するーー 激闘の末、王座に就いたアルダシールと結ばれた、元セレンティア王国の王女アシュレイ。 アラウァリア国では、新政権を勝ち取ったアシュレイを国母と崇めてくれる国民も多い。だが、結婚から2年、未だ後継ぎに恵まれないアルダシールに側室を推す声も上がり始める。そんな頃、弟シュナイゼルから結婚式の招待が舞い込んだ。 第2幕、連載開始しました! お気に入り登録してくださった皆様、ありがとうございます! 心より御礼申し上げます。 以下、1章のあらすじです。 アシュレイは前世の記憶を持つ、セレンティア王国の皇女だった。後ろ盾もなく、継母である王妃に体よく追い出されてしまう。 表向きは外交の駒として、アラウァリア王国へ嫁ぐ形だが、国王は御年50歳で既に18人もの妃を持っている。 常に不遇の扱いを受けて、我慢の限界だったアシュレイは、大胆な計画を企てた。 それは輿入れの道中を、自ら雇った盗賊に襲撃させるもの。 サバイバルの知識もあるし、宝飾品を処分して生き抜けば、残りの人生を自由に謳歌できると踏んでいた。 しかし、輿入れ当日アシュレイを攫い出したのは、アラウァリアの第一王子・アルダシール。 盗賊団と共謀し、晴れて自由の身を望んでいたのに、アルダシールはアシュレイを手放してはくれず……。 アシュレイは自由と幸福を手に入れられるのか?

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