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1巻
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しおりを挟む1 転生
気がつくと真っ白な部屋にいた。ここはどこだろう? 本当に何もない白一色の部屋。いや、よく見れば壁はない。空間と言うのが正しいのだろう。
そんな事より私はどうなっちゃったの? 記憶を辿ってみる。
私は佐伯美奈。十五歳の高校一年生で、お祖母ちゃんが入院している病院へお見舞いに行って――
「えっと、何があったんだっけ?」
「残念ながら貴女は死んでしまいました」
突然声がした。周りを見回しても人はいない。
「私はここです」
そう聞こえてすぐ私の目の前に女性が現れる。長いブロンドヘアで真っ白なローブみたいなものを着た二十歳くらいの美女。ハリウッド女優のような人だ。
「すっごい美人さんだー」
「ふふ。ありがとうございます」
現れた美人さんは神様で、私が災害に巻き込まれて十五歳の若さで命を落とした事、その際に勇気ある行動でその場にいた沢山の人を救ったため、地球ではない他の世界に転生させてもらえる事――その世界は剣と魔法のファンタジー世界で、死の直前の記憶がないのは後悔を残さないための措置である事を教えてくれた。
「まず体を創造しましょう」
女神様がそう言って手をかざすと、私の体が整えられていく。
「生前の貴女の体を真似て作りました。転生先の世界では髪の色が黒だと目立ちますので茶色に、目の色も比較的多い茶色にしました。他に要望はありますか?」
生前よりも身長は少し低いが、体型がかなりスリムになっている。足も長く、日本人の体型ではないようだ。髪はショートボブで艶やかだった。
「凄く可愛くなってる! こんなに良くしてもらったら要望なんてありませんよ!」
「ふふ、欲のない方ですね。では容姿はこのように。皆に好かれるおまじないもしておきましょう」
女神様の手からキラキラと光がこぼれ落ち、私の体に入っていく。
「さて、次はステータスです。貴女はこれから一人で生きていくのですから強くしておきましょう」
「え、いらないですよ」
「はい?」
「強くしていただかなくて大丈夫です。普通にしてください」
「しかし、これから行く世界は貴女が元いた世界よりも文明が発達していなくて、魔物も住んでいます。危険なのですよ」
心配そうに首を傾げる女神様。
「こんなに良くしてもらったら十分ですよ。あ、でも何もわからないのも不安なので、読み書きと、その世界の常識くらいは教えてほしいです」
「そちらは初めから備えておきますのでご安心ください。あと、一人になっても大丈夫なように最低限のお金や衣服、装備などもご用意させていただきますね」
「何から何までありがとうございます」
「他に何かありませんか?」
優しく微笑みながら女神様が聞いてくる。何かお願いした方がいいんだよね。
「んーそうですねぇ、じゃあ運を良くしてください。私、昔からツイてないってよく言われていて。ダメでしょうか?」
「勿論大丈夫です。しかし、本当に欲のない方ですね」
「せっかく異世界に転生させてもらえるなら地道に生きるのもいいかなって思いまして。あ……」
「どうしました?」
「要望になっちゃうのかな? 生前の私の家族がいると思うのですが、私が死んじゃった事で悲しんでいたりしないかな~って」
「わかりました。貴女を失った悲しみを少しでも和らげられるように私が見守っておきましょう」
「ありがとうございます!」
「それでは地上に転送します。ようこそ新しい世界――アスティアへ。女神アウレリアは貴女を歓迎します」
女神様がそう言って手をかざすと、周りが光に包まれて私の意識は遠のいていった。
光が溢れ、大きな音がした。鳥のさえずる声。馬の蹄の軽快な音。車輪の音。そして緑の匂い。目を開けるとそこには森が広がっていた。舗装されてない道が左右に伸びている。私は木陰に座っていた。
「本当に来たんだ! 異世界!」
澄んだ空気が気持ちいい! っと、浮かれている場合じゃないよね。まずは状況確認を。
わっ、なんか目の前にステータスみたいなのが出た! そこには名前、性別、種族、年齢、職業と自分の身体能力が数値化されたものが表示されている。一つずつ確認していこう。
名前はミナになっている。名字はない。この世界では名字がないのが普通なのかな?
[名字を持つのは貴族や名家の者に限られます]
頭の中に声が響く。何だろう?
[私はミナをサポートするための機能です。ステータスの中にギフトという項目がありまして、そこにヘルプ機能というものがあります。それが私です]
そうなんだ! わからない事を教えてくれる機能なんだね! ありがとう女神様!
では確認の続きを。種族は人間、性別は女と。年齢は十三歳になっている。少し若くなっているけどなんでだろう?
日本人は海外の人に比べて若く見えるから、見た目で調整されたのかな?
ヘルプさんに聞いたら、この世界の成人は大体十五歳らしい。職業は今のところなしだし、成人で無職はイタいと思われるだろうという女神様の配慮かも。優しいなぁ。
早く何か仕事を見つけないといけない。十三歳で身元がわからない私が就ける仕事ってあるのかな? 普通に考えたら街の中でアルバイトみたいな仕事から始めるべき?
将来の夢とか考えたのは、つい最近だったっけ。お祖母ちゃんが入院して、その時に看護師さんが凄く親切で丁寧だったのを見て、私も人を支えられる職業に就きたいと思っていた。特に医療系の職業を意識して救命講習とか受けてみたりもした。でもこの世界の医療と地球の医療では形態も違うだろうし、この際だからこの世界にしかない職業に就いてみたい。
そんな事を考えていたら、この世界の一般的な職業が羅列された。流石は剣と魔法のファンタジー世界。冒険者という職業があった。依頼を受けて困っている人のために働いたりするらしい。よし! 冒険者になってみよう! これなら自分の力だけでやっていけるだろうから、家柄とか関係ないよね。
そうと決めたら確認を続けよう。レベルは一。
続いてステータス。まずは――筋力、耐久力、敏捷、知力、幸運、魅力の六項目。筋力から知力までは全て十二、魅力は高くて六十。幸運がなんか凄い事になっていた。
百と書いてある横にカッコがついていて、その中は六万五千五百三十五になっている。カッコ内が本当の数値で、女神さまが秘匿してくれているそう。
生命力、精神力、気力以外は百が上限らしい。都度ヘルプさんが教えてくれた。超便利!
私の生命力は十二、精神力が八、気力が十。生命力はダメージを受けると減っていって、零になると死んでしまうらしく、精神力は魔法を使うと消費して、零になると気絶。気力は武技という必殺技みたいなものを使うと消費して、零になると気絶する。実際、どれだけの痛みが数値上いくらのダメージになるかよくわからない。精神力と気力に至っては地球で消費のしようのないものだから尚更だ。まあそれは追々わかるようになればいい事かな。
あとはギフトの項目。私が持っているギフトは鑑定、アイテムボックス(インベントリ)、ヘルプ機能となっている。鑑定は今、自分のステータスを見るために使用している技能らしい。アイテムボックスっていうのはあれだよね。別の空間に物をしまっておけるという便利技能だ。カッコ内のインベントリはその上位互換で、アイテムボックスに重量制限とか時間経過が一切ないのだとか。凄いギフトをありがとう、女神様! っと、脱線しちゃった。
次は装備の確認だよね。ショートソードは攻撃力が七で秘匿効果に非破壊属性、重量軽減、所持者固定と書いてある。
レザーブレストアーマーは防御力が三で秘匿効果に非破壊属性、重量軽減、所持者固定、自動調整と書いてあった。壊れないの? 凄くない? 重量軽減は所持者以外には作動しないみたい。
自動調整はサイズの事らしい。育ち盛りだもんね。……育つよね?
秘匿効果がついていると、他人に鑑定されても普通の装備に見えるようになるのだとか。
服装は七分袖のシャツにショートパンツ、ニーハイのソックスにブーツで、背中に小さなバックパック。中には何かの革で出来た水筒に硬く焼いたパンと干し肉、着替えの服に下着にタオル、あと石鹸も入っている。インベントリ内にお金も発見した。ええと、いちじゅうひゃく――
一億レクス? えっと、通貨の価値は円とほぼ同じ? 貰いすぎじゃないかな?
ま、まあ初めは使わせてもらうとして、なるべく自分で稼いだお金を使うようにしよう。
「さてさて、まずは街に行ってみようかな」
左の方を見ると、遠くに壁みたいなものが見える。あそこが街かな?
早速行ってみよう! 体は軽く、とても歩きやすい。森の中を真っすぐ伸びる道を、壁に向かって胸を弾ませて歩いた。
「着いたー!」
歩き始めて三十分、ようやく壁の前に着いた。おそらくこの内側が街なんだろう。近くには大きな木の門があり、警備の人が何人も立っていた。どうやら一人ずつ調べられるらしい。
馬車で来ている人は積荷の確認までされている。とりあえず審査の列に並んでみた。
「次! なんだ、お嬢ちゃん一人か?」
「は、はい! えっと、冒険者になりにきました!」
イカつい顔のおじさんだ。ちょっと怖いかも。
「一応荷物のチェックを。身分証はあるか?」
「ないです。ないと街に入れないのですか?」
「いや、仮証を発行するから大丈夫だ。発行に千レクスかかるがいいか?」
リュックの中を確認しながら聞いてくるおじさん。まあ、チラ見程度なんだけど。
「お金はあります! お願いします!」
「わかった。この仮証は七日間しか使えない。期限が切れると、街にいる場合は逮捕されて罰金を支払うまで解放されないんだ。支払いが不可能だと判断された場合は奴隷に落とされる。気をつけるように」
そんな事で奴隷にされちゃうんだ。奴隷って現代の日本じゃ考えられないけど、無給で労働させられるんだよね? 気をつけよう。
おじさんは一通りの説明をすると名刺サイズの銅板をくれた。こちらの言語で仮証と刻まれていて、日付も記載されている。
「ありがとうございます!」
「おう、気をつけてな。冒険者登録をすれば身分証が発行される。そしたら、いつでもいいから仮証を返しに来るんだぞ」
ぺこりと頭を下げたらゴツゴツした手で頭を撫でられた。顔は怖いけど、いい人なんだね。
「はい!」と返事をしてニッコリ微笑むと、イカつい顔が少しだけ緩む。
そういうわけで私は無事に街に入る事が出来た。
門をくぐるとそこはヨーロッパ風の街並みが広がっていた。
石畳の大通りにレンガ造りの建物や木造の建物が、区画に沿って綺麗に並んでいる。もっと地味な建物が多いのだろうと想像していたのだけど、屋根の色も赤や青、黄色とカラフルだ。大通りは人と荷馬車などの往来が激しく、賑やかさに驚かされた。
また、大通りには色んなところに屋台のようなお店があり、美味しそうな匂いもしている。ついつい屋台に寄ってしまう。
「らっしゃい! フォレストボアの串焼きだよ! 一本百レクス、美味しいよ!」
「一本ください!」
「あいよ!」
人懐っこい笑顔のおじさんから串焼きを貰い、ポケットからお金を出すフリをしてインベントリのお金を出す。ついでに冒険者ギルドの場所も聞いておいた。
受け取ったアツアツの串焼きを食べながらギルドの方へ向かう。串焼きはかなり大きくて食べ応えは抜群! タレが甘辛くてとっても美味しかった! 串はポイ捨てしちゃいけないのでコッソリとインベントリにしまっておいた。
「ここかな?」
大通りから少し入ったところにその建物はあった。両開きの頑丈そうなドアは開け放たれていて、まだお昼なのに入る前からお酒くさい。
中を覗くと、入ってすぐの場所は酒場のようになっていて、男の人四人がテーブルを囲んで酒を飲んでいた。
年季の入った革の鎧を着て、剣や槍などの武器が側に立てかけてある。あの人達、冒険者だよね?
他のテーブルでは男の人二人、女の人二人で食事を取っている。こちらも金属の鎧やローブを着込んだ冒険者風だ。いかにも冒険者の溜まり場って感じ! なんかワクワクしてきた!
奥にはカウンターがあり、受付の人が四人。それぞれの前に列が出来ている。あそこで冒険者登録をしてくれるのかな? とりあえず並んでみる。
「こんにちは! 冒険者になりたいんですけど」
私の番になった。カウンターは結構高くて、私の肩くらいまであって話し辛い。子供だと冒険者になれないかもと不安で、手をカウンターにかけてちょっと背伸びをしながら話をする。
「いらっしゃい。お嬢さんが冒険者になりたいのかい?」
受付は金髪の優しそうなお兄さんだった。穏やかに微笑んで応対してくれる。
「はい! ダメ、ですか?」
「大丈夫だよ。冒険者登録に年齢制限はないからね。手続きをするけど字は書けるかな?」
「大丈夫です」
優しく受け答えしてくれたお兄さんが、登録用紙をカウンターに置く。
ペンを取って名前、年齢など必要事項を書き込んだ。
「最後にステータスの確認だよ」
平べったいツルツルの石板がカウンターに置かれた。手を乗せればいいらしい。
手を置くと、ステータスが表示される。
「幸運、百⁉」
お兄さんが声を上げ、フロアにいるほぼ全員がこちらを見た。うわぁ、視線が痛い。
「し、失礼」
お兄さんが咳払いをしてそう告げると、こちらに集まっていた視線が戻っていく。
「ごめんごめん。それに、鑑定にアイテムボックスのギフト持ちか、凄いな」
お兄さんは息を呑んだあと、驚いたように言う。私が首を傾げていると説明してくれた。
「いいかい、鑑定もアイテムボックスも重宝される能力なんだ。二つとも持っているのはとても珍しい。あまり口外しない方がいいね。でも、それを公表してお金を稼ぐ事も出来る」
私は普通に冒険者生活をしたいので、「内緒にしておいてください」と伝えておく。
「わかった。もしも君の能力が原因でトラブルに巻き込まれたら、冒険者ギルドが守ってあげるからね。すぐここに来るんだよ」
「ありがとうございます!」
出会う人が優しい人ばかりで涙が出そうだよ。
ほどなくして、街の入り口で渡されたものとほぼ同じ銅板を渡された。
「これが冒険者の証だよ。街に入る時の身分証になる。再発行には一万レクスかかるから、なくさないようにね。端っこに空いている穴に紐を通して首にかけておくといいよ」
銅板にはエリスト冒険者ギルド所属と書かれており、私の名前と性別、年齢が記載されている。
「改めてようこそ、エリスト冒険者ギルドへ。今日から君も一員だよ。ヨロシクね」
「はい! よろしくお願いします!」
カウンター越しに握手を交わした。お兄さんは身を乗り出して私が握手しやすいように気を遣ってくれている。気配りの出来る優しい人だ。
「冒険者について説明を受けるかい?」
「いえ、大丈夫です!」
ヘルプさんに頼っちゃおう。
えーと、冒険者は下から、銅、鉄、銀、白銀、金、白金、ミスリル、オリハルコンというランクに分かれていて、ギルドへの貢献度によって昇格があり、一年間仕事をしなければ冒険者登録を抹消される。ランクはアルファベットでも表す事があり、オリハルコンはS、ミスリルから順番にA~Gになっている。つまり私はGランク冒険者という事だ。
「宿は決まっているのかな?」
「今日街に来たばかりなので、まだなんですよ。どこかオススメはありますか?」
お兄さんは大通りにほど近い、そこそこの安さの宿屋を紹介してくれた。
女性も多く利用する信用出来るところらしい。
「依頼はそこの壁に貼り出してあるからね」
「ありがとうございます! 早速見てきますね」
ぺこりとお辞儀をして依頼を見にいく。
結構人がいて、私も見られるようになるまでは時間がかかりそうだ。まぁ、急いでいるわけじゃないし全然いいんだけど、周りの視線が痛い気がする。場違いなのかな? ちょっと居心地が悪い。
前の人が退いてくれたので気を取り直して依頼書を見る。
えーと、Gランク冒険者の受けられる依頼は、森にいるスライムの討伐と薬草の採取だ。どちらも常設依頼で、持ってきた分だけ買い取ってくれるそう。
スライムはコアがあるのでそれを持ってくればいいとか。宿を確保したら早速やってみよう!
他に掲示されているのはパーティ募集にクラン募集? パーティは一緒に仕事を受けたりするチームの事で、私みたいに知り合いのいない人はこういうところに自分の事を書いて声をかけてもらったり、人員募集をかけているパーティに売り込んだりするものらしい。まあ、初めのうちは簡単な仕事しか受けられないだろうし、パーティの事は仕事に慣れてから考えようかな。
クランは……どういうものかわからないけれど、一応見ておく。そこには色々な名前が書いてあった。赤炎の竜、白銀の翼、黒鉄の刃に無敵踏破団?
何というかネーミングセンスが……剣と魔法の世界っぽい名前、かな?
「あれ? お前、黒鉄の刃に入ったんじゃねえの?」
すぐ側に立っていた冒険者二人が話し始める。
「ああ、辞めたよ。最大手だから入るのも大変だったんだけどよ、最近は同じダンジョンに籠りっぱなしでな。それがもうハードなんだわ。そのせいで団員も入れ替わりが激しいからある程度の実力があれば、入るだけなら出来るぜ? 使いつぶされるのがオチだけどな」
クランの方針によって色々なのかな? 何にせよクランにもまだ興味はない。そもそも駆け出しなんだし、私には関係のない話かな。
「おい」
ん? 後ろから声をかけられた? 知り合いがいるわけないし……
「聞いてるのか? お前だよ、そこの」
振り返ると筋骨隆々の大男が立っていた。使い込まれた革の鎧に巨大な剣を背負っている。くすんだ短めの金髪の彼の、茶色の瞳が私を睨みつけていた。体中の傷跡で歴戦の戦士だとわかる。
迫力ありすぎ。怖いよ……
「ひゃいっ!」
うわぁ噛んじゃった。でも仕方ないじゃん、威圧感半端ないんだよ。
「新入りだな? スライム退治でもやるのか?」
「は、はい。とりあえずやってみようかと」
「お前、スライムってヤツをどんだけ知ってるんだ?」
「えっ、子供の頃にかなりやっつけていますよ」
こうお城の周りをぐるぐる回って、青いタマネギ型の半笑いの物体をね。ゲームでだけど。
「んなわけあるか! そもそもお前、今も子供だろうが!」
えぇ……何で怒るの?
「あー、ダキアが女の子を苛めてる~」
大男の横から現れたのは茶色の長い髪のお姉さんだった。革の軽鎧に、腰には短剣が二本。この人も冒険者なんだろう。この怖いおじさ――お兄さんと知り合いなんだね。
「お、俺は新入りが何も知らずに無茶しそうだったからアドバイスをだな」
「えーでもこの子、完全に怯えてるんだけどー?」
えっ? 新人苛めかと思っていたんだけど、まさかいい人だったの?
「怖がらせてごめんねー。私はアリソン。このゴツくて怖いおじさんがダキアね」
「誰がおじさんだ! 俺はまだ二十八だ!」
まさかの二十代⁉
「ミナです。今日冒険者になりました。よろしくお願いします」
お辞儀をするとニコニコ顔のアリソンさんに頭を撫でられた。うーん、やっぱり子供扱いだね。
アリソンさんはダキアさんとよく一緒に仕事をしているそうで、彼女曰く、ダキアさんは私の事を本当に心配して声をかけてくれたらしい。嬉しいんだけど、そんな怖い顔で見下ろされたら怯えちゃいますよ、普通。アリソンさんとダキアさんはスライムの討伐の仕方を教えてくれた。
コアはスライムの体内で動き回っていて、何回も攻撃をしないと当たらず、武器の消耗が激しいらしい。あと、くれぐれも直接触らないようにと。すぐに溶かされる事は流石にないが、火傷みたいに皮膚が爛れるそう。強い酸みたいな感じかな? 気をつけよう。
「っつーわけだ。初日から無理するんじゃねぇぞ」
「わかりました。ありがとうございます!」
「頑張ってねー」
ダキアさんとアリソンさんにお礼を言ってギルドを後にする。次は宿の確保だ。受付のお兄さんに教えてもらった宿屋、穴熊亭に向かう。大通りから少し入ったところにある、そんなに大きくない隠れ家的な宿屋だった。
「すみません、一人なんですけど空いていますか?」
「いらっしゃい! 空いてるよ! 朝晩食事付きで一泊三千レクス。料金は前払い、食事が不要なら一食につき五百レクス割引だ」
「じゃあ、とりあえず一週間お願いします。食事は全部ここで食べますね」
元気よく出てきた大柄なおじさんにそう言いながら、二万千レクスを支払う。
「嬢ちゃん小さいのに勘定が早いな! 助かる!」
おじさんは計算が苦手らしい。この世界では文字の読み書きや簡単な計算も学べない人が多いみたいだ。穴熊亭はおじさんと奥さんで経営していて、奥さんは仕入れに出ていて留守だとか。いつもはお客さんの相手は奥さんがするみたいで、おじさんは主に調理担当。
部屋は四人部屋が二つ、二人部屋が四つ、一人部屋が二つあり、一階は食堂兼酒場、二階は四人部屋二つに二人部屋二つ、三階に二人部屋二つに一人部屋二つプラス物置。私は三階の一番奥の部屋だった。
「出かける時は荷物を置いていって構わないが、大事なものは持ち歩いてくれ。万一なくなったりしたら責任が取れないからな」
まあそうだよね。と言っても、置いておくような大きな荷物はないんだけど。
「見たところ駆け出しの冒険者ってところか? もし森で狩りをするなら、動物の肉や食べられるキノコを買い取るから持ってきてくれよ」
「わかりました。でもホント駆け出しなので、あまり期待しないでくださいね」
あははと愛想笑いをしつつ話しておく。すると「わかってる、無理はしないで無事に帰ってこいよ」とニコニコしながら頭をポンポンされた。
さて、宿の確保は出来たし、まだ夕暮れまでは時間がある。少しだけ近くの森の様子でも見に行こう。宿を出て門で衛兵のおじさんに会って、仮の身分証を返してお礼を言い、いざ森の中へ。
森と聞いて木々が鬱蒼と生い茂る、薄暗い場所を想像していたけど、そんな事はなかった。
木は疎らに生えていて草もそんなに長くない。小学生が遠足で来ても大丈夫そうなくらい穏やかだ。こんなところにスライムなんているのかな? キョロキョロと周りを見回しつつ歩いてみる。
五十メートルくらい先に水溜まりのようなものが見えた。あれかな? 少しずつだけど移動している。コアがあって直に触ると危ないと言われた時点で、もしかしてと思っていたが、私がよくゲームでやっつけていたスライムとは違った。
まあそうだよね。タマネギ型で愛嬌のある顔なんてついてないよね。
近くで様子を見ると、地面の草を体に取り込みつつ移動している。取り込まれた草は溶けて消えていく。それを繰り返しているうちに心なしか大きくなった気がする。
なるほど、そうやって成長するんだ。
スライムは私の方にゆっくりと向かってくるものの、何せ動きが遅い。飛びかかってくるかもと身構えたけど、それもなさそう。確かにこれなら初心者でもやっつけられるね。
次にコアを見ると、野球のボールくらいの丸いものが体の中を少しずつ移動している。
コアが目の役割をしているのかと思い、間近で手を振ってみたり周りを移動してみたりしたけど、コアは私の動きに合わせて動いたりはしない。どうやって私についてきているのかな。目も耳もなさそうだから振動かな? 試しに足を止めて近くにあった石を反対の方へ投げてみる。
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